臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

「脳死」は人の死ではありません。「脳死」からの臓器摘出に反対します。臓器移植以外の医療の研究・確立を求めます。

臓器提供の承諾後~臓器摘出の手術中に脳死ではないことが発覚した症例、疑い例および統計 3-1

2024-06-07 16:22:35 | 声明・要望・質問・申し入れ

最新の追加情報(2024年6月7日)

 

 この「臓器提供の承諾後~臓器摘出の手術中に脳死ではないことが発覚した症例、疑い例および統計」は、3-1(このページ)とともに別ページの3-2、同3-3の計3ページで構成しています。

 今回、下記3-1に掲載している「2,脳死判定の誤りが発覚した頻度は、テヘランでは臓器摘出直前に0.15%、米国では臓器摘出直前に1~5%、日本および韓国では親族の臓器提供承諾後に1.2%前後」に、「麻酔と臓器移植(真興交易医書出版部、1992年発行)に掲載された以下の情報を追加しました。


 1979年3月1日から1985年3月1日までに223例のドナーがアリゾナ大学付属病院に登録された。そのうち62例が受け入れられ、残りの161例が拒否された。
心臓移植ドナー拒否の理由は、該当レシピエントなし(ABO不適合)50例(31%)、家族の拒否17例(11%)、血行動態の不安定15例(9%)、輸送上の問題16例(10%)、臓器提供前の死亡8例(5%)、記載なし7例(4%)、心停止6例(4%)、敗血症6例(4%)、脳活動あり6例(4%)、その他30例(18%)。

出典:Burnell R.Brown, Jr編、武田純三ほか:麻酔と臓器移植(真興交易医書出版部、1992年)、p100~p101

 

 

 

区切り線以下が3-1の本文です



臓器提供の承諾後~臓器摘出の手術中に脳死ではないことが発覚した症例、疑い例および統計

3-1

 

 以下3ページは、移植用臓器の提供について家族(近親者)の承諾が得られた後から臓器摘出術中までに、または臓器提供が拒否された後に、脳死ではないことが発覚した症例、その疑い例、および関連統計、関連情報の概要を掲載する。
 検索した資料は日本語または英語(1点のみドイツ語)で表記されたものに限定される。また網羅的に資料を点検できていない。加えて、脳死ではないことが発覚しないまま臓器摘出を完了しているケースが想定されるため、実際に脳死ではないのに臓器摘出手術が敢行された症例は、以下に掲載された事例より多いと見込まれる。

 

目次

3-1(このページ)の見出し

1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に、脳死ではないことが発覚した症例
2,脳死判定の誤りが発覚した頻度は、テヘランでは臓器摘出直前に0.15%、米国では臓器摘出直前に1~5%、日本および韓国では親族の臓器提供承諾後に1.2%前後

3-2の見出し
3,脳死なら効かないはずの薬=アトロピンが、脳死ドナーに投与され効いた!
4,脳死とされた成人の長期生存例(妊娠の継続・出産、臓器提供、異種移植実験などに伴う脳死宣告から1カ月以上の長期生存例)
5,「麻酔をかけた臓器摘出」と「麻酔をかけなかった臓器摘出」が混在する理由は?
      何も知らない一般人にすべてのリスクを押し付ける移植関係者

6,親族が臓器提供を承諾した後に、脳死ではないことが発覚した症例

3-3の見出し
7,親族が脳死臓器提供を拒否した後に、脳死ではないことが発覚した症例
8,脳死判定を誤る原因

 

・各情報の出典は、それぞれの情報の下部に記載した。更新日時点でインターネット上にて閲覧できる資料は、URLをハイパーリンク(URLに下線あり)させた。医学文献のなかには、インターネット上で一般公開している部分は抄録のみを掲載している資料もあり、その場合はURLの後に(抄録)と記載した。登録などしないと読めない記事はURLの後に(プレビュー)と記載した。

 


 

1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に脳死ではないことが発覚した症例

 

