浅井久仁臣 『今日の中東』

1971年のパレスチナ初取材から、30有余年中近東を見続けてきたジャーナリストが独自の視点をお届けします。

私の視点 内戦への道を突き進むパレスチナ

2007年01月05日 | Weblog
 約2週間前に停戦合意したパレスチナのファタハとハマースは3日、再び武力衝突、4日までに双方合わせて6人の死者と多数の負傷者を出す事態となった。

 ファタハは長年与党の立場にあり、アッバース大統領の出身母体である。一方のハマースは、マスコミの言うところの「原理主義」グループで一年前の総選挙で圧勝、政権の座を勝ち取り、ハニヤ氏を首相に送り出している。両組織の基盤は、ファタハが西岸地区であるのに比べ、ハマースはガザである。

 両派は、いつものことではあるが、今回の武力衝突の責任は相手方にあるとしている。今回目立つのは、西岸地区に居住する、又は政治活動をするハマースのメンバーが襲撃を受けていることだ。パレスチナ自治区は、地図を見ていただければお分かりになるが、西岸とガザに分断されている。立法や行政の政府機能は、同様に分断されており、議員や役人であれ往来の自由がイスラエルによって制限されているので、議会などは衛星画像を使って両地区をつなぐ。それだけに日を追って両地域の政治色が鮮明になりつつある。イスラエルの分断政策はここでも失敗していると言えよう。

 このところの一連の事件の背景には、経済的な問題がある。

 ハマースが政権を握ったことを理由に、欧米諸国は揃ってパレスチナに対しての経済援助を止めるなり、大幅に制限するようになった。また、不条理なことだが、パレスチナの消費税や関税を代理徴収しているイスラエルは、その支払いを渋るようになった。

 それでパレスチナ自治政府は事実上の財政破綻を来たした。兵士や警察を含む公務員の給与の遅配が続き、パレスチナ社会は飢餓地獄寸前の状態に追い込まれている。

 それでも何とかパレスチナの人たちが生きていられるのは、石油収入で潤う産油国からの支援があるからだが、故アラファト大統領とは違い、アッバース氏は産油国への影響力が弱く、大金を引き出すことはほぼ不可能だ。

 一方、ハマースは、サウディ・アラビアの富裕層やイラン政府に太い人脈を持っており、実力者が時折り数億円から10数億円もの大金を持ち帰ってくる。それがハマース支持者だけに配られるのが、ファタハ支持者には面白いはずがない。

 軍隊に相当する治安部隊の主力は、依然としてファタハである。その他に、ファタハの影響力は警察にも強く及ぶ。最近は、ガザの警察組織にハマースが浸透を強めているが、これまでの蓄積があるファタハには敵わない。ファタハには、その他に、独自の武装組織がある。

 ファタハのメンバーには、長年パレスチナ社会を牽引してきたとの自負がある。確かに、アラファトの強力なリーダーシップの下、一時的にせよ国際社会の“認知”を勝ち取ってきたのは、ファタハであった。

 そのように、政治だけでなく、経済や軍事面においても優位の座を脅かされているファタハにはハマースの勢いに対して強い焦りがある。その焦りを一番強く感じているのが、アッバース大統領だろう。アッバース氏は局面打開の一手として、議会の解散と総選挙、それに加えて自らの大統領の座をかけた大統領選挙を提唱した。

 このアッバース氏の苦し紛れの一手が今回の武力衝突を招いていると言っても過言ではないだろう。両派の武装勢力が、正規軍や警察官を交えて戦闘を始めてしまった。

 現状では、パレスチナ問題の打開策はない。国際的な強力介入を望む声もあるが、恐らく木っ端微塵に砕かれるだろう。それは、私に言わせれば、「時既に遅し」だからだ。ハマースが勢力をここまで伸ばすまでに真剣に手を打つべきであったのに、国連を含む国際社会はイスラエルがパレスチナに対する暴挙を看過・放置してきたのだ。その暴挙がパレスチナ社会に様々な形で影を落としていった。その際たるものが、ハマースの伸長だ。

 私は昨年秋、パレスチナは内戦状態に入る可能性が高いと書いたが、残念ながら確実にその道を突き進んでいる状況にある。



 

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