浅井久仁臣 『今日の中東』

1971年のパレスチナ初取材から、30有余年中近東を見続けてきたジャーナリストが独自の視点をお届けします。

シリアへの核協力情報を読む

2008年04月26日 | Weblog
 米政府は24日、主要報道機関に対して、北朝鮮・シリア両国の核協力に関して、「証拠」ヴィデオを手渡した。

 ヴィデオと言っても動画ではなく、連続静止画像で構成されるスライドショー形式のものだが、その内容は、「北朝鮮の協力によって建設中であったシリアの核関連施設」を写したものだ。

 確かに、建設中の建物は、その特徴からして原子炉であることは間違いないだろう。状況的にも、北朝鮮が関与していたことも十分に可能性があることだ。だが、それが即、原子爆弾製作を目的とした核施設と断定するには無理がある。

 実はこの施設は昨年9月にイスラエルに空爆されて破壊されており、今となっては、事実関係は証明しづらくなっている。

 シリアと言えば、かつてブッシュ政権から“ならず者国家”の候補者と名指しされていたが、「911同時多発テロ」に端を発した“対テロ戦争”に関しては、米政府に協力姿勢を見せていただけに、意外な感を持つ方もおられるかもしれない。

 この発表の意図するものは何かと、報道機関はブッシュ政権の腹を探るが、私はCNNが報じる「北朝鮮に圧力をかける意図がある」という分析に組しない。

 私はそれよりも今週初め、ジミー・カーター元米大統領が行なったシリア訪問とハマースの事実上の指導者ハーレッド・マシャール氏との会談に着目する。

 カーター氏の今回の中東歴訪は、11月の大統領選に向けた民主党のキャンペーンの一環と私は見ている。オバマ氏とクリントン氏とが熾烈な候補指名争いを繰り広げている民主党だが、党内には中々決まらぬ候補者に焦りが見られる。ライヴァルである共和党が、早々とマケイン氏を大統領候補に選び、大統領選挙に向けて着実に歩を進めているからだ。

 そんな動きに手を拱いていてばかりはいられない民主党は、両候補者のどちらが指名争いに勝っても良いように布石を打ち始めたのだ。

 共和党ブッシュ政権の対イラク戦争の汚点を強調して、和平路線を国民に訴えたい民主党が、アラブで受けの良いカーター氏を使って仕掛けたのではないか。私はそう見る。

 それに対して、共和党はシリアの危険性を浮き彫りにさせて、カーター氏の動きを封じ込めようとしたのではないか。

 ヴィデオにある写真は、米諜報機関が撮影したというよりも、イスラエルのスパイが撮ったものであろう。カーター氏の動きを警戒するオルメルト政権は、共和党に写真の公表を許可した可能性がある。

 推測の積み重ねになるが、中東における米国の思惑や動きは、表面に出される情報を丸呑みしていたのでは読み解けない。

 私は自分の分析や推測にある程度の自信を持つからこそこうして論評するのだが、仮に間違っていたとしても、こういった耳目を集める問題に大統領選の思惑が絡んでいることはこれまでにも多く見られたことだ。今後ますます両党のカケヒキが過熱する事は間違いない。

 だから、我々は流されてくる情報を平面的に捉えるのではなく、関連情報と読み合わせる複眼視を持たねばならない。

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