Andyの日記

不定期更新が自慢の日記でございます。

TS7

2011-08-30 11:32:40 | 音楽・楽器
"チューブスクリーマー" という言葉を最初に聞いたのは、私がまだ高校生の頃だった。
それがいつごろのことかといえば、VAN HALEN が 1984 をリリースしたり、インギーが
アルカトラズで初来日して「なんだありゃ?」「どうせデタラメだろ」「旋律に味がない」
などと酷評され(今もあまり変わらない?)、メタルとハイテクギタリストが一気に
メジャーになった時代だ。

当時のギターキッズが欲しがる歪み系のエフェクターといえば完全にディストーションで、
それ以外のペダルはそれほど売れていなかったと思う。もちろん、今でもメタル系の
ギターキッズにはディストーションが人気あると思うけど、当時は必ずしもメタル系では
ないギターキッズにもディストーションばかり売れていた気がする。オーバードライブにも
ファズにも少なからぬ固定客がある現代に比べると、状況はだいぶ違っていた。というか、
今はディストーションよりはむしろオーバードライブのほうが人気が高いのではないだろうか。

あの当時、一般的に出回っているトランジスタアンプは、あまり歪まないものか歪んでも
薄っぺらくて安っぽいドライブサウンドしか出ないものばかりだったから、大抵の人は
エフェクターをつないでがっつり歪ませて弾いていたのだ。今の人には信じられないだろうけど、
エフェクターで歪ませたほうが音にはるかに深みも厚みもあった時代だ。オーバードライブ
だけだと、当時のハードロックやメタルのレコードで聴けるようなかっこいい歪みサウンドは
出せなかったので、しかたなくディストーションを購入していた人は少なくなかった。

いや、当時はプロギタリストですら改造されたマーシャルをフルアップさせたうえで、
歪み系ペダルやブースターでさらに歪みを補っていたような時代だから、いかに当時の
アンプが歪まなかったかがわかる。私の友達なんて、DS-1 に KORG のトーンブースターを
かけてさらに過激に歪ませていたくらいだし。決して友達は激歪みメタル信奉者という
わけではなく、むしろレインボーあたりの、それほど強い歪みを必要としないくらいの
ロックをコピーしていた。にもかかわらず、そこまで歪ませていたんだから、みんなが
ほんとに歪みを必要としていた時代だった。

そんな当時から、TSは存在した。あの当時、TSを愛用していると公言しているロック系
ギタリストは皆無だったと思う。いたのかもしれないけど、雑誌のインタビューなどで
目にするギタリストが使っている機材に、TSが登場することはなかった。それはそうだろう、
TSは、当時から歪まないペダルとして有名だったから。

私の記憶が確かなら、あの頃 Ibanez はディストーションだけで5~6種類は発売して
いたと思う。それくらい、当時はディストーションが売れまくっていたのだ。チューブ
スクリーマーはカタログに掲載され続けてはいたけど、でも売れてなかったんだろうなぁ。
あの頃に雑誌で歪み系エフェクターの特集が組まれても、TSに対する評価はあまり高く
なかったと思う。一番歪まないペダル、というような評価だったし。ほとんどのロック系
ギターキッズは注目していないのが実際のところだった。

だから、ジョージ・リンチがTSを愛用していると聞いたときは「はぁ?」という気分
だった。彼の作品を聞いていると、マーシャルらしいアクの強くエッジの聞いた
ディストーションサウンドばかりなので、どこでTSを使っているのかわからなかったし、
正直言ってギターキッズを煙にまくための冗談だろうと思っていたくらいだ。

ところがそれからというもの、SRVやその他のギタリストがTSを使っていることを
公言しだした。日本でTSが注目され始めたのは、その頃あたりからではなかっただろうか。
ちょうどヘビメタが過剰供給と売れ線主義に走りすぎたせいで下火になって、ヘビメタ
以外のロックに光が当たりだした頃だ。また、マーシャルも JCM900、さらに JCM2000 へと
進化して、次第にアンプだけでじゅうぶんに歪ませることができる時代になり、
ディストーションペダルがなくても十分に歪ませることができるようになった。