 2022年4月24日にチェルトナムの路上で殴られたジェームズ・ハワード・ジョーンズさん(28歳)は、病院に搬送され緊急手術を受けたが、数週間後に医師は家族に「ジェームズさんは脳死です、私たちにできる最も親切なことは彼を死なせることです(Within the first couple of weeks we were told by the doctors treating James that he was brain dead and the kindest thing we could do was to let him die)」と説明した。家族は臓器提供に同意した。家族や友人がジェームズさんに別れを告げることができるように、臓器提供を一週間遅らせた。ジェームズさんは、生命維持装置がオフにされる直前に意識を回復した。
 2023年7月現在、ジェームズさんに重度の精神的肉体的障害はあるが毎日、車イスを数時間使うことができる、平行棒を使って歩き始めている。

出典=Man declared brain dead after being punched on a night out wakes up just before his life support was about to be switched off
https://www.dailymail.co.uk/news/article-12269037/Man-declared-brain-dead-wakes-just-life-support-switched-off.html

 

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 米国ウェストバージニア州のエリック・エリスさん(36歳)は転落事故後に脳死とされ、家族は臓器提供に同意したものの、臓器摘出の直前に左腕を動かしたためICUに戻された。フェイスブックをみると受傷は2020年9月上旬(9月5日?)、9月11日(金)に回復の徴候。9月13日に開眼、見当識障害。10月23日に自力で食事、会話、トイレまで歩行。11月4日に帰宅。
当ブログ注:脳死判定の詳細は記事では不明。

出典=‘Miracle’; WV man comes back to life after ‘officially deemed’ brain dead
https://myfox8.com/news/miracle-wv-man-comes-back-to-life-after-officially-deemed-brain-dead/
出典=フェイスブックhttps://www.facebook.com/eric.ellis.52

 

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 2014年12月初め、ドイツ・ブレーメンの病院で、外科医がドナーの腹部を切開した後、死んでいないことに気付き臓器摘出は中止された。脳死は判定基準に従って証明されていなかった。
当ブログ注:脳死判定の詳細は記事では不明。

出典=Schwere Panne bei Organ-Entnahme
http://www.sueddeutsche.de/gesundheit/krankenhaus-bei-bremen-schwere-panne-bei-organ-entnahme-1.2298079(プレビュー、この記事に誤診の詳細な記載はない)

 

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 アトランタのエモリー大学病院で心肺停止の55歳男性は発症から78時間後に脳死宣告、家族は臓器提供に同意した。患者は臓器摘出のため手術室に搬送され、手術台に移す時、患者が咳をしたことに麻酔科医が気づいた。角膜反射、自発呼吸も回復しており、患者はただちに集中治療室に戻された。発症から145時間後:脳幹機能が消失、神経学的検査で脳死に矛盾しない状態となった。発症から200時間後:脳血流検査で血流なし。患者家族と人工呼吸器停止の結論、臓器摘出チームとは家族に再び臓器提供でアプローチしないことを決定した。発症から202時間後:人工呼吸器を停止、心肺基準で死亡宣告。
当ブログ注:無呼吸テストは1回だけ10分間人工呼吸を停止した。

出典=Adam C. Webb: Reversible brain death after cardiopulmonary arrest and induced hypothermia, Critical Care Medicine,39(6),1538-1542,2011
http://journals.lww.com/ccmjournal/Abstract/2011/06000/Reversible_brain_death_after_cardiopulmonary.44.aspx(抄録)

 

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 2009年10月16日、コリーン・バーンズさん(41歳)は、薬物の過剰摂取でニューヨーク州のセントジョセフ病院に入院。10月19日午後6時、看護師がバーンズさんの足を指でなぞったところ足指を曲げた、鼻孔が膨らんで自発呼吸の兆候が見られ唇や舌も動いていた。午後6時21分、その看護師はバーンズさんに鎮静剤を投与したが、医師の記録には鎮静剤も症状の改善もない。10月18日と19日、不完全な神経学的診断と不正確な低酸素脳症との診断で、脳死判定基準の無呼吸に該当していなかったが脳死と診断した。家族は、生命維持を停止して心臓死後の臓器提供に同意した。10月20日午前12時、心停止後の臓器提供のため手術室内の準備室に運び込まれたバーンズさんが目を開けたので、心停止および臓器摘出処置は中止された。
バーンズさんは重度のうつ病のため家族も病院を訴えることはせず、それから16ヵ月後にBurnsさんは自殺した。

出典=St. Joe’s “dead” patient awoke as docs prepared to remove organs
http://www.syracuse.com/news/index.ssf/2013/07/st_joes_fined_over_dead_patien.html

