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臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

「脳死」は人の死ではありません。「脳死」からの臓器摘出に反対します。臓器移植以外の医療の研究・確立を求めます。

声明「脳死臓器提供に伴う、重症患者の救命打ち切りに反対します」

2023-09-29 13:10:30 | 声明・要望・質問・申し入れ

2023年9月29日

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

 

脳死臓器提供に伴う、重症患者の救命打ち切りに反対します

 

 私たちは、「『脳死』は人の死ではない。『脳死』からの臓器摘出に反対。臓器移植以外の医療の研究・確立を求める。」という理念のもとで運動を行ってきました。「脳死」という概念は、移植用臓器の獲得のために人間の死の基準を前倒しすることで生み出されました。現在、法的脳死判定以前に患者を臓器摘出対象とみなし、救命医療の早期打ち切りを招く動きが進行しています。私たちは、人間の死の前倒しをさらに進めようとするこれらの動きに対して、強い危機感を表明します。

 

 

  • 「脳死」と判定されたら人の死とする根拠は失われています。

 現在、「脳死状態では、人工呼吸器をつけていても数日以内に心停止に到る」とされています。しかし、「脳死状態」とされた患者の実態は多様であり、数か月や年単位で生存しつづける「脳死」者もいます。「脳死」と判定されて臓器を摘出されそうになった患者が回復し社会復帰した例もあります。こうした報告例から、「脳死」と判定された人を死者とすることに反対します。

 

  • 移植用「脳死」者を増やすための方策に反対します。

 厚生労働省は、臓器移植件数を増やすため、重症患者を臓器提供の経験豊富な施設に効率的に搬送する制度を整えようとしています。また、10分間あるいは20分間という長時間の心停止後の蘇生・社会復帰例が報告されているにも関わらず、心停止後5分という短時間で移植のための臓器管理に移行して摘出してしまうことが、検討されています。さらには、救命すべき重症患者に対して、脳機能の維持回復とは真逆の臓器保存術を行うことが公然と推し進められています。

 

  • 臓器移植に頼らない医療の開発と普及を求めます。

 腎臓移植を希望している慢性腎不全患者は、透析療法を受けています。透析療法で20年以上生存している患者は慢性透析患者約35万人のうち8.6%に達し、最長透析歴は52年8カ月です(2021年末)。透析時間の延長や透析の回数を増やせば生存期間の延長やQOLの向上につながり、夜間透析、在宅透析を普及させれば患者の生活上の負担を減らせるでしょう。

 心臓移植待機患者の1~2割は、内科的外科的治療で移植が不要になっています。補助循環装置の台数増加、植込型補助人工心臓の普及や合併症の減少を目指す研究開発で、生存期間延長やQOL向上が望めます。

 肝臓についても同様で、様々な薬物療法により肝臓移植の適応患者が減少しています。急性肝不全でも1割以上が肝補助療法などの治療で回復しています。

 日常生活の改善により各種の病気を予防し、全般的な医療の発展で発症しても重症化する患者を減らし、重症化しても内科的外科的治療法で対処することを続ければ、臓器移植が必要とされる患者は減らせるでしょう。移植に頼らない医療の研究開発・推進こそが、他人の臓器を必要としない、真の医療の発展につながるものと考えます。

 私たちは、根本的な危険性を孕む脳死臓器移植を、医療として推進することに対して強く抗議し、脳不全患者を含む全ての重症患者の尊厳を守り、いのちを大切にする医療を求めます。


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死後の臓器提供の現実について市民に正確な情報提供を行うとともに、「脳死が疑われる患者数を医療機関から報告させる新制度」の撤回を!

2023-06-30 13:41:30 | 声明・要望・質問・申し入れ

2023年6月29日

     厚生労働大臣 加藤勝信様

 

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

 

死後の臓器提供の現実について市民に正確な情報提供を行うとともに、「脳死が疑われる患者数を医療機関から報告させる新制度」の撤回を!

 

 報道によると、厚生労働省は7月から、脳死が強く疑われる患者の毎月の人数を医療機関から日本臓器移植ネットワークに報告する新制度の試験運用を始めるとのことです。

 わたしたちは、この報道に接し、強い危機感を覚えています。この制度は、「脳死状態」と疑われる人を、これまで以上に臓器提供源として、取り扱っていく方向を進め、重症脳不全患者の救命をおろそかにする状況を作り出していくのではないかと危惧するからです。

 臓器移植法は、「脳死」が「人の死」であるのは臓器提供・移植にかかわる場面だけに限定しています。にもかかわらず、まだ「脳死判定」もされていない「脳死が強く疑われる患者」を臓器提供源としてとらえる新制度について、私たちは「人の死」の基準を拡大するものであり、いのちの切り捨てを推し進めることになる、と考えます。

 他人の臓器を医療資源とする特殊な医療である臓器移植は、臓器提供者の任意性や医療の透明性が強く求められます。患者(意識不明患者の場合は患者家族)への十分な情報提供、その理解と承諾を得ることは医療倫理の基本です。しかし、現実には、家族への説明が正確でなかったり、臓器提供における現実、例えば法的脳死判定の前から臓器提供に向けた処置が行われる【1】、臓器摘出時に麻酔をかけることもあるなどが隠されている実態【2】があります。
 私たちは、「脳死判定」を「人の死」の基準にすることはできない、と考えます。脳死臓器提供を拒否して月単位、年単位で長期生存している人がいるからです。また、脳死が疑われる重症患者の中には命をとりとめた事例や、臓器が摘出される手術台上で脳死ではないことが発覚した事例、さらに社会復帰して結婚し子をなした事例があるなども周知の事実【2】となっています。このように「脳死判定」を「人の死」の基準にすることが不適切であり、しかも脳死疑い・判定の誤りが莫大にあることを知りながら、人々は今後も死後の臓器提供を支持しつづけるのでしょうか?

