面白草紙朝倉薫VS安達龍真

夢と現実のはざまで

フィールド・オブ…

2009年01月11日 | Weblog
 今は廃校となってしまった小学校の校庭にランニングの足が向いた。明治8年9月創立の母校は、昭和50年の100年記念祭の後、火事で全焼しすべての記録が灰となり、やがて過疎化で廃校の道を辿った。

 昭和35年の夏、僕は2番ショートでこのグラウンドに立っていた。身長136センチのチビだが、負けん気は1番だった。

 48年の歳月が流れた。僕は柔らかな冬の日差しに包まれた午後、ショートの定位置についてみた。右を見る。サードは夕川重信、がっしりした体格で力持ちだが優しい性格で、僕らは完璧な三遊間だった。セカンド、坂口弘、ずり落ちた眼鏡を上げた。大丈夫、ボールが来たら身体の前で落とせ。弘は高校まで僕と一緒だったが、32歳の若さで逝った。癌だった。ファースト、篠塚国年、身長160センチ以上の長身で、多少の暴投は捕ってくれた。彼はこの村の初代村長の孫でガキ大将。なぜか僕には一目置いてくれていた。今も帰郷したら必ず会いに来てくれる。

 ピッチャーズマウンドを見る。中村広吉が汗を拭いて白い歯を見せた。高校まで一緒だった彼は、税務大学に進み、羽田の税関所長までなった40歳であっさり逝った。癌だった。最終回の表、あと一人押さえれば、僕らの勝ちだ。3対4、同点のランナがーセカンドにいる。2アウトだから必ず走ってくる。

 「ガッチコー!」キャッチャーの上田昭剛が両手を挙げた。外野を振り返る。ライト、久具山信義、僕と同様小柄だが歌が上手い。今も田舎で農業に精を出している。センター、福本和弘、いい奴だ、30歳半ばで逝った。レフト、樋口幸一、元気でいるだろうか。

 ベンチを見る。監督は目を閉じている。中村広吉がセットポジションに入った。僕は膝を落とした。牽制に入る必要はない。強気の中村はバッター勝負だ。投げた!バッターが振った。強烈なゴロが砂煙をあげ、僕の真正面に来た。目の前をランナーが横切った。一瞬、ボールを見失った。が、腰を落とした僕の正面に、構えたグラブの中にボールが飛び込んだ。捕った、投げた!しまった、高い?!ランナーが3塁を周ってホームへ向かっている。捕ってくれ!僕は咽が渇いて声が出なかった。ファーストミットを高々と上げて、篠塚がマウンドへ駆け寄った。

朝倉「今日は独りじゃなかった。みんなの笑顔が見えました」
龍真「それは良かった」
朝倉「おそかれはやかれ、いずれはみんな死ぬんですから。中村や坂口に言ってきました。そっちへ逝ったら、また一緒にやろうと」
龍真「今日は感傷的だな。たまにはいいか」
朝倉「はい」

 

迷宮か理想郷か

2009年01月10日 | Weblog
朝倉「和暦で、今年は皇紀2669年だそうです」
龍真「95歳のボケ老人に又たぶらかされたな」
朝倉「西暦より660年前、神武天皇の即位した年から数えるそうです」
龍真「はい、はい、それで?」
朝倉「心の農地改革ですが、ルサンチマンが問題だと」
龍真「何に対して?」
朝倉「明治から引きずる西洋烈国と、戦争に負けた西洋人に」
龍真「体格か、黄色い猿だからな」
朝倉「そういう自虐的な物言いは止めましょう」
龍真「そもそも、ルサンチマンからして西洋的ではないかい?」
朝倉「砕いて言えば、羨望、嫉妬、怨念、弱者が強者に持つ深い心の闇を、根底から断つことですよね」
龍真「無理だろう。ジジイめ、とんでもない妄想だな。迷宮に引きずりこまれるぞ」
朝倉「すでに迷宮ですよ。日本人は必ず理想郷を実現できる、と、いうんですから」
龍真「それじゃ具体的にそのプランを教えろ!と、いいたいね」
朝倉「不思議な気がします。将来に絶望した若者が暴走する中で、あの世に近い老人が未来の希望を語る。それを、団塊と呼ばれる世代の僕が聞いている」
龍真「相変わらず斜めに構えてるなあ」
朝倉「いや、真剣です。僕は僕に出来る演劇で戦います。理想郷を目指して」
龍真「だいぶジジイに影響されたな」
朝倉「王政復古とは、歴史を引き返すのではなく、新たな歴史を作ることだそうです」
龍真「燃えてるなあ。今日はそれだけかい?」
朝倉「はい」

