臓器提供の承諾後~臓器摘出の手術中に脳死ではないことが発覚した症例、疑い例および統計
4-2
4-1の見出し
1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に、脳死ではないことが発覚した症例
4-2(このページの見出し)
1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に、脳死ではないことが発覚した症例(前ページからの続き)
2,脳死なら効かないはずの薬=アトロピンが脳死ドナーに投与され効いた!
3,親族が臓器提供を承諾した後に、脳死ではないことが発覚した症例
4-3
4,親族が脳死臓器提供を拒否した後に、脳死ではないことが発覚した症例
5,脳死判定の誤りが発覚した頻度は、米国で臓器摘出直前に1~5%、日本および韓国では親族の臓器提供承諾後に1.2%前後
6,脳死とされた患者の長期生存例(妊娠の継続・出産、臓器提供、異種移植実験などに伴う脳死宣告から1カ月以上の長期生存例)
4-4
7,「脳死とされうる状態」と診断されたが、家族が臓器提供を断り、意識不明のまま人工呼吸も続けて長期間心停止せず生存している症例
8,「麻酔をかけた臓器摘出」と「麻酔をかけなかった臓器摘出」が混在する理由は?
9,何も知らない一般人にすべてのリスクを押し付ける移植関係者
10,脳死判定を誤る原因
1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に、脳死ではないことが発覚した症例(前ページからの続き)
2014年12月初め、ドイツ・ブレーメンの病院で、外科医がドナーの腹部を切開した後、死んでいないことに気付き臓器摘出は中止された。脳死は判定基準に従って証明されていなかった。
当ブログ注:脳死判定の詳細は記事では不明。
出典=Schwere Panne bei Organ-Entnahme
http://www.sueddeutsche.de/gesundheit/krankenhaus-bei-bremen-schwere-panne-bei-organ-entnahme-1.2298079(プレビュー、この記事に誤診の詳細な記載はない)
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アトランタのエモリー大学病院で心肺停止の55歳男性は発症から78時間後に脳死宣告、家族は臓器提供に同意した。患者は臓器摘出のため手術室に搬送され、手術台に移す時、患者が咳をしたことに麻酔科医が気づいた。角膜反射、自発呼吸も回復しており、患者はただちに集中治療室に戻された。発症から145時間後:脳幹機能が消失、神経学的検査で脳死に矛盾しない状態となった。発症から200時間後:脳血流検査で血流なし。患者家族と人工呼吸器停止の結論、臓器摘出チームとは家族に再び臓器提供でアプローチしないことを決定した。発症から202時間後:人工呼吸器を停止、心肺基準で死亡宣告。
当ブログ注:無呼吸テストは1回だけ10分間人工呼吸を停止した。
出典=Adam C. Webb: Reversible brain death after cardiopulmonary arrest and induced hypothermia, Critical Care Medicine,39(6),1538-1542,2011
http://journals.lww.com/ccmjournal/Abstract/2011/06000/Reversible_brain_death_after_cardiopulmonary.44.aspx(抄録)
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2009年10月16日、コリーン・バーンズさん(41歳)は、薬物の過剰摂取でニューヨーク州のセントジョセフ病院に入院。10月19日午後6時、看護師がバーンズさんの足を指でなぞったところ足指を曲げた、鼻孔が膨らんで自発呼吸の兆候が見られ唇や舌も動いていた。午後6時21分、その看護師はバーンズさんに鎮静剤を投与したが、医師の記録には鎮静剤も症状の改善もない。10月18日と19日、不完全な神経学的診断と不正確な低酸素脳症との診断で、脳死判定基準の無呼吸に該当していなかったが脳死と診断した。家族は、生命維持を停止して心臓死後の臓器提供に同意した。10月20日午前12時、心停止後の臓器提供のため手術室内の準備室に運び込まれたバーンズさんが目を開けたので、心停止および臓器摘出処置は中止された。
バーンズさんは重度のうつ病のため家族も病院を訴えることはせず、それから16ヵ月後にBurnsさんは自殺した。
出典=St. Joe’s “dead” patient awoke as docs prepared to remove organs
http://www.syracuse.com/news/index.ssf/2013/07/st_joes_fined_over_dead_patien.html
・U.S. Centers for Medicare and Medicaid Services report on St. Joseph's Hospital Health Center
http://ja.scribd.com/doc/148583905/U-S-Centers-for-Medicare-and-Medicaid-Services-report-on-St-Joe-s(プレビュー)
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2009年12月16日付のNew York Times magazineは、マサチューセッツ医科大学の医師で医療コラムニストのDarshak Sanghavi氏による“When Does Death Start?”を掲載。同大学神経救急科のDr. Wiley Hallが「脳死ではない患者に死亡宣告し臓器ドナーとするザック・ダンラップ(2007年)と類似のケースが昨年、マサチューセッツでもあった」と話したとのこと。
当ブログ注:脳死判定の詳細は記事では不明。
出典=When Does Death Start?
https://www.nytimes.com/2009/12/20/magazine/20organ-t.html(プレビュー)
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2007年11月、オクラホマ州のザック・ダンラップさん(21歳)は4輪バイクの転倒事故でユナイテッド・リージョナル病院に搬送。医師は家族に「脳の中身が耳から出てきている」と告げた。脳血流スキャンで脳に血流が無かった。受傷から36時間後の11月19日11時10分に脳死宣告。別れを告げに来た従兄弟で看護師のダン・コフィンさんが、ダンラップさんの足の裏をポケットナイフで引っ掻くと下肢が引っ込んだ。手指の爪の下にコフィンさんが指の爪をねじ込むと、ダンラップさんは手を引っ込めて自分の身体の前を横切らせたことで、意図的な動きをしており脳死ではないと判断された。ダンラップさんの父母のもとに臓器移植機関の職員が訪れ「すべては中止です」と伝えた。ダンラップさんは、医師が「彼は死んだ」と言ったのが聞こえため後に「狂わんばかりになりました」と語った。
当ブログ注:脳血流検査が行われ脳血流が無いと診断された。
出典=Doyen Nguyen,Christine M. Zainer:Incoherence in the Brain Death Guideline Regarding Brain Blood Flow Testing: Lessons from the Much-Publicized Case of Zack Dunlap,The Linacre quarterly,2025
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/00243639251317690
・'Dead' man recovering after ATV accident. Doctors said he was dead, and a transplant team was ready to take his organs -- until a young man came back to life.
https://www.nbcnews.com/id/wbna23768436
・2008年3月23日に放送されたNBC News動画の短縮版がhttp://medicalfutility.blogspot.com/2018/11/brain-death-no-no-no-to-apnea-test.htmlで視聴可能(再生開始から2分53秒~5分27秒の部分)
・2019年公開の動画https://www.youtube.com/watch?v=ZXFM9INV-bQ Declared Brain Dead – the story of Zack Dunlapにザック・ダンラップさんと妻と娘、そしてダン・コフィンさんが出演した。
ダン・コフィンさんが脳死判定を疑ったのは、ザック・ダンラップさんの血圧と心拍数の変化、そして人工呼吸器の設定とザック・ダンラップさんの呼吸が合わなかったことから。また、疼痛刺激よりも強い刺激としてポケットナイフは開かないで使った、爪の下に爪を押し込んだ、対光反射も部屋を明かりを暗くして行うように頼んだ、と語った。
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注:著者の所属はDepartment of Anesthesiology, University of Washingtonだが、下記3症例の発生した施設名の明確な記載は無い。
・30歳の重傷頭部外傷患者は脳死が宣告され、19歳の肝不全患者への肝臓移植が計画された。麻酔医は、そのドナーが自発呼吸をしていることに気づいた。麻酔医が脳死判定に疑問を呈したところ、脳死判定した医師は患者は回復しないから脳死である、そして肝臓のレシピエントは移植なしには死が差し迫っているからと述べた。麻酔医の抗議に関わらず、臓器摘出は行われた。ドナーは、皮膚切開時に体が動き高血圧になったため、チオペンタールと筋弛緩剤の投与が必要になった。肝臓のレシピエントは急性内出血のために、肝臓の採取が完了する前に別の手術室で亡くなった。肝臓は移植されなかった。
・頭蓋内出血後に脳死が宣告された多臓器ドナー=頻脈があったためネオスチグミン(抗コリンエステラーゼ)が投与されていたドナーは、「大静脈が結紮され、肝臓が取り出された」と外科医が知らせた瞬間に自発呼吸を始めた。そのドナーは無呼吸テストの終わりに喘いでいたのだけれども、脳外科医は脳死判定基準を満たしていると判定していた。
・麻酔科医は臓器摘出予定日に、挿管された若い女性に対光反射、角膜反射、催吐反射のあることを発見した。それまでの管理が見直されエドロホニウム10mgを投与したところ、患者は咳き込み、しかめつらをし、すべての手足を動かした。臓器提供はキャンセルされた。頭蓋内圧が治療により徐々に下がり、患者は意識を最終的に取り戻し帰宅したが、神経学的欠損に苦しんだ。
出典=Gail A Van Norman:A matter of life and death: what every anesthesiologist should know about the medical, legal, and ethical aspects of declaring brain death、Anesthesiology、91(1)、275-287、1999
https://pubs.asahq.org/anesthesiology/article/91/1/275/37321/A-Matter-of-Life-and-Death-What-Every
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台湾では法務部が1990年に「執行死刑規則」を改訂し、臓器寄贈を同意する受刑者に対し、心臓でなく、そのかわりに頭部(耳の下の窪の部分、脳幹辺り)を撃つことができるようになった。1991年に病院での2回目の脳死判定を省略し、執行場での1回目の判定でよいと規則を変えた。1991年に、ある脳死判定された死刑囚が栄民総医院の手術室で息が戻り、病院側が余儀なく当該「脳死死体」を刑務所に送り返すという不祥事が発生した。
出典=町野 朔:移植医療のこれから(信山社)、325-326、2011
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1990年9月25日、ノースカロライナ州のカート・コールマン・クラークさん(22歳)は自動車事故でフライ地域医療センターに入院。血管に放射性物質を注射して頭部の血管を調べた。脳内出血で脳がはれ、心臓が送られてくる新鮮な血が脳内に流れていなかった。26日午前10時21分に脳死宣告。家族の意向を確認し、「遺体」をハイウェーで1時間余りのバブティスト病院に運んだ。バブティスト病院の移植チームは、クラークさんのまぶたが動くことを見て、体をつねるとクラークさんは痛みを避けるような動作をした。人工呼吸器を外すと、かすかながら自発呼吸をしていた。臓器摘出手術は中止された。クラークさんは脳内の出血を取り除く緊急措置がとられた。6日後、この患者は改めて死亡宣告を受けた。その間、意識を回復することはなかった。家族は、二度目の死亡宣告時に臓器提供はしなかった。
当ブログ注:脳血流検査が行われ脳血流が無いと診断された。
出典=息をした米の脳死患者 臓器摘出直前 体が動いた!!:朝日新聞、1990年10月26日付朝刊3面
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マーガレット・ロックが面接した医師5名のうち1名が、研修医時代の経験として以下のように語った。
「私たちには、移植用の臓器を確保しなければならないというプレッシャーがあったと思います。私たちは無呼吸テストを30秒間行いましたが、自発呼吸はみられませんでした。それで、私たちはその患者をドナーとして手術室に送りました。ところが、手術室で人工呼吸器が外されたとき、彼は呼吸しはじめたのです。私たちは、ICUに戻されてきた彼のケアに努めました。結局彼は、2ヵ月後に死亡したのですが、私たちは悪夢を見ているような気がしました。弁解の余地のないこの事件が起きたのは、脳死に関するはっきりしたガイドラインのなかった70年代初めのことです。私はいつも研修医たちにこの話をし、けっして性急に判定を下してはならないと注意しています」
出典=マーガレット・ロック:脳死と臓器移植の医療人類学、みすず書房、196-197、2004
2,脳死なら効かないはずの薬=アトロピンが、脳死ドナーに投与されて効いた!
脳死判定の補助検査にアトロピンテストがある。脈が遅くなった場合の治療薬として使われているアトロピンが効く患者は、脳が正常に働いている人だけ、という原理を用いる検査だ(アトロピンは迷走神経性徐脈に適応があるが、心臓迷走神経中枢は延髄にある)。
患者の脳機能が正常ならばアトロピンを投与すると脈が速くなるため、脳死を疑われる患者に投与して「脈が速くなったら脳は正常に働いている」「脈が変わらなかったら脳に異常が生じている」と診断する。
このためアトロピンが脳死患者に効かないことは、この薬剤を使う医師には常識だが、日本医科大学付属第二病院における法的脳死30例目では「(脳死ドナーの)徐脈時にはアトロピンは無効とされるが、我々の症例では有効であった」と報告された。
出典=大島正行:脳死ドナーの麻酔管理経験、日本臨床麻酔学会第24回大会抄録号付属CD、1-023、2004
出典=大島正行:脳死ドナー臓器摘出の麻酔、LiSA、11(9)、960-962、2004は「プレジア用のカニュレーションを行った際、心拍数40bpmという徐脈となった。アトロピン0.5㎎を投与したところ、心拍数は回復した」と記載している。
伊勢崎市民病院における法的脳死582例目でもアトロピンが効き、「副交感神経系以外のM2受容体を遮断することで血圧上昇に寄与した可能性」が提示された。
出典=飯塚紗希:脳死下臓器摘出術の管理経験、日本臨床麻酔学会第39回大会抄録号、S292、2019
そもそも薬が効かない患者と見込まれるのに、敢えて投与したことが異常だ。(「臨床麻酔」24巻3号に「脳死ドナーの麻酔管理」が掲載され、p514に脳死ドナーの徐脈について「とくに徐脈はアトロピンには反応しないので、直接心臓に対して作用するドパミンやイソプロテレノールを用いる」と書いている。「LiSA」11巻9号によると、大島正行は臓器摘出手術の前にこの文章を読んだ)
もし脳死臓器摘出の現場で、ドナーにアトロピンを投与して効いたら脳死ではないことになり、臓器摘出は中止しなければならなくなるはずだ。臓器提供施設に臓器を摘出するために赴いた移植医が、施設側の脳死判定を確かめる検査を行い、そして脳死を否定することになる結果を得たならば、以後は臓器提供への協力を期待できなくなるであろう。
こうした事情から、臓器摘出時にアトロピンを投与した理由は2つ考えられる。1つは「臓器を摘出する移植外科医が薬効そして人体生理に無知なため、本当に脳死ならば効かないはずの薬の投与を麻酔科医に指示してしまった。麻酔科医は外科医の指示に反論しなかった」、2つめは「臓器提供施設側の承諾の下に、臓器を摘出するドナーを薬物の実験台に使っている」。
いずれにしても法的脳死30例目、582例目ともに、臓器摘出手術を中止することなく、移植用臓器の摘出を完遂しており、異様なことが行われたことに違いはない。
3,親族が臓器提供を承諾した後に、脳死ではないことが発覚した症例
横浜市立みなと赤十字病院例=51歳男性が突然の意識障害で心停止し小脳出血と診断。昏睡状態のままで瞳孔が散大し、脳幹反射がなく、自発呼吸、電気的脳活動がなく脳死状態と判断され、家族は臓器提供を選択。5日目に行われた最初の脳死判定の呼吸検査中に、腹式呼吸を繰り返す呼吸のような動きがあったため中止された。9日目の頭部の磁気共鳴画像では血流がないことを示し、体性感覚誘発電位検査では脳由来電位は示されなかった。家族は臓器提供を拒否し、患者は20日目に亡くなった。
出典=Shinichi Kida:Respiratory-like movements during an apnea test,Acute medicine & surgery,11(1),e959,2024
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ams2.959
注1:この症例報告は、脳死が否定されたとは断定していないが、否定される可能性もある旨を書いている。結論の原文は以下。
(CONCLUSION Respiratory‐like movements can occur during the apnea test in patients considered to be brain dead. This phenomenon may be associated with cervical spinal activity. Further investigation is warranted to clarify this possibility.)
注2:正式な脳死臓器提供の承諾手続きは法的脳死の宣告後に行われるものであるが、実際には
A: 「臓器提供を見据えた患者評価・管理と術中管理のためのマニュアル」により法的脳死判定の前から臓器提供目的の処置が行われることがあり、医師の脳死見込みが実質的な脳死判定になっていることがある。また、
B:無呼吸テストを行わない診断を「一般的な脳死判定」として終末期と診断し生命維持を打ち切ったり、心停止後の臓器提供(生前カテーテル挿入の許容など)を行う医療現場の実態がある。
このため本症例は手続き上は「脳死とされうる診断の誤り」だが、前記AやBの実態から脳死判定の誤りと同等の症例として、ここに掲載した。
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米国ノースカロライナ州の牧師ライアン・マーロウさん(37歳)は、リステリアに感染しアトリウム・ヘルス・ウェイクフォレスト・バプテスト医療センターに入院、約2週間後の2022年8月27日(土)に脳死と宣告されたが、臓器が摘出される8月30日(火)に家族は足の動きを認め、その後、脳血流が確認され臓器提供は中止された。昏睡状態だが妻が話しかけると心拍数が上昇した。
脳死ではないことがわかった時刻について「臓器摘出の数分前」とした報道もある。一方、9月1日付のチャーチリーダーズの記事Pastor’s Wife Says Husband Pronounced Dead Is Actually Alive: ‘I Need Ya’ll To Go to Church and Pray’ https://churchleaders.com/news/433243-north-carolina-pastor-wife-dead-alive-pray.html は「月曜日の夜、ミーガンは医師から電話を受け、医師は専門家パネルが間違いを発見し、ライアンは脳死ではないと言いました。彼女がその意味を尋ねると、医師は『彼女の夫がまだ本質的に脳死であるが、病院はライアンの死亡時刻を、土曜日から臓器を摘出する火曜日に変更する』と説明した(Monday evening, Megan received a call from the doctor who said that an expert panel had discovered there was a mistake and that Ryan was not brain dead. When she asked what that meant, the doctor explained her husband was still essentially brain dead, but the hospital would change the time of death from Saturday to Tuesday when Ryan went to have his organs removed)」
以上で記事の引用が終わり、次の5行は当ブログの仮説です。
チャーチリーダーズの記事にもとづくと、病院側が8月27日(土)にライアン・マーロウさんに脳死宣告をしたものの、その後に脳死ではないことを確認したため、心停止後の臓器提供に方針を変更し、その旨を8月29日(月)に妻のミーガンさん説明したと推測される。なぜならば死亡時刻を脳死宣告した8月27日(土曜日)ではなく、臓器を摘出する8月30日(火曜日)に変更するとは、人工呼吸など生命維持を停止して心停止をもたらした時刻を死亡時刻とすることと見込まれるからだ。
しかし、医師が「まだ本質的に脳死である(still essentially brain dead)」と説明した事も影響したのか、妻のミーガンさんは混乱しながらも「夫が脳死である、火曜日に脳死臓器提供を行うんだ」と引き続き思い込んでいた。そこに火曜日当日、足の動き、心拍上昇をみてミーガンさんは脳死ではないことを確信して臓器提供にストップをかけたのではないか?
臓器提供に前のめりで重症患者の家族への説明に言葉が足りない病院、重篤で社会復帰困難な患者への致死行為を最善の利益とみなす医師、意識障害と脳死の違いに知識が少ない・無頓着な米国民の認識、などの要因が重なり、ドナー候補者家族には臓器摘出直前に脳死ではないことが認識されたのではないか?
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英国・リークで2021年3月13日、ルイス・ロバーツさん(18歳)は自動車にひかれてロイヤル・ストーク大学病院で緊急手術を受けたが、3月17日に脳幹死が宣告され、家族は臓器提供に同意した。即時の生命維持装置の停止も可能だったが、家族は翌朝7時まで待つことにした。姉がベッドサイドに座り、ルイスさんに「1、2、3を数えた後に呼吸するように」と頼んだ。モニターに呼吸を示す4つの茶色の線に気づき、3月18日の午前3時30分頃に医師により自発呼吸が確認された。
当ブログ注:脳幹死宣告のため脳波は測定していないと見込まれる。
出典='Miracle' teen injured in crash still fighting days after being 'officially certified dead'
https://www.stokesentinel.co.uk/news/stoke-on-trent-news/miracle-teen-injured-crash-still-5223255?_ga=2.174475946.96428472.1616800965-2124080866.1616800916
2021/9/24 ルイス・ロバーツさんは6か月後、母親に「お母さん、愛してる」と会話
ルイス・ロバーツさんは2021年7月11日に19歳になり、先週末'Mum, I love you.... you're the best'と完全な会話をした。
出典=Miracle teen's first heart-melting words six months after being 'certified dead'
https://www.stokesentinel.co.uk/news/stoke-on-trent-news/miracle-teens-first-heart-melting-5958854
2025年1月17日、上記の症例報告はClinical Research and Clinical Reportsに掲載された。
Brainstem Death Diagnosis Revisited: Lessons from a Case Report,Clinical Research and Clinical Reports
https://clinicsearchonline.org/article/brainstem-death-diagnosis-revisited-lessons-from-a-case-report
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米国ニューヨーク州立アップステート医科大学病院に入院した脳内出血の59歳男性、脳死判定のうち無呼吸テストは安全でないと判断され、SPECT(単光子放射型コンピューター断層撮影法)で頭蓋内に血流がないことを確認。家族が臓器提供に同意し脳死宣告されたが、翌朝、咳反射、断続的な自発呼吸、侵害刺激への反応も確認。家族は脳死ではないことを知らされたが、新たな決定がなされる前に患者は心停止した。
当ブログ注:無呼吸テストは行っていないが脳血流なしとして脳死判定された。
出典=Julius Gene S. Latorre: Another Pitfall in Brain Death Diagnosis: Return of Cerebral Function After Determination of Brain Death by Both Clinical and Radionuclide Cerebral Perfusion Imaging, Neurocritical Care,32, 899–905,2020
https://link.springer.com/article/10.1007/s12028-020-00934-2(画面左下のRead full articleをクリックすると全文が読める)
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2017年12月26日、ブライアン・ヒールさん(50歳)は階段から転落し英国サマセット州のヨービル地区病院に搬送され脳幹死と診断。臓器提供者として登録していたため人工呼吸器で管理したところ回復の兆しを見せ、2018年2月12日に昏睡から脱却しはじめた。2018後半にリハビリを終える予定。
当ブログ注:脳幹死宣告のため脳波は測定していないと見込まれる。
出典=Lonardo worker from Sherborne making miracle recovery after suffering massive brain injury
https://www.somersetlive.co.uk/news/somerset-news/leonardo-worker-sherborne-makes-miracle-1511883
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2015年1月、テキサス州のジョージ・ピッカリング氏は息子が脳死とされた。医師が人工呼吸の停止を計画、臓器提供の手配も進められていたことに抗議して病院に拳銃を持って立てこもった。3時間の間に、息子は父親の指示に応じて数回、父親の手を握り、脳死ではないと確認できたため警察に投降した。
当ブログ注:脳死判定の詳細は記事では不明。
出典=2016年8月10日放送「ザ!世界仰天ニュース 息子を守りたい父親の大事件」
https://www.ntv.co.jp/gyoten/backnumber/article/20160810_03.html
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2014年3月5日、ミシガン州のデレク・ファフさん(当時19歳)は散弾銃で自分の顔を撃ち、フリントのハーレーメディカルセンターで医師は家族にデレクさんが脳死状態であると告げた。デレク・ファフさんは臓器提供のためにデトロイトのヘンリーフォード病院に移送されたが、そこで脳死ではないことが判った。
その後の10年間に58回の顔の再建手術を受け、そして2024年2月にメイヨークリニックで顔面移植手術を受けた。
出典:2024年12月1日付CATHOLIC REVIEW記事
Family sees God’s hand in son’s survival after suicide attempt, successful face transplant
https://catholicreview.org/family-sees-gods-hand-in-sons-survival-after-suicide-attempt-successful-face-transplant/
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2010年10月8日、ブルックリンでエミリー・グワシアクスさん(21歳)はトラックにはねられ、ベルビュー病院に搬送された。第2病日、母親は看護師から「娘さんは亡くなられた」と聞かされた。臓器提供に同意後、母親がエミリーに話しかけている時に、エミリーは左手を上げた。
当ブログ注:脳死判定の詳細は記事では不明。
出典=Hit by a Truck and Given Up for Dead, a Woman Fights Back
http://www.nytimes.com/2010/12/22/nyregion/22about.html(プレビュー)
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3カ月前から中耳炎だった26歳男性は昏睡状態となり、クイーンエリザベス2世健康科学センターにてCTで脳膿瘍が確認され、昏睡発症後7時間で無呼吸も確認され脳死と診断。家族は臓器提供に同意した。血液培養で48時間後に臓器提供の適格性を再評価することになった。脳膿瘍が臓器提供に影響しうるか確認するために、脳死宣告から2時間後にMRIを撮ったところ脳血流があった。患者は昏睡発症から28時間後に自発呼吸が確認された。自発呼吸以外の神経学的検査の結果は以前と同じで、患者は臓器提供者リストから外された。5日後、自発呼吸は弱まり心臓死した。
出典:Derek J. Roberts MD:Should ancillary brain blood flow analyses play a larger role in the neurological determination of death?,Canadian Journal of Anesthesia,57(10),927–935,2010
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs12630-010-9359-4
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マクマスター大学病院において37週で出生した女児が、生後41時間後にカナダの脳死判定基準を満たした。無呼吸テストで動脈血二酸化炭素分圧を54mmHgまで上昇させて自発呼吸がなかった。米国の移植組織により心臓の利用が検討され、米国の脳死判定基準(無呼吸テスト時に動脈血二酸化炭素分圧を60mmHgまで上昇させる)にもとづいてテストされた。女児は動脈血二酸化炭素分圧が59mmHgまでは無呼吸だったが、その後64mmHgに上昇するまでしっかりと呼吸をした。臓器提供の同意は、両親により撤回された。
出典=Simon D.Levin:Brain death sans frontiers, The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE,318(13),852-853,1988
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM198803313181311(プレビュー)
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ピッツバーグ大学関連施設
あるときニューヨークから若い脳腫場の患者が、瀕死のレシピエントに肝臓を提供するために飛行機で運ばれてきた。レシピエントはすでに手術室の控え室でスタンバイしていた。移植チームも招集ずみだった。事前の組織と血液型の検査によると、適合の度合もすばらしかった。ただひとつ、ささいな問題があった。ドナーがまだ脳死状態ではなかったのだ。ジュニア・レジデントのデイヴがわたしの家に電話をかけ、痛みをともなう刺激に除脳硬直を起こしていると言ってきた。
(中略)
わたしはすぐに患者をスキャンするようデイヴに言って、その生き返ったラザロを見に駆けつけた。
病院に着いてみると、ドナー予定者は脳神経外科にもどされ、移植フェローのチームにとりかこまれていた。デイヴがX線のシャスカーテンの前に立ち、CTスキャンを見つめていた。
「この”ドナー”にはでかい小脳腫瘍がありますね」デイヴが声をひそめて言った。「助けられるかもしれませんが、なにしろハゲタカどもがここに集まってて」わたしたちが移植外科医につけたあだ名は、脳死の迫った患者を嗅ぎつける彼らの薄気味悪い能力に由来している。連中は毎日のようにICUのまわりを旋回しているのだ。
「ハゲタカどもはほっとけ、わたしが追い返す……患者を階下に連れていって、腫瘍をとっちまおう。どうせ、マサチューセッツ総合病院とかから来たんだろう?」
「よく覚えてません。郊外のなんとかいう街のどこかで……向こうじゃ家族には、がん性の腫瘍で死んだも同然だと言ったらしいです。もちろん家族はニュースとかで移植手術のいい話をさんざん聞かされてたもので、進んで臓器を提供したがったんです。なかなか見上げた姿勢だけど、ちょっと時期尚早でしたね」
わたしは移植チームのほうに近づいていった。「すまないがみなさん、マーク・トウェインの文句を言いかえれば、この男の死ははなはだ誇張されている。われわれが世話をするよ。では、またつぎの機会に」
「ばか言え」移植フェローのひとりが毒を吐きちらした。「あいつを見ろ、除脳硬直じゃないか、もうすぐ死ぬに決まってる。われわれは一時間かそこらは待つ、このままひきさがるものか」
「きみらはどこかの脳神経外科で研修してきたのか、博識な友人たち? 後頭蓋窩(こうとうがいか)腫瘍による除脳硬直は、きみらが思ってるほど不吉なものじゃない。このニューヨークの友人は、あすの朝には卵を食べていられるだろうさ」
「経鼻胃管から脳圧降下剤を食うってことだろうが。脳死したやつは見ればわかる、こっちは階下(した)に肝臓疾患の女性を待たしてるんだ」
「こいつはモンティ・パイソンの冗談かなにかか?彼はまだ死んでいないし、きみらが彼を連れていくことはできない。だからとっとと失せろ」
一団がぞろぞろ部屋から出ていった。その夜わたしたちはニューヨークから来た患者の腫瘍を摘出し、彼は一週間後に歩いて病院を出ていった。
出典=フランク・ヴァートシック・ジュニア著/松本剛史訳:「脳外科医になって見えてきたこと」、草思社、1999年、p292~p294
引用者注:著者は1955年生まれでピッツバーグ大学医学部に入学、上記の出来事は著者が同大学脳神経外科のチーフ・レジデントとなってからの事だ。本文p290で「わたしたちのセンターは当時もいまも、ほかには類を見ない優秀な移植センターでもあるのだが」と書かれているため、上記は1980年代のピッツバーグ大学関連施設におけることと推測される。なお、プライバシーを守るために、人名の全てそして実話の一部は変えていることがp12に記載されている。