 こうした現状を受けとめ、改善することもなく、ひたすら臓器提供を拡大せんとする為の新制度は、直ちに中止すべきです。わたしたちは、厚生労働省に対して、今回の新制度を撤回することを求めます。臓器提供に関する正確な情報提供を行い、臓器移植に頼らない医療の研究・開発を推進することを求めます。

 

 

〈今回の抗議要請書の補足事項〉

 

◆日本骨髄バンクが数万例に1例のドナーが死亡する危険性を事前に告知しているが、日本臓器移植ネットワークは数十例に1例の脳死疑いの誤り、臓器摘出時の麻酔投与も隠蔽している。

〇日本赤十字社は「献血の同意説明書」のPDFファイルを同社サイト内で公開しており、献血に伴う副作用等について頻繁に発生する「気分不良、吐き気、めまい、失神などが0.7%(約1/140人)」を、さらに、滅多に発生しない「失神に伴う転倒が0.008%(1/12,500人)」も書いている。

〇日本骨髄バンクは“ドナーのためのハンドブック”のPDFファイルを同バンクサイト内で公開し、骨髄採取、麻酔に伴う合併症と重大事故を記載している。死亡例について国内骨髄バンクでは2万5千例以上の採取で死亡事故はないが、海外の骨髄採取で5例、日本国内では骨髄バンクを介さない採取で1例、計6例の死亡例があることを知らせている。

 一方で

✖日本臓器移植ネットワークは臓器提供候補患者の家族に提示する文書「ご家族の皆様にご確認いただきたいこと(以下「ご確認いただきたいこと」)」を、同ネットワークサイト内で公開していない。2022年9月発行の「臓器移植におけるドナーコーディネーション学入門(へるす出版)」に掲載された「ご確認いただきたいこと」でも、心臓死の予測を誤る確率や脳死判定を誤る確率を示していない。臓器を摘出する際に、提供者の身体に麻酔をかける場合もあることなども書かれていない。

 実際には

✖東京都内で2017年までの約22年間に、臓器移植コーディネーターが424例のドナー情報を受けて、患者家族341例に脳死後および心停止後の臓器提供について説明したが、このうち5例が植物状態に移行し臓器提供の承諾を得られず、さらに家族が臓器提供を承諾した後に1例が植物状態に移行したため臓器提供に至らなかった。【3】
 累計では6例に誤りがあり、これは70.7人に1人(424/6)の死亡予測を誤ったことになる。

✖韓国では2012年から2016年までに潜在的脳死ドナーは8120例あったが、潜在的脳死ドナー段階では1232例が脳死ではなかった。家族から脳死臓器提供の承諾を得た段階では2718例のうち33例が脳死ではなかった。2400例が臓器摘出に至ったが1例が脳死ではなかった。【4】
 累計で1267例に誤りがあり、これは6.4人に1人(8120/1267)の脳死疑いを誤ったことになる。

(注:これらの誤りは、単純な誤りではありません。脳死疑いに基づいて法的脳死判定を行う前から、臓器提供を目的とした処置を行ったことによって意図的に造られた脳死患者・意識障害患者がおり、その分は脳死と判定された症例数が膨らんでいること。一方で臓器摘出を完了した以降も脳死判定の誤りが発覚していない患者が除外されていることによる、脳死疑いを誤った症例数の過小評価も考慮しなければなりません。)

 

出典資料

【1】法的脳死判定以前から臓器提供目的で患者を管理したことを、臓器提供施設の医師が自ら報告した文献は法的脳死7例目(田中秀治:脳死の病態とドナー管理の実際、ICUとCCU、25(3)、155―160、2001)、法的脳死779例目が(横沢友樹:脳死下臓器提供におけるドナー管理の経験、岩手県立病院医学会雑誌、62(1)、11-15、2022)、このほか複数ある。

【2】同封の冊子“「脳死」って人の死 「臓器移植推進」って大丈夫”、またはブログhttps://blog.goo.ne.jp/abdnet/e/e0270e7acd27ed637468f883f0785d93 

【3】櫻井悦夫:臓器移植コーディネーター 22年の経験から、Organ Biology、25(1)、7-25、2018 https://www.jstage.jst.go.jp/article/organbio/25/1/25_7/_pdf/-char/ja

【4】Kim Mi-im:Causes of Failure during the Management Process from Identification of Brain-Dead Potential Organ Donors to Actual Donation in Korea: a 5-Year Data Analysis (2012-2016),Journal of Korean Medical Science,33(50),e326,2018 https://doi.org/10.3346/jkms.2018.33.e326


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「臓器提供を見据えた患者評価・管理と術中管理のためのマニュアル」の 撤回を求めます

2023-06-09 23:38:10 | 声明・要望・質問・申し入れ

2022年6月29日

日本救急医学会 代表理事 坂本哲也様
日本集中治療医学会 理事長 西田 修様
日本麻酔科学会 理事長 山蔭道明様
日本移植学会 理事長 江川裕人様
日本組織移植学会 理事長 木下 茂様
日本脳神経外科学会 理事長 宮本 享様
日本臓器移植ネットワーク 理事長 門田守人様

 

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

 

「臓器提供を見据えた患者評価・管理と術中管理のためのマニュアル」の撤回を求めます

 

 貴学会そして日本臓器移植ネットワークは、このほど「臓器提供を見据えた患者評価・管理と術中管理のためのマニュアル(以下では同マニュアルと記す)」を作成されました。同マニュアルは、「第1章 臓器提供を見据えた患者管理と評価」の本文冒頭p8「臓器提供の可能性がある脳死患者管理」「患者に救命・脳機能の回復のための懸命な治療が行われたにもかかわらず、結果として脳死に至る場合がある。治療チームが“救命は不可能”と考え、家族が臓器提供を希望する場合、患者本人と家族の意思を生かすため救命治療から臓器保護目的の患者管理へと移行する場合がある。しかし、患者家族が治療の結果を受け入れ終末期の方針を決定するには時間を要することが多い。患者家族の支援を行いつつ方針決定の時間を作ることも必要となる。臓器提供の方針が明確となったら、多くの臓器が提供できる様に、少しでも良い状態で移植患者につなげる様に患者管理を行う」として、臓器提供目的での各種薬剤の投与、各種検査や処置を推奨しています。

 

 

