日本の金融マーケットに関わる立場として、当然ながら地政学リスクには常に敏感でなければなりません。本日からの2日間は、少し悲観的な見方をお話いたします。最悪の事態を想定することで、それを避ける努力も出てくるものですので。
アジアの地政学リスクは、少し前までは「北朝鮮リスク」と呼ばれていました。核開発や大陸間弾道ロケット実験をテーマに、北朝鮮対関係5か国という図式で、このリスクへの対応が考えられていました。この時は、とにかく北朝鮮を孤立化させ、経済的に兵糧攻めのような状態に追い込み、彼らが弱り、ヘタるのを待つのが作戦で、5か国の連携も悪くありませんでした。
しかし、2017年に発生した金正男暗殺事件や核開発の実質的な完了、それから2018年のペンス副大統領演説を契機とした米中対立構造により、状況が一変してきています。
孤立していた北朝鮮が、今や自らのシナリオ通りに周囲を動かす、まるで演出家のようです。まず、アメリカとは米朝首脳会談を実現するとともに、ロケット実験を中止するという大きなプレゼントをトランプに手渡しました。この結果、米国による爆撃などの脅威は去るとともに、中国・韓国や日本を介せずにアメリカと直接折衝できるルートも作ってしまいました。
中国は昨年のペンス演説以来、北朝鮮に替わってアメリカの攻撃の第一目標にされてしまいました。以前は北朝鮮問題を解決できる唯一の切り札的存在だったのに、今やアメリカの宿敵という位置づけです。北朝鮮にとって、最も厄介な国はアメリカと中国だった訳ですが、この2国が真っ向からぶつかってくれる事態はまさに願ってもない状況です(ひょっとすると、これも北朝鮮の仕掛けたシナリオなのかもしれません)。結果的にですが、アメリカと距離を縮めた北朝鮮にすり寄るように、あの習主席の平壌訪問が今年は実現しそうな勢いです。
最も危険な状況が、韓国と日本です。両国の関係悪化は今さらここで論じるつもりはありませんが、この状況を一番喜んでいるのが北朝鮮だと思います。韓国と米国・日本との関係がますます薄くなってきていますが、米朝首脳会談あたりで、核設備閉鎖の代償としてトランプが「在韓米軍の撤退」を決めてしまうというリスクを、どの程度深刻に日韓両国は考えているでしょうか?
民主主義社会(自由主義社会)の境界線が、38度線から対馬海峡に変化する衝撃はメガトン級ですよ!
現状は、したたかな北朝鮮の戦術に嵌まって、米国だけでなく日韓中までも、金委員長の笛に合わせて踊らされているように見えてなりません。
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