松村 由利子「物語のはじまり―短歌でつづる日常」中央公論新社(2007/01)について,昨日の続き.
目次は「1 働く,2 食べる,3 恋する,4 ともに暮らす,5 住まう,6 産む,7 育てる,8 見る,9 老いる,10 病む・別れる」で,人生で経験することの順番になっているらしい.6,7は経験がないので,そんなものかなと思う程度.8でちょっと寄り道するが,9,10 は重苦しく,また自分には切実に感じられる.
この辺りに取り上げられた歌を拾ってみると,
とげとげしき心おとろへてわが妻と親しみゆくもあはれなりけり 斎藤茂吉
確かに,喧嘩をするエネルギーもなくなったと感じるこの頃である.「あはれ」をどう解釈するか,寂しいと感じるか,趣があると感じるかは,人それぞれと著者は言う.
犬飼はむ小鳥飼はむといふ母にまづすぎてゆく犬飼ふ齢 米川千嘉子
齢は「よはひ」と読む.「犬の寿命は 14,5歳.母が元気に散歩に連れて出かけられるのは,あと何年だろう...」と解説されているが,自分と J 子にとっては現実問題である.
最後は子どもを失うことで締めくくられる.
死んだ子を産まねばならぬ私は陣痛促進のため廊下を歩く 荒井直子
「妊娠 12 週以降に胎児が死亡した場合は死産とされるが,陣痛を起こさせて子宮から胎児を出すプロセスは通常の分娩と同じ」なのだそうだ.
この本が生きたのは歌の取捨選択が適切だったからだろう.
著者は毎日新聞科学環境部の記者という経歴があり,「31文字のなかの科学」NTT出版 (2009/6)という著書もあるようだ.
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