◆臓器提供を見据えた処置は、脳保護とは真逆の「臓器移植法」に反する傷害行為

 これは「臓器の移植に関する法律(以下では臓器移植法と記す)」に反することをマニュアル化したことになります。患者家族が終末期の方針を決定する前は、当然に法的脳死判定の実施を承諾していません。臓器移植法は「移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死した者の身体を含む)から摘出することができる」としていますが、脳死した者となるのは法的脳死判定が確定した時です。法的脳死が確定する以前は、医療者は患者の救命・脳機能の回復につながる治療を尽くすことが求められます。法的脳死の確定前に、移植術に使用される臓器を数的に多く、あるいは良い状態で得るための処置をすることは、救命・脳機能の回復のための治療がなされるべき患者に許される行為ではありません。同マニュアルの作成に関与した医師【注1】も「脳保護のための治療では、浸透圧利尿薬を用いて血管内容量を下げ、できるかぎり頭蓋内圧を下げるべく管理する。しかし、臓器保護のためには十分に補液し臓器血流を維持するという、補液の観点からすると真逆の管理を行うことになる」と書いており、臓器提供を見据えた患者管理が、脳機能の回復に反する管理であることは明確です。

 同マニュアルは、治療チームが“救命は不可能”と考えた時点、法的脳死判定の実施について承諾を得ていない時点を「既に結果として脳死に至っている。これ以降は臓器移植を待つ患者のための処置をしてよい」としていることになり、それは法的脳死判定手続きを形骸化・空洞化させます。救命・脳機能の回復のための治療を行うべき患者に、真逆の管理を行うことは患者に対する傷害であり、真逆の管理で法的脳死と判定される状態に至らしめるならば傷害致死罪に問われるべき行為と考えます。

 

 

◆患者家族の承諾なしに行われる臓器移植のための舞台裏

 2004年に神戸大学医学部附属病院の鶴田副院長・看護部長は次のように書いています。

 「筆者は以前勤めていた大学病院で20年前も死亡後の死体臓器移植(主に腎臓移植)にかかわっていました(集中治療室、手術室において)。もちろん“脳死による臓器移植”法のできるずっと前のことです。この時、ドナー側の治療に当たる救急医や脳外科医とレシピエント側の移植医の考え方の違いや移植の進め方に倫理的な問題を感じていました。今は現場の細かなことに直接関与はしていませんが、伝わってくる臨床現場の話のなかで“根本的に今も変わっていないなあ”と思うことがあります。(中略)脳死移植医療においては、例外はあっても、移植医にとっては実績を積んでいくことは重要であるし、一方で脳死判定を受けるドナー側は納得のいく尊厳死のプロセスをとりたいと考えます。移植医にとっては移植できる可能性があれば、脳死判定前からその準備(循環動態のコントロール等)をしていくのは常識であり、そうしなければ成功しません。数日前から情報は飛び交います。しかし表向きはプロトコールにそった移植の流れで進められます。ドナーやレシピエントの家族は、当然このような舞台裏は知る由もありません」【注2】

この指摘は、今回のマニュアルの内容が以前から行われていたことを示しています。

 

 

◆医師の見通しに間違いはないのか

 死後に臓器提供の可能性がある(ポテンシャルドナー)と見込まれながら、医師の見通しとは違って、遷延性意識障害となった症例や回復した事例もあります。

 

◎1977年2月より1978年1月まで国立佐倉療養所に報告されたポテンシャルドナーは15名、このうち35歳男性は治癒し、34歳男性は植物人間となり4ヵ月後に死亡、2歳女児は植物人間となった【注3】。

◎東京都内で2017年までの約22年間に臓器移植コーディネーターが患者家族341例に脳死後および心停止後の臓器提供について説明したが、このうち5例が植物状態に移行し臓器提供の承諾を得られず、さらに家族が臓器提供を承諾した後に1例が植物状態に移行したため臓器提供に至らなかった【注4】。

◎関西医科大学総合医療センターは2021年に「脳死ドナー管理経験と蘇生医療の進歩の中でカテコールアミン・抗利尿ホルモン使用により小児・若年者の脳不全長期生存例を経験した」と報告した【注5】。

 

 

◆医療費・介護費の不正請求や過大請求も起きる

 臓器提供目的で管理する場合は、その費用は臓器移植を受ける患者が負担すべきです。しかし、死亡宣告前から臓器提供を見据えた管理を行う場合、未だ死亡宣告もされていないため、医療費は臓器提供候補者側に請求すると見込まれます。

 また、患者・家族が臓器提供にいたらず医原性意識障害を発症させられたのなら、患者家族に医療費の負担や莫大な介護費用を不当に負わせることにもなります。

 

 

◆死亡宣告前に臓器提供を目的とする処置を行うことによる、その他の不利益

 患者家族は「臓器提供目的の患者管理」が既に行われていることは知らされていないため、患者が重篤な意識障害に陥った原因が早期の治療断念・臓器提供目的の管理だったことに気付かない。治療チームは、どの処置が患者の状態(脳死判定基準を満たす/満たさない)を左右したのかも分からなくなり、医療者の責任も曖昧になって脳蘇生医学の発展は止まるでしょう。救命・脳機能の回復のための治療を継続すべき時に、第三者(臓器移植を待機している患者)を利するための処置を行うと、このような極めて重大な結果をもたらします。脳機能を回復させる治療を尽くすべき時に、死亡宣告前に臓器提供を目的とする行為は厳禁すべきです。

 

 

◆臓器摘出時の麻酔禁止マニュアルは実態と乖離、臓器提供を減らさないための情報隠蔽

 2008年6月3日、衆議院厚生労働委員会臓器移植法改正法案審査小委員会で福嶌教偉参考人(大阪大学医学部教授・当時)は、臓器摘出時に麻酔をかけることについて次のように述べました。「実際に五十例ほどの提供の現場に私は携わって、最初のときには、麻酔科の先生が脳死の方のそういう循環管理ということをされたことがありませんので、吸入麻酔薬を使われた症例がございましたが、これは誤解を招くということで、現在では一切使っておりません」

 ところが、この発言の約3週間前に行われた法的脳死71例目では、臓器摘出時に「麻酔維持は、純酸素とレミフェンタニル0.2μ/㎏/minの持続静注投与で行なった」のです。83例目でも「(麻酔)導人はベクロニウム0.2㎎/㎏、維持はベクロニウム0.1㎎/㎏、レミフェンタニル0.05~0.3γで行った」、132例目でも「麻酔科として大きく関わったのは①HCU入室時よりの全身管理、②無呼吸テスト、③臓器摘出術の麻酔であった」と学会で発表されました。424例目と見込まれる文献は、「全身麻酔下に胸骨中ほどから下腹部まで正中切開で開腹し,肝臓の肉眼的所見は問題ないと判断した」と記載しています。「現在では一切使っておりません」というものの、実際には臓器提供者に麻酔をかけたのです。脳死ならば効かないはずのアトロピン(副交感神経遮断薬)が投与され、脳死ドナーの徐脈が治った30例目、582例目もありました【注6】。