JCM900 以降のマーシャルは、歪み量こそじゅうぶんだけど耳が痛くなるような鋭い
高音が欠点なので、それをなんとかしたい、という要求にもオーバードライブが
使われるようになった背景があると思う。TSやSD-1を使うギタリストが、
あらゆるジャンルのロックで急に増えていき、そして現在に至っている。ブースターと
して、またはイコライザー代わりとして、オーバードライブは登場当時とはやや違う
用途で高い需要を維持し続け、今や百花繚乱の様を呈している。

しかし、私はもともとオーバードライブをブースターとして使うことにはあまり
賛成できないタイプだったので、TSを手に入れたいとは思わなかった。あと、
正直言って学生時代に抱いていた「歪まないペダル」という印象が強かったことも
あって、「TSはいらない、歪ませるならちゃんとディストーションを使ったほうが
いいし、アンプが十分に歪むならアンプ直で歪ませたほうが絶対にいい」という
考えだった。実際、Marshall Guv'nor なんてディストーションにしてはミドルは
しっかりあるし、歪み方も必要十分だし、これで何も不満ないとずっと思っていた。

ところが最近手に入れた Ibanez のカタログから、TS7 が消えたことに気がついた。
あれ、生産中止になったのか、と思って楽器屋さんのサイトを見ると、リストから
TS7 が消えているところが多い。やはり TS9 や TS808 ばかり売れて TS7 が売れない
ものだから、Ibanez もラインアップを整理する必要に迫られたんだろう。この不況
だしね、売れないものをいつまでも作り続けるわけにもいかない、という理由はよく
わかる。

そんな状況を見ていたら、なぜか急に TS7 が欲しくなった。あまのじゃくなやつだ、
さんざんオーバードライブをブースターとして使うことを嫌っていたくせに、いざ
生産中止となったら欲しくなる。さいわい、まだ置いてある楽器屋さんでは、もはや
投売り状態の値段になっている。ついこないだまでオークションで買うような値段で
新品が手に入るようになったので、いい機会なので買ってみようか、と気楽に買って
みた。

実際に使ってみた感想から言うと、「なるほどね~~~」。なぜTSばかりこうも
もてはやされるのか、使ってみてわかった。これ単体では、やはりぜんぜん歪まない。
持っている Guyatone PS-032 のほうがはるかに歪む(ていうか、これはオーバー
ドライブとしては歪みすぎ)。あまりに歪まなくて、あせったくらいだ(笑)。
でも、イコライザー的に歪みを補う使い方をすると、確かにすごくいい。

TSって、こういう表現が正しいかどうかわからないけど、落としどころが絶妙だ。
確かに一般に言われているように高音と低音がカットされるし、倍音成分は少ないし、
少しフィルターをかけたような音になる。ただ、これを音が太すぎてブーミーな
アンプや、暴れた汚い歪みかたをするアンプ、ちょっとゲインを抑えた歪み系ペダルと
組み合わせてブーストさせると、ちょうどいい音にできるから不思議だ。意図的に
こういう設定にしたわけではなかったと思うけど、結果として具合のいい音に
まとまってくれる。

じゃ、他のオーバードライブをブースターに使うと、どうなるか。我が愛器 PS-032、
これはすごく歪むのでゲインが足りないという不満は一切出ないんだけど、これで
ブーストさせると倍音成分が強調されすぎてしまい、何を弾いているのかわからなく
なってしまうことがある。これ以外のメーカーのは知らないけど、TSやSD-1ほど
人気がないということは、あまりブースターとしては相性がよくないんだろう。

じゃ、TSがどういいのか、ちょっと具体的に書いてみますか。たとえば私が持って
いる VOX MINI3 の [UK '70S] チャンネル。Marshall 1959 の音をモデリングした
チャンネルだけど、これはゲインをフルにしてもほとんど歪まない。でも、音は
とても味わいがあって素晴らしいので、あとちょっと歪んで欲しい!と思う人は
多いだろう。でも、これに普通のオーバードライブをつなぐと、ボガ~~~っていう
ガバガバな歪みになってしまうし、ディストーションだと逆にバキバキの薄っぺらい
歪み方になってしまう。

