浅井久仁臣 『今日の中東』

1971年のパレスチナ初取材から、30有余年中近東を見続けてきたジャーナリストが独自の視点をお届けします。

民主主義を押し付ける米国の失態

2006年07月29日 | Weblog
 米マスコミがここ数日間でこぞって取り上げているのが、ヒズボッラーのイスラーム圏における人気だ。それを受けて、戦闘が始まった直後にヒズボッラーを批判していたサウディ・アラビア、エジプト、それにヨルダンの指導者達が横並びで口調を変えてイスラエル非難に回り始めた。

 まあ、ヒズボッラーが民衆レヴェルで高い人気を誇っていることは、このブログの読者であれば、お分かりのことだが、そうでない人たちには驚きらしい。

 それにしても皮肉なことだ。今、イスラエルー米国連合を悩ませているヒズボッラーやハマースは、米国の押し付ける「民主的な選挙」で多くの議席を獲得した政党だ。特に、パレスチナの自治政府議会選挙には、世界中からカーター元大統領を含む、たくさんの「選挙監視委員」が集まり、中東では歴史的に民主的な選挙であったと言われた。しかしながら、選挙結果が、米国の思惑通りに行かぬと、それを認めようとせず、パレスチナへの援助資金を停止して選挙民に「お仕置き」をしたのだ。それだけでなく、EUや日本に対しても援助停止を呼び掛けて、兵糧攻めにしている。

 そういうアメリカのやり方が、アフガニスタンやイラクでも同様の状況になっているが、イスラームの人たちを「精神世界」に追いやる結果を招いているのだ。

 いっぽう、封建制をそのままに、いまだ男女差別も制度的に残したままのサウディ・アラビアなどが米国のお気に入り、というのもイスラームの民衆をますます「反米・反イスラエル」にさせている要因となっている。

 日本のマスコミは、しばしば「アラブの盟主」「アラブ世界のリーダー」という形容をしてサウディ・アラビアやエジプトの首脳や政府が出す声明を紹介するが、これが、もはやアラブ世界の声を代表するものではないと読者に伝えるべきだ。イスラーム世界は、私たちの想像を超える勢いで西側世界と乖離している。

 

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