95年も生きていれば

2009年01月09日 | Weblog
朝倉「進駐軍が農地改革をやらせる前」
龍真「おおっ、突然古い話が飛び出したな」
朝倉「地主と小作人の時代です」
龍真「水のみ百姓と呼ばれた人たちと、派遣社員を比べようというのかね」
朝倉「違います。95歳の父に話を聞くと、想像を絶する過酷さだったようです。文字通り水を飲んで空腹を満たさねばならなかったのも、水田一反につき4俵の米を地主に払うのが決まりで、土地の肥えた平野なら10俵は収穫出来ても、貧しい山間では5,6俵の収穫がやっとで、手元に残るのはわずかだったらしいのです」
龍真「だから、花ちゃんは金1匁(もんめ)で女郎屋に売られて行ったのだ」
朝倉「東北だけではなく、九州の山間部でも、五木の子守唄が残るように、かなり貧しかったようです」

朝倉「後世無謀と評されるあの戦争を一番歓迎したのが誰だったか、そして、一番先に死んでいったのが誰だったか…。弾の出ない銃を鹿児島の海に投げ込んで、皆を連れて熊本に引き返した父の話を、今になってようやく理解できたようです」
龍真「その貧しさに逆戻りは出来ないだろう。いや、待てよ、今なら一反10俵は何処でも収穫出来る技術があるはずだ。農地改革をやり直すか?」
朝倉「いや、父が言うのは、心の農地改革だそうです」
龍真「心の?」

朝倉「日本人は、アメリカに強制されなければ何も出来なくなってしまったというのは錯覚で、心は縄文から日本人だそうです。そして、まだまだ、耕されていない心の田畑は無限に広がっているとか、95歳になった今だから見えるのだが、如何せん、足腰が言うことを利かないと嘆いています」
龍真「心なら足腰はいらんだろう」
朝倉「僕もそう思う。心の田畑を耕すその方法を、生きているうちに教えて欲しいといったのです」
龍真「うん、で!?」
朝倉「突然、初恋の話をし始めましてね」
龍真「ボケ老人め」
朝倉「黙って聞いていると、今度は自分のルーツを語り始めて」
龍真「嵌まったな」

朝倉「自分が死んだ夢を見た、と、騒ぎだすんです、朝から」
龍真「放っておけ」
朝倉「そういうわけにもいかないでしょう」
龍真「長生きしますよ、と、言って欲しいわけだ」
朝倉「死ぬのは少しも怖くない、と、言いながら、健康には非常に気を使っています。良い機会だから、古い話をもっと訊き出そうかと思っています」
龍真「戦争の話はもういいから、現代社会の閉塞感を打ち破る、夢のある話を訊いてくれたまえ」
朝倉「はい」



嬉しい便り

2009年01月09日 | Weblog
朝倉「嬉しい電話がありました」
龍真「誰か、支援金でも送ってくれるのか」
朝倉「さもしいことを言ってはいけません」
龍真「さもしい、とは、卑怯のことだと広辞苑にかいてある、と、民主党の菅君が麻生君に教えておったよ。麻生君、広辞苑読めるかな」
朝倉「年が明けて、そろそろ劇団17期生の応募が来始めたのですが、一般の方からオーディションを受けたいと」
龍真「命知らずだな」
朝倉「何を言ってるんですか!嬉しいことですよ、売れっ子の俳優がいるわけでもない、小さな劇団に毎年入ってくれる若者がいるんですから」
龍真「17期生か、よく続くものだな」
朝倉「2月から新しい稽古場でオーディションを開始します。今年は10名ほど入団してもらおうと思っています」