・U.S. Centers for Medicare and Medicaid Services report on St. Joseph's Hospital Health Center
http://ja.scribd.com/doc/148583905/U-S-Centers-for-Medicare-and-Medicaid-Services-report-on-St-Joe-s(プレビュー)

 

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 2009年12月16日付のNew York Times magazineは、マサチューセッツ医科大学の医師で医療コラムニストのDarshak Sanghavi氏による“When Does Death Start?”を掲載。同大学神経救急科のDr. Wiley Hallが「脳死ではない患者に死亡宣告し臓器ドナーとするザック・ダンラップ(2007年)と類似のケースが昨年、マサチューセッツでもあった」と話したとのこと。
当ブログ注:脳死判定の詳細は記事では不明。

出典=When Does Death Start?
https://www.nytimes.com/2009/12/20/magazine/20organ-t.html(プレビュー)

 

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 2007年11月、オクラホマ州のザック・ダンラップさん(21歳)は4輪バイクの転倒事故でユナイテッド・リージョナル病院に搬送。医師は家族に「脳の中身が耳から出てきている」と告げた。脳血流スキャンで脳に血流が無かった。受傷から36時間後の11月19日11時10分に脳死宣告。別れを告げに来た従兄弟で看護師のダン・コフィンさんが、ダンラップさんの足の裏をポケットナイフで引っ掻くと下肢が引っ込んだ。手指の爪の下にコフィンさんが指の爪をねじ込むと、ダンラップさんは手を引っ込めて自分の身体の前を横切らせたことで、意図的な動きをしており脳死ではないと判断された。ダンラップさんの父母のもとに臓器移植機関の職員が訪れ「すべては中止です」と伝えた。ダンラップさんは、医師が「彼は死んだ」と言ったのが聞こえため後に「狂わんばかりになりました」と語った。
当ブログ注:脳血流検査が行われ脳血流が無いと診断された。

出典='Dead' man recovering after ATV accident. Doctors said he was dead, and a transplant team was ready to take his organs -- until a young man came back to life.
https://www.nbcnews.com/id/wbna23768436
・2008年3月23日に放送されたNBC News動画の短縮版がhttp://medicalfutility.blogspot.com/2018/11/brain-death-no-no-no-to-apnea-test.htmlで視聴可能(再生開始から2分53秒~5分27秒の部分)
・2019年公開の動画https://www.youtube.com/watch?v=ZXFM9INV-bQ
 Declared Brain Dead – the story of Zack Dunlapにザック・ダンラップさんと妻と娘、そしてダン・コフィンさんが出演した。
 ダン・コフィンさんが脳死判定を疑ったのは、ザック・ダンラップさんの血圧と心拍数の変化、そして人工呼吸器の設定とザック・ダンラップさんの呼吸が合わなかったことから。また、疼痛刺激よりも強い刺激としてポケットナイフは開かないで使った、爪の下に爪を押し込んだ、対光反射も部屋を明かりを暗くして行うように頼んだ、と語った。

 

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・30歳の重傷頭部外傷患者は脳死が宣告され、19歳の肝不全患者への肝臓移植が計画された。麻酔医は、そのドナーが自発呼吸をしていることに気づいた。麻酔医が脳死判定に疑問を呈したところ、脳死判定した医師は患者は回復しないから脳死である、そして肝臓のレシピエントは移植なしには死が差し迫っているからと述べた。麻酔医の抗議に関わらず、臓器摘出は行われた。ドナーは、皮膚切開時に体が動き高血圧になったため、チオペンタールと筋弛緩剤の投与が必要になった。肝臓のレシピエントは急性内出血のために、肝臓の採取が完了する前に別の手術室で亡くなった。肝臓は移植されなかった。

・頭蓋内出血後に脳死が宣告された多臓器ドナー=頻脈があったためネオスチグミン(抗コリンエステラーゼ)が投与されていたドナーは、「大静脈が結紮され、肝臓が取り出された」と外科医が知らせた瞬間に自発呼吸を始めた。そのドナーは無呼吸テストの終わりに喘いでいたのだけれども、脳外科医は脳死判定基準を満たしていると判定していた。

