浅井久仁臣 『今日の中東』

1971年のパレスチナ初取材から、30有余年中近東を見続けてきたジャーナリストが独自の視点をお届けします。

レバノン有力政治家暗殺

2006年11月22日 | Weblog
 レバノン政界の有力者であるピエール・ジュマイエル氏が21日、レバノンの首都ベイルートのキリスト教徒地区で、武装集団に襲われ死亡した。

 ジュマイエル氏は国会議員で、閣僚に名を連ねるだけでなく、ファランヘ党というレバノンのキリスト教社会における最大政党の事実上の指導者であった。

 レバノンの現況を簡単に説明すると、レバノンの人口の約4割がキリスト教徒で、その他6割をイスラーム教徒が占める。両教徒の中でも、宗派や政治的立場で様々に分かれて組織化していることから、レバノンは「モザイク国家」と称される。1975年から90年にかけて行なわれたレバノン内戦は、俗に宗教戦争と言われたが、実態は、様々な組織が宗派を超えて共闘・対立を繰り返す、無秩序・無法状態の内戦であった。複雑な群雄割拠状態に加え、隣国シリアが大きな政治的影響力を持ち、軍事的介入を繰り返してきた。

 ファランヘ党は、その中にあって常に主役の立場にあり、その歴史は血塗られたものだ。ジュマイエル氏の祖父、ピエール(同姓同名)、伯父、アミンは共に暗殺されている。シリアとの関係も、これまた「共闘と対立」を繰り返してきており、ここのところはシリアの介入や影響力を批判する勢力の中心的存在を担っている。

 そんな事情を考慮して、現地では暗殺がシリアの影響力を受ける組織によって行なわれたものという見方が支配的だ。

 これまでの例を見ると、各組織の指導者の暗殺が大きな武力衝突を招いている。今回も同様の事態になるのではないかと、市民たちの多くが非常時対応の買い物に急いでいる。

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