Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

立春の卵 中谷宇吉郎

2018-05-08 10:06:55 | 科学
「コーヒーと随筆」では編者は「おわりに」で,「太宰治ではじまり,坂口安吾で終わる.そんな本を作りたかった」と書いているが,今のぼくの心境は太宰からも坂口からも遠い.
「はじめに」のほうに書いている,「ただただ面白い随筆を挙げていったら,物書きを稼業としない人たちの作品をたくさん選んでいた」のほうに共感した.

中谷宇吉郎は物書きを稼業とする意識はなかったと思うが,いま残っているものはもっぱら書き物だなぁ.「立春の卵」は立春に卵が立ったという事件を,2月6日 (何年のことかわからないところが,よい) の朝日・毎日が大きく取り上げたことが枕.

中谷先生も卵を立ててみたくなり,(細君に) 早速買いに行ってこいと命令する.細君は目星をつけた家を2軒も廻って,子供が病気だから是非分けてくれと嘘をついて,やっと買ってくる.
ぼく的にはこのくだりが,白眉.
わが幼年時代を振り返ると,親父はお袋に命令するほどの気概はなかったが,卵は病気にでもならないと,確かに口に入らなかった.

このあとヤング率を使った卵の尻とテーブルとの接触面積の計算とか,顕微鏡による卵の表面の観察などに発展する.卵はしっかりした平面で,時間をかけて試行錯誤を繰り返せば立つらしい.
Youtube には「卵が立った!」という動画は多数あるが,これについて考えることはしない.

随筆は「何百年もの間,世界中で卵が立たなかったのは,皆が立たないと思っていたからである」とつづき,立春の卵は人類の盲点の存在を示す巧い例」と,格調高く壮大に終わる.

カットの写真の本はどこに行ったんだろう.ここにも,卵を立てる話が載っていたような気がするが,記憶が定かではない.

「立春の卵」は青空文庫に入っている.
https://www.aozora.gr.jp/cards/001569/card53208.html
初出:「世界」1947(昭和22)年4月1日

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