・麻酔科医は臓器摘出予定日に、挿管された若い女性に対光反射、角膜反射、催吐反射のあることを発見した。それまでの管理が見直されエドロホニウム10mgを投与したところ、患者は咳き込み、しかめつらをし、すべての手足を動かした。臓器提供はキャンセルされた。頭蓋内圧が治療により徐々に下がり、患者は意識を最終的に取り戻し帰宅したが、神経学的欠損に苦しんだ。

出典=Gail A Van Norman:A matter of life and death: what every anesthesiologist should know about the medical, legal, and ethical aspects of declaring brain death、Anesthesiology、91(1)、275-287、1999
https://pubs.asahq.org/anesthesiology/article/91/1/275/37321/A-Matter-of-Life-and-Death-What-Every
当ブログ注:著者の所属はDepartment of Anesthesiology, University of Washingtonだが、上記3症例の発生した施設名の明確な記載は無い。

 

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 台湾では法務部が1990年に「執行死刑規則」を改訂し、臓器寄贈を同意する受刑者に対し、心臓でなく、そのかわりに頭部(耳の下の窪の部分、脳幹辺り)を撃つことができるようになった。1991年に病院での2回目の脳死判定を省略し、執行場での1回目の判定でよいと規則を変えた。1991年に、ある脳死判定された死刑囚が栄民総医院の手術室で息が戻り、病院側が余儀なく当該「脳死死体」を刑務所に送り返すという不祥事が発生した。

出典=町野 朔:移植医療のこれから(信山社)、325-326、2011

 

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 1990年9月25日、ノースカロライナ州のカート・コールマン・クラークさん(22歳)は自動車事故でフライ地域医療センターに入院。血管に放射性物質を注射して頭部の血管を調べた。脳内出血で脳がはれ、心臓が送られてくる新鮮な血が脳内に流れていなかった。26日午前10時21分に脳死宣告。家族の意向を確認し、「遺体」をハイウェーで1時間余りのバブティスト病院に運んだ。バブティスト病院の移植チームは、クラークさんのまぶたが動くことを見て、体をつねるとクラークさんは痛みを避けるような動作をした。人工呼吸器を外すと、かすかながら自発呼吸をしていた。臓器摘出手術は中止された。クラークさんは脳内の出血を取り除く緊急措置がとられた。6日後、この患者は改めて死亡宣告を受けた。その間、意識を回復することはなかった。家族は、二度目の死亡宣告時に臓器提供はしなかった。
当ブログ注:脳血流検査が行われ脳血流が無いと診断された。

出典=息をした米の脳死患者 臓器摘出直前 体が動いた!!:朝日新聞、1990年10月26日付朝刊3面

 

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 マーガレット・ロックが面接した医師5名のうち1名が、研修医時代の経験として以下のように語った。

「私たちには、移植用の臓器を確保しなければならないというプレッシャーがあったと思います。私たちは無呼吸テストを30秒間行いましたが、自発呼吸はみられませんでした。それで、私たちはその患者をドナーとして手術室に送りました。ところが、手術室で人工呼吸器が外されたとき、彼は呼吸しはじめたのです。私たちは、ICUに戻されてきた彼のケアに努めました。結局彼は、2ヵ月後に死亡したのですが、私たちは悪夢を見ているような気がしました。弁解の余地のないこの事件が起きたのは、脳死に関するはっきりしたガイドラインのなかった70年代初めのことです。私はいつも研修医たちにこの話をし、けっして性急に判定を下してはならないと注意しています」

出典=マーガレット・ロック:脳死と臓器移植の医療人類学、みすず書房、196-197、2004

 

注:脳死ではないことが発覚した時点が、上記の各症例よりも若干早いと見込まれる情報「6,親族が臓器提供を承諾した後に、脳死ではないことが発覚した症例」を、次ページ2-2に掲載しています。

 


 

2,脳死判定の誤りが発覚した頻度は、テヘランでは臓器摘出直前に0.15%、米国では臓器摘出直前に1~5%、日本および韓国では親族の臓器提供承諾後に1.2%前後

 

 イランのテヘランでは「脳死が正式に確認され、家族が2回目の同意を与えると、臓器は臓器調達部門の手術室で摘出される。手術室に行くことが100%確実な場合に、死亡したドナーのみを臓器調達部門に移送する」という運用だが、2016年から2018年に臓器調達部門に移送された685人の潜在的脳死ドナーうち1人が脳死と確認できなかったため臓器提供に至らなかった。

出典=Masoud Mazaheri: Failed Organ Donations After Transfer to an Organ Procurement Unit, Experimental and clinical transplantation,17(1),128-130,2019
http://www.ectrx.org/forms/ectrxcontentshow.php?doi_id=10.6002/ect.MESOT2018.O79

 

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 米国の6地域における12の臓器調達機関の代表者の回答(2023年6月から9月に調査)によると、12機関のうち10機関が神経学的死亡(death by neurologic criteria:DNC:脳死)宣告の取り消しを経験していた。
 脳死宣告が取り消された症例数は、5例未満が3機関、Fewが7機関、Neverが2機関。臓器調達機関が、2010 年基準(2010 American Academy of Neurology Practice Parameter)またはDNCの病院ポリシーを満たしていないという懸念から、潜在的な臓器提供者を拒否した事例の頻度は年間1例未満が6機関、Neverが5機関、Uncertainは1機関だった。

出典:Neurocritical Care電子版、2024年5月15日付 Verification of Death by Neurologic Criteria: A Survey of 12 Organ Procurement Organizations Across the United States
https://link.springer.com/article/10.1007/s12028-024-02001-6

 

 

 p69(187) 豊見山直樹医師の発言=「アメリカの移植に携わるコーディネーターの方と話をしたときに、ラフな運用と感じました。人工呼吸器をはずした際は、自発呼吸し始めたのが数パーセント、5 %近くあるんだよという話を聞きました」。

出典=玉井修:座談会・移植医療について、沖縄県医師会報、47(2)、178-197、2011
http://www.okinawa.med.or.jp/old201402/activities/kaiho/kaiho_data/2011/201102/pdf/060.pdf

 

 

 スタンフォード大学ドナーコーディネーターによると1980年代後半の5年間に「約300の臓器調達経験の中で3例の『早すぎた脳死判定』があり、いったん行ったが、引き返したこともある」。

出典=神戸生命倫理研究会:脳死と臓器移植を考える(メディカ出版)、195-220、1989

 

 

 1979年3月1日から1985年3月1日までに223例のドナーがアリゾナ大学付属病院に登録された。そのうち62例が受け入れられ、残りの161例が拒否された。
心臓移植ドナー拒否の理由は、該当レシピエントなし(ABO不適合)50例(31%)、家族の拒否17例(11%)、血行動態の不安定15例(9%)、輸送上の問題16例(10%)、臓器提供前の死亡8例(5%)、記載なし7例(4%)、心停止6例(4%)、敗血症6例(4%)、脳活動あり6例(4%)、その他30例(18%)。

出典=Burnell R.Brown, Jr編、武田純三ほか:麻酔と臓器移植(真興交易医書出版部、1992年)、p100~p101

 

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 Korea Organ Donation Agencyのデータによると、2013年から2017年に、家族から脳死臓器提供の承諾を得た後に2761人のうち35人=1.3%(35/2761)が脳死ではなかった。

出典=Yong Yeup Kim: Organ donation from brain-dead pediatric donors in Korea:A 5-year data analysis(2013-2017),Pediatric transplantation,e13686,2020
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/petr.13686(抄録)


 韓国では「意識障害がGCSスコア4未満で、不可逆性脳傷害を伴う昏睡状態で人工呼吸器を用いた自己呼吸がない患者」を潜在的脳死ドナーとしている。
Korea Organ Donation Agencyのデータによると、2012年1月から2016年12月までに潜在的脳死ドナーは8120人あり、このうち1232人が脳死ではなかった。2718人の家族から脳死臓器提供の承諾を得られた。最初の脳死判定(7つの脳幹反射と無呼吸テストを実施するが脳波検査は含まない)をパスしレシピエント決定手続きが開始された適格ドナーは2527人だったが、14人が第2回脳死判定をパスせず、18人が脳波検査をパスせず、1人が脳死判定委員会をパスしなかった。2400人が実際に脳死臓器ドナーとされたが、うち1人が脳死ではなかった。
=親族から脳死臓器提供の承諾を得た後では1.3%(34/2718) が脳死ではなかった。臓器摘出手術の直前または臓器摘出術中に0.04%(1/2400)に脳死ではないことが発覚した。

