金融マーケットと馬に関する説法話

普段は資産運用ビジネスに身を置きながら、週末は競馬に明け暮れる老紳士の説法話であります。

【里見香奈女流五冠】 プロ棋士編入試験は三連敗で不合格 敗因は何だったか⁉

2022-10-19 05:35:30 | 将棋

 10月13日に行われたプロ棋士編入試験第3局は、試験官の狩山四段が勝利。これで、挑戦者の里見香奈女流五冠は3連敗となり、プロ棋士編入試験は不合格となりました。

 

 この挑戦については、このblogでも何回か取り上げておりましたので、里見香奈女流五冠のプロ棋士編入試験の失敗について、触れない訳には参りません。

 

 

 まずは、結果については大変残念と言わざるを得ません。

 

 6月29日8月18日当blogでも紹介しておりますが、女流棋士にとって、このプロ棋士という男社会の壁をぶち破って参入する意義は計り知れません。ルール上は、実力オンリーの将棋の世界であり、男女の区別なく三段リーグを勝ち抜いた者だけが到達できるプロ棋士の座。また、例外的に、三段リーグを経なくても、アマチュア棋士や女流棋士が、公式戦でプロ棋士を相手に一定勝率以上を挙げると『プロ棋士編入試験』の受験資格を得て、これで勝ち越せばプロ棋士になれる。

 一見すると、ここにはジェンダー問題など存在しないように見えますが、将棋の天才たちが集まって、その中でほんの一握りだけが『プロ棋士』として選抜されるプロセスにおいて、血の滲むような鍛錬と、切磋琢磨するライバルの存在が欠かせません。今はコンピューターソフトだけを相手に訓練を繰り返す棋士も存在しますが、基本は人間同士が深夜まで将棋を指し続ける鍛錬が基本となります。こうした鍛錬の場において、若い10代20代の女性には、同じような訓練が出来る場は限られています。また、ある程度のレベルになると、女性には『女流タイトル戦』への出場の道が開かれるので、活躍するフィールドも異なっていきます。

 そうした環境の違いに目もくれずに、ただただ『プロ棋士』を目指して、男社会の壁を壊すことに注力できる女性は皆無であります。今回の里見香奈女流五冠も、三段リーグであと一歩のところまで到達した西山朋佳白玲・女王も同様です。

 ジェンダー問題とは、マジョリティには普段意識できないような、マイノリティだけが感じることができる扱いの差や環境の違い、あるいはルール適用の差が根底にあります。マジョリティ側は「ルールは公平」「あとは実力」とふんぞり返りますが、マイノリティ側からは「まずは壁をぶち破らないとルールも変えられない」「そもそも多様性を受け入れる土壌がない」ということになります。

 

 話を編入試験に戻しましょう。

 里見香奈女流五冠は「敗因は、ただ自分が弱かったから」と潔い姿勢を見せています。しかし、再度挑戦するかという問いかけには「今の時点では、ありません」という返答。本音は『もう、懲り懲り』という気持ちではないでしょうか。

 今回の編入試験の試験官は、第1局が徳田拳士四段第2局が岡部怜央四段第3局が狩山幹生四段。3名ともに、ここ1~2年の間にプロ棋士になったばかりのピカピカの若手です。というより、生きるか死ぬかの三段リーグを勝ち抜いたばかりの勝負師たちと言った方が良い。しかも、過去の編入試験のように、ようやく将棋の道で生活できるチャンスを掴みかけた、元三段リーグの先輩を相手にする対局ではありません。すでに女流タイトル保持者として、自分たちの何倍もの年収を稼いでいるスター女流棋士が対局相手であって、これから敢えて男社会に参入して、また名を上げようとしている異人との闘いであります。彼らからすれば、プロ棋士の端くれとして、絶対に負けられない闘いとして臨んだことが想定されます。

 これも、また里見香奈女流五冠からすれば、『ジェンダーの壁』の高さを感じる要因だったと思います。

 

 いや、ここはあまり感傷的な表現を使わず、もう少し判りやすい平易な「敗因分析」を致しましょう。上記3名の四段棋士たちは、この対戦が決まってから、里見香奈女流五冠の研究をやり尽していたように見えました。第1局の徳田拳士四段は、すでに高い勝率を誇るトップ級の実力の持ち主ですが、序盤から里見女流五冠を圧倒して、そのまま押し切りました。今になって思えば、あれは序盤から里見女流五冠のスキを見つける研究をしていて、それを実践で示した可能性が大でした。2局目の岡部怜央四段戦は、途中までは里見女流五冠ペースでした。しかし、中盤戦で攻めをやめて受けに回ったところを突かれて、一気に形勢を悪くしました。しかし、あれも今から考えると、岡部四段は、そうした里見女流五冠のクセを研究していて、その瞬間を待っていたとも考えられます。第3局の狩山四段も同じ。非常に、よく研究し尽くしていた印象

 それに対して、里見香奈女流五冠は、第1局から第3局まで、決まって戦型は得意の『中飛車』を採用。どうせならば、自分の将棋を指すことに集中しようという意向だったと思いますが、これでは、里見将棋を十分研究している相手からすれば、研究どおりの手順で相手を追い込むことが出来ますから、序盤から作戦勝ちになる可能性が大となります。

 里見女流五冠からすると、女流タイトル戦が続く合間に、この編入試験が1か月に一度ずつ入るというスケジュール。しかも、四段に成り立てのプロ棋士の棋譜はまだ少なく、三段時代の棋譜を手に入れるには手間がかかりますから、十分な対策を立てることが難しかったのではないでしょうか。

 

 里見女流五冠の敗因は、ズバリ準備不足だったのではないでしょうか。いや、四段棋士たちの準備が見事に優ったという言い方の方が正しいのかもしれません。

 厳しい敗因分析かもしれませんが、実力が拮抗している場合、直近までの対局相手の棋譜傾向を十分に研究し尽くした方が勝利に近づくのは、名人戦や竜王戦でも同じであります。

 

 今は「懲り懲り」という気持ちでしょうが、里見女流五冠には、もう一度、この壁に挑戦してみてほしいと思います。貴方ならば、必ずこの壁をぶち破れます。ただ、この次には『協力者』も必要。対局相手の研究をするには、棋譜を集めて一緒に考える仲間が必要だと思います。羽生善治さんだって、藤井聡太さんだって、強力な研究仲間がいてこそ、あの実力を誇っているのですから。


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【中国共産党 第20回党大会】... | トップ | 【ノーベル経済学賞 2022】 ... »
最新の画像もっと見る

将棋」カテゴリの最新記事