龍真「不況だから、と、いうわけでもないだろうが、今年は応募者が多いらしいな」
朝倉「稽古場近くの喫茶店で、”朝倉”に行こうか”**”に入ろうか迷っている”という女の子たちの会話を劇団員が聞いたそうです。嬉しかった、と言っていました」
龍真「勧誘すれば良かったのに」
朝倉「保険の外交じゃないんですから。黙って聞いているのが正解です」
龍真「宣伝が下手だからなあ」
朝倉「そうですね。演劇レッスンの表情筋を1年続けると顔が一回り小さくなるとか!」
龍真「そうそう、朝倉体操をやると、足首が細くなるとか!」
朝倉「…」
龍真「宣伝は必要だよ」
朝倉「真面目に演劇を学ぶ姿勢があれば、それでよいのです」
龍真「そうかな、料理やお花を習うような感覚の人にも劇団を解放してやってもよいと思うのだが」
朝倉「そのために、レッスン生クラスを計画しています。頼もしい協力者の出現で、今年は活発な演劇活動ができそうです」
龍真「それは良かった。頑張りたまえ」
朝倉「はい!」

若者のやる気

2009年01月08日 | Weblog
朝倉「3時間走って来ました」
龍真「カモシカ少年の本能を取り戻したかな」
朝倉「僕が山の中を走っている間に、東京では色々大変な様子で」
龍真「先月全部まかせて九州へ発ってしまったからな」
朝倉「委託した制作者が、11月公演のDVDを12月15日に発送すると言って予約を取ったのに、発送が遅れているようで」
龍真「2月15日の間違いだろう?」
朝倉「僕も、12月は無理だろう、と、言ったのですが。やります!と。初めて付き合う制作スタッフだったので」
龍真「相変わらず、威勢のいい若者に弱いな。威勢のいい奴ほど腰砕けになるのをいやと言うほど見てきたくせに」
朝倉「お客様には本当に申し訳なくて。少しでも早く届けば、と、思ったもので」
龍真「真摯に御詫びして、急がせることだ」
朝倉「30人の出演者、関係事務所、音楽著作権、諸々のチェックを考えれば、若者の威勢を信じた僕が迂闊でした。しかし、連絡を取ったところ1月中には発送できるとのことでした。委託した以上、信じるしかありません」

龍真「昔から若者に甘いな」
朝倉「僕が若い頃、年配の方にチャンスを頂いたことが嬉しかったので、やる気のある若者には、つい…。僕が信頼したことに、責任を感じてくれると嬉しいのですが」
龍真「劇団員は皆、素晴らしい人物ばかりではないか。売れる売れないは別にして、本当に劇団を愛しているよ」
朝倉「本当に感謝しています。僕も彼らに応えねばと、いつも思います」
龍真「ま、遠く離れた旅の空で案じていても仕方があるまい」
朝倉「誠意を以って対処してくれることを信じています」

不老長寿の七草も…

2009年01月07日 | Weblog
朝倉「正月も早七草ですね」
龍真「不老長寿の七草も親孝行も形骸化して、健康促進の七草粥か」
朝倉「96歳で自活している父に言わせると、寿命は天命だとか」
龍真「そうだな、生きたくて生きられるものではないよ、96歳まで」
朝倉「めでたいことです」
龍真「参議院は空しいな」
朝倉「はあ?」
龍真「麻生君のしたり顔を見ていると、野党の諸君がかわいそうになってくる。”君らがいくら反対したって、衆議院で通すもんね!”って顔だ。あれこそ、かえるのつらにションベン、の見本だよ」
朝倉「正月から議会とは、国会議員の先生方も大変ですね」
龍真「なあに、高い給金もらっているんだ。国民の血税からな。いねむりされちゃかなわんよ」

