Sixteen Tones

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クセナキス「確率論と作曲」

2017-10-01 08:29:54 | 新音律
ヤニス クセナキス, 高橋 悠治 訳「音楽と建築」河出書房新社; 増補・改訳版 (2017/7).
出版社の CM ***** 伝説の名著、ついに新訳で復活。高度な数学的知識を用いて論じられる音楽と建築のテクノロジカルな創造的関係性――コンピュータを用いた現代の表現、そのすべての始原がここに。*****
とても美しい本だったので,ふらふらと買ってしまったが,いまでは また読みもしない本を買っちまったと反省しきりである.

以下の文章はこの本の最初の章「確率論と作曲」p1-19 について...文章は読みづらいが,数式に惹かれて一読した.原典は "Wahrscheinlichkeitstheorie und Musik", Gravesaner Blätter n°6, 1956, p. 28-34. だが,ネットには見つからず.

カットはテキストが最初に数式が出てくる部分だが,まず「点の平均値」とはなんぞや?とひっかかってしまう.でもこれは,指数分布の式に違いないと思うに至った.
とするべきところ.この式は,直線上の点の密度が与えられた時の2点間の距離の分布を示す.
続いて現れる式では,ポワソン分布・正規分布などの名前が出てくるのだから,指数分布と書かない法はあるまい.

ここで著者は,音の「持続時間」は指数分布,「高さ」はポワソン分布,グリサンドは音の高さの変化する「速度」としてガウス分布に従うとしたようだ.こうして作曲されたのが「ピソプラクタ」らしくて,楽譜が載っている (下の動画を参照して下さい).
「持続時間」「速度」「高さ」は独立みたいに書いてあるが,どうだろう.初めの高さと持続時間と速度を与えれば,終わりの高さは決まる.「ピソプラクタ」の楽譜では,この終わりの音の高さ = 次に続く音が出発する高さになっている.

読者としては「ピソプラクタ」の音たちが上記諸分布に従っているのだろーな,とは思うがそれ以上追求する気にはならない.上記諸分布に従うように作られたサイコロを振ること (すなわち計算を行うこと) が作曲という作業なのかと思うが,そこはなにも書いてない.
指数分布とポワソン分布は表裏一体だが,それはさておき,ポワソン分布とか正規分布とかを使うことに必然性はあるのだろうか.あるいは,特定の分布を選ぶことが作曲そのものと主張するのだろうか.

確率論の教科書にある式がぽつんぽつんと書いてはあるが,それをどう使ったのかわからない.もしこんな論文が閲読に回ってきたとしたらストレートに「掲載不可」である !! 原文も悪いのだろうが,理工系の翻訳者なら注釈を満載したところ.

ありがたがっても,誰も critical に読まない論文なんだろう.


本の楽譜にあったほとんどを上の動画で聞くことができる.音と音を結んだ直線がグリサンドすなわち速度というが,演奏では不連続音の集合に聞こえる.

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