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野口冨士男犯罪小説集

2021-11-17 07:18:34 | 読書
野口 冨士男「風のない日々/少女」中央公論新社 中公文庫 (2021/10)

Amazon の紹介*****
2・26 事件前夜の閉塞した時代、平凡な銀行員が小さな行き違いから新婚の妻を殺してしまうまでを描く「風のない日々」は、リアルな描写の積み重ねがサスペンスを生む、野口冨士男の異色作。戦後の復員兵による財閥令嬢誘拐事件を描いた「少女」併録*****

野口冨士男は (椎名誠 風ではなく) 正統的な私小説作家だから,犯罪小説集は「異色作」なんだろう.私小説ならざる小説を「客観小説」ということを,川本三郎の解説で知った.
著者は 1911 生まれで「風のない...」は昭和 9-11 年を舞台としている.著者は明治 44 (1911 ) 年生まれで,実時間で書かれたものと思い込んで読み始めたが,初出は 1980 年であった.時代背景の説明が行き届いているのも道理である.実際にあった事件を下敷きにしているということだ.

最後は夫は妻を殺してしまうのだが,この場面の描写はあまりにあっけない.私小説作家の著者はしかし,詳しい描写は避けたかったのかもしれない.夫の銀行員が殺人後,普通に外回りをして,あちこちで世間話をするところに,妙にリアリティを感じた.

主人公と著者は同世代で.結婚や性生活の描写は実体験に基づいているのかもしれない.この世代は 16 とんの両親の世代でもある.見合い結婚というのはこういうものか...と思った.
あまり時代背景は意識しないで読んだ.

「少女」も昭和 21 (1945) 年の誘拐事件を下敷きにしていて,設定は 1945 年だが,初出は 1985 年.人質の少女は復員兵である犯人に心を寄せる.解説によれは,これをストックホルム・シンドロームというのだそうだ.

文庫の帯には「何が彼をそうさせたか」とあるが,これはどちらの作品にも言いたくなること.
カバーイラスト 阿部結.
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