朝倉「しかし日本にはよき伝統の数々がありますね。桃の節句など、幾つになっても大好きです」
龍真「のん気でいいよ、君は。小生など、正月から本気で王政復古を調べ直しているのに」
朝倉「何で又、王政復古を?」
龍真「明治維新で闇に葬られた王政復古のプランがある筋から出てきたのだよ。勿論、信憑性は問われるが、140年前、坂本竜馬が中岡慎太郎に語った理想国家論は、王政復古が中心だった。賛同した幕末の知識人たちは皆殺された」
朝倉「誰にですか?」
龍真「富国強兵、文明開化にだ」
朝倉「どうも抽象的でよくわからない」
龍真「現代と一緒だよ、息詰まったら戦争に頼る連中だ。話してもわからない連中のことだよ」
朝倉「僕も激昂して殴りあいました」
龍真「単細胞のバカが」
朝倉「あとで、猛反省しても遅いですよね」
龍真「そのとおり、食うは今、言うは明日だ」
朝倉「お袋の口癖ですね。懐かしいなあ、いつも叱られていた。グッと我慢して言いたいことを明日まで言うな、ってね。食べることはさっさと済ませろと」

龍真「王政復古だな」
朝倉「王政復古とは、農耕民族の原点に立ち返るということでしょう?」
龍真「少しは勉強しとるな、140年前と今を比べても仕方がないが、今なら出来るような気がしないか?」
朝倉「しかし、それは神代の、現実には存在しない理想国家なんでしょう?しかも、数千年間夢見て一度も実現できない、いわば幻の理想国家像を、どうして今実現出来るんですか?」
龍真「夢だな、忘れよう。君が身体を鍛え始めたから期待してしまった」
朝倉「僕は演劇をやる為に身体を鍛えているんです。他に下心はありません」
龍真「強調すると何か怪しいぞ」
朝倉「明日も頑張りましょう!」

落陽が目にしみて

2009年01月06日 | Weblog
朝倉「今日の夕陽は目に沁みました」
龍真「相変わらず呑気だな」
朝倉「朝、10時49分のバスで市内に向かう予定だったので、1時間だけ走りました」
龍真「ご苦労さん。そんなことより、麻生君、何とかならんかね。迎えに来た友人の車で九州新幹線駅の開発地を通ったが、色々あるらしいよ、麻生セメントが」
朝倉「どうして政治が気になるのかなあ、熊本出身の政治学者羹くんにまかせておけばよいではないですか」
龍真「国民の血税を自分の金のようにばら撒こうとする魂胆が、卑しくて好かんのだよ。少しは謙虚になれんものかね」
朝倉「我が胸に問え、ですよ。気になると言うことは、彼の中に嫌な自分を見ているのではないでしょうか?」
龍真「ドキッ!たまには鋭い指摘をするな。九州の田舎出身同士だからな、何処か期待していたのかも知れん」

朝倉「置かれた境遇で、人はこうも情緒が揺れるものかと苦笑しました」
龍真「苦笑は良いなあ、怠惰な空気とニヒルな風を感じる。やっと、君も大人の仲間入りだ」
朝倉「勘違いしないで欲しいんですが…。前途多難なんですよ、夏の九州公演が」
龍真「前進あるのみ!」
朝倉「勿論!何があってもくじけませんよ。覚悟は出来ていますから」
龍真「覚悟で物事がうまくゆくなら、誰だって覚悟するよ」
朝倉「僕の熱情がどれだけ伝わるか、正念場ですね」

