浅井久仁臣 『今日の中東』

1971年のパレスチナ初取材から、30有余年中近東を見続けてきたジャーナリストが独自の視点をお届けします。

砲撃合戦

2005年01月06日 | Weblog
 1月9日のパレスチナ自治政府議長選挙の投票日が近づくにつれ、パレスチナ武装勢力とイスラエル軍との間の戦闘が激化しています。4日にはイスラエル軍戦車が“間違えて”ガザ地区の農家を砲撃、7人の民間人を殺すという惨事を引き起こしました。しかも、7人の犠牲者の内、6人までもが子供ということからパレスチナ世界のみならず、国際世論の一部からも批判の声がイスラエルに対して上がっています。アナン国連事務局長が珍しく5日、イスラエルを間接的であるものの非難しました。
 選挙遊説中のアッバースPLO議長は4日、事件の第一報を受けて「シオニスト(注1)の敵の砲弾に斃れた殉教者の霊に祈りをささげる」とイスラエル軍に対して異例の糾弾をして周囲を驚かせました。イスラエルの閣僚の中には、「アッバースは和平交渉にふさわしくない人物」とさえ声を荒げるもの出たほどです。しかし、アッバース氏の演説の場所を聞いて、私は発言がアッバース氏の真意でないと推察しました。演説の場所は、ガザ地区のハーン・ユニス難民キャンプです。このキャンプは、ガザの中でも過激な考えの人が多いことで知られるところです。もし仮にいつものようにアッバース氏が、穏健な姿勢を見せていたら、昨年の二の舞(注2)を踏むことになりかねません。彼が自らの命欲しさに聴衆に迎合したとしか思えないのです。案の定、アッバース氏は西岸に戻ると、イスラエルや入植地へのロケット攻撃を控えるよう武装勢力に対して呼びかけました。つまり、双方に責任があるというのです。しかしながらこのような「二枚舌政治」が通用するはずはありません。そうと信じ込んでいるところにアッバース氏の政治センスの古さを感じてしまいます。
 この攻撃に対して、「アル・アクサ殉教者旅団」とハマースはすでに反撃に出ており、イスラエル軍施設や入植地に対して砲撃を加えています。ハマースの軍事部門「アル・カッサーム旅団」の砲撃が5日、イスラエル軍基地に着弾、10数人の負傷者を出しました。
 こうなればイスラエル軍が黙っているはずはありません。近くより大きな軍事作戦を展開するはずです。そうなるとまた、多くの無辜の市民の命が犠牲になるでしょう。

(注1)シオニスト:「シオンの丘に戻ってイスラエルの国家を作ろう」と全世界のユダヤ人に呼びかけそれを実践している人たちをさす。
(注2)アッバース議長暗殺未遂事件:アラファト議長の死去直後、弔問式典にガザを訪れたアッバース氏に対して武装グループが発砲し暗殺を謀った。


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