TSをブースターの設定(レベル最大、トーン12時、ゲイン0)でつなぐと、
ほんとにちょうどいい具合になる。ストラトで弾くと、レインボーの Since You've
Been Gone や Spotlight Kid あたりで聞かれるような、太くて透明感があって
適度にバイト感のある絶妙な歪み方をしてくれる。これ以上音が太いと暴れるし、
これ以上バイト感があるとグシャグシャわずらわしくなるんだけど、そこまでは
いかないので弾いているほうとしてはコントロールがとても楽だ。ゲインをもっと
増やすと、今度はインギーのファーストソロの Rising Force で聞かれるような音に
なっていく。そういえば、彼もこの頃は 1959 を使っていたんじゃなかったかな。
使っていたペダルは DOD だったと思うけど。

次に [UK '80S] チャンネル。JCM800 をモデリングしたこのチャンネル、ガバナーっ
ぽいと以前に書いたけど、ガバナーよりもっとトランジスタチックでしかもキンキン
している。そのくせ、倍音成分が少ないのでパームミュートをするとモグン、モグン、
という輪郭の不明瞭な音になる。このチャンネルでTSをブースターに使うと、おぉ、
'80s メタルだ。ガッツがあって太くて濃密でジャキッ!としたマーシャルサウンド。
適度に倍音成分が付加されるのでミュート音もかっこいいし、ピッキングハーモニクスも
キコキコきまる。フロントピックアップでソロを弾けば、ピーヒョロロサウンドも
出てくるので、弾いていてとてもひたれる。

[UK '90S] チャンネルはどうか。JCM900 のモデリングのこのチャンネル、歪むことは
歪むけど、ギャリンギャリンのディストーションサウンドで耳が痛くなりかねない。
トーンを絞ればいいんだけど、そうすると音がこもってしまいかねない。なのでTSの
トーンを少し絞る設定で使ってみると、あら不思議。適度にミドルが増えてくれて、
音に張りとツヤが出てくれる。TSのトーンはブースターとして使ったときに、絞っても
不思議とあまりこもらない。高音成分だけうまい具合に削れて、しかも音が太る。

扱いにくいアンプの音をうまくまとめるペダルというのは他にもあると思うけど、TSが
ここまでもてはやされるのは、他のペダルと比較すると「人間が心地よいと感じる音を
出してくれて、しかも弾きやすくなる」という理由からだろう。音をもっと際立たせる
ペダルであっても弾き心地がいまいちだったり、弾きやすいけど音がいまいちだったり、
歪み系ペダルをブースターとして使うとそういう欠点があるものだけど(だから私は
ブースター反対派だった)、TSについてはそういう欠点がいまのところあまり
感じられない。

ちなみに、Guv'nor や DS-1 と組み合わせても、悪くないことも確認した。バッキングに
ちょうどいいくらいの歪み設定にしたこれらのペダルの前段にTSを置いてブースト
させると、スムーズにゲインアップされてソロが弾きやすくなる。ちなみに、TSは
基本的に前段に置いてブースターとして使う分には悪くないけど、後段に置いてレベル
アップ目的で使うと、あまりよくない。固いような薄っぺらいような音になってしまい、
あまりいい具合にならない。歪みペダルの後段に置いて、ソロのときにレベルアップも
したいという場合は、実は Guv'nor がけっこうおすすめ。大抵の歪み系エフェクターとの
相性は悪くない、というか何と組み合わせても Guv'nor の音になってしまうのだけど、
それはご愛嬌。もしマーシャルサウンドが嫌いでないならば、Guv'nor をレベル&ゲイン
アップのブースターとして使うのもおすすめ。あ、ただし、うちのは英国製なので、
今売っている Guv'nor Plus だとどんな感じになるのかはわかりません。