goo blog サービス終了のお知らせ 

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

「脳死」は人の死ではありません。「脳死」からの臓器摘出に反対します。臓器移植以外の医療の研究・確立を求めます。

臓器提供の承諾後~臓器摘出の手術中に脳死ではないことが発覚した症例、疑い例および統計 4-2

2025-08-22 08:44:35 | ニュース・文献の概要

臓器提供の承諾後~臓器摘出の手術中に脳死ではないことが発覚した症例、疑い例および統計

4-2

4-1の見出し

1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に、脳死ではないことが発覚した症例

4-2(このページの見出し)

1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に、脳死ではないことが発覚した症例(前ページからの続き)
2,脳死なら効かないはずの薬=アトロピンが脳死ドナーに投与され効いた!
3,親族が臓器提供を承諾した後に、脳死ではないことが発覚した症例

4-3

4,親族が脳死臓器提供を拒否した後に、脳死ではないことが発覚した症例
5,脳死判定の誤りが発覚した頻度は、米国で臓器摘出直前に1~5%、日本および韓国では親族の臓器提供承諾後に1.2%前後
6,脳死とされた患者の長期生存例(妊娠の継続・出産、臓器提供、異種移植実験などに伴う脳死宣告から1カ月以上の長期生存例)

4-4

7,「脳死とされうる状態」と診断されたが、家族が臓器提供を断り、意識不明のまま人工呼吸も続けて長期間心停止せず生存している症例
8,「麻酔をかけた臓器摘出」と「麻酔をかけなかった臓器摘出」が混在する理由は?
9,何も知らない一般人にすべてのリスクを押し付ける移植関係者
10,脳死判定を誤る原因 

 


1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に、脳死ではないことが発覚した症例(前ページからの続き)

 2014年12月初め、ドイツ・ブレーメンの病院で、外科医がドナーの腹部を切開した後、死んでいないことに気付き臓器摘出は中止された。脳死は判定基準に従って証明されていなかった。
当ブログ注:脳死判定の詳細は記事では不明。

出典=Schwere Panne bei Organ-Entnahme
http://www.sueddeutsche.de/gesundheit/krankenhaus-bei-bremen-schwere-panne-bei-organ-entnahme-1.2298079(プレビュー、この記事に誤診の詳細な記載はない)

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 アトランタのエモリー大学病院で心肺停止の55歳男性は発症から78時間後に脳死宣告、家族は臓器提供に同意した。患者は臓器摘出のため手術室に搬送され、手術台に移す時、患者が咳をしたことに麻酔科医が気づいた。角膜反射、自発呼吸も回復しており、患者はただちに集中治療室に戻された。発症から145時間後:脳幹機能が消失、神経学的検査で脳死に矛盾しない状態となった。発症から200時間後:脳血流検査で血流なし。患者家族と人工呼吸器停止の結論、臓器摘出チームとは家族に再び臓器提供でアプローチしないことを決定した。発症から202時間後:人工呼吸器を停止、心肺基準で死亡宣告。
当ブログ注:無呼吸テストは1回だけ10分間人工呼吸を停止した。

出典=Adam C. Webb: Reversible brain death after cardiopulmonary arrest and induced hypothermia, Critical Care Medicine,39(6),1538-1542,2011
http://journals.lww.com/ccmjournal/Abstract/2011/06000/Reversible_brain_death_after_cardiopulmonary.44.aspx(抄録)

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 2009年10月16日、コリーン・バーンズさん(41歳)は、薬物の過剰摂取でニューヨーク州のセントジョセフ病院に入院。10月19日午後6時、看護師がバーンズさんの足を指でなぞったところ足指を曲げた、鼻孔が膨らんで自発呼吸の兆候が見られ唇や舌も動いていた。午後6時21分、その看護師はバーンズさんに鎮静剤を投与したが、医師の記録には鎮静剤も症状の改善もない。10月18日と19日、不完全な神経学的診断と不正確な低酸素脳症との診断で、脳死判定基準の無呼吸に該当していなかったが脳死と診断した。家族は、生命維持を停止して心臓死後の臓器提供に同意した。10月20日午前12時、心停止後の臓器提供のため手術室内の準備室に運び込まれたバーンズさんが目を開けたので、心停止および臓器摘出処置は中止された。
バーンズさんは重度のうつ病のため家族も病院を訴えることはせず、それから16ヵ月後にBurnsさんは自殺した。

出典=St. Joe’s “dead” patient awoke as docs prepared to remove organs
http://www.syracuse.com/news/index.ssf/2013/07/st_joes_fined_over_dead_patien.html

・U.S. Centers for Medicare and Medicaid Services report on St. Joseph's Hospital Health Center
http://ja.scribd.com/doc/148583905/U-S-Centers-for-Medicare-and-Medicaid-Services-report-on-St-Joe-s(プレビュー)

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 2009年12月16日付のNew York Times magazineは、マサチューセッツ医科大学の医師で医療コラムニストのDarshak Sanghavi氏による“When Does Death Start?”を掲載。同大学神経救急科のDr. Wiley Hallが「脳死ではない患者に死亡宣告し臓器ドナーとするザック・ダンラップ(2007年)と類似のケースが昨年、マサチューセッツでもあった」と話したとのこと。
当ブログ注:脳死判定の詳細は記事では不明。

出典=When Does Death Start?
https://www.nytimes.com/2009/12/20/magazine/20organ-t.html(プレビュー)

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 2007年11月、オクラホマ州のザック・ダンラップさん(21歳)は4輪バイクの転倒事故でユナイテッド・リージョナル病院に搬送。医師は家族に「脳の中身が耳から出てきている」と告げた。脳血流スキャンで脳に血流が無かった。受傷から36時間後の11月19日11時10分に脳死宣告。別れを告げに来た従兄弟で看護師のダン・コフィンさんが、ダンラップさんの足の裏をポケットナイフで引っ掻くと下肢が引っ込んだ。手指の爪の下にコフィンさんが指の爪をねじ込むと、ダンラップさんは手を引っ込めて自分の身体の前を横切らせたことで、意図的な動きをしており脳死ではないと判断された。ダンラップさんの父母のもとに臓器移植機関の職員が訪れ「すべては中止です」と伝えた。ダンラップさんは、医師が「彼は死んだ」と言ったのが聞こえため後に「狂わんばかりになりました」と語った。
当ブログ注:脳血流検査が行われ脳血流が無いと診断された。

出典=Doyen Nguyen,Christine M. Zainer:Incoherence in the Brain Death Guideline Regarding Brain Blood Flow Testing: Lessons from the Much-Publicized Case of Zack Dunlap,The Linacre quarterly,2025
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/00243639251317690

・'Dead' man recovering after ATV accident. Doctors said he was dead, and a transplant team was ready to take his organs -- until a young man came back to life.
https://www.nbcnews.com/id/wbna23768436
・2008年3月23日に放送されたNBC News動画の短縮版がhttp://medicalfutility.blogspot.com/2018/11/brain-death-no-no-no-to-apnea-test.htmlで視聴可能(再生開始から2分53秒~5分27秒の部分)
・2019年公開の動画https://www.youtube.com/watch?v=ZXFM9INV-bQ
 Declared Brain Dead – the story of Zack Dunlapにザック・ダンラップさんと妻と娘、そしてダン・コフィンさんが出演した。
 ダン・コフィンさんが脳死判定を疑ったのは、ザック・ダンラップさんの血圧と心拍数の変化、そして人工呼吸器の設定とザック・ダンラップさんの呼吸が合わなかったことから。また、疼痛刺激よりも強い刺激としてポケットナイフは開かないで使った、爪の下に爪を押し込んだ、対光反射も部屋を明かりを暗くして行うように頼んだ、と語った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

注:著者の所属はDepartment of Anesthesiology, University of Washingtonだが、下記3症例の発生した施設名の明確な記載は無い。

・30歳の重傷頭部外傷患者は脳死が宣告され、19歳の肝不全患者への肝臓移植が計画された。麻酔医は、そのドナーが自発呼吸をしていることに気づいた。麻酔医が脳死判定に疑問を呈したところ、脳死判定した医師は患者は回復しないから脳死である、そして肝臓のレシピエントは移植なしには死が差し迫っているからと述べた。麻酔医の抗議に関わらず、臓器摘出は行われた。ドナーは、皮膚切開時に体が動き高血圧になったため、チオペンタールと筋弛緩剤の投与が必要になった。肝臓のレシピエントは急性内出血のために、肝臓の採取が完了する前に別の手術室で亡くなった。肝臓は移植されなかった。

・頭蓋内出血後に脳死が宣告された多臓器ドナー=頻脈があったためネオスチグミン(抗コリンエステラーゼ)が投与されていたドナーは、「大静脈が結紮され、肝臓が取り出された」と外科医が知らせた瞬間に自発呼吸を始めた。そのドナーは無呼吸テストの終わりに喘いでいたのだけれども、脳外科医は脳死判定基準を満たしていると判定していた。

・麻酔科医は臓器摘出予定日に、挿管された若い女性に対光反射、角膜反射、催吐反射のあることを発見した。それまでの管理が見直されエドロホニウム10mgを投与したところ、患者は咳き込み、しかめつらをし、すべての手足を動かした。臓器提供はキャンセルされた。頭蓋内圧が治療により徐々に下がり、患者は意識を最終的に取り戻し帰宅したが、神経学的欠損に苦しんだ。

出典=Gail A Van Norman:A matter of life and death: what every anesthesiologist should know about the medical, legal, and ethical aspects of declaring brain death、Anesthesiology、91(1)、275-287、1999
https://pubs.asahq.org/anesthesiology/article/91/1/275/37321/A-Matter-of-Life-and-Death-What-Every

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 台湾では法務部が1990年に「執行死刑規則」を改訂し、臓器寄贈を同意する受刑者に対し、心臓でなく、そのかわりに頭部(耳の下の窪の部分、脳幹辺り)を撃つことができるようになった。1991年に病院での2回目の脳死判定を省略し、執行場での1回目の判定でよいと規則を変えた。1991年に、ある脳死判定された死刑囚が栄民総医院の手術室で息が戻り、病院側が余儀なく当該「脳死死体」を刑務所に送り返すという不祥事が発生した。

出典=町野 朔:移植医療のこれから(信山社)、325-326、2011

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 1990年9月25日、ノースカロライナ州のカート・コールマン・クラークさん(22歳)は自動車事故でフライ地域医療センターに入院。血管に放射性物質を注射して頭部の血管を調べた。脳内出血で脳がはれ、心臓が送られてくる新鮮な血が脳内に流れていなかった。26日午前10時21分に脳死宣告。家族の意向を確認し、「遺体」をハイウェーで1時間余りのバブティスト病院に運んだ。バブティスト病院の移植チームは、クラークさんのまぶたが動くことを見て、体をつねるとクラークさんは痛みを避けるような動作をした。人工呼吸器を外すと、かすかながら自発呼吸をしていた。臓器摘出手術は中止された。クラークさんは脳内の出血を取り除く緊急措置がとられた。6日後、この患者は改めて死亡宣告を受けた。その間、意識を回復することはなかった。家族は、二度目の死亡宣告時に臓器提供はしなかった。
当ブログ注:脳血流検査が行われ脳血流が無いと診断された。

出典=息をした米の脳死患者 臓器摘出直前 体が動いた!!:朝日新聞、1990年10月26日付朝刊3面

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 マーガレット・ロックが面接した医師5名のうち1名が、研修医時代の経験として以下のように語った。

「私たちには、移植用の臓器を確保しなければならないというプレッシャーがあったと思います。私たちは無呼吸テストを30秒間行いましたが、自発呼吸はみられませんでした。それで、私たちはその患者をドナーとして手術室に送りました。ところが、手術室で人工呼吸器が外されたとき、彼は呼吸しはじめたのです。私たちは、ICUに戻されてきた彼のケアに努めました。結局彼は、2ヵ月後に死亡したのですが、私たちは悪夢を見ているような気がしました。弁解の余地のないこの事件が起きたのは、脳死に関するはっきりしたガイドラインのなかった70年代初めのことです。私はいつも研修医たちにこの話をし、けっして性急に判定を下してはならないと注意しています」

出典=マーガレット・ロック:脳死と臓器移植の医療人類学、みすず書房、196-197、2004

 


2,脳死なら効かないはずの薬=アトロピンが、脳死ドナーに投与されて効いた!

 脳死判定の補助検査にアトロピンテストがある。脈が遅くなった場合の治療薬として使われているアトロピンが効く患者は、脳が正常に働いている人だけ、という原理を用いる検査だ(アトロピンは迷走神経性徐脈に適応があるが、心臓迷走神経中枢は延髄にある)。
 患者の脳機能が正常ならばアトロピンを投与すると脈が速くなるため、脳死を疑われる患者に投与して「脈が速くなったら脳は正常に働いている」「脈が変わらなかったら脳に異常が生じている」と診断する。
 このためアトロピンが脳死患者に効かないことは、この薬剤を使う医師には常識だが、日本医科大学付属第二病院における法的脳死30例目では「(脳死ドナーの)徐脈時にはアトロピンは無効とされるが、我々の症例では有効であった」と報告された。

出典=大島正行:脳死ドナーの麻酔管理経験、日本臨床麻酔学会第24回大会抄録号付属CD、1-023、2004

出典=大島正行:脳死ドナー臓器摘出の麻酔、LiSA、11(9)、960-962、2004は「プレジア用のカニュレーションを行った際、心拍数40bpmという徐脈となった。アトロピン0.5㎎を投与したところ、心拍数は回復した」と記載している。

 

 伊勢崎市民病院における法的脳死582例目でもアトロピンが効き、「副交感神経系以外のM2受容体を遮断することで血圧上昇に寄与した可能性」が提示された。

出典=飯塚紗希:脳死下臓器摘出術の管理経験、日本臨床麻酔学会第39回大会抄録号、S292、2019

 

 そもそも薬が効かない患者と見込まれるのに、敢えて投与したことが異常だ。(「臨床麻酔」24巻3号に「脳死ドナーの麻酔管理」が掲載され、p514に脳死ドナーの徐脈について「とくに徐脈はアトロピンには反応しないので、直接心臓に対して作用するドパミンやイソプロテレノールを用いる」と書いている。「LiSA」11巻9号によると、大島正行は臓器摘出手術の前にこの文章を読んだ)
 もし脳死臓器摘出の現場で、ドナーにアトロピンを投与して効いたら脳死ではないことになり、臓器摘出は中止しなければならなくなるはずだ。臓器提供施設に臓器を摘出するために赴いた移植医が、施設側の脳死判定を確かめる検査を行い、そして脳死を否定することになる結果を得たならば、以後は臓器提供への協力を期待できなくなるであろう。
 こうした事情から、臓器摘出時にアトロピンを投与した理由は2つ考えられる。1つは「臓器を摘出する移植外科医が薬効そして人体生理に無知なため、本当に脳死ならば効かないはずの薬の投与を麻酔科医に指示してしまった。麻酔科医は外科医の指示に反論しなかった」、2つめは「臓器提供施設側の承諾の下に、臓器を摘出するドナーを薬物の実験台に使っている」。

 いずれにしても法的脳死30例目、582例目ともに、臓器摘出手術を中止することなく、移植用臓器の摘出を完遂しており、異様なことが行われたことに違いはない。

 


3,親族が臓器提供を承諾した後に、脳死ではないことが発覚した症例

横浜市立みなと赤十字病院例=51歳男性が突然の意識障害で心停止し小脳出血と診断。昏睡状態のままで瞳孔が散大し、脳幹反射がなく、自発呼吸、電気的脳活動がなく脳死状態と判断され、家族は臓器提供を選択。5日目に行われた最初の脳死判定の呼吸検査中に、腹式呼吸を繰り返す呼吸のような動きがあったため中止された。9日目の頭部の磁気共鳴画像では血流がないことを示し、体性感覚誘発電位検査では脳由来電位は示されなかった。家族は臓器提供を拒否し、患者は20日目に亡くなった。

出典=Shinichi Kida:Respiratory-like movements during an apnea test,Acute medicine & surgery,11(1),e959,2024
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ams2.959

注1:この症例報告は、脳死が否定されたとは断定していないが、否定される可能性もある旨を書いている。結論の原文は以下。
(CONCLUSION Respiratory‐like movements can occur during the apnea test in patients considered to be brain dead. This phenomenon may be associated with cervical spinal activity. Further investigation is warranted to clarify this possibility.)

