ルーシー・ウッド,木下淳子 訳「潜水鐘に乗って」東京創元社(2023/12)
出版社の紹介
*****サマセット・モーム賞受賞作, ホリヤー・アン・ゴフ賞受賞作.
48年ぶりに夫と再会するため、旧式の潜水鐘で海にはいっていく老婦人(表題作)、身体が石になる予兆を感じた女性が過ごす最後の一日(石の乙女たち)、やがて巨人になる少年と、人間の少女のなにげない日常のひととき(巨人の墓場)、数百年を生き、語るべき話を失いながらも再び物語を紡ごうとする語り部(語り部(ドロール・テラー)の物語)……
妖精、巨人、精霊、願い事をかなえる木、魔犬……さまざまな伝説や伝承がいまなお息づく現代の英国コーンウォール地方を舞台に、現実と幻が交錯する日々をあるがまま受け入れ、つつましく暮らす人々の姿を、新鋭ルーシー・ウッドが繊細かつ瑞々しい筆致で描く12編を収録した短編集。*****
妖精、巨人、精霊、願い事をかなえる木、魔犬……さまざまな伝説や伝承がいまなお息づく現代の英国コーンウォール地方を舞台に、現実と幻が交錯する日々をあるがまま受け入れ、つつましく暮らす人々の姿を、新鋭ルーシー・ウッドが繊細かつ瑞々しい筆致で描く12編を収録した短編集。*****
訳者はこの本の原著をペーパーバックの表紙 (画像右) に惹かれて「ジャケ買い」したとのことだが,ぼくは訳本の表紙 (装画 松倉香子 : 画像右) に惹かれて図書館で「ジャケ借り」したのだった.
著者は伝承や伝説を再構築し,生まれ変わらせて新しい物語を創ることを目論んだという.伝承や伝説が作品にナマで登場する場合,主人公も周囲も登場人物は皆,これを信じ,受け入れる.しかし彼らを取り巻く環境は現代社会であって,仕事も学校も普通に存在する.このギャップがおもしろい.この状態で「巨人の墓場」の少年少女がもたらす感傷が甘酸っぱい.
「精霊たちの家」には精霊たちが一人称で登場する.しかし「願いがかなう木」の「木」は単に物理的に存在するだけで,ストーリーにどう関係するかは,読者が判断しなければならない.「魔犬」でぼくが期待したのはバスカヴィル家の犬の祖?だったが,この作品に登場するのは犬の雰囲気だけ.実際は床屋の父娘が深夜に流星群を見に行く話だが,悪くない!
「魔犬」は父娘だが,「願いがかなう木」「緑のこびと」は母娘,「浜辺にて」は祖母と孫(男の子).こうした関係がしばしばテーマになっているが,ぼくのベストは老人ホームの受付係の目線で,変身する入居者を描いた「ミセス・テイボリ」.
一冊購入して我が書架に置きたいところだが,過去の経験から おそらく手に取ることはないだろう.やめておこう.