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Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

四方田犬彦「先生とわたし」

2010-07-17 09:09:25 | 読書
新潮文庫 (2010/07).
四方田犬彦による師・由良君美の評伝.

じつは,由良君美という名前は聞いたことがなかったし,四方田犬彦は変わった名前だなぁと思ったことがある程度.

にもかかわらず
「幸福だった師弟関係は、なぜ悲劇におわったのか。伝説の知性・由良君美との出会いと別れ。恩師への思い溢れる長篇評論。」
という帯の惹句に惹かれて買ってしまった.文科系の「師弟関係」なるものに漠然とあこがれていたせいかもしれない.

意外におもしろく読めた.理工系の学生だった者から見れば,登場人物は東大駒場の語学の先生・院生たちである.何人か聞き覚えのある名前も出て来る.当時 高校・予備校から入ったばかりの新入生たちは,受験参考書を書いている先生・イコール・偉い先生と思っていた.あさはかであった.

帯の「なぜ悲劇におわったのか」...それは,先生がアル中になって,自分を越えた生徒に焼きもちを焼くようになったから,と言ってしまえばみもふたもない.そこをもっともらしく,一般論に昇華するところがうまい.

第1章 メフィストフェレス,第2章 ファウスト... 等と気取ったタイトルに混ざって「間奏曲」というナンバーのない章があり,ここが一般論.ここで例に挙げられる師弟関係は,皮肉なことにたいてい由良・四方田関係よりスケールが大きい.
この本そのものののタイトルは,漱石の「こころ」を意識したものと思うが,「こころ」の先生は自殺によって師弟関係を一方的に断ち切っているのだそうだ.
ただし由良-四方田を含め,ここに登場する師弟関係はどれもロマンチックだ.スタイナー (残念ながらこの名前もこの本が初耳) によれば,師弟関係は科学主義・フェミニズム・大衆民主主義のために,変容せざるを得ない.しかし人間の知的欲求があるかぎり,師弟関係は存続するのだそうだ.

「師とは過ちを犯しやすいものである」というスタイナーの言葉は,この本のような高級な「師」ばかりでなく,小学校の先生・音楽教室の先生・予備校の先生... どんな先生にもあてはまるだろう.ただし「師とは過ちを犯すものである」と言い切ったほうが,身にシミル.

青山 光二「われらが風狂の師」新潮文庫(1987) を読み返したくなった.あれは小説だけあって,なかなか痛快だったという記憶.

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