浅井久仁臣 『今日の中東』

1971年のパレスチナ初取材から、30有余年中近東を見続けてきたジャーナリストが独自の視点をお届けします。

ガザ撤退 同胞に対しての発砲

2005年06月15日 | Weblog
 8月に予定されているガザ地区からの入植地撤退の日が近付くにつれ、これまで避けられてきた問題も議論の場に上るようになって来ました。中でも、武装している入植者が撤退を強要するイスラエル警察と軍隊に対して発砲をして抵抗した場合の想定は、これまで表立っては議論されてきませんでした。
 「アラブの海に浮かぶ小島」であるかのような表現をし、「国民一丸となっての国家建設」を国際社会にアピールしてきただけに、政府とすればイスラエル人同士の発砲は是が非でも避けたいところです。これまでこの種の議論が全くなかったわけではありませんが、「臭いものにふたをする」状態にされてきました。約10年前にパレスチナ自治区のヘブロンで極右のイスラエル人入植者がパレスチナ人数十名を虐殺した時も拘束時に犯人に対して銃口が向けられることはありませんでした。
 ただ、48年の独立宣言以降でイスラエル治安部隊が同胞に銃口を向けて実弾を放った実例がないわけではありません。「人間の盾」としてイスラエルの軍事占領からパレスチナ人を守ろうとした平和運動家に対しての発砲です。一部で「やつらはイスラエルの国益を損ねる行為」と人間の盾になるイスラエル人ならば発砲も致し方なしとする声もありましたが、1年半前に1人の運動家が実際に負傷すると「過剰防衛」の声が上がり、イスラエル軍はその後、表面上は平和活動家への実弾の使用を禁止しています。
 23年前、キャンプ・デイヴィッド合意を受けてシナイ半島からイスラエルが撤退した時、何人かの入植者が身体を張った激しい抵抗をしましたが、銃を持ち出すことはありませんでした。そのため、今回は入植者を刺激しないようにと、警備に当たる兵士や警官は今のところ武装しない方針を固めているようです。
 しかし、軍幹部の中には、「発砲されたら銃の使用許可は出すべき」とする声も多く、今後この問題はさらに議論を深めていくと思われます。

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