 今回のマニュアルは第3章 臓器摘出手術中の呼吸循環管理において麻酔薬は投与しない(吸入麻酔薬も静脈麻酔薬も)」としています。「脳死ドナーから臓器を摘出する際に麻酔がかけられる場合がある、マニュアル上は禁止しているから、もしも臓器摘出時に痛がっても麻酔なしでメスを使われる可能性もある。脳死だから効かないはずの薬に実際には反応している」という現実を知ったら、ほとんどの市民は臓器提供をしなくなる、患者家族も承諾しないでしょう。このような実態を患者家族に、市民に説明しないで済むように、麻酔薬は投与しないと書いたとしか思えません。

 

 

◆市民の理解、患者家族の承諾を得られない医療は存在してはならない

 そもそも死後(脳死および心臓死後)の臓器提供を許容する法律は、市民に正しい情報を示して成立したのでしょうか。臓器摘出時に麻酔をかける、脳死なら効かないはずの薬が効いている、脳死とされても長期間生存する患者が増えてきた、臓器を摘出する手術台上で脳死ではないことが発覚した、心停止ドナーとして管理されていた患者の心臓が復活して歩いて退院した、などの実態【注6】を知られれば臓器提供を許容する法律は成立しなかったでしょう。

 臓器移植には、昔から実態を知らせない・知らせると提供者がいなくなる、という現実があります。患者の権利擁護、患者・患者家族の承諾を得ることは医療倫理の基本ですが、それが行えないならば存在させてはなりません。私たちは、今回のマニュアル撤回だけでなく、死亡宣告を前提とする臓器提供の廃止が必要と考えています。

以上

 

 

出典資料

  • 渥美生弘:臓器提供に関する地域連携、救急医学、45(10)、1270-1275、2021
  • 鶴田早苗:高度先進医療と看護、綜合看護、39(4)、47-50、2004
  • 柏原英彦:死体腎移植希望者の登録現況、日本医事新報、2835、43-45、1983
  • 櫻井悦夫:臓器移植コーディネーター 22年の経験から、Organ Biology、25(1)、7-25、2018
  • 岩瀬正顕:当施設での脳死下臓器移植への取り組み、脳死・脳蘇生、34(1)、43、2021
  • 臓器摘出時の麻酔管理例、脳死判定後の長期生存例、脳死ドナー候補者・心停止ドナー候補者への誤診例など、同封した当ネットワーク発行の冊子“「脳死」って人の死 「臓器移植推進」って大丈夫”、またはブログ
    https://blog.goo.ne.jp/abdnet/e/e0270e7acd27ed637468f883f0785d93 をお読みください。

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「いのちの教育セミナー」の廃止を求めます

2023-02-28 10:45:27 | 声明・要望・質問・申し入れ

2023年2月27日


日本教育新聞社 社長 小林幹長殿

 

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

 

「いのちの教育セミナー」の廃止を求めます

 

 私たちは、脳死判定基準を満たしたら人の死とすること、および「脳死」からの臓器摘出に反対し、臓器移植以外の医療の研究・確立を求めて活動している団体です。
 貴社におかれましては以前から日本臓器移植ネットワークとの共催で「いのちの教育セミナー」を開催されてきました。今年度も2023年3月12日に開催されます。
 私たち臓器移植法を問い直す市民ネットワークは、同セミナーの開催について貴社に2021年から要望文を郵送しブログにも掲載してきました。同セミナーにおいて「正確な情報を提供していただきたい。『脳死』または『脳死とされうる状態』と診断されても、臓器を提供せずに積極的治療を希望すれば長期間生存できる患者もいること、また脳死臓器摘出手術の開始前には臓器提供者が動かないように筋弛緩剤が投与され、臓器摘出手術が開始されると臓器提供者の血圧が急上昇して麻酔が投与されることもある、という現実を周知願います」と申し入れてきましたが、改善がみられません。
 ここで改めて貴社で開催されているセミナーの問題点を指摘します。

 人は他人と様々な交渉、取引、契約を行って毎日の生活を続けています。すべての人がすべての相手方と、対等な立場で、双方が十分な情報を知ったうえで、誠実に、交渉、取引、契約を行うことが理想的ですが、現実には、そのような事が行われないことも多数あります。教育の一つの役割としては、現実を認識する能力を養うこと、相手方と不利な交渉、取引、契約を結ばないように注意を喚起する事も重要でしょう。
 医療も、患者と医療者との契約にもとづいておこなわれるものです。医療倫理の大原則に「患者の自律・自己決定の尊重」があります。インフォームド・コンセントという言葉でも知られている通りに、医療者は患者(意識不明の場合は患者の家族)に、十分な情報を提供して説明を尽くして、患者がどのような状態か、その診断の正しさ/診断を誤る確率はどれくらいか、これからどのような治療を行うか/または行わないか、そのどちらかを選んだ場合に予想される結果、副作用などを正確に説明して、患者(意識不明の場合は患者家族)の理解、承諾を得た後に医療を行わなければなりません。


 こうした他人との契約の基本となる行為が、死後(脳死後・心停止後)の臓器提供では行われていません。主な問題点を3つ指摘します。
1,従来から「脳死と判定されたら、やがて心臓も止まる」とされてきましたが、それは治療を尽くした上での自然経過ではありません。脳死診断後に治療を縮小する施設が6割もあるなど、人為的に治療を縮小した結果と見込まれます(注1)。脳死判定と不可逆的な心停止の関係が薄弱ならば、あるいは心臓死に至る主な原因が人為的な治療縮小の結果ならば、脳死を人の死とする論拠の大部分は失われます。

2,死亡予測を誤る確率、誤診率が示されていません。韓国では脳死臓器提供の承諾を得た患者に、正式に脳死判定すると1.2%が脳死と判定されませんでした。日本臓器移植ネットワーク資料では、死後の臓器提供の承諾を得られたうち、臓器提供にいたらなかった1.2%を「その他」としています。日韓ともに同水準であり、これが死後の臓器提供において死亡予測を誤った比率と見込まれます(注2)。これほどの高率で死亡予測を誤ることを知りながら、死後の臓器提供を承諾する市民、患者家族はいるのでしょうか?