 

注2:正式な脳死臓器提供の承諾手続きは法的脳死の宣告後に行われるものであるが、実際には
A: 「臓器提供を見据えた患者評価・管理と術中管理のためのマニュアル」により法的脳死判定の前から臓器提供目的の処置が行われることがあり、医師の脳死見込みが実質的な脳死判定になっていることがある。また、
B:無呼吸テストを行わない診断を「一般的な脳死判定」として終末期と診断し生命維持を打ち切ったり、心停止後の臓器提供(生前カテーテル挿入の許容など)を行う医療現場の実態がある。
 このため本症例は手続き上は「脳死とされうる診断の誤り」だが、前記AやBの実態から脳死判定の誤りと同等の症例として、ここに掲載した。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  米国ノースカロライナ州の牧師ライアン・マーロウさん(37歳)は、リステリアに感染しアトリウム・ヘルス・ウェイクフォレスト・バプテスト医療センターに入院、約2週間後の2022年8月27日(土)に脳死と宣告されたが、臓器が摘出される8月30日(火)に家族は足の動きを認め、その後、脳血流が確認され臓器提供は中止された。昏睡状態だが妻が話しかけると心拍数が上昇した。

 脳死ではないことがわかった時刻について「臓器摘出の数分前」とした報道もある。一方、9月1日付のチャーチリーダーズの記事Pastor’s Wife Says Husband Pronounced Dead Is Actually Alive: ‘I Need Ya’ll To Go to Church and Pray’ https://churchleaders.com/news/433243-north-carolina-pastor-wife-dead-alive-pray.html は「月曜日の夜、ミーガンは医師から電話を受け、医師は専門家パネルが間違いを発見し、ライアンは脳死ではないと言いました。彼女がその意味を尋ねると、医師は『彼女の夫がまだ本質的に脳死であるが、病院はライアンの死亡時刻を、土曜日から臓器を摘出する火曜日に変更する』と説明した(Monday evening, Megan received a call from the doctor who said that an expert panel had discovered there was a mistake and that Ryan was not brain dead. When she asked what that meant, the doctor explained her husband was still essentially brain dead, but the hospital would change the time of death from Saturday to Tuesday when Ryan went to have his organs removed)」 

 

 以上で記事の引用が終わり、次の5行は当ブログの仮説です。
 チャーチリーダーズの記事にもとづくと、病院側が8月27日(土)にライアン・マーロウさんに脳死宣告をしたものの、その後に脳死ではないことを確認したため、心停止後の臓器提供に方針を変更し、その旨を8月29日(月)に妻のミーガンさん説明したと推測される。なぜならば死亡時刻を脳死宣告した8月27日(土曜日)ではなく、臓器を摘出する8月30日(火曜日)に変更するとは、人工呼吸など生命維持を停止して心停止をもたらした時刻を死亡時刻とすることと見込まれるからだ。
 しかし、医師が「まだ本質的に脳死である(still essentially brain dead)」と説明した事も影響したのか、妻のミーガンさんは混乱しながらも「夫が脳死である、火曜日に脳死臓器提供を行うんだ」と引き続き思い込んでいた。そこに火曜日当日、足の動き、心拍上昇をみてミーガンさんは脳死ではないことを確信して臓器提供にストップをかけたのではないか?
 臓器提供に前のめりで重症患者の家族への説明に言葉が足りない病院、重篤で社会復帰困難な患者への致死行為を最善の利益とみなす医師、意識障害と脳死の違いに知識が少ない・無頓着な米国民の認識、などの要因が重なり、ドナー候補者家族には臓器摘出直前に脳死ではないことが認識されたのではないか?

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 英国・リークで2021年3月13日、ルイス・ロバーツさん(18歳)は自動車にひかれてロイヤル・ストーク大学病院で緊急手術を受けたが、3月17日に脳幹死が宣告され、家族は臓器提供に同意した。即時の生命維持装置の停止も可能だったが、家族は翌朝7時まで待つことにした。姉がベッドサイドに座り、ルイスさんに「1、2、3を数えた後に呼吸するように」と頼んだ。モニターに呼吸を示す4つの茶色の線に気づき、3月18日の午前3時30分頃に医師により自発呼吸が確認された。
当ブログ注:脳幹死宣告のため脳波は測定していないと見込まれる。

出典='Miracle' teen injured in crash still fighting days after being 'officially certified dead' 
https://www.stokesentinel.co.uk/news/stoke-on-trent-news/miracle-teen-injured-crash-still-5223255?_ga=2.174475946.96428472.1616800965-2124080866.1616800916

 

2021/9/24 ルイス・ロバーツさんは6か月後、母親に「お母さん、愛してる」と会話

 ルイス・ロバーツさんは2021年7月11日に19歳になり、先週末'Mum, I love you.... you're the best'と完全な会話をした。

出典=Miracle teen's first heart-melting words six months after being 'certified dead'
https://www.stokesentinel.co.uk/news/stoke-on-trent-news/miracle-teens-first-heart-melting-5958854

 

 2025年1月17日、上記の症例報告はClinical Research and Clinical Reportsに掲載された。
Brainstem Death Diagnosis Revisited: Lessons from a Case Report,Clinical Research and Clinical Reports
https://clinicsearchonline.org/article/brainstem-death-diagnosis-revisited-lessons-from-a-case-report

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 米国ニューヨーク州立アップステート医科大学病院に入院した脳内出血の59歳男性、脳死判定のうち無呼吸テストは安全でないと判断され、SPECT(単光子放射型コンピューター断層撮影法)で頭蓋内に血流がないことを確認。家族が臓器提供に同意し脳死宣告されたが、翌朝、咳反射、断続的な自発呼吸、侵害刺激への反応も確認。家族は脳死ではないことを知らされたが、新たな決定がなされる前に患者は心停止した。
当ブログ注:無呼吸テストは行っていないが脳血流なしとして脳死判定された。

出典=Julius Gene S. Latorre: Another Pitfall in Brain Death Diagnosis: Return of Cerebral Function After Determination of Brain Death by Both Clinical and Radionuclide Cerebral Perfusion Imaging, Neurocritical Care,32, 899–905,2020
https://link.springer.com/article/10.1007/s12028-020-00934-2(画面左下のRead full articleをクリックすると全文が読める)

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 2017年12月26日、ブライアン・ヒールさん(50歳)は階段から転落し英国サマセット州のヨービル地区病院に搬送され脳幹死と診断。臓器提供者として登録していたため人工呼吸器で管理したところ回復の兆しを見せ、2018年2月12日に昏睡から脱却しはじめた。2018後半にリハビリを終える予定。
当ブログ注:脳幹死宣告のため脳波は測定していないと見込まれる。

出典=Lonardo worker from Sherborne making miracle recovery after suffering massive brain injury
https://www.somersetlive.co.uk/news/somerset-news/leonardo-worker-sherborne-makes-miracle-1511883

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 2015年1月、テキサス州のジョージ・ピッカリング氏は息子が脳死とされた。医師が人工呼吸の停止を計画、臓器提供の手配も進められていたことに抗議して病院に拳銃を持って立てこもった。3時間の間に、息子は父親の指示に応じて数回、父親の手を握り、脳死ではないと確認できたため警察に投降した。
当ブログ注:脳死判定の詳細は記事では不明。

出典=2016年8月10日放送「ザ!世界仰天ニュース 息子を守りたい父親の大事件」
https://www.ntv.co.jp/gyoten/backnumber/article/20160810_03.html

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 2014年3月5日、ミシガン州のデレク・ファフさん(当時19歳)は散弾銃で自分の顔を撃ち、フリントのハーレーメディカルセンターで医師は家族にデレクさんが脳死状態であると告げた。デレク・ファフさんは臓器提供のためにデトロイトのヘンリーフォード病院に移送されたが、そこで脳死ではないことが判った。
 その後の10年間に58回の顔の再建手術を受け、そして2024年2月にメイヨークリニックで顔面移植手術を受けた。

出典:2024年12月1日付CATHOLIC REVIEW記事
Family sees God’s hand in son’s survival after suicide attempt, successful face transplant
https://catholicreview.org/family-sees-gods-hand-in-sons-survival-after-suicide-attempt-successful-face-transplant/

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 2010年10月8日、ブルックリンでエミリー・グワシアクスさん(21歳)はトラックにはねられ、ベルビュー病院に搬送された。第2病日、母親は看護師から「娘さんは亡くなられた」と聞かされた。臓器提供に同意後、母親がエミリーに話しかけている時に、エミリーは左手を上げた。
当ブログ注:脳死判定の詳細は記事では不明。

出典=Hit by a Truck and Given Up for Dead, a Woman Fights Back
http://www.nytimes.com/2010/12/22/nyregion/22about.html(プレビュー)

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 3カ月前から中耳炎だった26歳男性は昏睡状態となり、クイーンエリザベス2世健康科学センターにてCTで脳膿瘍が確認され、昏睡発症後7時間で無呼吸も確認され脳死と診断。家族は臓器提供に同意した。血液培養で48時間後に臓器提供の適格性を再評価することになった。脳膿瘍が臓器提供に影響しうるか確認するために、脳死宣告から2時間後にMRIを撮ったところ脳血流があった。患者は昏睡発症から28時間後に自発呼吸が確認された。自発呼吸以外の神経学的検査の結果は以前と同じで、患者は臓器提供者リストから外された。5日後、自発呼吸は弱まり心臓死した。


出典:Derek J. Roberts MD:Should ancillary brain blood flow analyses play a larger role in the neurological determination of death?,Canadian Journal of Anesthesia,57(10),927–935,2010
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs12630-010-9359-4 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 マクマスター大学病院において37週で出生した女児が、生後41時間後にカナダの脳死判定基準を満たした。無呼吸テストで動脈血二酸化炭素分圧を54mmHgまで上昇させて自発呼吸がなかった。米国の移植組織により心臓の利用が検討され、米国の脳死判定基準(無呼吸テスト時に動脈血二酸化炭素分圧を60mmHgまで上昇させる)にもとづいてテストされた。女児は動脈血二酸化炭素分圧が59mmHgまでは無呼吸だったが、その後64mmHgに上昇するまでしっかりと呼吸をした。臓器提供の同意は、両親により撤回された。

出典=Simon D.Levin:Brain death sans frontiers, The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE,318(13),852-853,1988
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM198803313181311(プレビュー)

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ピッツバーグ大学関連施設

 あるときニューヨークから若い脳腫場の患者が、瀕死のレシピエントに肝臓を提供するために飛行機で運ばれてきた。レシピエントはすでに手術室の控え室でスタンバイしていた。移植チームも招集ずみだった。事前の組織と血液型の検査によると、適合の度合もすばらしかった。ただひとつ、ささいな問題があった。ドナーがまだ脳死状態ではなかったのだ。ジュニア・レジデントのデイヴがわたしの家に電話をかけ、痛みをともなう刺激に除脳硬直を起こしていると言ってきた。
 (中略)
 わたしはすぐに患者をスキャンするようデイヴに言って、その生き返ったラザロを見に駆けつけた。
病院に着いてみると、ドナー予定者は脳神経外科にもどされ、移植フェローのチームにとりかこまれていた。デイヴがX線のシャスカーテンの前に立ち、CTスキャンを見つめていた。
「この”ドナー”にはでかい小脳腫瘍がありますね」デイヴが声をひそめて言った。「助けられるかもしれませんが、なにしろハゲタカどもがここに集まってて」わたしたちが移植外科医につけたあだ名は、脳死の迫った患者を嗅ぎつける彼らの薄気味悪い能力に由来している。連中は毎日のようにICUのまわりを旋回しているのだ。
 「ハゲタカどもはほっとけ、わたしが追い返す……患者を階下に連れていって、腫瘍をとっちまおう。どうせ、マサチューセッツ総合病院とかから来たんだろう?」
 「よく覚えてません。郊外のなんとかいう街のどこかで……向こうじゃ家族には、がん性の腫瘍で死んだも同然だと言ったらしいです。もちろん家族はニュースとかで移植手術のいい話をさんざん聞かされてたもので、進んで臓器を提供したがったんです。なかなか見上げた姿勢だけど、ちょっと時期尚早でしたね」
 わたしは移植チームのほうに近づいていった。「すまないがみなさん、マーク・トウェインの文句を言いかえれば、この男の死ははなはだ誇張されている。われわれが世話をするよ。では、またつぎの機会に」
 「ばか言え」移植フェローのひとりが毒を吐きちらした。「あいつを見ろ、除脳硬直じゃないか、もうすぐ死ぬに決まってる。われわれは一時間かそこらは待つ、このままひきさがるものか」
 「きみらはどこかの脳神経外科で研修してきたのか、博識な友人たち? 後頭蓋窩(こうとうがいか)腫瘍による除脳硬直は、きみらが思ってるほど不吉なものじゃない。このニューヨークの友人は、あすの朝には卵を食べていられるだろうさ」
 「経鼻胃管から脳圧降下剤を食うってことだろうが。脳死したやつは見ればわかる、こっちは階下(した)に肝臓疾患の女性を待たしてるんだ」
 「こいつはモンティ・パイソンの冗談かなにかか?彼はまだ死んでいないし、きみらが彼を連れていくことはできない。だからとっとと失せろ」
 一団がぞろぞろ部屋から出ていった。その夜わたしたちはニューヨークから来た患者の腫瘍を摘出し、彼は一週間後に歩いて病院を出ていった。


