Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

こきおろしの快感「文章読本さん江 」

2008-01-03 14:51:46 | 読書
斎藤美奈子「文章読本さん江 」ちくま文庫 (2007/12)

文章読本という,文章の書き方をテーマとするジャンル本を手当たり次第こき下ろした本.読むだけで痛快だから,書く方はもっと痛快だろう.文章読本の御三家は谷崎潤一郎・三島由紀夫・清水幾太郎によるもの,新御三家は本田勝一・丸谷才一・井上ひさしによるものだそうだが,その他にも山ほど出版されているらしい.


こきおろしは,まず分類し箇条書きに整理・分析することから始まる.分類例を挙げると

新文章読本発生のメカニズムには,自慢(すでにある本で自分と同じ意見に出会う)・反発(自分と反対意見がカチンと来る)・伝道(すでにある本に自分の知らないことが書いてあると宣伝したくなる)・発奮(すでにある本には自分の意見が書いてない)の4つである,とか.

文章には伝達を目的とする実用型と,表現を目的とする芸術型がある,とか.

劇場型の文章(印刷される文章)と,非劇場型の文章(個人的な文章),とか.

多くの読本の著者の頭の中には,上等な文と下等な文がピラミッドをなしていて,上から,文学作品・書名入りの新聞記事・無署名の新聞記事・素人の作文である,とか.


こきおろしは痛快だが,著者はそれだけでは本として物足りないと思ったらしい.後半は作文教育とか,明治以降の文体そのものの歴史とかに当てられる.この部分は労作だがやや退屈.

この本がハードカバーで出たのは2002年だそうだが,その後のメールとネットの普及で大いに状況は変わっている.
これについては著者自身の「追記」があるが,お茶を濁した程度.また,「解説にかえて」では,この本で俎上にのせられた文章読本の類の著者を含む四人,高橋源一郎・山崎浩一・石原千秋・中条省平が出版当時新聞雑誌に書いた文章が採録されている.とくに本を書いた人は,いまいましいが,むきになるのもおとなげないという口調.
こうした点は文庫本の強みだ.

私自身は,文章読本というものは読んだことがない.そういう私がこんな本を読んでしまうなんて.
コメント (2)
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