3,脳死臓器摘出手術の開始前に臓器提供者が動かないように筋弛緩剤が投与され、臓器摘出手術が開始されると臓器提供者の血圧が急上昇して麻酔が投与されることもある、という現実が説明されていません(注3)。しかし、そのような説明をすると、患者家族は死亡予測の誤診率の高さとともに考えて、大部分は臓器提供を承諾しなくなるでしょう。

 上記1~3にみられるように、死後(脳死後・心停止後)の臓器提供は、市民そして意識不明患者の家族に対して、提示すべき情報を隠してきたからこそ成り立っていたと考えられます。従って、日常的な望ましい社会生活における正常な交渉、取引、契約として成り立つものではありえないのではないでしょうか?教育者としては「このような実態を知らせること」「まともな社会的相互関係、医療としては許容されないことが、臓器提供・移植では横行している」と注意喚起することが必要と考えます。反社会的行動を許容しては教育になりません。この点を反省され、問題点を認識され、来年度以降は臓器移植医療関係者と共催するこの種のセミナーは開催されないように求めます。

 

 以下は注1,2,3について根拠とする情報です。
注1、「脳死と判定されたら、やがて心臓も止まる」の誤り
 日本臓器移植ネットワークは、死後(脳死後・心停止後)の臓器提供を検討する患者家族に提示する文書「ご家族の皆様方にご確認いただきたいこと」において「脳死とは、呼吸などを調節している脳幹という部分も含めて脳全体の機能が停止し、もとには戻らない状態をいいます。脳死になると、意識は完全に失われ、痛みや外からの刺激にも反応せず、自分の力では呼吸もできません。人工呼吸器などの助けによって、しばらくは心臓を動かし続けることもできますが、やがては心臓も止まってしまいます」としています。
 しかし、実態はそうではありません。脳死と診断されても月単位、年単位で生存する症例が多数報告されています。同封しております(昨年送付と同じ)当ネットワーク発行の小冊子“「脳死」って本当に死んでるの?「臓器移植推進」って本当に大丈夫”のp2に「成人の長期生存例・出産例」として以下の3例を掲載しています。
*ドイツのハインリッヒ・ハイネ大学病院で妊娠17週の29歳女性が脳死判定から5ヶ月後に帝王切開で出産し、その後、臓器を提供した 。
*ドイツのジュリウス・マクシミリアン大学病院で推定妊娠10週の28歳女性が脳死と判定され、推定妊娠34週で経腟分娩(自然分娩)し、翌日、臓器を提供 。
*熊本大学病院で妊娠22週の32歳女性を脳死と判定(正式な無呼吸テストは低酸素の懸念から行わなかった)、妊娠33週で経腟分娩(自然分娩)し、翌週に無呼吸テストで自発呼吸の無いことを確認した。8週間後に転院、約1年後に死亡。

 同冊子p2~p3に「家族が臓器提供を断り、長期に生存する子どもたち」として以下の4施設7例を掲載しています。
*兵庫県立尼崎総合医療センターでは脳死とされうる状態と判断された小児4例(1歳~8歳)が、2019年11月時点で3年9ヵ月、2年、1年5ヵ月、8ヵ月間生存 。
*順天堂大学医学部付属浦安病院では9歳男児が脳死とされうる状態となってから9日後に救命センターを退出、125日後に療養型病院へ転院した(2019年発表)。
*徳島赤十字病院では救急搬送された13歳女児が入院6日目に脳死とされうる状態となり、420日以上生存している(2014年発表) 。
*豊橋市民病院では14歳男児が入院16日目に脳死とされうる状態となり、5ヵ月を経過しおおむね安定し、在宅医療に向け準備中(2012年発表) 。

 同冊子p4では脳死診断後に治療を縮小する施設が61.8%であることなどを指摘しています。「脳死と判定されたら、やがて心臓も止まる」とは、脳死と判定された患者の自然経過ではなく、人為的に治療を縮小した結果と見込まれます。


2,死亡予測の誤診率が示されていません。
 同冊子p5~p6に「脳死判定の誤診例」を掲載しています。韓国では脳死臓器提供の承諾を得た患者に、正式に脳死判定すると1.2%が脳死と判定されませんでした。日本臓器移植ネットワーク資料では、臓器提供の承諾を得られたうち、臓器提供にいたらなかった1.2%を「その他」としています。日韓ともに同水準で、これが死後の臓器提供において死亡予測を誤った比率と見込まれます。(脳死診断後に治療を縮小する施設が6割もあり、実際の誤診率はより高いと見込みます)
 同冊子p8に「臓器摘出直前に脳死判定の誤りが発覚した症例」を掲載しています。また、冊子発行後に以下の報告もありました。
*生後17ヵ月の女児は国立成育医療センターで急性脳症と診断され、発症から17日目に無呼吸テストを除く臨床的脳死の診断で、日本臓器移植ネットワークのコーディネーターが家族に臓器提供の説明をしたが、家族は臓器提供を拒否した。急性脳症の発症から約5週間後に自発運動が始まり、脳幹起源の体動が認められ、医師らは家族に、患児はもはや脳死ではないと説明した。
出典=Masaya Kubota:Spontaneous and reflex movements after diagnosis of clinical brain death: A lesson from acute encephalopathy, Brain & Development,44(9),635-639,2022

 

3,脳死臓器摘出手術の開始前には臓器提供者が動かないように筋弛緩剤が投与され、臓器摘出手術が開始されると臓器提供者の血圧が急上昇して麻酔が投与されることもある、という現実が説明されていません。
 臓器摘出時に麻酔がかけられる場合があることについて、認識が無かったために臓器提供を後悔している遺族の語りを、山崎吾郎著:「臓器移植の人類学(世界思想社・2015年)」p87~p88から引用する。
「脳死っていうのは、生きているけれど生身でしょう?だから手術の時は脳死でも動くんですって。動くから麻酔を打つっていうんですよ。そういうことを考えると、そのときは知らなかったんですけども、いまでは脳死からの提供はかわいそうだと思えますね。手術の時に動くから麻酔を打つといわれたら、生きてるんじゃないかと思いますよね。それで後になってなんとむごいことをしてしまったんだろうと思いました。かわいそうなことをしたなぁ、むごいことをしたなぁと思いました。でも正直いって、何がなんだかわからなかったんですと。もうその時は忙しくて。」