龍真「孤立無援」
朝倉「はあ?」
龍真「覚悟とは、孤立無援を覚悟することだよ。まだ、何処かに甘えがあるから、他人の言動に一喜一憂するのだよ」
朝倉「肝に銘じます」
龍真「小さな肝だけどね」
朝倉「…」
龍真「それがいかんのだよ。素直にハイ!と、いう!」
朝倉「はい!」
龍真「よし!」

心だけが自由でも…

2009年01月05日 | Weblog
龍真「2日休んだな」
朝倉「佐世保に行っていまして、やむなく」
龍真「佐世保か、電波塔、ね」
朝倉「大正時代に100数十メートルの塔を、コンクリを捏ね上げて手積みで作ったそうですね。それが3本そびえている景色も壮観でした」
龍真「ニイタカヤマノボレ、の電報を打った場所だそうだが、そこに米軍の施設があるのも皮肉なものだな」
朝倉「西海橋の歩道橋を歩きながら考えたのですが、戦争が終わって僕らが無条件に憧れたアメリカの楽屋裏が垣間見えてくると、なんだかいたたまれなくなります」
龍真「だろう?心だけが自由だなんて、嘯いている時代じゃないんだよ。戦争にしか打開策を見出せない奴らが世界を牛耳っているんだ。富国強兵の亡霊が跋扈しているんだよ」
朝倉「何とか出来るんですか?」
龍真「出来るね、芸術がその鍵を握っているのだが、芸術家がそれを使えないでいるのだよ。芸術とは、富の浪費なんだ。目的のない富の浪費ね。ビルも飛行機も、便利さではなく、美しさを追求する。飛ばなくったっていいのさ、芸術的ならね、軍艦も、軍服も同様さ、理想は「裸の王様」の国だね。資産家や大富豪が、芸術家になる。金の勘定なんか忘れて、紀伊国屋文左衛門になる。どうだい?」
朝倉「何だか、やけっぱちに聞こえますが…」

龍真「麻生くんが私財をなげうってアニメ映画を100本ばかり作ってくれたら、まずアニメ界が潤うだろう?それから、トヨタもニッサンも、もう自動車つくるの止めて、畑耕して農業を始める。太陽電池や風力発電なんかもいいな。日立はすでに頑張っているらしいじゃないか。あと、サッカーやソフトボールチームばかりじゃなく、会社で劇団を持ってもらう。「宝塚」みたいな劇団を、三越や、伊勢丹など全国のデパートが持つ。どうだい?」
朝倉「僕らの劇団は?」
龍真「ううん、どこかの組合が持つのはどうだい?」
朝倉「偏りそうですね」
龍真「贅沢いうなよ、芝居三昧で暮らせるんだよ。時々はデモの参加要請があるかも知れないけどね」

朝倉「初夢が凄かったからなあ」
龍真「初夢は叶ってから話すものだよ」
朝倉「そうなんですか?知らなかった」
龍真「いままでペラペラしゃべるから叶わなかったのだ」
朝倉「黙しておきます」

朝倉「で、心だけ自由でも…、の話ですが、どうもわかりにくくて」
龍真「いずれわかるときがくる。今は創作に励みたまえ」
朝倉「明日から、トレーニングを倍にします。腹筋が痛いけど」
龍真「弱音を吐くな、夜明けは近い!」
朝倉「はい!」

初夢譚

2009年01月02日 | Weblog
朝倉「今日も走りました」
龍真「死に急ぐことはないのに…」
朝倉「…体脂肪を」
龍真「それより、年賀状だが、東京では取りにも行けないな」
朝倉「明日、劇団員がポストを覗いてくれることに」
龍真「それはよかった。しかし、あれだな、年賀メールの返事もよこさない奴、どう思う」
朝倉「今年は相手の立場を尊重しようと思うので、発言を控えます」
龍真「いや、はっきり言って失礼な奴だと思うよ。付き合いを考えよう」
朝倉「向こうが付き合いたくないからかも知れませんよ」

