Moments musicaux

ピアニスト・指揮者、内藤 晃の最新情報です。日々、楽興の時(Moments musicaux)を生きてます。

4月8日(日) 東音ホール[東京・巣鴨]

2012年04月08日 | コンサート


 歌と踊りの国スペイン。「ほとんどのスペイン人は踊りながら生まれてくる」(セルバンテス)と言われるほど、スペインの音楽には踊りのリズムが息づいています。
 ヨーロッパ大陸の西端イベリア半島に位置するスペインでは、歴史的にキリスト教徒とイスラム教徒が衝突を繰り返す中で、両者の文化が混交し、独自の芸術が花開きました。15世紀にイスラム王朝が崩壊すると、キリスト教に改宗してこの地に留まったムーア人は、放浪のジプシー(ヒターノ)社会に紛れ込んで生き延びようとしました。このコミュニティで、さまざまな異文化が融合し、フラメンコなどスペイン特有の歌と踊りの文化が芽生えたと言われています。

 4月8日(日)14:00より、巣鴨・ピティナ東音ホールにて、ピティナ・ピアノ曲事典の公開録音コンサート・シリーズに出演させていただくことになりました。ピアノ曲事典のためのライヴ・レコーディングを兼ねた演奏会です。このコンサートに際し、スペインをめぐる4人の作曲家を取り上げることにしました。



 ドメニコ・スカルラッティ(1685-1757)はイタリア人ですが、スペイン王国支配下のナポリに生まれ、ポルトガル王女マリア・マグダレーナ・バルバラの音楽教育係をつとめ、彼女がスペイン王室に嫁ぐとそれに同行してマドリードに永住した彼は、本質的にはスペインの作曲家と言えましょう。バルバラ王女のために書かれたチェンバロの練習曲(ソナタ)には、官能的な旋律、力強い踊りのリズム、ギターを彷彿とさせるアルペジオやトレモロなど、スペインの空気が紛れもなく刻印されています。代表的なソナタを6曲ほど取り上げる予定です。
 ロ短調 K.27イ長調 K.208ニ短調 K.9ト長調 K.14ハ長調 K.132ニ短調 K.141



 フェデリコ・モンポウ(1893-1987)はスペイン・カタルーニャ地方の作曲家。最小限の音符で、こよなく美しい静謐な音世界を演出したピアノの詩人です。幼い頃祖父の鐘鋳造所でいつも聴いていた鐘の響きが原風景となり、音楽の中にも鐘を思わせる響きが溶け込んで神秘的な雰囲気を醸し出しています。打鍵後の余韻から立ち上がる倍音にもひっそりと耳を澄ませる彼の音楽は、その繊細さにおいて突出していると思います。処女作である組曲「内なる印象」を取り上げます。



 テオダ・ド・セヴラック(1872-1921)は、ドビュッシーに「よい香りのする音楽」と称されたスペイン系フランス人の作曲家ですが、アルベニスの弟子で、カタルーニャ舞踊サルダーナの根づいたスペイン国境近くの街セレに暮らした彼は、音楽的にもスペインの系譜に連なる存在です。素朴で叙情的な、懐かしい作風が魅力ですが、聖歌を思わせるモーダルな響きが時折敬虔な感情を喚起させます。組曲「休暇の日々から 第1集」を取り上げます。



 イサーク・アルベニス(1860-1909)は、言わずと知れたスペインの大家で、ピアニスティックな技巧を駆使しつつ、さまざまな旋法を用いて新しい響きを追求した革新的な作曲家です。いずれの作品も、スペインの香りも色濃く漂わせています。雄大な歌心にあふれた名曲「ナヴァーラ」は、未完となった遺作で、最後の部分はセヴラックにより補筆されています。

 フランスの哲学者ジャンケレヴィッチは、著書『遥かなる現前』において、「今ここにない風景」を音楽でありありと体感させる異能の音楽家たちとして、アルベニス、セヴラック、モンポウを論じていますが、この3人にスカルラッティを加えた4人の作曲家の音楽には、舞踊性やスペインの香りのみならず、詩的な余韻の美しさにおいて共通するものを感じます。

 終演後、会場で立食パーティーもございます。「ピアノ曲事典」のためのレコーディングということで、いささか珍しい作品ばかりではございますが、皆さまのご来聴をお待ち申し上げます。ご予約はこちら。入場料は、お賽銭方式となっております。

↓セヴラック「ロマンティックなワルツ」(私の演奏です。良かったらご試聴ください。)