 上記の遺族の後悔にみるとおり、臓器摘出時に麻酔をかける場合があるという情報は、臓器提供を承諾するか否かの判断において、極めて重要な情報です。しかし、日本臓器移植ネットワークは、死後(脳死後・心停止後)の臓器提供を検討する患者家族に提示する文書「ご家族の皆様方にご確認いただきたいこと」において、臓器摘出時に麻酔をかける可能性については記載していません。

 臓器提供施設マニュアルp32は「原則として吸入麻酔薬、麻薬は使用しない」と記載していますが、各種医学文献によると麻酔をかけない脳死臓器摘出と麻酔をかけた脳死臓器摘出の両方が報告されています。当ネットワーク発行の小冊子“「脳死」って本当に死んでるの?「臓器移植推進」って本当に大丈夫”のp15~p16に「国会で移植医が麻酔投与を否定したが、実際には麻酔をかけていること」「脳死なら効果のないアトロピンが効いたこと」も掲載しています。
 脳死臓器摘出時に、血圧が上昇し患者が動くことがあるから麻酔をかける場合もあることについて、その理由を「脳死判定は間違っていないが、脳死でも脊髄反射で血圧が上下する、体動もありうる」という説明がなされることがあります。一方で、脳死判定を誤った場合にも、麻酔なしで切開されると血圧が急上昇し、痛みで逃げようとするでしょう。
 いずれにしても、臓器提供の実態としては麻酔をかけることもありうる、という説明が必要です。

 

以上


 

以上が日本教育新聞社宛ての要望書です。以下は、このブログを閲覧される方向けの情報です。

 

・要望書のなかで記載している当ネットワーク発行の小冊子“「脳死」って本当に死んでるの?「臓器移植推進」って本当に大丈夫”は、当ブログ内https://blog.goo.ne.jp/abdnet/e/e0270e7acd27ed637468f883f0785d93からダウンロードできます。
 この小冊子より詳細な情報は、当ブログ内「臓器提供の承諾後~臓器摘出の手術中に脳死ではないことが発覚した症例、疑い例および統計 2-1https://blog.goo.ne.jp/abdnet/e/7d5631bb5539bf19afcffb53544791f5同2-2https://blog.goo.ne.jp/abdnet/e/38ecdce62949c1976b4e0f546fd14060に掲載しています。

・日本臓器移植ネットワークは、各種マニュアルを同ネットワークのWebサイト内「法令集&マニュアル」https://www.jotnw.or.jp/medical/manual/に文書名を示して掲載しています。しかし、死後(脳死後・心停止後)の臓器提供を検討する患者家族に提示する文書「ご家族の皆様方にご確認いただきたいこと」は、「法令集&マニュアル」に掲載されていません。2018年秋までは同ネットワークのサイト内で文書名を検索するとダウンロードが可能でした。しかし、2018年9月28日付の「週刊金曜日」に「『むごいことをした』と嘆く遺族 脳死臓器摘出時の麻酔禁止は、誰のため?」が掲載された後と見込まれますが、検索しても表示されなくなりました(「週刊金曜日」掲載記事は、このページの最下部に掲載)。日本臓器移植ネットワークは、臓器提供促進につながる宣伝を行う一方で、臓器提供の実態を知らせないようにしている隠蔽体質が問題です。
 日本臓器移植ネットワークが臓器提供の選択肢を提示する家族に説明する内容、インフォームド・コンセントの適切性を確保するためには、「法令集&マニュアル」に「ご家族の皆様方にご確認いただきたいこと」の文書名を示して掲載しておき、常に一般人から評価を受けることが不可欠でしょう。

 現在、一般人が閲覧可能な状態としての「ご家族の皆様方にご確認いただきたいこと」文書は、へるす出版から2022年9月30日付で発行された「臓器移植におけるドナーコーディネーション学入門https://www.herusu-shuppan.co.jp/055-2/が資149から資158に掲載しています。

 次の点線間は、全体で8ページある「ご家族の皆様方にご確認いただきたいこと」のうち、p4~p6より臓器摘出時の処置について記述した部分です。(2018年秋までダウンロードできた資料とへるす出版本の記述は同じ)。臓器摘出時に麻酔をかける場合がありうると説明する場合は、これらのページ内に記載しなければならないと見込まれますが書かれていません。ほかのページにも記載されていません。

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6.脳死判定と臓器提供について
(1)脳死と脳死判定について
 脳死とは、呼吸などを調節している脳幹という部分も含めて脳全体の機能が停止し、
もとには戻らない状態をいいます。脳死になると、意識は完全に失われ、痛みや外か
らの刺激にも反応せず、自分の力では呼吸もできません。人工呼吸器などの助けによっ
て、しばらくは心臓を動かし続けることもできますが、やがては心臓も止まってしま
います。
 この脳死を確認するために脳死判定が行われます。臓器提供を前提とした脳死判定
の方法は法律で厳格に規定されています。
 ● 深い昏睡にあること
 ● 瞳孔が固定し、一定以上開いていること
 ● 刺激に対する脳幹の反射がないこと
 ● 脳波が平坦であること
 ● 自分の力で呼吸ができないこと
 以上の項目の確認を経験が豊富で臓器移植に関係のない2人以上の医師によって行
い、さらに6時間(6歳未満の小児の場合は 24 時間)以上経過後に同じ内容の確認
をもう1度行います。
 1回の脳死判定には通常2時間程度を要します。なお、角膜等の損傷で一部の検査
が実施できない場合は、脳死判定そのものが行えなくなることもあります。
 また、脳死となった原因が不明な場合、低体温の場合、急性薬物中毒の場合、肝性
昏睡、糖尿病性昏睡など代謝性疾患、内分泌性疾患などの場合は、脳死判定が行えま
せん。
 脳死判定終了後、ご家族に結果をお知らせいたします。また、脳死判定にご家族が
立ち会うこともできます。ご希望される方はお申し出ください。
 臓器提供を前提に法律で定められた脳死判定により脳死と判定された場合には法律
上死亡となり、2回目の脳死判定の終了時刻が死亡時刻となります。
 臓器提供を前提とした脳死判定が終了した後、臓器提供の承諾を撤回された場合や
下記8. などの理由で臓器提供ができなくなった場合においても、死亡時刻の変更は
できません。
(2)臓器摘出の手術について
 ご家族の皆様とは臓器の摘出手術がはじまる前に病室でお別れをしていただきます。
お別れに際し、ご希望がありましたらお申し出ください。手術開始の時刻は関係者と
の調整が必要となりますので、手術の開始時刻が決まりましたらお伝えします。
 臓器の摘出手術は手術室で専門の医師が行います。手術のための創(あと)は胸か
ら下腹部までになりますが、手術後にはきれいに縫合し、ガーゼやテープで覆い、創
(あと)が直接目にふれないようにいたします。
 眼球提供後は、義眼を用い、まぶたを閉じた状況となります。
 各臓器の摘出に際しては、その臓器に付随する周囲組織(血管 ・ 尿管 ・ リンパ節 ・
脾臓など〔P. 8資料参照〕)の摘出が必要となります。
 手術に要する時間はご提供いただく臓器によって異なりますが、4~5時間程度です。
手術開始からご家族の皆様のもとに、お身体がお帰りになるまでの時間としては、5~6
時間程度が見込まれます。組織の摘出がある場合には、さらに時間が必要となります。