出典=フランク・ヴァートシック・ジュニア著/松本剛史訳:「脳外科医になって見えてきたこと」、草思社、1999年、p292~p294

引用者注:著者は1955年生まれでピッツバーグ大学医学部に入学、上記の出来事は著者が同大学脳神経外科のチーフ・レジデントとなってからの事だ。本文p290で「わたしたちのセンターは当時もいまも、ほかには類を見ない優秀な移植センターでもあるのだが」と書かれているため、上記は1980年代のピッツバーグ大学関連施設におけることと推測される。なお、プライバシーを守るために、人名の全てそして実話の一部は変えていることがp12に記載されている。

 

 

4-1を新しいウィンドウで開く 4-3を新しいウィンドウで開く 4-4を新しいウィンドウで開く


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

臓器提供の承諾後~臓器摘出の手術中に脳死ではないことが発覚した症例、疑い例および統計 4-3

2025-08-22 08:43:54 | ニュース・文献の概要

臓器提供の承諾後~臓器摘出の手術中に脳死ではないことが発覚した症例、疑い例および統計

4-3

4-1の見出し

1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に、脳死ではないことが発覚した症例

4-2の見出し

1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に、脳死ではないことが発覚した症例(前ページからの続き)
2,脳死なら効かないはずの薬=アトロピンが脳死ドナーに投与され効いた!
3,親族が臓器提供を承諾した後に、脳死ではないことが発覚した症例


4-3(このページの見出し)

4,親族が脳死臓器提供を拒否した後に、脳死ではないことが発覚した症例
5,脳死判定の誤りが発覚した頻度は、米国で臓器摘出直前に1~5%、日本および韓国では親族の臓器提供承諾後に1.2%前後
6,脳死とされた患者の長期生存例(妊娠の継続・出産、臓器提供、異種移植実験などに伴う脳死宣告から1カ月以上の長期生存例)

4-4

7,「脳死とされうる状態」と診断されたが、家族が臓器提供を断り、意識不明のまま人工呼吸も続けて長期間心停止せず生存している症例
8,「麻酔をかけた臓器摘出」と「麻酔をかけなかった臓器摘出」が混在する理由は?
9,何も知らない一般人にすべてのリスクを押し付ける移植関係者
10,脳死判定を誤る原因 

 


4,親族が脳死臓器提供を拒否した後に、脳死ではないことが発覚した症例

 生来健康な生後17ヵ月の女児は、重度の熱性痙攣で国立成育医療センターの集中治療室に転送され急性脳症と診断された。発症から17日目に、無呼吸テストを除く臨床的脳死の診断で、日本臓器移植ネットワークのコーディネーターが家族に臓器提供の説明をした。
 家族が臓器提供を拒否して2週間は神経学的所見は変化しなかったが、急性脳症の発症から約5週間後に自発運動が始まった。
・これらの動きには、刺激なしで足底の屈曲と同期して4本の手足すべてが軽く痙攣することが含まれていた。この動きは、呼吸器の吸気相と一時的に同期した。
・つま先と指の刺激には、股関節と膝関節の屈曲を伴う動きのような引っ込め反射が含まれる。
・患者の姿勢は股関節外転を伴うカエルのようなものであったが、股関節内転や膝屈曲などの姿勢変化が観察された。
・顔面刺激(例えば、柔らかいティッシュペーパーでまぶたや角膜に触れる、または眼窩上を圧迫する)は、膝関節の伸展または足首関節の屈曲を誘発した。
・上肢は時々、瞬間的に重力に逆らって持ち上げられた。
・膝蓋骨腱反射テストは、上肢および反対側の下肢に行い、上肢の刺激は、両方の下肢のけいれんを引き起こした。
・医師らは家族に、患児はもはや「脳死」ではないことを説明した。なぜなら、脳幹起源の体動があったからだ。
 入院45日後に当院を退院した患者は、急性脳症の発症時に最初に治療を受けていた島田療育センターに戻り、在宅療養を準備した。彼女の全身状態と神経学的所見は、当院退院後12か月を超えても有意に変化せず、彼女は呼吸器に依存したままであり、胃瘻チューブを介して栄養補給されていた。患者は時折、自発的に体動した。しかし、彼女の脳波は平坦だった。発症から 16カ月で、患者は肺炎と尿路感染症による多臓器不全で亡くなった。

出典=Masaya Kubota:Spontaneous and reflex movements after diagnosis of clinical brain death: A lesson from acute encephalopathy, Brain & Development,44(9),635-639,2022
https://www.brainanddevelopment.com/article/S0387-7604(22)00103-6/fulltext(抄録)

 


5,脳死判定の誤りが発覚した頻度は、米国で臓器摘出直前に1~5%、日本および韓国では親族の臓器提供承諾後に1.2%前後

米国

 ワシントン大学、フロリダ大学、アーカンソー医科大学、ボストン大学、ニューヨーク大学の研究者が2023年6月から9月にかけて、米国の57の臓器調達機関すべてに「神経学的基準による死亡の検証」についての電子調査を送付した。28機関は調査参加の要請に反応しなかった。調査全体を完了したのは米国の6地域における12の臓器調達機関。

 臓器調達機関に潜在的な臓器提供者を報告するreferral hospitals数は21~50病院が3機関、50病院以上が8機関。referral hospitalsから報告を受けた脳死症例について、最終的に臓器調達機関が脳死宣告を覆したことは、12機関のうち10機関が経験していた。脳死宣告が取り消された症例数は、5例未満が3機関、Fewが7機関、Neverが2機関。

 臓器調達機関が、2010 年基準(2010 American Academy of Neurology Practice Parameter)または神経学的基準による死亡の病院ポリシーを満たしていないという懸念から、潜在的な臓器提供者を拒絶した経験があるのは6機関。拒絶事例の頻度は年間1例未満が6機関、Neverが5機関、Uncertainは1機関だった。

出典:Neurocritical Care電子版、2024年5月15日付 Verification of Death by Neurologic Criteria: A Survey of 12 Organ Procurement Organizations Across the United States
https://link.springer.com/article/10.1007/s12028-024-02001-6(抄録)

 

 p69(187) 豊見山直樹医師の発言=「アメリカの移植に携わるコーディネーターの方と話をしたときに、ラフな運用と感じました。人工呼吸器をはずした際は、自発呼吸し始めたのが数パーセント、5 %近くあるんだよという話を聞きました」。

出典=玉井修:座談会・移植医療について、沖縄県医師会報、47(2)、178-197、2011
https://archive.okinawa.med.or.jp/old201402/activities/kaiho/kaiho_data/2011/201102/pdf/060.pdf

 

 神戸生命倫理研究会による米国心臓移植実態調査報告(1988年)、スタンフォード大学ドナー・コーディネーターのM・ブラウンによると、外科医レジデント・手術場ナース・ドナーコーディネーター等5人1チームで臓器を取りに行くが、過去5年間に約300の臓器調達経験の中で3例の「早すぎた脳死判定」があり、いったん行ったが、引き返したこともある。

出典=神戸生命倫理研究会:脳死と臓器移植を考える(メディカ出版・1989年)、p187~p221

 

 1979年3月1日から1985年3月1日までに223例のドナーがアリゾナ大学付属病院に登録された。そのうち62例が受け入れられ、残りの161例が拒否された。
心臓移植ドナー拒否の理由は、該当レシピエントなし(ABO不適合)50例(31%)、家族の拒否17例(11%)、血行動態の不安定15例(9%)、輸送上の問題16例(10%)、臓器提供前の死亡8例(5%)、記載なし7例(4%)、心停止6例(4%)、敗血症6例(4%)、脳活動あり6例(4%)、その他30例(18%)。

出典=Burnell R.Brown, Jr編、武田純三ほか:麻酔と臓器移植(真興交易医書出版部、1992年)、p100~p101

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

イラン

 イランのテヘランでは「脳死が正式に確認され、家族が2回目の同意を与えると、臓器は臓器調達部門の手術室で摘出される。手術室に行くことが100%確実な場合に、死亡したドナーのみを臓器調達部門に移送する」という運用だが、2016年から2018年に臓器調達部門に移送された685人の潜在的脳死ドナーうち1人が脳死と確認できなかったため臓器提供に至らなかった。

出典=Masoud Mazaheri: Failed Organ Donations After Transfer to an Organ Procurement Unit, Experimental and clinical transplantation,17(1),128-130,2019
http://www.ectrx.org/forms/ectrxcontentshow.php?doi_id=10.6002/ect.MESOT2018.O79

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

韓国

 Korea Organ Donation Agencyのデータによると、2013年から2017年に、家族から脳死臓器提供の承諾を得た後に2761人のうち35人=1.3%(35/2761)が脳死ではなかった。

出典=Yong Yeup Kim: Organ donation from brain-dead pediatric donors in Korea:A 5-year data analysis(2013-2017),Pediatric transplantation,e13686,2020
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/petr.13686(抄録)


 韓国では「意識障害がGCSスコア4未満で、不可逆性脳傷害を伴う昏睡状態で人工呼吸器を用いた自己呼吸がない患者」を潜在的脳死ドナーとしている。
Korea Organ Donation Agencyのデータによると、2012年1月から2016年12月までに潜在的脳死ドナーは8120人あり、このうち1232人が脳死ではなかった。2718人の家族から脳死臓器提供の承諾を得られた。最初の脳死判定(7つの脳幹反射と無呼吸テストを実施するが脳波検査は含まない)をパスしレシピエント決定手続きが開始された適格ドナーは2527人だったが、14人が第2回脳死判定をパスせず、18人が脳波検査をパスせず、1人が脳死判定委員会をパスしなかった。2400人が実際に脳死臓器ドナーとされたが、うち1人が脳死ではなかった。
=親族から脳死臓器提供の承諾を得た後では1.3%(34/2718) が脳死ではなかった。臓器摘出手術の直前または臓器摘出術中に0.04%(1/2400)に脳死ではないことが発覚した。

出典=Kim Mi-im:Causes of Failure during the Management Process from Identification of Brain-Dead Potential Organ Donors to Actual Donation in Korea: a 5-Year Data Analysis (2012-2016),Journal of Korean Medical Science,33(50),e326,2018
https://jkms.org/DOIx.php?id=10.3346/jkms.2018.33.e326

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

日本

 2021年4月21日に開催された第53回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会の「資料1 臓器移植対策の現状について」https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000770822.pdfは、p17に「ドナー情報の分析(2016年~2020年)」を掲載した。臓器提供に至らなかった理由を10分類=「家族辞退」「急変」「医学的理由」「感染症」「判断能力確認できず」「本人拒否の意思表示」「虐待の可能性否定できず」「司法解剖」「施設都合」「その他」に分けて掲載している。脳死診断の取り消し例または脳死宣告の取り消し例は、この「その他」に分類されていると見込まれる。



 ドナー適応あり1226名のうちでは「その他」は3.5%(43/1226)。コーディネーターによる臓器提供の説明は745名の家族に行われたうち「その他」は2.0%(15/745)。臓器提供の承諾が573名の家族から得られたうち「その他」は1.2%(7/573)となる。

 

 「その他」とされている43名は、脳死診断の誤り例または脳死宣告の取り消し例なのか。関係施設から裏付ける報告がある。

・2008年開催の第53回日本透析医学会学術集会・総会で伊勢まゆみ氏(柏友クリニック)は「40歳女性、透析歴19年、移植直前にドナーの脳死判定が覆り、見送りとなる」と発表した。

出典=伊勢まゆみ:透析サテライトにおける腎移植 6症例から学んだこと、日本透析医学会雑誌、41(supple.1)、643、2008

 

・2011年6月開催の第24回日本脳死・脳蘇生学会総会・学術集会シンポジウム「改正臓器移植法 1年の検証」において、鹿野 恒氏(市立札幌病院救命救急センター)が「世の中では聞いているとよくあるんです、脳死だろうということでオプション提示をしてしまって、コーディネーターまで来て承諾書まで作っているのに、あとから自発呼吸が出てきて植物状態になって転院していったと。何のための承諾書かわからないですね。死を前提とした承諾書なのに、その第一段階を間違えているわけです。」と発言した。

出典=シンポジウム「改正臓器移植法 1年の検証」、脳死・脳蘇生、24(2)、71-112、2012

 

 このように脳死臓器提供が中止されたケースは発生している。次の情報は臓器移植コーディネーターが書いて日本臓器保存生物医学会誌に掲載済みのものだ。

 東京都臓器移植コーディネーターの櫻井悦夫氏が、1995年4月から2017年3月までの約22年間に東京都内のドナー情報の連絡を受けて対応を開始した424例のうち、家族説明は341例に行い、245例から承諾を得て、実際の臓器摘出は201例(心停止後136例、脳死下65例)であった。家族説明後に96例は臓器提供の承諾を得らなかった。このうち5例は植物状態に移行したため家族対応を中止した(表7)。さらに245例の家族が提供を承諾したうち44例が提供に至らなかった。うち1例は植物状態に移行したためだ(表8)。

 結局、臓器移植コーディネーターによる臓器提供の選択肢が行われた341例のうち、計6例(5+1)が植物状態に移行したため臓器提供に至らなかった。これは死後の臓器提供の選択肢が提示された57例当たり1例(341/6)で死亡予測を誤ったことになる。

 この論文は中止理由について、脳死下の臓器提供と心停止後の臓器提供を区別せずに記載している。しかしp10で「コーディネーターに臓器提供についての家族対応の要請が入るということは,その方は近い将来に『亡くなる』と言う診断がされていることを意味している。(中略)ほとんどの臓器提供候補者は突然の発症と急展開の経過において『脳の不可逆的な障害状態』にある点である。脳の機能は失われているが、臓器の機能は失われていない状態にあり、それでも死が切迫している事実を知らされる点である」とした。
 「脳の不可逆的な障害状態」そして「死が切迫している事実を知らされる」から、患者家族に脳死の説明をしたと判断される。

出典=櫻井悦夫:臓器移植コーディネーター 22年の経験から、Organ Biology、25(1)、7-25、2018
https://www.jstage.jst.go.jp/article/organbio/25/1/25_7/_pdf/-char/ja