出典=Kim Mi-im:Causes of Failure during the Management Process from Identification of Brain-Dead Potential Organ Donors to Actual Donation in Korea: a 5-Year Data Analysis (2012-2016),Journal of Korean Medical Science,33(50),e326,2018
https://jkms.org/DOIx.php?id=10.3346/jkms.2018.33.e326

 

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 2021年4月21日に開催された第53回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会の「資料1 臓器移植対策の現状について」https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000770822.pdfは、p17に「ドナー情報の分析(2016年~2020年)」を掲載した。
 臓器提供に至らなかった理由を10分類=「家族辞退」「急変」「医学的理由」「感染症」「判断能力確認できず」「本人拒否の意思表示」「虐待の可能性否定できず」「司法解剖」「施設都合」「その他」に分けて掲載している。
 脳死診断の取り消し例または脳死宣告の取り消し例は、この「その他」に分類されていると見込まれる。
 ドナー適応あり1226名のうちでは「その他」は3.5%(43/1226)。コーディネーターによる臓器提供の説明は745名の家族に行われたうち「その他」は2.0%(15/745)。臓器提供の承諾が573名の家族から得られたうち「その他」は1.2%(7/573)となる。下図を参照。


 

 「その他」とされている43名は、脳死診断の誤り例または脳死宣告の取り消し例なのか。関係施設から裏付ける報告がある。

・2008年開催の第53回日本透析医学会学術集会・総会で伊勢まゆみ氏(柏友クリニック)は「40歳女性、透析歴19年、移植直前にドナーの脳死判定が覆り、見送りとなる」と発表した。

出典=伊勢まゆみ:透析サテライトにおける腎移植 6症例から学んだこと、日本透析医学会雑誌、41(supple.1)、643、2008

 

・2011年6月開催の第24回日本脳死・脳蘇生学会総会・学術集会シンポジウム「改正臓器移植法 1年の検証」において、鹿野 恒氏(市立札幌病院救命救急センター)が「世の中では聞いているとよくあるんです、脳死だろうということでオプション提示をしてしまって、コーディネーターまで来て承諾書まで作っているのに、あとから自発呼吸が出てきて植物状態になって転院していったと。何のための承諾書かわからないですね。死を前提とした承諾書なのに、その第一段階を間違えているわけです。」と発言した。

出典=シンポジウム「改正臓器移植法 1年の検証」、脳死・脳蘇生、24(2)、71-112、2012

 

 このように脳死臓器提供が中止されたケースは発生している。次の情報は臓器移植コーディネーターが書いて日本臓器保存生物医学会誌に掲載済みのものだ。

 東京都臓器移植コーディネーターの櫻井悦夫氏が、1995年4月から2017年3月までの約22年間に東京都内のドナー情報の連絡を受けて対応を開始した424例のうち、家族説明は341例に行い、245例から承諾を得て、実際の臓器摘出は201例(心停止後136例、脳死下65例)であった。家族説明後に96例は臓器提供の承諾を得らなかった。このうち5例は植物状態に移行したため家族対応を中止した(表7)。さらに245例の家族が提供を承諾したうち44例が提供に至らなかった。うち1例は植物状態に移行したためだ(表8)。

 

 この論文は中止理由について、脳死下の臓器提供と心停止後の臓器提供を区別せずに記載している。しかしp10で「コーディネーターに臓器提供についての家族対応の要請が入るということは,その方は近い将来に『亡くなる』と言う診断がされていることを意味している。(中略)ほとんどの臓器提供候補者は突然の発症と急展開の経過において『脳の不可逆的な障害状態』にある点である。脳の機能は失われているが、臓器の機能は失われていない状態にあり、それでも死が切迫している事実を知らされる点である」とした。
 「脳の不可逆的な障害状態」そして「死が切迫している事実を知らされる」から、患者家族に脳死の説明をしたと判断される。

出典=櫻井悦夫:臓器移植コーディネーター 22年の経験から、Organ Biology、25(1)、7-25、2018
https://www.jstage.jst.go.jp/article/organbio/25/1/25_7/_pdf/-char/ja

 

 以上の各情報から、日本でも親族から臓器提供の承諾を得たものの、後に脳死判定の誤りが発覚した症例の存在が確信できる。

 

 

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