7.心臓が停止した死後の臓器提供について
(1)心臓が停止する前の処置(カテーテルの挿入とヘパリンの注入)について
 下記の処置は、脳死状態と診断された後、ご家族の承諾をいただいた上で行います。
①カテーテルの挿入
 心臓が停止した死後、腎臓に血液が流れない状態が続くと腎臓の機能は急激に悪
化し、ご提供いただいても、移植ができなくなる場合があります。
 そこで、心臓が停止する時期が近いと思われる時点で、カテーテル(医療用の管)
を入れさせていただきます。心臓が停止する前に大腿動脈及び静脈(足のつけねの
動脈と静脈)にカテーテルを留置し、心臓が停止した死後すぐにこのカテーテルか
ら薬液を注入し、腎臓を内部から冷やすことにより、その機能を保護することが可
能となります。なお、この処置を行う時期については、主治医、摘出を行う医師、コー
ディネーター間で判断し、ご家族にお伝えした後に行います。処置に要する時間は
通常1時間半程度です。なお、カテーテルの留置が長期間に及ぶ場合は、足の血流
が悪化するため、足の色が変化する場合があります。
②ヘパリンの注入
 心臓が停止し、血液の流れが止まってしまうと腎臓の中で血液が固まってしまい、
移植ができなくなる場合があります。そのため、心臓が停止する直前にヘパリンと
いう薬剤を注入して血液が固まることを防ぎます。ヘパリンの使用により血液が固
まりにくくなりますので、出血した場合に血液が止まりにくくなることがあります。
 上記の処置を行うことについて、医学的に困難な場合やご家族の承諾をいただくこ
とが困難な場合は、心臓が停止した死後すぐに、ヘパリンを注入し、心臓マッサージ
を施しながら手術室へ急ぎ摘出手術をさせていただきます。この場合は、お別れをす
る時間が短くなります。
(2)臓器の摘出手術について
 腎臓の摘出手術は、心臓が停止して死亡確認がなされた後に、手術室で専門の医師
が行いますので、ご家族の皆様とは手術前にお別れをしていただくことになります。
手術のための創(あと)が腹部につきますが、手術後にきれいに縫合し、ガーゼやテー
プなどで覆い、創(あと)が直接目にふれないようにいたします。手術後にはお身体
をきれいにし、ご家族にお会いいただくまでおよそ3時間を要します。摘出に際して
は、腎臓に付随する周囲組織(血管・尿管など〔P. 8資料参照〕)の摘出が必要とな
ります。
 眼球提供後は、義眼を用い、まぶたを閉じた状況となります。
 他の組織の摘出がある場合にはさらに時間が必要となります。
(3)膵臓の提供について
 膵臓の提供は、上記(1)の処置を行った上に、心臓が停止する直前に低血圧が持
続しないなど一定の厳しい条件を満たす必要があります。

 


 

 以上で「ご家族の皆様方にご確認いただきたいこと」の部分転載を終わり、以下は「週刊金曜日」2018年9月28日(№1202)号p48~p49に掲載された「『むごいことをした』と嘆く遺族 脳死臓器摘出時の麻酔禁止は、誰のため?」です。「週刊金曜日」より転載許可を得て掲載しています。(週刊金曜日の代表電話番号は03-5846-9001)

 

 

 

 

 

 

 


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「いのちの教育セミナー2021」において正しい説明・情報提供を求める申し入れ

2022-01-15 14:33:41 | 声明・要望・質問・申し入れ

2022年1月12日

 


日本臓器移植ネットワーク 理事長  門田守人殿
日本教育新聞社 社長 小林幹長殿

 

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

 

 

「いのちの教育セミナー」において正しい説明・情報提供を求める申し入れ

 

 

 私たちは、脳死判定基準を満たしたら人の死とすること、および「脳死」からの臓器摘出に反対し、臓器移植以外の医療の研究・確立を求めて活動している団体です。
「いのちの教育セミナー2021」が2022年1月29日に開催されます。同セミナーの「開催のご案内」によると“臓器移植を題材とした「いのちの教育」の実践などを通して、子どもたちが生きる上での多様な価値観を育み、自己の生き方を深めていく教育の在り方について提案し、考えを深めていただきます”とのこと、しかも一般も参加できるセミナーとのことで、正確な情報を提供していただくよう、とりわけ以下の3項目は特に留意して取り入れて下さいますよう申し入れます。

 


1,「移植用臓器を1個でも多く確保したい・斡旋したい」との偏った価値観を排し、人々が正確な知識を持つために正しい情報を提供することを求めます。

2,「脳死」または「脳死とされうる状態」と診断されても、臓器を提供せずに積極的治療を希望すれば長期間生存できる患者もいることについて周知願います。

 これまで「脳死は人の死」とする見解で根拠となっていたことは、「脳死と判定されたら数日以内に必ず心停止に至る」という、おおむね1970年代頃までの傾向でした。しかし、現代の脳不全患者の実態はそのようなものではありません。脳死と診断されても月単位、年単位で生存する症例が多数報告されています。教育の場において、時代遅れの間違った情報で教育を行うのは厳に禁止すべきことです。間違った情報で教育すると子供たち、その親からの信頼を無くすだけでなく、救命医療を早期に断念させることによって救えたかもしれない子供の命を失わせる恐れを高めます。人々の現実を認識する能力を高めるのではなく、「重症に陥ったら死ぬしかない。臓器を提供して死んだ方に意味がある」という価値観に誘導するのであれば、いのちを軽々しく扱う誤った洗脳教育です。


