
「久生十蘭従軍日記」講談社 (2007/10).翻刻 小林真二,解説 橋本 治.
古本まつりで買った本.
Wikipedia には,久生十蘭 1902-1957 について「推理小説,歴史・時代小説,ユーモア小説,現代小説,ノンフィクションなど多彩な作品を手掛け,博識と技巧的な文体で「多面体作家」「小説の魔術師」と呼ばれた」とある.1960 年代末,学生運動家の間で人気だった.彼のファンをジュウラニアンと言うのだそうだ.
筆名の久生十蘭はシャルル・デュランのもじりとも,「久しく生きとらん・食うとらん」の意とも言われている.
中井英夫は全集の解説中で「久生は随筆・身辺雑記のたぐいはほんの断片的なものしか残さず,自分の作り出した作品世界の向こう側に身を潜めて,めったに素顔らしいものを見せたことがない」と言っている.その久生が,他人には見せないと言う前提で書いた日記だが (であるがゆえに ?),とても面白い.いま 図書館で借りてきた本を差し置いて読んでいるところ.
日記は 1943 (昭和18) 年 2 月 24 日から 9 月 9 日まで.この後 11 月末に留守宅に行方不明の電報が入ったが,翌年 1 月に無事が判明し,2 月に帰国した.
日記原本は全部で3冊あり,未亡人が2冊目の途中まで清書していたのも発見された.この清書がなければ「翻刻」は不可能だっただろう.活字化に際し,反復・冗長・瑣末な部分を整理した結果,8割程度の抄録となっているそうだ.フランス語単語がときにかたまって現れ,注釈がありがたい.
久生が行方不明になった経緯などが日記に残っていればいいのだが,そうはいかない.
この本は全8章だが,とくに最初の第1章 2/24 - 4/22 は爪哇 (ジャワ) で酒を飲み 麻雀して 買い物して 買春して 月給をもらっている.こんな飲む打つ買うの日々を送ったことがないので,興味津々.
でも買春部分を未亡人が清書するなどは 久生には想定外だろう.結婚はこの従軍の1年前で,年齢差は約 20 歳であった.トップ画像右は本書より,独身時代のふたり.
この項 続きます.
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます