臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

「脳死」は人の死ではありません。「脳死」からの臓器摘出に反対します。臓器移植以外の医療の研究・確立を求めます。

小児脳死判定基準案に関する「声明」と「反論」の送付について

2010-04-29 21:30:43 | 声明・要望・質問・申し入れ

2010年4月27日

 厚生労働大臣         長妻 昭殿
 厚生労働省健康局局長   上田博三殿同 
 臓器移植対策室 室長 辺見 聡殿                                  

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

小児脳死判定基準案に関する「声明」と「反論」の送付について

 

 首題の件、臓器移植法を問い直す市民ネットワーク構成団体で協議し、提出いたします。厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会の委員の皆さまや小児の脳死判定及び臓器提供等に関する調査研究班(研究代表者 貫井英明山梨大学名誉教授)の皆さまにもお伝えくださるよう、お願いいたします。 なお、この「声明」と「反論」は小児科学会の方にも読んでいただきたく、小児科学会会長と子どもの脳死臓器移植プロジェクト委員会委員長あてにもお送りいたしました。
  また、先日行われました第33回臓器移植委員会では、相川厚委員が「昨年マスコミで報道された“長期脳死”の子は人工呼吸器もつけていない子供だった」という発言をされました。「臨床的に脳死」と診断され、長期に生存している子どもで人工呼吸器をつけないで生活できる子供はいません。こういった誤った見解に基づく議論はやめていただきたいと思います。厚労省の方も、十数人いる委員の先生方も、誰もその間違いを正す方がいませんでした。審議会で事実に基かない議論が行われ、導かれる結論とは如何なるものでしょうか?審議会で訂正をしていただきたいと思います。 以下の2点を送付いたしますので、よろしくお願い申し上げます。

公表された小児脳死判定基準案(原案)に関する当会の声明

小児脳死判定基準案についての当会の反論

 

以上


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公表された小児脳死判定基準案(原案)に関する声明

2010-04-29 21:00:44 | 声明・要望・質問・申し入れ

2010年4月23日

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

公表された小児脳死判定基準案(原案)に関する声明

 

 4月5日小児の脳死判定及び臓器提供等に関する調査研究班(研究代表者、貫井英明山梨大学名誉教授)は小児脳死判定基準案(原案)を、第32回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会に報告し公表しました。
 私たち、臓器移植法を問い直す市民ネットワークは、この脳死判定基準案に疑問と怒りを禁じえません。私たちが昨年12月22日に行った、厚生労働大臣への申し入れ(「改定臓器移植法に関する申し入れ」)で示した質問にも、「脳死判定基準を満たしたら脳死であり、その状態を人の死としてよいのか」という根本的な命題にも触れず、「脳死判定後の人工呼吸器の離脱や意識の回復はない。脳死状態が持続したあと心停止する。従って問題はない」とし、さらに“長期脳死”の子供を脳死判定の対象とするかどうかを親に委ねるべきとしています。
 私たちはこのような調査研究の内容に関して以下の理由から強く抗議するものです。
①実際には長期にわたって生存する「長期脳死」児を死んだものとして捨て去ることになる。
②専門家でも判断が難しい「長期脳死」児の位置づけについて、適切な情報も与えないままに親にその判断をさせること。(「長期脳死」児は生きているとする我々の考えでは、親に子供を殺す判断をさせるべく追い込んでいるものと強く非難したい)
③いずれ心停止することは誰にでもあることであり、人工呼吸器からの離脱がないこと、意識が回復しなければ死んだものとしてもよいという言説は、脳死状態ではない、他の患者、障害者に対する生存権をも脅かす考え方であること。
④従来から様々な方向から疑問視されている脳死判定基準に対する見直しが一切されておらず、小児の判定基準も何の科学的根拠もなく、ただ判定の間隔を広く取っただけですまそうとしていること。
 家族と共に生活している子どもを親の承諾で脳死判定し死亡宣告するという流れを作ることが研究班に託された仕事ではありません。「脳全体の不可逆的機能停止=人の死」であることを証明し確定する医学的検査方法の明示が研究班に求められていたはずです。
 仙台往診クリニックの川島孝一郎医師は「日本は“治す医療”にはたけているが、重症で治らない人を“支える医療”の観点が欠けている」と指摘し、脳死の状態を「今世界が存在させていることを認め」その支援策を提示するべきと講演されました。 回復しない命を家族の承諾で死なせるのではなく、最後まで生きた結果死が訪れる、それを支え、どんな命も平等に大切にされる、私たちはそんな社会のあり方を願います。 私たちは今回の研究班が示した脳死判定基準案は「家族の承諾による尊厳死・移植」への流れであり、とても受け入れることはできません。撤回することを求めます。


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小児脳死判定基準案についての反論

2010-04-29 20:48:43 | 声明・要望・質問・申し入れ

2010年4月23日
臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

小児脳死判定基準案についての反論

 

 4月5日に開催された第32回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会に、小児脳死判定基準案が報告されました。これは、臓器移植法を問い直す市民ネットワークが2009年12月22日に長妻厚生労働大臣宛てに提出した「改定臓器移植法に関する申し入れ」を全く無視したこと、矛盾した記述が多いこと、そして臓器提供の現実を知らない研究者が被虐待児を除外するマニュアルを作成したと見込まれるため、採用されるべきでは無いことを指摘するとともに、この基準案が公表されたことに抗議します。


【脳死判定の不確実性を示す情報の隠蔽について】
 小児脳死判定基準案の報告書(資料3)は、長期脳死について、こう書いています(斜体の3行)。
 長期脳死について、小児では頻度が高く、期間も長いとされている。しかし、適切な診断根拠に基づく“長期脳死”とされたいずれの例でも、脳死判定後での人工呼吸器からの離脱や意識の回復は認められておらず、結局は脳死状態が持続して心停止に至っている。従って、“長期脳死”の存在は、『臓器提供を前提とした脳死判定』そのものに影響を与えるものではない。
 
 これは全くの情報の隠蔽です。臓器移植法を問い直す市民ネットワークは、改定臓器移植法に関する申し入れ(2009年12月22日)において、「Ⅳ 脳死判定に係る事項に関して」として以下の5項目を指摘しました。
(1)脳死判定後の長期間生存例について
(2)脳死判定の不確実性について
(3)その他、判定基準を否定する例について
(4)無呼吸テストについて
(5)中枢神経抑制剤の影響下にある患者の脳死判定について

 特に無呼吸テストを2回行ったケースで、広島大学は3ヵ月男児が脳死判定された後に脳血流、聴性脳幹反応が再開し、22日間生存したことを1997年に『日本救急医学会雑誌』8巻6号p231-p236に報告しています。大阪大学も、3ヵ月女児が脳死判定されてから40日後に自発呼吸が出現し69日間生存したことを1991年の『日本救急医学会雑誌』2巻4号p744~p745、1995年のPediatrics96巻3号p518~p520に報告しています。無呼吸テストを1回行ったケースでは、公立高畠病院が11歳男児を1993年11月に脳死判定した後、1994年3月に脳波、8月に自発呼吸が出現し生存中と1995年の『日本小児科学会雑誌』99巻9号p167に報告しています。そのほか脳死判定後に脳波や自発呼吸、痛み刺激への反応等が復活した症例を多数指摘しました。
 脳死判定基準を満たさない人を、脳死とすることは許されません。臓器移植法も許容していないことです。「脳死判定基準を満たしたならば、脳死だから人の死だ」という政策を採用しても、自発呼吸が戻ったり脳波が再び測定されるようになった人は、断じて脳死ではありません。これは自明のことでしょう。脳死判定後に脳波や自発呼吸、痛み刺激への反応が復活しうる患者は、「人工呼吸器からの離脱や意識の回復」には至らなくとも脳死ではありません。脳波や痛み刺激への反応が回復しうる人も脳死と強弁することは、生体解剖を行う危険を示します。生きたまま臓器を摘出して死なせる凄惨な行為を、現代の社会で認めてよいのでしょうか?


【脳死判定基準の野放図な緩和につながる】 
 小児脳死判定基準案は、「適切な診断根拠に基づく“長期脳死”とされたいずれの例でも、脳死判定後での人工呼吸器からの離脱や意識の回復は認められておらず、結局は脳死状態が持続して・・・」としています。「人工呼吸器からの離脱」や「意識回復」に至らないと「脳死状態の持続」とするのであれば、人工呼吸器を装着して生きている人や意識不明の人を「死体」とみなす、脳死判定基準の野放図な緩和を開始することになると懸念します。


