浅井久仁臣 『今日の中東』

1971年のパレスチナ初取材から、30有余年中近東を見続けてきたジャーナリストが独自の視点をお届けします。

イラク戦争の読み間違い

2008年04月01日 | Weblog
6日間にわたってイラク各地で行なわれた、米軍に後押しされたイラク治安部隊とシーア派の民兵組織「マハディ軍」との戦闘は30日、マハディ軍の最高指導者であるサドル師が自軍に対して戦闘中止を命じたことでほぼ収束し、31日には街に市民の姿が見られるようになった。

 今回の「6日戦争」による死者はこれまでのところ約450人に上るが、地方都市の情報が入ると今後さらにその数は増えると見られている。

 読者の皆さんもホンの10日前、イラク戦争5周年の楽観的な各種報道に接していただけに、その5日後に始まった今回の大規模な戦闘に驚かれたことだろう。

 マスコミ報道は、よくあることだが、イラク戦争関連の数字や米軍やイラク政府の楽観的な見方に影響を受けてそれらの判断をしていたように思われる。

 確かに、戦闘の数も規模も、そして死傷者も昨年は激減した。今年に入ってもその傾向は続いていた。だから、そこからだけ判断すれば、そのような見方になることは分からないでもない。

 3月20日には、小規模だがイラク各地で政府主導の「開戦5周年」記念式典が行なわれた。

 各地の式典は、ここのところの戦死者数の激減で気を良くした米政府が、マリキ政権にけしかけて行なわせたと思われるが、戦闘規模が縮小して戦死者数が減ったといっても、楽観的になれる要素は少なかった。

 戦死者数の激減の背景にあるのは、米軍の増派と地方の有力者たちの買収、それにアル・カーイダ系の戦闘集団の足並みの乱れにあるとされていた。

 確かにその分析に間違いはなかったが、マリキ政権は、幾つか判断ミスをした。今回の最大の失敗は、シーア派の“暴れん坊”サドル師の存在を過小評価していたことだ。

 式典の成功に勢いを得たマリキ首相は、息のかかる治安部隊にサドル師の率いる民兵武装組織「マハディ軍」の拠点制圧を命じたのだ。

 それは大きな間違いであった。マハディ軍は、米軍も手を焼いて武装解除に失敗したほどの強力なゲリラ部隊だ。イラクの治安部隊がいくら米軍の支援を得ようとも簡単に制圧できる相手ではない。あまり知られていないことだが、21日には、マハディ軍の指導者の一人が、6ヶ月間の停戦協定の延長を発表している。

 なのになぜ治安部隊がマハディ軍に対して仕掛けたのか。これは未だに確証はないが、現地からの情報を総合すると、マハディ軍の戦力を見誤ったのと、背後にいるイランの存在をイラクから少しでも消したかったことに端を発するようだ。

 イラク戦争は根が深い。様々な国や勢力の思惑や権益が複雑に絡み、どのような力でもってしても容易に解決できる戦争ではないのだ。単純な戦力分析などでその未来を予測できることはありえないことをマスコミは今こそ知るべきである

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