浅井久仁臣 『今日の中東』

1971年のパレスチナ初取材から、30有余年中近東を見続けてきたジャーナリストが独自の視点をお届けします。

私の視点 イスラエルがパレスチナに送金?

2007年01月22日 | Weblog
 イスラエルが先週、パレスチナに1億ドル(約120億円)の金を送った。

 と言っても、イスラエルがパレスチナ人を可哀想だからと人道支援したわけではない。

 前にもお伝えしたが、パレスチナはイスラエルにいまだ事実上の軍事占領を受けており、貿易や商行為までもがイスラエルの管理下にある。イスラエルは、様々な理由をつけて関税や付加価値(消費)税を“代理”で徴収、後になってそれをパレスチナ自治政府の財務省に送金してきた。その額は、月に4~5千万ドルである。

 ところが、昨年3月、自治政府がハマースの手に渡ると支払いを拒否、一年近く一銭も支払わずに来た。

 公務員の給料の多くもそれを財源としており、兵士・警察を含む公務員に対しての給料は全て支給停止となった。事実上の失業状態に追い込まれた公務員は絶望状態となり、私にまで支援を頼んでくる友人もいる始末である。

 その間にアッバース大統領を支持するアル・ファタハとハマースの二大勢力はますます溝を深め、双方の指導者が国外で支援を募り、それを持ち帰って何とか食いつないできた。それがまた、両派の軋轢を生み、武装衝突も日常化している。

 状況打開を図るアッバース大統領はアメリカやイスラエルに歩み寄り、支払いを懇願、それを受けてイスラエルは前述したように1億ドルをアッバース大統領の口座に直接振り込んだらしい。

 その使い道に関しては、アッバース大統領サイドからの説明はないが、イスラエル側の情報では、主にアッバース大統領の側近や支持母体のアル・ファタハの支持者に対して使われるとのことだ。

 イスラエルのやることにブッシュ大統領が関与していることはまず間違いない。それにしてもひどいことを考えたものだ。「中東の民主化」の推進を中東各国に対して強要しておきながら、自分はまるでその流れに逆行したことをやっている。

 パレスチナ評議会(国会に相当)選挙は、西側の要求で多くの選挙監視員も配置して中東で初めて「民主的」に行われた選挙だと言われた。ただその結果が、自分達の意にそわぬものであったからという理由だけで、イスラエルとアメリカ政府は「兵糧攻め」を行い、“敵”の追い落としを謀り、それでも効果が少ないと見ると、今度はハマースを支持する公務員や警官に対しての見せしめに、アッバース大統領に直接税金を振り込んだ。

 振り込まれた金は税金である。本来ならパレスチナ自治区の住民全てが共有すべき金であるのに、イスラエルが徴収した総額の4分の1程度にしてもそのように政治的に不公平に使われるのは看過してはならない。

 そんなブッシュ大統領をけん制するかのように、今度はシリアのアサド大統領が動きを見せた。ハマースの事実上の指導者、ハーレッド・メシャル氏はシリアの首都ダマスカスに居を構えたままだが、そのメシャル氏と会談するためにアッバース氏はダマスカスに呼び寄せられたのだ。

 表向きは、ファタハとハマースの連立政権再構築が会談の目的だが、事実上はアサド大統領にアッバース大統領が呼びつけられたものだ。両派が話し合うのであれば自治区で行なえばいいことだ。

 これを見て分かるようにシリアはアメリカとイスラエルとの対立構造に「パレスチナ」を利用している。つまり、パレスチナはイスラエルの建国宣言以来60年、ずっと、アメリカ主導の西側勢力とアラブ周辺国にこのようにして振り回されてきたのだ。

 いずれにしても、これは明らかな内政干渉で、ブッシュ政権の掲げる「民主化」の精神とは相反するものだ。

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