浅井久仁臣 『今日の中東』

1971年のパレスチナ初取材から、30有余年中近東を見続けてきたジャーナリストが独自の視点をお届けします。

特報 アラファト議長の死亡が覆されたわけ

2004年11月11日 | Weblog
 パレスチナ自治政府は10日、アラファト氏の死去を発表する予定でした。しかし、ある男の決断で予定が変更されたのです。
 この情報は、アラファト議長の個人的ブレインのひとりから先程得られたものです。
 アラファト議長は生命維持装置を付けられて生き永らえていますが、自治政府は生命維持装置を反イスラーム的と判断、10日に外すことにしました。そして、死去を発表することにしたのです。その行為を正当化するために聖職者タミミ師をアラファト氏の枕元に送ったわけですが、予想に反してタミミ師は維持装置を外すことは反イスラーム的と結論付けました。ですから、アラファト氏の危篤状態に変化はなく、一部フランス・メディアが報じているように「肉体的には死亡、政治的に生存」との情報は間違いだと、そのブレインは私に断言しました。
 世界の一部で噂され、パレスチナ人の多くが信じる「イスラエルによる毒殺説」については、彼は個人的には固く信じていると言いました。
 「でもナビル・シャース(外相)は記者団に否定したではないか」と問い返すと、それは政治的判断でそのような発言になったとのことです。というのは、今イスラエルによる毒殺の可能性に自治政府が言及すれば、怒り心頭に発したパレスチナの若者が、イスラエルに「自爆攻撃」の嵐を巻き起こしてしまいます。そうすれば、イスラエルの世論はますます反パレスチナに傾き、下手をすればイスラエル全土が火の海と化してしまう可能性が強くなります。そうなった時、イスラエル政府はアラファト氏の棺がパレスチナに入るのを阻むと自治政府の幹部達は読み、「イスラエルの毒殺説」を発表するのは得策でないと判断したと言うのです。
 さらにそのブレインは、訪米を控えたブレア英首相からの一本の電話も毒殺説発表を思いとどまらせたと言います。ブレア首相がブッシュ大統領にパレスチナ国家建設の提案を持ちかけると連絡してきたらしく、クレイ首相とアッバース前首相の2人は、ブレア首相にかけることに意見が一致したようです。
 さて、その「アラファト後」のパレスチナを担うとみられる2人ですが、そのブレインの説明では、後継者にはアッバース氏が選ばれる可能性が90%だそうです。法律上、ファトゥーフ自治政府評議会(国会にあたる)議長が60日間、暫定的にアラファト氏の職務を引き継ぎますが、その後はPLO(パレスチナ解放機構)が選ぶであろう人物が後継者(大統領)になる仕組みなので、アラファト氏(パレスチナ社会では大統領です)の生存中はアラファト氏に次いで(PLOの)NO2であるアッバース氏が大統領に選ばれるであろうということです。クレイ首相はPLO執行委員会のメンバーにも名を連ねていないからまず間違いなく大統領にはなれないのだそうです。
 「後の10%は?」との私の問いに、アラファト氏のブレインは、「アブ・ロトフだ」と答えました。アブ・ロトフとは、国際的にはカドウミPLO政治局長で知られる幹部です。カドウミ氏は、パレスチナ自治政府が出来た後もずっとチュニジアに在住です。
 「個人的にはアブ・ロトフを好むが、彼は今もパレスチナに戻ってきていない。という事は、西岸地区においては(筆者注:これは、西岸に自治政府があることから、政治的にはという意味です)影響力に欠けるのだ」と、彼は説明してくれました。
 いずれにしてもアラファト議長は余命いくばくもないとのことです。こうなったら、パレスチナ社会にとって賢明な選択がPLOによってなされることを願うばかりです。

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