Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

ビアズリー伝

2020-06-04 10:10:26 | 読書
S・ワイントラウブ,高橋進訳,中公文庫(1989/5).
入念な編集.巻頭に30ページほどのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館所蔵品による,カラーとモノクロのグラビア.全13章のそれぞれにはビアズリーの扉絵があり,文中にも作品が1ページ大で随所に挿入されている.30年前の文庫本はすごい.500ページ強.
Amazon 1円古書.途中で本が分解しそうになった.

読むのに数日かかった.ビアズリーをめぐる文人・画家・出版業者が次々に登場する.聞いたことがあるのはワイルド,ショー,イェーツくらい.興味がないことを読まされる感じはあるのだが,読まないと先に進めないおそれがあったのだ.何度読み返しても主語が判然としない文章があったりした.

ビアズリーの作品は「サロメ」だけしか知らなかった.彼の画風はどんどん進化し,連載物の初期に描いた挿画のタッチに,後になって合わせるのに苦労したらしい.劇場やカフェでスケッチしたが,自然の風景を対象としたことはないという.白と黒だけ,細い黒線の間隔でグレイスケールとするのは,まさに印刷美術・計算機美術を先取りしていたと言えそう.文学作品も残していて,訳者解説によれば,芥川龍之介が翻訳することを考えた,

原田マハ「サロメ」のために,このビアズリー伝を読みたくなったのだが,実伝を小説にする手の内が垣間見えて面白かった.確かにビアズリーはワイルドに大きく影響されたが,それは一過性のものだったようだ.ワイルドとはうまくいかなかったが雑誌「イエロウ・ブック」で波に乗る.しかしワイルド逮捕で干される.ポルノ本出版者?スミザースと組んで,雑誌「サヴォイ」で復活.スミザースとの腐れ縁は死ぬまで続く.晩年は喀血を繰り返し,経済的にも不安で,悲惨.

ワイルドはホモだがビアズリーはそうではない.病弱であるがゆえに童貞のまま死んでいった可能性もある.姉との性的な関係はここではほのめかされる程度.

最終章「長い影」は彼の影響を総括している.ディアギレフ,ロレンス,フォークナー,....訳者の表現を借りれば,彼の世界は「諧謔の精神に根差した退廃美と怪奇美をあくまで典雅に装飾的に人工的に表現した」もので,「現代人の美意識に共通する何かがある」のである.竹久夢二に影響が見られるといわれると,そうかな? と思う.

学術書かもしれないが小説より面白かったかも.巻末には出典一覧・索引の他に,マックス・ビアボーム「ビアズリー氏の50葉の素描集」という挿画なしの論文のようなものがある.

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