 

 以上の各情報から、日本でも親族から臓器提供の承諾を得たものの、後に脳死判定の誤りが発覚した症例の存在が確信できる。(痛み刺激への反応や自発呼吸そして意識回復などの明確な反応が観察されないために、誤診に気づかれずに、脳死として生体解剖されてしまった症例のあることも、前記のアトロピン有効例ほかから推測される)

 


6,脳死とされた患者の長期生存例(妊娠の継続・出産、臓器提供、異種移植実験などに伴う脳死宣告から1カ月以上の長期生存例)

 脳死について、日本臓器移植ネットワークは臓器提供の選択肢を重症患者の家族に提示する際に用いる文書「臓器提供についてご家族の皆様方にご確認いただきたいこと」 https://www.jotnw.or.jp/files/page/medical/manual/doc/family_1_jp.pdf
は以下をp4に記載している。
 “脳死とは、呼吸などを調節している脳幹という部分も含めて脳全体の機能が停止し、もとには戻らない状態をいいます。脳死になると、意識は完全に失われ、痛みや外からの刺激にも反応せず、自分の力では呼吸もできません。人工呼吸器などの助けによって、しばらくは心臓を動かし続けることもできますが、やがては心臓も止まってしまいます。”

 日本臓器移植ネットワークのサイト内「よくある質問 Q脳死後と心臓が停止した死後の臓器提供の違いを教えてください」https://www.jotnw.or.jp/faq/detail.php?id=17
では、答えは「脳死になると、人工呼吸器をつけていても、数日後には心臓が停止します(心停止までに、長期間を要する例も報告されています)。」 
 
 ところが日本臓器移植ネットワークの横田裕行理事長は、2015年に日本医科大学教授(救急医学)だった時に「現在は、脳死患者でも呼吸管理や循環管理を積極的に行い、感染症予防や栄養管理などに留意すれば『長期にわたる心拍動の維持は可能』という見解が一般的である」と書いている。 
出典= 荒木 尚、横田裕行:小児救急と脳死、小児科、56(4)、405-412、2015

 

 近年の脳死判定された患者における月単位、年単位の生存例を以下に示す。

 

長期生存+臓器提供例

 東京歯科大学市川総合病院では、6歳未満の小児について、虐待が否定されるために家族の承諾が発症後から1年後となり、その後も県警・検察との協議を要し脳死発症から約3年を経て臓器提供意思に至った。 
出典=伊藤総江:脳死下臓器提供までに長期間を要した小児の事例を経験して、脳死・脳蘇生、37(1)、64、2024

 

 アラブ首長国連邦のクリーブランドクリニック・アブダビでは、2017年10月1日から2022年10月1日までに、脳死宣告から1週間以降の臓器提供が10例あった。内訳は脳死宣告から30日後が1例、29日後が1例、14日後が1例、10日後が2例、9日後が1例、8日後が1例、7日後は3例。文末の結論は「Our study demonstrates that, in extenuating circumstances, it is possible to preserve viability of donor organs for several weeks after brain death and successfully perform organ procurement surgery(私たちの研究は、酌量すべき状況では、脳死後数週間ドナー臓器の生存能力を維持し、臓器調達手術を成功させることが可能であることを示しています)」
出典=Haamid Siddique:Late organ procurement as much as 30 days after brain death,Transplantation,107(10S1),3,2023
https://journals.lww.com/transplantjournal/fulltext/2023/10001/115_3__late_organ_procurement_as_much_as_30_days.3.aspx

 

長期生存+人体実験例

 ニューヨーク大学ラングーンヘルスは、2023年7月14日に遺伝子操作されたブタの腎臓を脳死状態の57歳男性に移植した。61日間の観察の後、9月13日に所定の終了日に達し、腎臓は除去され、人工呼吸器が外され、遺体は家族に戻された。本症例より前に同施設が行った遺伝子操作ブタ腎臓のヒト「脳死」者への移植2例では、ともに観察時間は54時間だった。今回の3例目では、以前は観察されていなかった軽度の拒絶反応が認められた。
出典=Two-Month Study of Pig Kidney Xenotransplantation Gives New Hope to the Future of the Organ Supply
https://nyulangone.org/news/two-month-study-pig-kidney-xenotransplantation-gives-new-hope-future-organ-supply

 

長期生存+出産例

 米国ジョージア州のエモリー大学病院で妊娠9週目のアドリアーナ・スミスさん(当時30歳)は2025年2月に脳死と宣告され、2025年6月13日に帝王切開で約822グラムの男児を出産、スミスさんは17日に生命維持装置を取り外された。
出典=2025年6月19日付AFP通信記事
脳死女性が出産、中絶制限法により生命維持 米ジョージア州
https://www.afpbb.com/articles/-/3584221

 ジョージア州法では妊娠6週以降の中絶を禁止している。エモリー大学病院の医師は、患者家族に中絶が禁止されているため人工呼吸の停止は許可されていないと伝えていた。一方、5月19日付の各メディアは、ジョージア州のクリス・カー司法長官が「州法は病院が彼女を生かし続けることを要求していないと報じた。
出典:2025年5月19日付AP通信記事
Disturbing new development in case of brain-dead Georgia mom being kept on life support until she gives birth
https://apnews.com/article/pregnant-woman-brain-dead-abortion-ban-georgia-a85a5906e5b2c4889525f2300c441745

 

 米国フロリダ大学医学部付属病院、妊娠13週の31歳女性では胎児への影響を考慮して無呼吸テストは行わなかったが脳スキャンで3分間の静的画像を得て脳死宣告した。妊娠33週に帝王切開で2142グラムの女児を出産、母親への人工呼吸は停止、女児は5日後に退院した。
出典=Natalia Moguillansky: Brain Dead and Pregnant,Cureus,15(8),e44172,2023
https://www.cureus.com/articles/176169-brain-dead-and-pregnant#!/

 

 ドイツのハインリッヒ・ハイネ大学病院、妊娠17週の29歳女性が自動車事故で1週間後に脳死判定された。妊婦は感染症、肺炎などあったが、5か月後に満期で健康な赤ちゃんを出産。心臓、肝臓と腎臓が移植のために摘出された。
出典=Payam Akhyari:Successful transplantation of a heart donated 5 months after brain death of a pregnant young woman,The Journal of Heart and Lung Transplantation,38(10),1121,2019
https://www.jhltonline.org/article/S1053-2498(19)31553-0/fulltext(抄録)

 

 ドイツのジュリウス・マクシミリアン大学病院では、交通事故で28歳女性が脳死と判定され、25週後に経腟分娩し、移植用に心臓、腎臓、膵臓が摘出された。
出典=Ann Kristin Reinhold:Vaginal delivery in the 30+4 weeks of pregnancy and organ donation after brain death in early pregnancy,BMJ case reports, 30,12(9),e231601,2019
https://casereports.bmj.com/content/12/9/e231601(抄録)

 

 熊本大学病院で妊娠22週の32歳女性を脳死と判定(正式な無呼吸テストは低酸素の懸念から行わなかった)、妊娠33週で経腟分娩(自然分娩)し、翌週に無呼吸テストで自発呼吸の無いことを確認した。8週間後に転院、約1年後に死亡した。
出典=(日本語)今村裕子:妊娠33週で自然経腟分娩にて生児を得た脳死とされうる状態の妊婦の1例、日本周産期・新生児医学会雑誌、52(1)、94-98、2016
   (英語)Kinoshita Yoshihiro:Healthy baby delivered vaginally from a brain-dead mother, Acute Medicine & Surgery,2(3),211-213,2015
   https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ams2.95

 

 脳死の一般向け説明として「脳死になったら数日のうちに心臓も止まる」がある。しかし脳死出産は、脳死と判定された患者の中に数日間以上、生命維持が可能な患者がいること。加えて生命体の特質=子孫を残すことができる患者もいること・・・死んではおらず生きていることを示す。

 脳死出産について、竹内は2002年に「(世界中から)ほぼ年に1例弱の頻度で報告されている。脳死判定後の生命維持期間は1~107日で記載の明らかな11例の平均は56日、11例の出産方法はすべて帝王切開、脳死出産後の臓器提供は3例(生命維持期間は44日間、54日間、100日間)」としたが、竹内が記載した以外で2002年より前に日本国内だけでも他に4例の脳死生産、1例の脳死死産が確認できる。
出典=竹内一夫:脳死出産、産婦人科の世界、54(6)、551-558、2002

 近年は上記のように生命維持期間は長期化した症例が報告されている。経腟分娩例も前記ジュリウス・マクシミリアン大学病院例、熊本大学病院例のほかに新潟大学病院例がある。
出典=
 佐藤芳昭:脳死患者より経腟分娩例について、母性衛生、24(3~4)、48-49、1983

 

脳死とされても心停止に至らない患者が増えた要因は「脳死判定基準の変更」

 「脳死になったら数日のうちに心臓も止まる」という認識は、1980年代前半までの脳死とされた成人患者の現実を反映しており、根拠となる統計は1974年の日本脳波学会基準により脳死判定された患者の心停止までの期間のデータ「脳死に関する研究班59年度報告書」 と見込まれる。同報告書によると、1974年の日本脳波学会基準を充分満たす228人のうち、人工呼吸器を停止しなかった167人の脳死期間(脳死またはその疑いが濃いと判定した時から心停止までの期間)は平均4.28日だった。初日に約29%、3日までに58%、7日までに86%、14日までに96%が心停止した。最長は32日だった。
出典=脳死に関する研究班:脳死に関する研究班59年度報告書(下)、日本医事新報、3188、112-114、1985

 ところが1985年に脳死判定基準が変更され、その後は成人の脳死患者の心停止までの期間の全国的な統計調査は行われていない。「脳死になったら数日のうちに心臓も止まる」という認識は、根拠がないことになる。(6歳未満の小児については、厚生省“小児における脳死判定基準に関する研究班”平成11年度報告書が、脳死判定時より心停止に至るまでの期間は7日以上生存が52.6%、30日以上生存が21.6%。このうち無呼吸テスト2回以上実施、神経学的検査2回以上実施の第Ⅰ群では7日以上生存が70%、30日以上生存が35%と長期生存傾向を報告している。出典:小児における脳死判定基準、日本医師会雑誌、124(11)、1623-1657、2000)

 脳死判定基準は1974年の日本脳波学会基準、1985年の厚生省基準、1991年の厚生省基準と変わってきた。細かな規定では臓器移植法制定後も変更はあるが、大きな変更はこの3基準だ。主な変更点は3つ。

  1. 脳死判定対象を「1974年日本脳波学会基準は脳死判定対象を一次性脳障害に限定」だったが、「1985年厚生省基準は一次性脳障害、二次性脳障害を問わず判定の対象」に拡大した。
  2.  急激な低血圧の確認は、「1974年日本脳波学会基準は急激な低血圧を確認する」だったが、「1985年厚生省基準は急激な低血圧は確認しない」とした。
  3.  無呼吸テストは「1974年日本脳波学会基準は人工呼吸器を3分間止める」だったが、「1985年厚生省基準は10分間人工呼吸を止める。この間、毎分6リットルの100%酸素を気管内チューブを介して流す」、さらに「1991年厚生省基準は人工呼吸を止めて動脈血二酸化分圧が60mmHg以上になっても自発呼吸がないことを確認する。100%酸素投与は1985年厚生省基準と同じ」とした。

 急激な低血圧を確認しないことについて、脳死に関する研究班・60年度研究報告書「脳死の判定指針および判定基準」 は、「最近の判定基準に低血圧を入れているものはない。その理由は、急激な低血圧を確認しなくても脳死判定は十分可能であり、また、脳死が強く疑われる症例では、低循環血液量、心不全などのためにすでに循環障害を来たし、心・血管作動薬を投与していることが多く、判定の根拠となるような明らかな血圧下降の時点を知ることが容易でないからである」としている。
出典=厚生省脳死に関する研究班:脳死に関する研究班・60年度研究報告書「脳死の判定指針および判定基準」、日本医師会雑誌、94(11)、1949-1972、1985

 「日本脳波学会の脳死判定基準では厳しすぎて心臓移植ができなくなるため」という指摘もある。有馬医師の原文 は以下の点線間。
・・・・・・・・・・・・・・・

 「心臓を提供できる『脳死』患者の状態は、少量の昇圧剤で十分に血圧がコントロールできていなければならない。Cabrolによれば、ドーパミンという昇圧剤の投与を10μg/kg/min以下で、しかも平均血圧が74±19mmHgという驚くべき良好な血行動態の『脳死』患者が心臓提供者である。ドーパミンを10μg/kg/min以上投与された『脳死』患者から移植された心臓は、移植手術には耐えられず、手術後心不全が続き成績が悪い。Josephは、ドーパミンを10μg/kg/min以下で、収縮期血圧の90mmHg以上の『脳死』患者を要求している。」
 「杉本教授の発表によれば、急激な血圧の低下を経た44歳の『脳死』患者に、抗利尿ホルモン0.5U/hr投与中にもかかわらず、ドーパミン10μg/kg/min投与では、血圧は72/43mmHgにしか上がらなかった。この患者の心臓は役に立たない。この症例で分かるように、典型的な『脳死』患者の心臓の大半は移植に使えない。また(日本脳波学会脳死判定基準では)非典型的な経過を経て脳幹反射の無くなっている患者を『脳死』と判定できないため、心臓がビーティングで、新鮮な間には取り出すことができない。〈急激な血圧の低下〉を『脳死』判定の基準に残せば「厳しすぎて」心臓移植ができなくなる。これが〈急激な血圧低下〉を脳死判定基準から外した本当の理由である」

出典=有馬利治:「脳死」での臓器保護技術の問題点、技術と人間、臨時増刊号、168-178、1991

・・・・・・・・・・・・・・・

 1985年の厚生省基準から「一次性脳障害、二次性脳障害を問わず脳死判定の対象」に拡大したことにより、脳挫傷、脳出血、急性経過を示す脳腫瘍、脳膿瘍、急性進行性の脳炎、髄膜炎などの一次性脳障害よりも、脳死判定が難しい脳低酸素症を来たす心停止、窒息など二次性脳障害なども判定対象としたこと。そして急激な血圧降下とそれに引き続く低血圧を観察しなくなった、観察が困難になったことにより、長期にわたる心臓拍動の維持が可能な患者が多く含まれることになったと考えられる。

 

4-1を新しいウィンドウで開く 4-2を新しいウィンドウで開く 4-4を新しいウィンドウで開く

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

臓器提供の承諾後~臓器摘出の手術中に脳死ではないことが発覚した症例、疑い例および統計 4-4

2025-08-22 08:43:34 | ニュース・文献の概要

臓器提供の承諾後~臓器摘出の手術中に脳死ではないことが発覚した症例、疑い例および統計

4-4

4-1

1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に、脳死ではないことが発覚した症例

4-2

1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に、脳死ではないことが発覚した症例(前ページからの続き)
2,脳死なら効かないはずの薬=アトロピンが脳死ドナーに投与され効いた!
3,親族が臓器提供を承諾した後に、脳死ではないことが発覚した症例

4-3

4,親族が脳死臓器提供を拒否した後に、脳死ではないことが発覚した症例
5,脳死判定の誤りが発覚した頻度は、米国で臓器摘出直前に1~5%、日本および韓国では親族の臓器提供承諾後に1.2%前後
6,脳死とされた患者の長期生存例(妊娠の継続・出産、臓器提供、異種移植実験などに伴う脳死宣告から1カ月以上の長期生存例)

4-4(このページの見出し)

7,「脳死とされうる状態」と診断されたが、家族が臓器提供を断り、意識不明のまま人工呼吸も続けて長期間心停止せず生存している症例
8,「麻酔をかけた臓器摘出」と「麻酔をかけなかった臓器摘出」が混在する理由は?
9,何も知らない一般人にすべてのリスクを押し付ける移植関係者
10,脳死判定を誤る原因 

 


7,「脳死とされうる状態」と診断されたが、家族が臓器提供を断り、意識不明のまま人工呼吸も続けて長期間心停止せず生存している症例

注:「法に規定する脳死判定を行ったとしたならば、脳死とされうる状態」とは、器質的脳障害により深昏睡および自発呼吸を消失した状態と認められ、かつ、器質的脳障害の原疾患が確実に診断されていて、原疾患に対して行い得るすべての適切な治療を行った場合であっても回復の可能性がないと認められる者。 人工呼吸を必要としている状態にあることをいい、必ずしも、法律に基づき脳死と判定する際に実施する無呼吸テストを行う必要はなく、脳波測定も法的脳死判定の記録時間,検査中の刺激等の詳細に従う必要はない、としている。

 

 京都第二赤十字病院、20歳女性は救急車内収容後に心停止、第15病日には平坦脳波であることを確認し「脳死とされうる状態」と診断。脳死移植のオプション提示を行なったが母親の同意が得られず、第20病日に以後の治療方針をwithholdとすることを決定、第34病日に心停止した。
 抄録の原文“当院での「脳死とされうる状態」という診断は法的脳死判定基準に準ずる制度で行われた。脳死判定を行えば、脳死と診断される状態であったと考えられるが、患者は治療方針を withholdとした後も生存し続けた。脳死と診断されてからも長期間生存する状態は、特に小児の症例で報告が散見され、長期脳死と表現される。 このような報告がある中では、「脳死と診断されれば、短期間に心停止に至る」という従来の科学的根拠は見直しが必要な段階にあると考えられる。しかし、どのような症例で長期生存が可能であるか、検討はされていない。さらに、家族に対して「数日間で死亡することが予想される」という説明を行うにも関わらず,長期に生存することは患者家族との信頼関係を損なう可能性がある。医療者側が脳死の医学的な定義の見直し、全脳機能不全は絶対的に予後が不良であるという理解と終末期医療の展開についての議論の必要性を認識した。” 

出典=武村秀孝ほか:「脳死とされうる状態」と診断されてから長期生存した心停止蘇生後の一例、日本集中治療医学会雑誌、26(Suppl)、O142-5、2019
2025年5月23日時点で予稿集はhttps://confit.atlas.jp/guide/event/jsicm2019/proceedings/list からダウンロードできる。武村らの報告は、全日程のファイルjsicm2019_allにはp1895に掲載、一般演題(口演)のファイルjsicm2019_O_20190303にはp54に掲載されている。 

 武村らは、「脳死とされうる状態」と診断した成人で19日間の生存例を経験して脳死定義見直しの必要性を認識したが、「脳死とされうる状態」での長期生存も19日間どころではなく、以下のとおり年単位の生存例まで報告されている。

 

 JCHO中京病院:21歳女性、第7病日に脳死とされうる状態と診断された。入院期間約11か月で在宅ケアに移行した(2023年発表)。
出典=  黒木雄一ほか:縊頸からの低酸素性脳症により脳死とされうる状態となったが在宅ケアに移行し得た症例、日本救急医学会雑誌、34(12)、855,2023
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/jja2.12878
 
 兵庫県立尼崎総合医療センター:脳死とされうる状態と判断された小児4例(1歳~8歳)が、2019年11月時点で3年9ヵ月、2年、1年5ヵ月、8ヵ月間生存 。
菅 健敬:脳死とされうる状態と判断されてから長期生存している低酸素性虚血性脳症の小児4症例、日本救急医学会雑誌、31(9)、397-403、2020
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/jja2.12477

 順天堂大学医学部付属浦安病院:9歳男児が脳死とされうる状態となってから9日後に救命センターを退出、125日後に療養型病院へ転院した(2019年発表) 。
出典= 石原唯史:小児重症多発外傷における心肺停止蘇生後からのtrauma managementの考察、日本小児救急医学会雑誌、18(1)、67-70、2019

 徳島赤十字病院:13歳女児が入院6日目に脳死とされうる状態、420日以上生存(2014年発表) 。
出典= 高橋昭良:溺水による小児長期脳死の1例、日本小児科学会雑誌、119(5)、896、2015

 豊橋市民病院:14歳男児が入院16日目に脳死とされうる状態となり、5ヵ月を経過しおおむね安定し、在宅医療に向け準備中(2012年発表) 。
出典= 橋本千代子:「脳死とされうる状態」と判断した症例の経験、日本小児科学会雑誌、117(1)、168、2013

 


8,「麻酔をかけた臓器摘出」と「麻酔をかけなかった臓器摘出」が混在する理由は?

 2008年6月3日、衆議院厚生労働委員会臓器移植法改正法案審査小委員会において、委員から「脳死は、脳幹の機能を初め、生命維持機能が失われたものと聞いておりますけれども、具体的に体がどのような状態になるのか、このところをお伺いしたい」と質問されて、心臓摘出の経験のある福嶌教偉参考人(大阪大学医学部教授・当時)は以下枠内を述べた。
「まず一番は脳と脳幹の停止ということですので、息をしないということが一番大事なところになります。
 脳には、脳神経といういろいろな神経がございますが、その機能がなくなります。ただ、問題になりますのは、脳幹よりも下の神経が生きておりますので、痛みというものは感じないわけですが、痛み刺激が与えられた場合に筋肉が動く可能性というのはこれはございます。ですから、例えば、脳死の状態の患者さんの臓器を摘出する際に筋肉弛緩剤を使わないと、筋肉が弛緩しないとできないということは確かです。
 ただし、痛みをとめるようなお薬、いわゆる鎮静剤に当たるもの、あるいは鎮痛剤に当たるもの、こういったものを使わなくても摘出はできます。ですから、麻酔剤によってそういったものが変わるようであれば、それは脳死ではないと私は考えております。
 実際に五十例ほどの提供の現場に私は携わって、最初のときには、麻酔科の先生が脳死の方のそういう循環管理ということをされたことがありませんので、吸入麻酔薬を使われた症例がございましたが、これは誤解を招くということで、現在では一切使っておりません。使わなくても、それによる特別な血圧の変動であるとか痛みを思わせるような所見というのはございません。
 一応、そういうのが脳死の状態と私は理解しております」

出典=議事録https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigirokua.nsf/html/kaigirokua/018716920080603001.htm

 

 福嶌参考人は「(臓器摘出時の脳死ドナーへの麻酔は)現在では一切使っておりません」と言ったが、この発言の約3週間前である2008年5月14日の法的脳死71例目で獨協医科大学越谷病院は「麻酔維持は、純酸素とレミフェンタニル0.2μ/㎏/minの持続静注投与で行なった」。

出典=神戸義人:獨協医科大学での初めての脳死からの臓器摘出術の麻酔経験、Dokkyo Journal of Medical Sciences、35(3)、191-195、2008
https://dmu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=735&item_no=1&page_id=28&block_id=52

 

 83例目で手稲渓仁会病院はレミフェンタニルを投与した。

出典=小嶋大樹:脳死ドナーからの多臓器摘出手術の麻酔経験、日本臨床麻酔学会誌、30(6)、S237、2010

 

 132例目で山陰労災病院麻酔科は「臓器摘出術の麻酔」に関わった。

出典=小山茂美:脳死下臓器提供の全身管理の一例、麻酔と蘇生、47(3)、58、2011

 

 424例目、2016年12月30日の脳死判定と見込まれる文献は、「全身麻酔下に胸骨中ほどから下腹部まで正中切開で開腹し,肝臓の肉眼的所見は問題ないと判断した」と脳死ドナーに麻酔がかけられていたことを明記している。

出典=梅邑晃:マージナルドナーからの脳死肝グラフトを用いて救命した 肝細胞がん合併非代償性肝硬変の1例、移植、52(4-5)、397-403、2017
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jst/52/4-5/52_397/_pdf/-char/ja

 他方で脳死臓器摘出時に筋弛緩剤は投与するものの、麻酔は使わないで臓器を摘出した症例も確認できるため、脳死臓器摘出の現場では「麻酔をかけなければ臓器摘出を完遂できなかった症例」と「麻酔なしで臓器摘出ができた症例」が混在していることになる。しかし臓器提供施設マニュアルはp32で「原則として、吸入麻酔薬、麻薬は使用しない」と禁止している。

出典=臓器提供施設のマニュアル化に関する研究班:臓器提供施設マニュアル(平成22年度)、32、2011
https://www.jotnw.or.jp/files/page/medical/manual/doc/flow_chart01.pdf

 

 懸念すべきことは、法的脳死が宣告され臓器提供者とされた人のなかに、実は脳不全が軽症な人が混在している可能性だ。そのような人が臓器摘出時に激痛・恐怖・絶望を感じつつ生きたまま解剖される場合に、麻酔をかけないと臓器が摘出できないと見込まれる。これは福嶌参考人が「鎮静剤に当たるもの、あるいは鎮痛剤に当たるもの、こういったものを使わなくても摘出はできます。ですから、麻酔剤によってそういったものが変わるようであれば、それは脳死ではないと私は考えております」と述べたとおりのことでもある。
 生理的には、福嶌参考人の発言の前段にある、脳死判定にかかわりのないとされる一部の神経が生きていることによる生体反応と、それに麻酔が効くことは生理的にはありうる。他方で、誤って脳死と判定され臓器摘出を強行した場合に、麻酔が必要になることもありうることであり「想定外」としてはならない。

 


9,何も知らない一般人にすべてのリスクを押し付ける移植関係者

 臓器提供施設マニュアルで脳死臓器摘出時の麻酔を原則禁止しているため、臓器移植コーディネーターから臓器提供の選択肢について説明を受けるドナー候補者家族も、臓器摘出時に麻酔をかける可能性は説明されていないと見込まれる。日本臓器移植ネットワークの臓器提供候補者の患者家族むけ説明文書「ご家族の皆様方にご確認いただきたいこと(脳死下提供)」https://www.jotnw.or.jp/files/page/medical/manual/doc/family_1_jp.pdf も、臓器摘出時に麻酔をかける可能性は記載していない。
 こうした情報隠蔽の結果は、善意で臓器を提供するドナー本人そしてドナーの家族が背負わされる。もしも脳死判定が誤っていたら最悪の場合、ドナーは生きたまま解剖され臓器を切り取られる激痛を麻酔もかけられずに感じ続け、恐怖、絶望のなかで死に至らしめられる。家族も臓器提供を後悔し続けるからだ。

 山崎吾郎著「臓器移植の人類学(世界思想社・2015年)」に、娘からの臓器摘出に同意した母親の語りが載っている(p87~p88)。
「脳死っていうのは、生きているけれど生身でしょう?だから手術の時は脳死でも動くんですって。動くから麻酔を打つっていうんですよ。そういうことを考えると、そのときは知らなかったんですけども、いまでは脳死からの提供はかわいそうだと思えますね。手術の時に動くから麻酔を打つといわれたら、生きてるんじゃないかと思いますよね。それで後になってなんとむごいことをしてしまったんだろうと思いました。かわいそうなことをしたなぁ、むごいことをしたなぁと思いました。でも正直いって、何がなんだかわからなかったんです。もうその時は忙しくて」

 脳死下で臓器を提供したドナーの遺族が回答したアンケートにも深刻な回答が寄せられた。日本臓器移植ネットワークが行った「臓器提供に関するアンケート調査」https://www.jotnw.or.jp/news/detail.php?id=1-781&place=top は、「問18-1.臓器提供をご承諾された後のことについて、あなたのお気持ちやお考えをお伺いします。『ご本人またはお子様』が臓器の摘出手術を受けることに関して 不安を感じましたか」という問いに、回答者の24%が「感じた」、22%が「やや感じた」と回答し、半数近くが不安を感じていた。
 そして「問18-2.【問18-1】で少しでも不安を感じたという方にお聞きします。 不安に感じることはどのようなことでしたか。 当てはまるものに全てに○をつけてください」には、痛みはないか63、苦しくないか58、提供できるだろうか57、外見の変化はないか46、怖くないか33、寂しくないか27、寒くないか18、手術を乗り越えられるだろうか16」など、家族は臓器摘出時に苦痛、恐怖を感じる不安を感じていた。
 自由記述に「脳死状態とはいえ、身体にメスを入れることで、痛み等を感じないのか、我々の話をすべて聴いていて、殺されると思っていないか」「摘出手術において麻酔を使用するのか、使用しない場合は本人が痛いと声を発したら、中止をする選択肢は有るのか不安である」「もしかしたら、もしかしたら、生きかえるのではと、何回も思った」「とにかくごめんね。という思いでした」など。
「問19.死亡宣告を受けてから『ご本人またはお子様』が手術室へ向かうまでのお気持ちを教えてください」には、「手術室の様子を見れないので、起きあがったりしなかったか?もし起き上がっていたら自分、申し訳ないと思います。今でも夜になると時々」という回答もある。

 

 日本移植学会は、臓器移植法が制定された当時に「フェア・ベスト・オープン」に行うと宣伝していた。現代の医療は、患者本人の自己決定が尊重されることが基本中の基本という。しかし現実は、自己決定の前提となる正しく充分な情報提供はなされていない。

 


10,脳死判定を誤る原因

 脳死判定を誤る原因は「脳死判定基準にもとづき厳格に行わないから」「早すぎる脳死判定・脳死判定間隔の短さ・不可逆性の確認の困難さ」「薬物影響下の脳死判定」「都合の悪い現実は無視そして隠蔽してしまうから」「患者を傷つける検査は行わないから」「患者本人ではなく他人の利益のために医療を行っているから」であろう。

 

脳死判定基準にもとづき厳格に行わないから

 「1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に、脳死ではないことが発覚した症例」そして「3,親族が臓器提供を承諾した後に、脳死ではないことが発覚した症例」では、日本の法的脳死判定とは異なる脳死判定がある。検査項目や検査回数を減らせば、診断を誤る確率が上がるのは当然のことだ。
 しかし日本の法的脳死判定でも「画像診断が行われていない」「基準と異なる他の検査で代用した」「脳波の記録時間が30分未満。高感度記録なし」「コンタクトレンズがついたまま検査」などがあった。
 心停止ドナー候補者に行われる「一般の脳死判定(一般の脳死診断、一般的脳死判定とも表現)は、諸外国と同様に粗雑に行われている。アンケート(注1)に回答した施設の4割は無呼吸テストを行わず、法的脳死判定に準じて診断していたのは3割しかなかった 。心停止ドナーに一般の脳死判定がなされると、親族の承諾を得た後に臓器摘出手術の一部分=臓器摘出目的のカテーテル挿入や抗血液凝固剤ヘパリン投与などが、現行のマニュアルは許容している。
 諸外国の脳死判定がいい加減だからと言って、日本の一般の脳死判定の粗雑さ=「心停止後の臓器提供」と称する法的脳死判定手続きのスキップ・臓器移植法のザル法化=を検討の対象外としてはならない。

 

早すぎる脳死判定・脳死判定間隔の短さ・不可逆性の確認の困難さ

 2007年11月のザック・ダンラップさんは、受傷から36時間後の脳死宣告が誤っていた。一過性のショックで数十時間にわたり脳死判定基準を満たしうる状態になった後に回復する患者がいるため、多くの国で脳死判定を開始するまで待つ期間を設定しているが24~48時間など短い。日本の脳死判定基準にその規定がない。
 しかし大阪大学医学部附属病院では、3ヵ月女児が脳死徴候をすべて満たした後に第5病日の無呼吸テストで自発呼吸なしとされたが、第43病日に自発呼吸が発現した(注2)。:公立高畠病院の 11歳男児、1993年 11月に厚生省脳死判定基準により脳死状態と考えられてから 1994年 3月に脳波を認め、1994年 8 月に自発呼吸を認めた(注3)。発症から 3 年 8 カ月後の 14歳時まで生きた(注4)。
 脳死判定は2回行われ、その間隔は6時間後あるいは24時間後と設定されているが、そのような短い間隔の判定では、上記のように数か月後に機能が確認される症例は見逃されることになる。しかし、受傷・発症から数十日間、さらに数年間にわたり救命医療を継続した後にしか脳死判定ができなくなるならば、また長期間生命を維持することが可能ならば「脳死は人の死か否か」という論議は不必要になる。

 

薬物影響下の脳死判定

 2009年のコリーン・バーンズさんは薬物の過剰摂取に加えて、治療中に鎮静剤が投与されていた。意識不明で人工呼吸器を装着された患者は麻酔、鎮痛剤、鎮静剤など脳の機能を低下させて脳死と似た状態をもたらす薬物(中枢神経抑制剤)を投与されていることが多い。薬物は時間が経過しないと代謝・排泄がなされないため影響が続く。
 2011年エモリー大学病院において臓器を摘出する手術台上で脳死ではないことが発覚した55歳男性の場合は、低体温療法後に復温してからの観察時間が短かった可能性を当該施設が指摘している。低体温でも薬物は代謝・排泄が時間がかかる。
 しかし法的脳死判定マニュアルは「通常の投与、一般的な投与量であれば24時間以上を経過したものであれば問題はない」とおざなりな規定をしている。
 24時間以上、脳組織内に薬物が残留していることがある。「臨床的脳死状態で塩酸エフェドリンを投与された患者が約72時間後に心停止した。解剖して各組織における薬物濃度を測定したところ、心臓血における濃度よりも53倍(3.35μg)の塩酸エフェドリンが大脳(後頭葉)に検出された」(注5) 。
 腕などから採取した血液の薬物濃度と脳組織内の薬物濃度は異なる。生きている患者から脳組織を採取することは許容されないため、正しい薬物濃度の測定は不可能であるし、測定できても薬物濃度による影響は個体差が大きく「薬物の影響なし」との判断は難しい。従って脳死判定に影響し得る薬物を投与された患者の大部分は、脳死判定の対象から除外するしかなくなる。そうであるのに、敢えて脳死判定を行うならば、判定を誤ることは不可避になる。

 

都合の悪い現実は無視そして隠蔽してしまうから

 脳血流が無いとされながら、実際には脳が機能していた症例もある。ヒトの脳組織の壊死する血流量が不明であること(脳組織が壊死する血流量として引用されている数値は、サルの脳の血管を遮断する動物実験で得た値)、脳血流量を数値化するのではなく画像で低血流量とする曖昧な判断、低血流時は脳の機能も停止する、薬物も代謝されない、など脳血流検査にも技術的限界がある。
 法的脳死判定に脳血流検査を採用するに際し、学術的な研究をまとめたのは現在の日本臓器移植ネットワーク理事長の横田氏だ。ところが同氏も脳血流停止だったが自発呼吸のある患者を経験している。 「8 歳女児、無呼吸テストを除いた脳死判定を1回施行、深昏睡、全脳幹反射消失、平坦脳波、ABR消失の所見を得た。時期を異にして脳血流3D-CTAおよび脳血流シンチを施行、脳血流停止所見を認めた。事後無呼吸テストを2回行った結果2回とも自発呼吸を認め、臨床的判定により脳死は否定された」(注6)
 心停止後の臓器提供の議論においても、心肺蘇生を断念し心臓死と判断されてから10分後に自然に蘇生して後遺症なく社会復帰している症例(注7)があるが、各国はautoresuscitation例(自然蘇生例)は数分未満の症例しか取り上げず、心静止の継続を確認する時間を5分、10分、20分など移植用臓器の獲得に都合のよい時間を設定している。日本に至っては、心静止の継続を確認する時間さえ設定していない。

 

患者を傷つける検査は行わないから

 ザック・ダンラップさんは、ナイフの背で足の裏面を引っかかれ、爪の下に他人の爪を押し込まれて脳死ではないことが発覚した。しかし、医療で患者を過剰に傷つける検査は許容されないから行えない。脳死判定は、患者の昏睡状態を確認するために疼痛刺激を加える。患者の顔面を滅菌した針か虫ピンで突き、眉毛付近は指で圧迫して反応の有無を診る。このような疼痛刺激では弱すぎ、ナイフで患者の身体を切ったら反応があるかもしれない。臓器摘出時に皮膚切開が始まると血圧が急上昇する。脳死判定を許容している脳外科医、移植医らは、これを脊髄反射・脊椎自動反射としか説明しないが、実際にはメスで体を切り開かれる激烈な痛みで苦しみ、生きたまま解剖される恐怖・絶望を感じつつ、不本意な死を強要された患者がいるのではないか。

 マーガレット・ロックが面接した医師によると、1970年代に30秒間の無呼吸テストで自発呼吸はみられなかった患者が、手術室で人工呼吸を外したら呼吸を始めた。1988年報告のマクマスター大学病院例は無呼吸テストの強度を上げたら自発呼吸が確認された。
 現代の無呼吸テストは人工呼吸を停止し、動脈血内の二酸化炭素分圧が60mmHgを超えるまでに自発呼吸をしなければ無呼吸と診断する。しかし、この規定値を超える66.4mmHg(注8) 、72.2mmHg (注9)、86mmHg(注10) 、91mmHg(注11) 、112mmHg(注12) などでの自発呼吸例が報告されている。無呼吸テストを現状より長時間行うと、自発呼吸能力のある脳死ではない患者を発見できる事は明らかだ。しかし、無呼吸テストが長時間行われると、心停止直前で自発呼吸をする患者がいる一方で、心臓死に至る患者も多発する。移植用臓器の鮮度・活力を維持するためにも、不整脈や心停止を起こす危険性を高める長時間の無呼吸テストは忌避される。

 このように患者を過度に傷つける検査は行えないため、患者が本当に深昏睡で絶対に回復することはないのか、自発呼吸能力が完全に廃絶しているのかは知りえない。低刺激検査に留めるしかないことから、脳死判定を誤る可能性が無くならない(このほか低感度検査の限界=頭皮の上に置いた電極で脳波が測定できなくとも、頭蓋骨の内部に電極を置くと脳波を測定できることがある。無呼吸テストで患者の胸の動きを目視で観察して呼吸をしていないように見えても、センサーや筋電図で測定すれば呼吸運動が確認できることがある、なども指摘されてきた)。

 

患者本人ではなく他人の利益のために医療を行っているから

 医療機関側の都合で重症患者への医療を打ち切りたい場合には、患者の生存能力、脳機能が明らかになっては、患者家族を納得させる説明が困難となり医療の打ち切りが難しくなる。移植用臓器も獲得できなくなる。このように患者本人のための医療ではなく、他の人の利益のために医療が行われる所で脳死判定または終末期診断が行われることにより、その当然の結果として脳死判定・死亡予測・死亡宣告は誤る。こうした誤診の一部分が発覚しているのであろう。

 

文献

(注1)荒木 尚:救急・集中治療において臓器提供を前提としない脳死判定と患者対応の現況について、脳死・脳蘇生、30(1)、33、2017
(注2)Ken Okamoto:Return of spontaneous respiration in an infant who fulfilled current criteria to determine brain death,Pediatrics,96(3),518-520,1995
https://pediatrics.aappublications.org/content/96/3/518(抄録)
(注3)磯目正人:テレビゲーム中にてんかん発作を起こし、心拍呼吸停止を来たした 1例、日本小児科学会雑誌、99(9)、 1672-1680、 1995

(注4)村上靖彦:「ヤングケアラー」とは誰か――家族を“気づかう”子どもたちの孤立、朝日新聞出版、2022
(注5) 守屋文夫(高知医科大学法医学):脳死者における血液および脳内の薬物濃度の乖離、日本医事新報、4042、37-42、2001
(注6)荒木尚、横田裕行ほか:小児脳死判定における脳血流評価の意義について、日本臨床救急医学会雑誌、13(2)、154、 2010

(注7)Muge Adanali: Lazarus phenomenon in a patient with Duchenne muscular dystrophy and dilated cardiomyopathy,Journal of Acute Medicine,4(2),99-102,2014 
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211558714000508 
(注8) 河野昌史:呼吸停止と深昏睡をきたしながら脳死を否定された1例、日本救急医学会関東地方会雑誌、8(2)、524―525、1987
(注9) 林成之:脳死診断の現場と無呼吸テスト、脳蘇生治療と脳死判定の再検討(近代出版)、97、2001
(注10) 榎泰二朗:無呼吸テストの信頼性について、麻酔、37(10S)、S66、1988
(注11) Ralph Vardis:Increased apnea threshold in a pediatric patient with suspected brain death、Critical care medicine,26(11),1917-1919,1998
https://journals.lww.com/ccmjournal/Abstract/1998/11000/Increased_apnea_threshold_in_a_pediatric_patient.40.aspx(抄録)
(注12) Richard J.Brilli:Altered apnea threshold in a child with suspected brain death、Journal of child neurology,10(3),245-246,1995
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/088307389501000320(プレビュー)

 

 

4-1を新しいウィンドウで開く  4-2を新しいウィンドウで開く 4-3を新しいウィンドウで開く


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

FIGHT FOR LIFE 生きるための戦い ニュース・文献の概要 その2(2022/5~)

2022-08-20 11:22:44 | ニュース・文献の概要

FIGHT FOR LIFE 生きるための戦い ニュース・文献の概要 その2(2022/5~)

 

 このページは、脳死・脳幹死あるいは終末期・遷延性意識障害(植物状態)とされる人物の生命維持に関する裁判、そして脳死あるいは心臓死・三徴候死とされた状態からの回復・誤診に関連する日本語および英語圏ニュースや文献の概要、元となる記事の見出し、URLを紹介します。各人物(係争)ごとに、最新の記事を太字の見出しで最上部に掲載し、その下に過去の記事を掲載します。水平線で他の人物(係争)と区別します。
 出典がニュースの場合は、おおむね複数の報道が存在しますが、以下では情報量が多い1から2記事のみ掲載します。
 2020年1月~2022年5月までの情報は、その1 として別ページhttps://blog.goo.ne.jp/abdnet/e/82e28cc0daae282306948cf63172daebに掲載しています。

 


2022/8/11 ライリー小児病院は「脳死宣告され死んでいるから」と気管切開を拒否、
       転院先候補病院は「気管切開されていないから」と受け容れ拒否、生命維持が停止され死亡

 7月23日に米国インディアナ州でトレジャー・ペリーさん(17歳女性)が重度のアレルギーと喘息発作を起こし、8月2日に脳死と宣告された。母親のアンジェラ・コルサエさんは、裁判所にライリー小児病院の生命維持装置にとどめておくように求め、裁判所は一時的な拘束命令を出した。母親は転院先の病院を探したが、候補となる病院は気管切開を受けていないからと受け容れを拒否し、ライリー小児病院はトレジャー・ペリーさんが臨床的に死亡しているからと気管切開を拒否した。裁判所は8月10日に期限の延長を認めず、11日に生命維持が停止された。母親によると、トレジャー・ペリーさんは最後の1時間まで改善が見られ、母親の手を握りしめ、瞳孔は光に反応していたとのこと。

Her daughter was declared dead. Despite hospital objections, she believes she was alive
https://www.nbcnews.com/news/us-news/daughter-was-declared-dead-hospital-objections-believes-alive-rcna42612

 


2022/8/6 午前10時にアーチー・バータズビーさんへの投薬など停止、正午に人工呼吸を停止、午後12時15分に死去

Perché il caso di Archie Battersbee si configura come eutanasia?
https://www.corrispondenzaromana.it/perche-il-caso-di-archie-battersbee-si-configura-come-eutanasia/

Archie Battersbee dies after parents lose legal battle over life support
https://www.theguardian.com/society/2022/aug/06/archie-battersbee-boy-at-centre-of-legal-battle-over-life-support-dies

 

8月5日 高等裁判所は、アーチー・バータズビーさんの治療中止のためにホスピスに移動することはできないと判決

8月4日 アーチーの両親は、息子を終末期ケアのためにホスピスに移すため法的申請。

8月3日 ヨーロッパ人権裁判所は、アーチーの生命維持装置の撤回を延期する家族からの申請を拒否。

8月2日 最高裁判所は、控訴裁判所の判決に上訴する許可を求める家族の申請を拒否。

8月1日 控訴裁判所は、国連が事件を審理するまで、治療の中止を延期することを拒否。

7月31日 政府は、この事件を再検討するための緊急の聴聞会を要請。

7月30日 国連委員会は英国政府に書簡を送り、この件を検討している間、治療の中止を遅らせるよう求めた。

Archie Battersbee: Legal battle at the end, says mum
https://www.bbc.com/news/uk-england-essex-62403993

 

2022/7/29 アーチー・バータズビーさんの生命維持、最高裁への上訴が却下され、両親は国連障害者権利委員会に苦情申し立て

 アーチー・バータズビーさんの両親は、国連障害者権利委員会に障害者の権利の侵害として苦情を申し立てた。国連人権条約支部の支部長は、国連障害者権利委員会で審議されている間は生命維持医療の撤回を控えるように書簡で要請した。病院側は国連の要求が何を意味するのかについて政府の弁護士からの指導を待っている。
UN request for Archie Battersbee life-support to continue
https://www.bbc.com/news/uk-england-essex-62346356

 

 母親は、息子が自発呼吸をしようとしていることを「証明している」と主張するビデオを公開した。(人工呼吸器に設定された呼吸数が14から15に一時的に上昇する。肺のモニターも点滅する)
Archie Battersbee: Mum of boy, 12, on life support says video 'proves' her son is trying to breathe on his own
https://www.mylondon.news/news/east-london-news/archie-battersbee-mum-boy-12-24606779

 

2022/7/28 最高裁判所は、上訴申請を却下し、控訴裁判所の判決を支持した。

2022/7/25 控訴裁判所は、治療は終了できるという高等裁判所の判決を支持した。

2022/7/15 高等裁判所は、生命維持治療の継続は「無駄」だとして中止すべきと裁定した。

2022/6/29 控訴裁判所は、アーチーの最善の利益を決定するための新たな審理が行われるべきだと裁定した。

Archie Battersbee: How did life support battle end up in court?
https://www.bbc.com/news/uk-england-essex-61829522

 

2022/6/13 裁判所は「アーチー・バータズビーさんが死んでいる可能性が高い」として人工呼吸の停止を許可、母親は控訴予定。

 6月13日、ロンドン高等裁判所は「アーチー・バータズビーさんが死亡したのは、MRIスキャンが撮影された直後の2022年5月31日正午だった(Mrs Justice Arbuthnot said: 'I find that Archie died at noon on May 31 2022, which was shortly after the MRI scans taken that day,)」として、入院しているロイヤル・ロンドン病院の医療従事者に「アーチー・バータズビーさんへの人工呼吸を止める」「抜管する(人工呼吸器を取り外す)」「心臓の拍動または呼吸が止まった時に蘇生を試みないこと」について許可を与えた。母親は控訴の方針。
Judge rules 12-year-old Archie Battersbee is 'brain stem dead' and his life support SHOULD end despite his family's desperate plea - as his mother says: 'I know my son is still in there'
https://www.dailymail.co.uk/news/article-10911203/Judge-rules-Archie-Battersbees-life-support-end.html

 


2022/5/5 病院側「脳幹死でなくても意識を回復する可能性は低い、人工呼吸の中止が患者にとって最善の利益」   
                   両親側「提案された脳幹検査は確実に死の決定につながる可能性のあるものではない」

 英国エセックス州で脳損傷により昏睡状態となった少年アーチー・バターズビーさん(12歳)について、両親は生命維持を主張し、ロイヤル・ロンドン病院は生命維持を中止すべきと主張し、裁判になっている。
 病院側は「脳幹死の可能性が高い、脳幹死でなくても意識を回復する可能性は非常に低い、人工呼吸の中止が患者にとって最善の利益だ」と述べた。両親側は「提案された脳幹検査は確実に死の決定につながる可能性のあるものではない」と懸念している。
Southend brain-damaged boy in court case over life support
https://www.bbc.com/news/uk-england-essex-61333191


2022/7/3 イギリスのエヴェリーナ小児病院で2022年6月19日、22日に脳幹死で死亡を確認された3ヵ月男児。7月2日、3日に自発呼吸が確認され、死亡宣告を撤回。

6月10日、心停止でクイーンエリザベス病院に救急搬送、安定した後にエヴェリーナ小児病院に入院
6月19日、13時15分に脳幹死で死亡確認
6月22日、両親の要請で再検査、MRIスキャンで硬膜下出血とクモ膜下出血を確認、脳幹死を確認。
7月2日と3日、看護師が体動と呼吸を医師に連絡、人工呼吸器から短時間切り離すと一貫した浅い不規則な呼吸あり、脳死診断を取り消した。
7月4日と5日、脳波およびMRIを繰り返したが、脳波は検出されずMRIは壊滅的な全脳損傷を示した。
8月第3週 この男児Aにとって最善の利益を検討する審理を予定。

Between:GUY'S & ST THOMAS' NHS FOUNDATION TRUST(Case No: FD22F0026)
https://www.bailii.org/ew/cases/EWHC/Fam/2022/1873.html 


2022/7/22 ユタ州で6月に脳死宣告されたケーシー・ダーラムさん、家族が生命維持継続・転院・セカンドオピニオンを求めて裁判開始

 米国アラバマ州ジャクソン郡のケーシー・ダーラムさんは6月13日、ユタ州オグデンで車に轢かれ、マッケイ・ディー病院で脳死宣告された。病院が生命維持治療を終了するのを阻止するために、家族は一時的な差し止め命令を7月7日に受けた。家族はアラバマ州の自宅に近い施設への転院とセカンドオピニオンを受けることを望み、7月22日に裁判が開始された。

Jackson County man’s ‘brain death’ case heard before Utah judge
https://whnt.com/news/northeast-alabama/jackson-county-mans-brain-death-case-heard-before-utah-judge/


 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

FIGHT FOR LIFE 生きるための戦い ニュース・文献の概要 その1(2020/1~2022/5)

2022-06-20 15:06:49 | ニュース・文献の概要

FIGHT FOR LIFE 生きるための戦い ニュース・文献の概要 その1(2020/1~2022/5)

 


2022/5/27 裁判所が生命維持を命令、人工呼吸器を装着中に心停止し蘇生できず

 ビバリー・ホワイトさん(62歳)について、裁判所は系列外の病院で診察できるようになるまでの生命維持装置にとどめなければならないと裁定した。裁判所の命令に従ってバッファロー総合医療センターで人工呼吸器を装着していたビバリー・ホワイトさんは、5月27日午前5時45分頃、心停止、蘇生できなかった。
Woman's heart gives out before family gets second opinion on whether she was brain dead
https://buffalonews.com/news/local/womans-heart-gives-out-before-family-gets-second-opinion-on-whether-she-was-brain-dead/article_792309a0-de06-11ec-90f2-d38d16e9eb12.html

 

2022/3/30 無呼吸テストを行わずに脳死宣告、家族は中立的な施設への移送とセカンドオピニオンを求める

 米国ニューヨーク州のバッファロー総合医療センターに2022年3月26日、ビバリー・ホワイトさん(62歳)が入院し、3月30日に脳死宣告された。医師は家族に4月1日に生命維持装置を停止する予定と伝えたところ、家族が裁判所に訴え、裁判所は4月2日に生命維持装置に留めるように命令した。
 家族は、無呼吸テストが行われる前にビバリー・ホワイトさんが脳死であると説明されていた。3月30日に同病院の医師の診察時に、医師は「無呼吸、咳反射ナシ、対光反射ナシ」にチェックしたが、患者家族に脳死判定する意図を伝える合理的な努力が行われたどうかを確認する項目はチェックしなかった。4月2日に裁判所命令が出た後の診断時に、同病院の医師はすべての確認項目をチェックした。家族は、母親の足のつま先が動いたことも見た。
 家族は、中立的な施設に移送して神経科医のセカンドオピニオンを得たいと裁判所に求めている。
Family blocks Buffalo hospital from pulling plug on their mother, but now what?
https://buffalonews.com/news/local/family-blocks-buffalo-hospital-from-pulling-plug-on-their-mother-but-now-what/article_ad301c14-bff3-11ec-b6df-03764eb37240.html

 


2021/9/7 脳死ではない昏睡・人工呼吸依存の1歳女児、州委員会が9月10日に生命維持を負えるように命令、両親は控訴見込み

 トロントのSickKids病院に入院しているカイオミ・ホール・ケンプちゃん(1歳女児)について、9月7日に州委員会が生命維持を9月10日(金曜日)午後5時までに終えるように命じた。この決定に両親は同意していない。控訴は7日以内にできる。
Friday deadline looms for parents of baby on life-support
https://torontosun.com/news/friday-deadline-looms-for-parents-of-baby-on-life-support


2021/9/1 カイオミ・ホール・ケンプちゃん(1歳女児)は、浴槽で溺れて7月8日に心停止。現在は微弱な自発呼吸があり脳死ではないが昏睡状態で人工呼吸をされている。SickKids病院・小児集中治療室の医師11人全員は深昏睡から決して回復しないから2ヵ月後に生命維持を停止して死なせることが女児の最善の利益であると院内の委員会に伝えたところ、両親は小児集中治療医があまりにも早く諦めている、人種差別と主張。母親は看護師との敵対的対応より8月2日に警察官の同行のもと病院から排除された。
MANDEL: SickKids doc says baby on life support will not recover
https://torontosun.com/news/local-news/mandel-sickkids-doc-says-baby-on-life-support-will-not-recover


2021/5/9 法廷闘争に敗れ、人工呼吸器から離脱させられてアンドレス・バンダさんは死亡

 5月9日、アンドレス・バンダさんの家族は法廷闘争に敗れ、同日夜に人工呼吸器から離脱させられて、アンドレス・バンダさんは数時間後に死亡した。息子は真の死因を究明するために独立した検視を要求している。家族によると、人工呼吸を停止される日にも家族を見て手を動かした。
A hospital disconnected a 43-year-old Hispanic despite opposition from his family – Explica .co
https://www.explica.co/a-hospital-disconnected-a-43-year-old-hispanic-despite-opposition-from-his-family.html

 

2021/3/3 米国カリフォルニア州でアンドレス・バンダさん(43歳男性)が1月にCOVID-19で入院し、1月6日に集中治療室に入り、2月にロマリンダ医療センターで脳死が宣告され、3月3日の午後5時に生命維持装置から切り離される予定となった。3月3日の朝、家族が別れを告げにいったところ、アンドレス・バンダさんは簡単な命令に応答した。医師は、アンドレスさんの状態を映したビデオをみても生命維持を終了する方針だったが、家族は弁護士の支援を受けて生命時を24時間延長し、さらに裁判で家族が選んだ外部の専門家がアンドレスさんを評価する機会が得られるまで、生命維持の3週間の延長が認められた。
Family pleads for 43-year-old father not to be removed from life support at Loma Linda hospital, claiming he’s responsive
https://ktla.com/news/local-news/family-pleads-for-43-year-old-father-not-to-be-removed-from-life-support-at-loma-l

2021/4/30 病院側はケアが苦しみを長引かせていると主張、家族側はテキサスメディケイドプログラムが介入しないことを確認!
 
 クック・チルドレン病院の控訴は、2020年10月にテキサス州最高裁判所が却下、2021年初に米国最高裁判所も却下したので、ティンスリー・ルイスちゃんの生命とケアを保護する一時的な差し止め命令は現在も有効。
 病院は患児のへのケアが苦しみを長引かせていると主張。母親はティンスリー・ルイスちゃんの状態は改善している、作業療法を受けており、ほとんどの日は車椅子に座っている。テキサス州内にケアを続ける意欲を示している施設が2つあると主張。
 病院はケアに費用がかかると示唆し、テキサスメディケイドプログラムがこの紛争を問題視すると脅していると主張したが、ティンスリーちゃん側の弁護士は4月30日にメディケイドに連絡し、この件に介入する計画がないことを確認したと宣誓供述書に記載されている。
Cook Children’s Continues Push to Withdraw Care from Tinslee Lewis Despite Improvements
https://thetexan.news/cook-childrens-continues-push-to-withdraw-care-from-tinslee-lewis-despite-improvements/

 

2020/7/15 ティンスリー・ルイスちゃんについて、病院側は脳死ではないことを認めたが、治療しても改善しないと主張。家族側は治療可能と主張して係争中。
Baby Tinslee in Texas may get a second chance thanks to new doctor
https://www.liveaction.org/news/baby-tinslee-texas-second-chance-doctor/?__cf_chl_jschl_tk__=849719cfd67d15c5a8e6e38198a579f78a46e35d-1595025503-0-AbeMsBm9kNBPRsryEgKMeBfmTgamR-Rn9M8ZUhlMy4dUu4SCv9D1yNAfgTbqxhGbF2awTG1T8tLh88HSDXZZgXr69Vy8mOBKE4l8SdNZcJzvyZRfZ0IRqbGgfYrxZM4zsoUqET0SSEUmu-7Gi9SUYROhK68fq5veELLHX1S3zCALpKJ2yNrHLijuXRcmyAQM7k9ynTkf3evLcBdbSqhEzoFDaU_J3XtlL3BP26hTuX307l-q4qVCCrp2QZfwWR-q9A9OetMVQo4MbPn4m3-gOlLJ6kUj82ppVLAkmU_iRsVuIe8u7kaxhjWW_urgyYXmEsqMZIhd476kcuW7A253vr4

 

2020/1/2  米国テキサス州でTinslee Lewisちゃん(11か月女児)が脳死とされ、家族が生命維持を求めて裁判をしていた。1月2日、裁判所は生命維持装置の取り外しを許可したが、母親は控訴の方針だ。
Hospital can remove baby from life support: Texas judge
https://www.ctvnews.ca/world/hospital-can-remove-baby-from-life-support-texas-judge-1.4751061


2021/1/8 英国で昏睡状態のポーランド人について、「水分と栄養の終了は残虐行為、障害者権利条約違反」と国連へ調査要請

 英国の病院に2020年11月6日から入院中の昏睡状態のポーランド人について、英国の裁判所が12月15日に水分補給と栄養を終了するように命じた。この命令は、患者家族が英国の裁判所に訴える意向を示した時、そして患者家族とポーランド政府が欧州人権裁判所に訴えた時の計2回、停止された。

 患者家族は、患者の状態は改善しており最小意識状態にあると主張。しかし欧州人権裁判所が申請を却下し、1月7日に水分と栄養が即座に終了された。
 1月8日、ポーランドの財団Ordo Iuris Institute for Legal Cultureが患者家族に代わって国連障害者権利委員会に書簡を送り、患者の権利が侵害されていることについて調査を要請した。
 障害者権利条約の10条(生存権)、15条(残虐行為の禁止=飢餓を残虐と主張)、22条(尊厳)、25条(障害者の健康維持)に違反していると主張している。

 ポーランドのメディアは、英国の病院は患者から移植用臓器を摘出する予定であると報道している。英国では臓器提供みなし同意法が2020年5月20日に発効しているため。

English hospital wants to harvest comatose Pole’s organs, as legal fight for life goes to UN
A British court had ruled to dehydrate the patient to death, which might be in violation of the UN’s Convention of the Rights of Person with Disabilities.
https://www.lifesitenews.com/news/english-hospital-wants-to-harvest-comatose-poles-organs-as-legal-fight-for-life-goes-to-un?utm_source=top_news&utm_campaign=standard


2020/11/1 カナダの救急医 半数が脳死後の生命維持要請に遭遇、2割が訴訟に発展

 カナダの救急医448人を対象とした調査で166人が回答した。回答者の52%は、過去2年以内に神経学的死後に継続的な臓器支援の要請に遭遇した。要求に対する一般的な回答には、追加の医師との相談(54%)、精神的サービスとの相談(41%)、および神経学的死の受け入れのための1〜3日の遅延(49%)が含まれた。報告された症例の24%(12/50)は正式な紛争解決に進み、報告された症例の18%(9/50)は正式な訴訟に進んだ。

 Table 5  Comparison of perceived reasons for family requests for continued organ support following NDD(神経学的死後の継続的な臓器支援を求める家族の要求の認識された理由の比較)」において
・奇跡や死をまったく受け入れられないことへの欲求 64%
・神経学的基準によって死を確立するために使用されるテストの妥当性に対する不信 6%
・医療制度への不信   2%
・死を決定するための神経学的基準の概念に対する宗教的異議 22%
 と掲載されている。

Requests for somatic support after neurologic death determination: Canadian physician experiences
https://link.springer.com/article/10.1007/s12630-020-01852-9

 


2020/10/2 脳死とされた男児の足をくすぐったら反応、裁判で医療提供と移送を認めさせ、10月2日から自宅療養

 米国テキサス州で8月24日、母子3人が自動車で運河に転落し、このうちジャンカルロ・ゲレーロさん(6歳男児)は2日目に脳死になったとされ、家族が別れの準備をしていたところ、母親がジャンカルロさんのつま先が動くのを見て、彼の足をくすぐったところ、つま先をゆっくりと振り回した。
ATV accident injures 6-year-old boy, family trying to raise money to get a second opinion
https://www.valleycentral.com/news/atv-accident-injures-6-year-old-boy-family-trying-to-raise-money-to-find-a-second-opinion/

 別の病院に移送しようとしたが病院側に拒否されたため、9月10日に訴訟を起こした。公聴会の間、現在入院している病院は9月25日まで医療援助を提供することに同意、ただし14日間のうちに心不全または呼吸不全に陥った場合は蘇生しないとした。病院側は、子供の母親が非蘇生対応に同意するならば別の病院への移送を拒否しないと主張。これらに双方が同意し、残りの問題は法定外で解決することに同意した。
Court requires DHR to medically assist boy they ruled braindead
https://www.wrbl.com/news/national/court-requires-dhr-to-medically-assist-boy-they-ruled-braindead/

 

 10月2日から自宅療養を開始したが、10月3日の深夜に亡くなった。
6-year-old dies from ATV accident injuries, family says “they’re thankful for so much love”
https://www.valleycentral.com/news/local-news/6-year-old-dies-from-atv-accident-injuries-family-says-theyre-thankful-for-so-much-love/


2020/9/21 脳死を宣告された女性のリビングウィルは生命維持!代理人が死亡の取り消しと治療継続を求めて訴訟、却下され死去。

 2020年9月17日にシャロン・フレデリックさん(63歳女性)が脳卒中でニューヨーク州のセントエリザベス医療センターに入院し、4日後に医師が脳死を宣告し死亡証明書を提出した。
 フレデリックさんは医療上の決定を下すことができない場合に、彼女に代わって行動してもらうために2人の友人を任命していた。その友人のキャロル・トーマスさんとジーナ・アントネッリさんは、死亡証明書を無効にしようと病院に治療継続を要求する訴訟を起こした。フレデリックさんのローマ・カトリック信仰と生命維持への信念を表明したリビングウィルに言及した。また入院後5日間、セントエリザベス医療センターが基本的な栄養を提供しなかったと非難した。
 ニューヨーク州裁判所と連邦裁判所はフレデリックさんの友人の要求を却下し、セントエリザベス医療センターに人工呼吸の停止を許可した。フレデリックさんは2020年9月21日に死去。
When the Line Between Life and Death Is ‘a Little Bit Fuzzy’
https://undark.org/2021/05/10/when-the-line-between-life-and-death-is-a-little-bit-fuzzy/


2020/5/28 キャンベラ病院は「脳死で妊娠20週だから胎児は生存不可能」と主張。生命維持を求めて訴訟中の男性に「訴訟を撤回し臓器提供に干渉しないなら、最後の1時間訪問することが許可される」と通告。
 
 交通事故によりKhayla Renoさん(29歳)と2人の子供が受傷した。子供1人は死亡、もう一人の子供も重体。Khayla Renoさんについて、5月18日にキャンベラ病院の医師は、脳死に進行している可能性があり胎児(妊娠20週)は生存不可能と告げた。
 胎児の父親のJamie Millardさんは、裁判所に生命維持停止の差し止めを求めたが、裁判所は5月28日にキャンベラ病院の決定を覆す管轄権を持たないと結論。妊娠20週のRenoさんの生命維持は、その日の遅くに停止された。
 臓器提供については、病院側弁護士がMillardさんに、訴訟を撤回し臓器提供計画に干渉しないことに同意した場合に、Renoさんを最後の1時間訪問することが許可されるだろうと通告。MillardさんはRenoさんが臓器提供を望まないと信じており、臓器提供は行われなかった。
https://www.abc.net.au/news/2020-05-28/canberra-hospital-life-support-switched-off-for-pregnant-woman/12296196
 
 9NEWSの記事https://www.9news.com.au/national/tumut-crash-court-rejects-bid-to-keep-pregnant-woman-on-life-support/f2dd5414-0a61-42df-b7a5-e8fc61d366e9 によると、胎児は23週から生存可能と見なされるという。Millardさんはアボリジニの考えで臓器提供を望まなかったが、Renoさんの父親によると臓器提供への反対を表明したことはないという。Renoさんの生命維持が停止される前に、病院側がMillardさんに最後の面会を許可した。
 

2020/2/26 ミドラ・アリちゃんの人工呼吸が停止され死亡、父親は検視官に調査を依頼
 
 ミドラ・アリちゃんの人工呼吸が2020年2月26日、午後4時46分に停止され亡くなった。
https://www.catholicnewsagency.com/news/infant-boy-removed-from-ventilator-after-controversial-brain-stem-death-ruling-53497
 父親は検視官に調査を求めている。以下のiTVニュースには2分34秒の動画があり、父親がインタビューに応えている。

 

2020/2/14 イギリス・マンチェスターで脳幹死とされたミドラ・アリちゃんの生命維持が争われていた裁判で2月14日、控訴裁判所は生命維持を停止できるとの判決を下した。両親は控訴する意向だ。下記URLのTHE SUNの記事によると、両親側の「4ヵ月以上生存しているから脳幹は機能している」「割礼の際に目を開いた」との主張に、病院側は「脳幹死で数カ月の心拍継続例がある」「開眼は不随意の神経反応」と応答した。
FIGHT FOR LIFE 
Parents’ agony as Court of Appeal rules brain-damaged baby son’s life support will be turned off against their wishes
https://www.thesun.co.uk/news/10962519/parents-agony-midrar-ali-court-of-appeal-life-support-off/

 

2020/1/28 脳死とされたMidrar Aliちゃんについて、裁判所は生命維持を停止すべきと判決
Judge rules brain-damaged three-month-old boy's life support should be turned off despite parents' desperate pleas
https://www.dailymail.co.uk/news/article-7938015/Judge-rules-brain-damaged-three-month-old-Midrar-Alis-life-support-off.html

 

2020/1/15 英国マンチェスターのSt Mary's Hospital において、出産時に低酸素脳症となった現在3カ月のMidrar Aliちゃんは脳死とされ、病院側は生命維持の終了がMidrar Aliちゃんにとって最善の利益と主張、父親のKarwan Aliさん(35歳)と母親のShokhan Aliさん(28歳)は、治療継続を求めて裁判をしている。
Midrar Ali: Legal battle child 'is brain dead', doctors say

https://www.bbc.com/news/uk-england-manchester-51125929


2020/1/24 生命維持裁判で和解のタイタス・クローマーさん、リハビリテーション施設に移送後に死亡

 米国ミシガン州のタイタス・クローマーさんは、脳死とされ生命維持が裁判で争われた結果、和解して1月20日にリハビリテーション施設に移送されたが、1月24日に亡くなった。
Titus Cromer, teen at center of life support legal battle, dies at age 16
https://www.freep.com/story/news/local/michigan/2020/01/27/titus-cromer-teen-center-life-support-legal-battle-dies/4585298002/

 

2020/1/20 米国ミシガン州で2019年10月に脳死とされたタイタス・クローマーさん(16歳)、家族が生命維持を求めて裁判をして、生命を維持し気管切開と胃ろう造設が行われて長期介護施設に移送できるようにすることで和解に達し、1月20日にミシガン州中部のリハビリテーション施設に移送された。
Teen Beaumont declared brain dead moved to rehab facility
https://www.michiganradio.org/post/teen-beaumont-declared-brain-dead-moved-rehab-facility


2020/1/22 イェールニューヘブン病院で脳死とされた10歳女児、昏睡から覚め普通に生活している
 米国コネチカット州ニューヘブンで、10歳の娘に薬物メタドンを混ぜた飲料を与えて脳損傷を起こした母親に50カ月の刑が宣告された。娘が入院したYale New Haven Hospitalで、父親は「酸素不足による脳損傷で脳死、もし昏睡から覚めたら生活の質がない」と告げられたが、娘は昏睡から覚め、普通に生活している。
New Haven mother gets prison for giving child methadone that caused brain injury
https://www.nhregister.com/news/article/New-Haven-mother-gets-prison-for-giving-child-14996447.php


2020/1/22 インドで新しいガイドライン、脳幹死の判定前に近親者に説明、判定後は治療終了、生命維持は停止
 インド政府は脳死宣告の新しいガイドラインを承認した。医師は、無呼吸検査を含む脳幹死検査が脳幹死診断の確認のために検討されている患者の病状と予後について、近親者と会話する必要がある。脳幹死と判定されると患者家族の同意なく死亡が宣告され生命維持装置が停止される。
New guidelines for brain death certification
https://timesofindia.indiatimes.com/city/thiruvananthapuram/thiruvananthapuram-new-guidelines-for-brain-death-certification/articleshow/73522984.cms


2020/1/16 アーライン・レスターさん、生命維持装置が取り外され死亡
 人工呼吸と人工栄養で生きているロングアイランドの91歳のアーライン・レスターさんの生命維持について兄弟間で裁判が行われていたが、1月16日に生命維持装置が取り外され死亡した。
91-year-old who wanted to ‘stay alive’ dies after being removed from life-support

https://www.lifesitenews.com/news/91-year-old-who-wanted-to-stay-alive-dies-after-being-removed-from-life-support

2020/1/6 意思疎通可能な母親を植物状態と見なし?29年前のリビングウィル実行について レスター兄弟間で裁判
 人工呼吸と人工栄養で生きている91歳の母親アーライン・レスターさんの生命維持について、兄弟間(エドワード・レスター対カイル・レスター)の裁判が1月6日に始まった。
 母親は1991年に「植物状態または脳死で寝たきりならプラグを抜く=生命維持を終了してよい」というリビングウィルを書いた。エドワードによると、母親は11月にエドワードに委任状を作り、リビングウィルを取り消す意志を紙に17回書いた。下記のURLで2分23秒の動画ニュースを視聴できる。息子の「まだ生きたい?」の問いに、うなづいた。
Brothers battle over whether to keep mom on ventilator, feeding tube alive
http://longisland.news12.com/story/41526009/brothers-battle-over-whether-to-keep-mom-on-ventilator-feeding-tube-alive


2020/1/9 英国で脳幹死とされた5歳女児、イタリアの小児病院で回復、自発呼吸で3時間生活可能
 英国で脳幹死とされ生命時装置の停止が予定され、裁判でイタリア・ジェノバのガスリニ小児病院に移送が許可されたタフィダ・ラキープちゃん(5歳)が、3ヵ月後の現在は人工呼吸器からの離脱が1日3時間可能で、バギーに載せて外出もしている。将来は在宅生活を目指している。
LITTLE FIGHTER 
Tafida Raqeeb, 5, out of intensive care three months after Brit doctors said she must be allowed to die
https://www.thesun.co.uk/news/10702224/tafida-raqeeb-prove-brit-doctors-wrong/


2020/1/8 家族に患者の死亡を伝えたが心臓が再び拍動、10時間後に心静止、ルイジアナ州立大病院
 2020年1月8日付発行の「Trauma case reports.」25巻に“Lazarus phenomenon in trauma”が掲載され、全文が
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352644020300042?via%3Dihubで公開されている。
 ルイジアナ州立大学救急医学部からの症例報告=交通事故に遭った79歳女性の救急蘇生を断念、家族に患者の死亡を伝えた。しかし蘇生断念から9分後に看護師が患者の呼吸に気付き心拍が毎分132、血圧142/79 mmHg、10分後に心拍が毎分100、100/53mmHg。輸血などしたが10時間後に心静止した。


2020/1/3 脳死で人工呼吸を停止された女性、昏睡7か月後に意識回復、現在は家庭で普通に生活、米国オハイオ州
 オハイオ州のカーティシャ・ブラブソンさん(31歳女性)は2018年9月に抗NMDA受容体脳炎を発症。脳死とされ人工呼吸を停止されが生き続け、昏睡状態が7カ月間続いた後に2019年4月7日に目を開け指示に従い、現在は家庭で普通に生活している。以下の記事URLで4分23秒のニュース動画を視聴できる。
Ohio woman wakes up from 7-month coma after family was told to 'pull the plug'
https://www.10tv.com/article/ohio-woman-wakes-7-month-coma-after-family-was-told-pull-plug-2020-jan


 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする