夫婦で新しい人生にトライしてます~日本編

15年ぶりにカナダから帰国。終の棲家と選んだ北海道美瑛町から日々の生活を綴ります。

悲別2023

2023-12-10 08:15:05 | 日記

昨日は、脚本家倉本聰さんが主宰する富良野演劇工場で「悲別(かなしべつ)2023」というタイトルのミュージカルに近い演劇を見て来ました。

富良野グループホームページから借用

悲別と聞いて倉本さんの書いたテレビドラマ「昨日、悲別で」を思った人はどれくらいいるでしょうか?1984年に13話で放映されたテレビドラマは、雨宮良、石田えりらが主演で、架空の町北海道悲別と東京を舞台に炭鉱の閉山後に様々な生き方を模索していく青春群像として人気を博したものでした。実は、私達もこのテレビドラマを見てはいません。ただ、悲別という地名は上砂川町や歌志内市がモデルだということは知っていました。

その後も倉本さんはこの悲別の若者達の生き方にこだわりを持っていて、続編として7年後の1991年に今は解散している演劇集団富良野塾の舞台ドラマとして「今日、悲別で」を書き、2001年までの10年間で全国はもとよりニューヨークやカナダでも公演を行いました。テーマは国のエネルギー政策に翻弄され棄民となった人たちへの鎮魂歌だったでしょうか。

しかし、これで「悲別」は終わらず2011年に東日本大震災と福島原発の爆発事故を受けて翌年には「明日、悲別で」を書いて全国公演を行っていました。90年代で完全に閉じた国内石炭産業から20年後に原子力が再び日本のエネルギー政策に疑問を投げかけた時にモノを申したかったのでしょう。

2010年に演劇集団富良野塾は解散していたので、この公演は有志たちによって継続されている富良野グループが担ったのでしたが、その富良野グループが悲別3部作を10年ぶりに復活させたのが今回の「悲別2023」でした。

あらすじとしては、90年代初めに閉山を決定された炭鉱の町悲別で閉山に抵抗して闘った組合長が、自殺する直前息子に山の仲間達がかつて希望のタイムカプセルを地下300mの坑道に埋めたので、もし忘れてなければ今から30年後の2023年の大晦日に掘ってみろと言い残したのでした。その頃20代だった息子たちは閉山に伴って皆それぞれの道を歩き出し、ある者は福島へ行って原発作業に従事し、ある者は地元に残って報われない町おこしに奔走しといったドラマを繰り広げ、2023年の大晦日に集まったのはたったの3人でした。

落盤に会いながら苦難の末掘り当てたタイムカプセルに残されていた希望とは何か、それは形としてはツルハシとシャベルであり結果として落盤で生き埋めになってしまった彼らを救う道具ではあったわけですが、いつかまた日の目を見るという当時の山男たちの思いであったということでしょうか。

                   富良野グループホームページから借用

もう40年以上を富良野で暮らし炭鉱の閉山を知っている倉本さんがこだわっているのは、石炭も石油も原子力も、人間の生活にエネルギーが必要だというなら、それを作る人たちへの畏敬の念がもっとあって然るべきだし、弊害をも生み出すエネルギーにもっと謙虚に向き合い使用をセーブする営みがなければ、いずれ本当に地球は滅びてしまうという危機感のように感じました。

演劇としては、暗転を繰り返す中で場面の切り替えが見事だし、さすがに鍛え抜かれた役者さんたちの演技、発音、声量が素晴らしく、ミュージカルのようにも見える音楽の使い方で、「昨日、悲別で」においてテーマ曲となった「22歳の別れ」も使われていましたが、ジョン・レノンの「イマジン」と奴隷労働に許しを請う「アメージンググレース」が頻繁に流されるのが印象的でした。2時間弱の公演の後は満員の観客が何度もカーテンコールの拍手を送っていました。

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