ジャック・ティボー, 粟津 則雄 訳,白水社(1987).
複数の訳者により出版され,この粟津訳も少なくとも3回は出版されたが,現在は絶版.
ティボーは 1880 年生まれ.1953 年,3度目の来日途中,飛行機がアルプス山脈に衝突し愛用のストラディヴァリとともに消えた.
この前後のバイオリニストでは,クライスラー 1875-1962,ハイフェッツ 1890-1953 など.
コルトー,カザルスとのトリオが有名.
少数ながら熱烈なファンがいると承知しているが,僕個人にはとくに思い入れはない.
さてこの本は,自伝というより,よく言えばメルヘン,悪く言えば,ぼくのバイオリンを聴いていじわるばあさんが良い人になった...という類のほら話集である.イザイ,エドワール・コロンヌ,リヨテ (リヨティ) 元帥などが登場するが,みなティボーの引き立て役.
しかし典雅な文章で,読んでいて嫌味は感じない.
著者が何歳のとき,どのような背景で著したという情報がないのが不満.
モロッコの古城のテラスで,フォーレの子守歌を弾くと,「城壁の下に数千の目がきらきら光っているのが見えた,この谷間の遠くの方から駆けつけてきたハイエナや金狼が,わたしの演奏の魔力で金しばりになったようにじっと動かなかった」という場面がある.
それに続く,動物園でいろいろな動物がバイオリンに対してどう反応するか,実験するくだりが面白かった.
堀江 敏幸「音の糸」に出てきたので興味を持ち,82 円の古書をアマゾンで購入.カバーの背側が日焼けで退色していた.
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