龍真「今夜は初夢だな」
朝倉「ちょうど10年前、身の丈50メートルはある龍の夢をみましたね。南の海から現れて、両側に古めかしい鎧に身を固めた5万づつの兵士を従えていました。吼えるような大声で”何なりとご命令を”と、言われたのですが、足を踏ん張るのが精一杯で”何もない”と、答えてしまいました」
龍真「それは残念だった。小心者だからな」
朝倉「今夜現れたら、何て答えましょう」
龍真「よきにはからえ」
朝倉「はあ?」
龍真「10年も生き延びることが出来たんだ。感謝の一言だろう」
朝倉「そうでしたね。望むことより、感謝でした。安心して眠れます」
龍真「そんなことで悩んでいたのか!ほんとに肝の住まいの狭い奴だ」
朝倉「10年も、考えていました。僕はあの時、冷静に命令できたら、龍に何を命令したのだろうかと」
龍真「で、結論は?」
朝倉「それが、今日の今まで、答えが見つからなかった」
龍真「ほんとにバカだな、感謝の一言だろう!」
朝倉「ありがとう!ですね」


元旦 初雪 初走り

2009年01月01日 | Weblog
朝倉「明けましておめでとうございます」
龍真「何とか生き延びたな、先ずは目出度い」
朝倉「今日は素直ですね」
龍真「いつも真っ直ぐだよ」

朝倉「感激でした。目覚めて窓を開けると屋根に雪が」
龍真「予報もたまには当たるな」
朝倉「昼前に陽が射してきたので、早速走ってきました」
龍真「元旦からご苦労なことを」
朝倉「ところが、1時間もしないうちに陽が翳って、横殴りの飛礫のような雪が」
龍真「走り過ぎだよ」
朝倉「また、山道で迷ったんです。昼間でよかった。山道というのは、木を切り出して運ぶために、幾重にも枝分かれしているんです。闇夜だったら、絶対引き返せないような迷路ですよ。いやあ、暮れは3時間で戻れたのが奇跡でしたよ」
龍真「元旦から村中走り回って、気でもふれたのかと思われないかい」
朝倉「山道ばかりですから、誰にも会いません。それより、50数年前に父に連れられて行った雉鳩撃ちの場所がありました。阿弥陀堂から天神様の裏山にかけて舗装がしてあったので行ってみると、何と九州電力の変電所が建てられているではないですか。山奥に、立ち入り禁止の金網に囲まれて、無人の鉄塔と建物は不気味でした。そこから更に2キロほど奥に進んでみたら、小さな泉があって、雉鳩の鳴き声がして」
龍真「懐かしい場所、か…。50年の歳月、お前は何をやっていたのだと風が啼かなかったか」
朝倉「走りながら思いました。明日も走ろうと」
龍真「ま、そんなとこだろうな。期待はしないでおこう」
朝倉「1月18日まで走り続けてみます」
龍真「そうだ、19日は沖縄だ」

朝倉「筋トレも順調です」
龍真「身体は悲鳴をあげているのに」

朝倉「それにしても、時代を感じますね」
龍真「インターネットで年賀メールか」
朝倉「携帯電話でもカラフルな年賀メールが」
龍真「年賀状とはまた違った喜びがある」
朝倉「でしょう、時代なんですよ」
龍真「いや、その安易な決着がすかんのだ。そりゃ、もらうものは何でも嬉しいが、手書きで書いた年賀状も忘れられては困る」
朝倉「喜んでいただけていると思います。昨年より多いらしいですから」
龍真「ほほう、年賀メールがこれほどあっても?」
朝倉「二階の屋根裏部屋に50数年前の年賀状がありました」
龍真「そういえば、小学3年生のときの担任だったM先生に初めて年賀状を書いたな」
朝倉「びっくりされるでしょうね。幼馴染のひろこの話だと、朝倉薫というペンネームをご存知らしい」
龍真「よし、先生を訪ねてみよう!」
朝倉「また、突然に」
龍真「球磨郡か…走れる距離ではないぞ」
朝倉「当然です」