
10月8日の国立競技場。使用されなくなった競技場周りは植栽も放置されていて、すでにうっすらと廃墟感が漂っています。

千駄ヶ谷側の正面ゲートでは東京オリンピックの優勝者の名前を刻んだ銘板の取り外し工事が行われていました。

1枚の石板の大きさは縦2m×横1m。取り外して保管して新しい競技場に併設される予定のスポーツ博物館に展示されるんだそうです。

1枚の重さが300kg。1日に外せるのが1枚程度。全部で54枚を今年いっぱいかけて取り外します。正直、全部保管しなくても数枚あればいいんじゃね?って気もします。
その新しい競技場ですが設計コンペの結果発表直後から始まったごたごたが現在でも全く収まっていないようです。
日本でも最大規模の建築物をあと4年程度で完成させなければならないのに、この時点で多くの問題点が解決を見ない様子。
1年前にコンペで優勝したザハ・ハディド案を見た時にはblogで
「キライな形」と書きました。
ただそれと同時に私ごときの好き嫌いを飛び越えた世界に誇れるような素晴らしい競技場ができればいいなという大きな期待感もありました。
ところがこれに対して国内の有力な建築家たちが即座に反対意見を表明し始めました。
最初は主に景観とコストの問題から。コンペ参加資格のハードルが極端に高かったことや審査の経緯も不信感を増加させました。
その後ややコンパクトになった修正案が出されて、今ではそれに向かって準備が進んでいるのかと思っていましたが実際はそうでもなかったようです。
先週、シンポジウム『新国立競技場の議論から東京を考える』が日本建築学会のイベントのひとつとして開催されました。
昨年のザハ案発表直後から反対派の筆頭の立場で説得力のある論を提示していた槇文彦氏がこのシンポジウムでも中心的な存在。
一方、設計コンペの審査委員の立場だった内藤廣氏が「敵役」として登壇。審査委員長である安藤忠雄氏が出ない代りに、ということでしたが若干お気の毒な気もします。
現在の案がかかえている問題点は
こちらに槇氏のプレゼンテーションが分かりやすくまとめられていますので興味がおありの方はそちらをお読みいただければと思います。
ザハ案の問題点として
『巨大な開閉膜屋根は可能か?』どうやら物理的に無理っぽいらしい
『芝の育成はできるのか?』光が足りないらしい
『高温多湿』半透明部分近くの客席がが真夏のオリンピックで死ぬほど暑くなるらしい
『日よけ』それを防ぐ日除けの設置も難しいらしい
『イベントホールとして成り立つか?』残響特性や振動対策などホールとして使い辛いらしい
『コスト分析1』『コスト分析2』オリンピック後の維持費管理費のコストがハンパないらしい
『無蓋案はどうか?』
とまとめられていますが、槇氏としては今のプランを白紙にしてでも合理的で実現可能性の高いシンプルな「普通の競技場」にすべきと考えているようです。
一方、内藤廣氏は選定のプロセスを反省しつつも既に後戻りはできないところまできているという立場。
なんとか日本の技術を結集して上記の問題解決に向かいたいと、まあ審査委員としてはそういうしかない、辛いところでしょうね。
正式な国際コンペで優勝と発表した案を破棄するというのは国際的に見れば確かにこの上なくみっともない。とはいえ面子にこだわって玉砕するのも悲しすぎる。
本当は安藤忠雄委員長が登場して槇氏の揚げた問題点の画期的な解決策を披露してくれれば一番いいんですが、本人はもう嫌になっちゃったのかもな。
もう、進むか戻るかどうしたらいいのかわかんないよー。ただたた憂鬱で心配。メランコってます。
ここ数年、ブラジルやロシアでの競技施設建築の遅れを高みの見物で眺めていましたが、ついにそれが他人事でない、我が国の問題として起きてしまったわけです。
これは辛い。1年かけて問題が深刻化、複雑化しただけだったんですね。
どうか、5年後に「最初はいろいろあったけど最後には世界に誇れるいいものができて良かった~~」と言える日が来ますように。
とりあえず神社に寄った際には必ず願い事として祈ろうと思います。