【脳死判定をしてはいけない患者も、脳死判定の対象にしていること】 
 脳不全の治療目的で中枢神経抑制剤(麻酔、鎮静剤、鎮痛剤、筋弛緩薬など)が投与されて、その影響が残っていたら、誤って脳死と誤診する恐れがあります。薬物中毒も同じです。このため中枢神経抑制剤に影響されている可能性のある患者は脳死判定の対象としない=除外例とすることが脳死判定基準に規定されています。法医学者からは、脳血流がある時に投与された薬物が脳の中に入り、その後に脳血流が低下したら、高濃度の薬物が脳に残存し続ける現象が報告されています。従って血中薬物濃度を測っても、脳組織内の薬物濃度とは異なる場合があるから、薬物濃度の測定は意味がないのです。このことは「改定臓器移植法に関する申し入れ(2009年12月22日)」でも指摘しています。
 ところが、小児脳死判定基準案は「可能な限り血中薬物濃度を測定し、有効薬用量以下になってから、半減期などを考慮しながら総合的に判断する」としています。脳死判定に影響する薬物が残っているか否かについて「総合的に判断する」のは不可能です。厳密に中枢神経抑制剤の影響が消失した後でなければ、脳死判定は誤る恐れがあります。投与された薬物の影響によって、昏睡状態に陥り、脳波や自発呼吸も消失することがあるからです。


【「脳血流があるから脳死判定ができる」とする一方で「脳血流停止で脳死判定ができる」としていること】
 「脳血流があるから脳死判定ができる、脳血流があるから脳死」とは、大部分の人の通念に反することでしょう。
脳死判定において脳血流検査が行なわれることがあるのは、「脳細胞が壊死するほどに脳血流が低下しているのならば、脳機能は廃絶している」という前提があるからです。ところが、今回の小児脳死判定基準案は「脳血流があるから脳死判定ができる」と前提しています。
 それは小児脳死判定基準案が、中枢神経抑制薬について「可能なかぎり血中濃度を測定して有効薬用量以下になってから,半減期などを考慮しながら総合的に判断する」としていることが該当します。これは脳血流があることを前提にしています。「脳に血流があるから、一端は脳に入って脳波や昏睡、自発呼吸の消失などに影響した薬剤も、徐々に血流によって排出されてゆく」そして「脳血流があるから、抹消で採取した血で薬物濃度を測ると、その濃度は、脳の薬物濃度と同じだ」と前提されています。
 また被虐待児を除外するマニュアルにおいても、尿・血液・胃内容物等の薬物検査を行なうことにしています。血液の薬物検査も、脳血流があることを前提にしています。ここで考えてもらいたいのですが、脳から薬物が排出されるほどの脳血流がある状態は、脳細胞が壊死する低血流の状態でしょうか?
 このように、小児脳死判定基準案は「脳血流があるから脳死判定ができる、脳血流があるから脳死」とする一方で、「3)疾患による除外」では「 眼球損傷、内耳損傷、高位脊髄損傷のために脳幹反射の一部や無呼吸テストが実施できないときは,脳幹聴性誘発電位や脳循環検査などの補助検査を加えて総合的に脳死を判定できる可能性はある・・・.」としています。こちらでは脳循環検査=脳血流の検査が脳死判定に使える可能性があると書いています。
つまり、この小児脳死判定基準案は、「脳血流があるから脳死判定が可能だ」として通念に反する規定をする一方で、他方では「脳血流停止で脳死判定ができる」と矛盾したことを記述しているのです。


【深昏睡について】
 脳死判定は虫ピンや指による圧迫刺激で深昏睡か否かを検査することにしているが、米国のザック・ダンラップ事件では、従兄(看護師)がダンラップ氏の足の裏をナイフで切り、痛み刺激に反応することを発覚させて、臓器摘出チームが到着していたにもかかわらず危うく生体解剖を回避した。深昏睡の状態であるのか否か、確認するために行う現状の疼痛刺激が、弱い刺激にとどまっている患者の存在が示されています。しかし、患者を傷害する検査は許容されません。


【瞳孔、対光反射の消失について】
 国立台湾大学の洪 祖培氏は「瞳孔径が4mm以上で、一見反射がないような場合でも、部屋を暗くし、強光を当てれば、縮瞳が見られることがあります」と指摘しています(セミナー記録 脳蘇生と脳死、日本大学総合科学研究所、p97、1998年)。しかし、強すぎる光を長時間当てると失明させる危険がある。患者を傷害する検査は許容されません。