3,脳死臓器摘出手術の開始前には臓器提供者が動かないように筋弛緩剤が投与され、臓器摘出手術が開始されると臓器提供者の血圧が急上昇して麻酔が投与されることもある、という現実を周知願います。

 臓器摘出時に麻酔がかけられる場合があることについて、認識が無かったために臓器提供を後悔している遺族の語りを【注1】から引用する。
「脳死っていうのは、生きているけれど生身でしょう?だから手術の時は脳死でも動くんですって。動くから麻酔を打つっていうんですよ。そういうことを考えると、そのときは知らなかったんですけども、いまでは脳死からの提供はかわいそうだと思えますね。手術の時に動くから麻酔を打つといわれたら、生きてるんじゃないかと思いますよね。それで後になってなんとむごいことをしてしまったんだろうと思いました。かわいそうなことをしたなぁ、むごいことをしたなぁと思いました。でも正直いって、何がなんだかわからなかったんです。もうその時は忙しくて。」
【注1】山崎吾郎:「臓器移植の人類学(世界思想社)」、87-88、2015
 上記の遺族の後悔にみるとおり、臓器摘出時に麻酔をかける場合があるという情報は、臓器提供を承諾するか否かの判断において、極めて重要な情報である。臓器斡旋業者そして移植医としては「詳しく説明すると臓器提供者が激減するだろう」という恐れを持つとしても、臓器提供候補者の家族に対して誠実に説明して承諾を得るために説明する義務があると考えます。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


以下は根拠となる情報の概要です。

2の「臓器を提供せずに積極的治療を希望すれば長期間生存できる患者もいること」について

 同封しております当ネットワーク発行の小冊子“「脳死」って本当に死んでるの?「臓器移植推進」って本当に大丈夫?”のp2に「成人の長期生存例・出産例」として以下の3例を掲載しています。
*ドイツのハインリッヒ・ハイネ大学病院で妊娠17週の29歳女性が脳死判定から5ヶ月後に帝王切開で出産し、その後、臓器を提供した 。
*ドイツのジュリウス・マクシミリアン大学病院で推定妊娠10週の28歳女性が脳死と判定され、推定妊娠34週で経腟分娩(自然分娩)し、翌日、臓器を提供 。
*熊本大学病院で妊娠22週の32歳女性を脳死と判定(正式な無呼吸テストは低酸素の懸念から行わなかった)、妊娠33週で経腟分娩(自然分娩)し、翌週に無呼吸テストで自発呼吸の無いことを確認した。8週間後に転院、約1年後に死亡。

 

 当ネットワーク発行の小冊子“「脳死」って本当に死んでるの?「臓器移植推進」って本当に大丈夫?”のp2~p3に「家族が臓器提供を断り、長期に生存する子どもたち」として以下の4施設7例の報告を掲載しています。
*兵庫県立尼崎総合医療センターでは脳死とされうる状態と判断された小児4例(1歳~8歳)が、2019年11月時点で3年9ヵ月、2年、1年5ヵ月、8ヵ月間生存 。
*順天堂大学医学部付属浦安病院では9歳男児が脳死とされうる状態となってから9日後に救命センターを退出、125日後に療養型病院へ転院した(2019年発表)。
*徳島赤十字病院では救急搬送された13歳女児が入院6日目に脳死とされうる状態となり、420日以上生存している(2014年発表) 。
*豊橋市民病院では14歳男児が入院16日目に脳死とされうる状態となり、5ヵ月を経過しおおむね安定し、在宅医療に向け準備中(2012年発表) 。

 

脳死判定の誤診例
 当ネットワーク発行の小冊子“「脳死」って本当に死んでるの?「臓器移植推進」って本当に大丈夫?”のp5~p6に「脳死臓器提供の手続きが進められていた中で、脳死ではないことが判った症例があります。報告された論文からその割合は1~5%と見込まれます」としてイラン、東京都、韓国、アメリカの文献を掲載しています。小冊子p8には「臓器摘出直前に脳死判定の誤りが発覚した症例」を掲載。また、小冊子発行後に以下の報告もありました。
*島田療育センターでは17カ月女児に臨床的脳死と診断し、第17病日に日本臓器移植ネットワークのコーディネーターが臓器提供について説明したが、家族は臓器提供を拒否した。発症から約5週間後に、脊髄反射だけでなく脳幹が関与する自発的な体動きが現れた。
出典:Kubota Masaya :Spontaneous movements after diagnosis of clinical brain death: a lesson from acute encephalopathy,脳と発達,53(Suppl),S207,2021

 


3の「脳死臓器摘出手術の開始前には臓器提供者が動かないように筋弛緩剤が投与され、臓器摘出手術が開始されると臓器提供者の血圧が急上昇して麻酔が投与されることもあること」について
 2018年の9月頃まで、日本臓器移植ネットワークのホームページから「臓器提供についてご家族の皆様方に ご確認いただきたいこと」という説明文書をダウンロードできましたが、現在はダウンロード不可能になっています(ダウンロード可能な時もファイル名をHP上に表示しておらず、サイト内を検索して探すしかない状態だった)。非公開扱いされる前に、当方で保存した説明文書には、臓器摘出時に麻酔をかける可能性については記載していません。
 厚労省や日本医師会は、「診療情報の提供に関する指針」を公表しており、「医療従事者は、原則として、診療中の患者に対して、次に掲げる事項等について丁寧に説明しなければならない」とし、このなかに「処方する薬剤について、薬剤名、服用方法、効能及び特に注意を要する副作用」「手術や侵襲的な検査を行う場合には、その概要、危険性、実施しない場合の危険性及び合併症の有無」他を例示しています。
 医療は患者、家族への丁寧、正確な説明が前提であるにもかかわらず、日本臓器移植ネットワークは逆に「実態を知られると臓器提供が激減するから」との利己的な動機で広報活動を継続しているのは重大な問題です。
 当ネットワーク発行の小冊子“「脳死」って本当に死んでるの?「臓器移植推進」って本当に大丈夫?”のp15~p16に「国会で移植医が麻酔投与を否定したが、実際には麻酔をかけていること」「脳死なら効果のないアトロピンが効いたこと」を掲載しています。

 

 

以上


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