【前庭反射について】
 小児脳死判定基準案は、「前庭反射の消失は鼓膜損傷があっても検査可能、安全面でも滅菌生理食塩水を用いれば問題は無い」としているが、滅菌生理食塩水であっても外耳道に注入するため感染の原因になるのではないか。


【脳波について】
 小児脳死判定基準案は、頭皮上脳波の測定を定めているが、頭皮上脳波が測定されなくとも頭蓋内脳波あるいは鼻腔脳波が測定されるケースがある。感度の低い頭皮上脳波測定を、あえて選択している。


【無呼吸テストについて】
 無呼吸テストは、PaCO2が60㎜Hg以上になった時点で観察終了としているが、PaCO2が64mmHg~119mmHgで自発呼吸をしている。無呼吸テストによる高炭酸ガス刺激が弱い刺激にとどまっている患者の存在が示されています。しかし、長時間の無呼吸テストは全身状態を悪化させて患者を傷害するため、長時間の無呼吸テストも許容されない。
 この事実も、「改定臓器移植法に関する申し入れ(2009年12月22日)」において指摘しました。


【臓器提供の現実を知らない研究者が被虐待児を除外するマニュアルを作成したこと】
 被虐待児を除外するマニュアルは、最終ページにこう書いています(斜体の3行)。
 本マニュアルは心停止下臓器提供の場合にも適用できると思われる。しかし『被虐待児』である可能性を否定できない場合に、心停止後に血液検査や放射線学的検査を行なうことは事実上不可能である。従って、『被虐待児でないこと』が本マニュアルに基づいて確認できた場合にのみ、臓器提供が可能であると判断される。
 
 「心停止後に血液検査や放射線学的検査を行なうことは事実上不可能である」とは、臓器摘出の現実を知らない者が作成した文章であることを示します。完全に心臓が停止した後にはじめて、臓器提供者にできるか否か検討を開始したら、移植可能な臓器は得ることができません。臓器に血液が凝固して使えなくなります。だから、臓器提供候補者が生存中から、臓器提供の承諾を得ています。ほとんどは脳死判定で終末期の説明をして、臓器提供の承諾を得ています(脳死で終末期の説明を行い、過半数は臓器摘出目的でカテーテル挿入などを行なうにもかかわらず、法的脳死判定手続きを行なっていない問題がある)。例えば2007年5月、八千代病院における心停止後腎臓提供例(中村 秀子、内田 初子:臓器・骨・角膜提供症例報告、八千代病院紀要、28巻1号p76~p77、2008年)を見ると、脳死判定は5月12日に行なわれ、5月22日にカニュレーション、5月23日に呼吸器設定の変更、5月24日に臓器摘出を行なった。この間に、血液検査や放射線学的検査を行なう時間は十分にあります。
術前透析だけでも数時間かかる
 移植を受ける患者の選定手続きをみても、完全な心停止後に、初めて移植患者の選定手続きを開始しているのではない。移植患者の選定は、まずドナーの組織との適合性を検査し、組織が適合する複数の移植患者候補者に連絡をして、来院して検査および移植意思の確認を行なう。そして腎臓移植をうける患者には、移植手術前に透析を行なう。これらの移植患者の選定だけでも、20~30時間を要する。血液検査や放射線学的検査を行なう時間は十分にある。ドナーの心臓が動いている「脳死」だからこそ、臓器提供が可能になるのです。
 この小児脳死判定基準の研究協力者のなかには、心停止後の臓器提供に従事したことがある医師が含まれています。救急医、脳外科医も複数おり、心停止臓器提供の実際を知っていてしかるべき医師が複数参加しています。「小児の脳死判定及び臓器提供等に関する調査研究班」としては、無責任な報告書といえます。


【過去の小児「心停止」ドナーにおける脳死判定、被虐待児対策の検証を、今後は法的脳死判定手続きで行なうべき】
 日本臓器移植ネットワークは、1995年4月から2009年12月末までに38件あったと公表しています。「心停止後」と称する臓器提供も、実際は脳死判定で家族に臓器提供の承諾を得て、生前にカテーテル挿入、ドナー管理、心停止後の心臓マッサージを行なっています。三徴候死の確認が行なわれていないのではないか?と懸念します。過去の小児の「心停止後」と称する臓器摘出例における被虐待児対策、脳死判定、臓器提供経過の検証を求めます。
 また今後は小児も成人も「心停止後」の臓器提供は、法的脳死判定、被虐待児対策の対象とすべきことを求めます。

 

以上


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