臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

「脳死」は人の死ではありません。「脳死」からの臓器摘出に反対します。臓器移植以外の医療の研究・確立を求めます。

臓器提供の承諾後~臓器摘出の手術中に脳死ではないことが発覚した症例、疑い例および統計 3-3

2024-06-07 16:20:55 | ニュース・文献の概要

臓器提供の承諾後~臓器摘出の手術中に脳死ではないことが発覚した症例、疑い例および統計

3-3

3-1の見出し

1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に、脳死ではないことが発覚した症例
2,脳死判定の誤りが発覚した頻度は、テヘランでは臓器摘出直前に0.15%、米国では臓器摘出直前に1~5%、日本および韓国では親族の臓器提供承諾後に1.2%前後

3-2の見出し
3,脳死なら効かないはずの薬=アトロピンが、脳死ドナーに投与され効いた!
4,脳死とされた成人の長期生存例(妊娠の継続・出産、臓器提供、異種移植実験などに伴う脳死宣告から1カ月以上の長期生存例)
5,「麻酔をかけた臓器摘出」と「麻酔をかけなかった臓器摘出」が混在する理由は?
      何も知らない一般人にすべてのリスクを押し付ける移植関係者

6,親族が臓器提供を承諾した後に、脳死ではないことが発覚した症例

3-3の見出し(このページ)
7,親族が脳死臓器提供を拒否した後に、脳死ではないことが発覚した症例
8,脳死判定を誤る原因

 


 

7,親族が脳死臓器提供を拒否した後に、脳死ではないことが発覚した症例

 生来健康な生後17ヵ月の女児は、重度の熱性痙攣で国立成育医療センターの集中治療室に転送され急性脳症と診断された。発症から17日目に、無呼吸テストを除く臨床的脳死の診断で、日本臓器移植ネットワークのコーディネーターが家族に臓器提供の説明をした。
 家族が臓器提供を拒否して2週間は神経学的所見は変化しなかったが、急性脳症の発症から約5週間後に自発運動が始まった。
・これらの動きには、刺激なしで足底の屈曲と同期して4本の手足すべてが軽く痙攣することが含まれていた。この動きは、呼吸器の吸気相と一時的に同期した。
・つま先と指の刺激には、股関節と膝関節の屈曲を伴う動きのような引っ込め反射が含まれる。
・患者の姿勢は股関節外転を伴うカエルのようなものであったが、股関節内転や膝屈曲などの姿勢変化が観察された。
・顔面刺激(例えば、柔らかいティッシュペーパーでまぶたや角膜に触れる、または眼窩上を圧迫する)は、膝関節の伸展または足首関節の屈曲を誘発した。
・上肢は時々、瞬間的に重力に逆らって持ち上げられた。
・膝蓋骨腱反射テストは、上肢および反対側の下肢に行い、上肢の刺激は、両方の下肢のけいれんを引き起こした。
・医師らは家族に、患児はもはや「脳死」ではないことを説明した。なぜなら、脳幹起源の体動があったからだ。
 入院45日後に当院を退院した患者は、急性脳症の発症時に最初に治療を受けていた島田療育センターに戻り、在宅療養を準備した。彼女の全身状態と神経学的所見は、当院退院後12か月を超えても有意に変化せず、彼女は呼吸器に依存したままであり、胃瘻チューブを介して栄養補給されていた。患者は時折、自発的に体動した。しかし、彼女の脳波は平坦だった。発症から 16カ月で、患者は肺炎と尿路感染症による多臓器不全で亡くなった。

出典=Masaya Kubota:Spontaneous and reflex movements after diagnosis of clinical brain death: A lesson from acute encephalopathy, Brain & Development,44(9),635-639,2022
https://www.brainanddevelopment.com/article/S0387-7604(22)00103-6/fulltext(抄録)

 


 

8,脳死判定を誤る原因

 

 脳死判定を誤る原因は「脳死判定基準にもとづき厳格に行わないから」「早すぎる脳死判定、薬物影響下の脳死判定」「患者を傷つける検査は行わないから」「患者本人ではなく他人の利益のために医療を行っているから」であろう。

 

 「1,臓器摘出の直前~臓器摘出術開始後に、脳死ではないことが発覚した症例」そして「6,親族が臓器提供を承諾した後に、脳死ではないことが発覚した症例」では、日本の法的脳死判定とは異なる脳死判定がある。検査項目や検査回数を減らせば、診断を誤る確率が上がるのは当然のことだ。
 しかし日本の法的脳死判定でも「画像診断が行われていない」「基準と異なる他の検査で代用した」「脳波の記録時間が30分未満。高感度記録なし」「コンタクトレンズがついたまま検査」などがあった。
 心停止ドナー候補者に行われる「一般の脳死判定(一般の脳死診断、一般的脳死判定とも表現)は、諸外国と同様に粗雑に行われている。アンケート(注4)に回答した施設の4割は無呼吸テストを行わず、法的脳死判定に準じて診断していたのは3割しかなかった 。心停止ドナーに一般の脳死判定がなされると、親族の承諾を得た後に臓器摘出手術の一部分=臓器摘出目的のカテーテル挿入や抗血液凝固剤ヘパリン投与などが、現行のマニュアルは許容している。
 諸外国の脳死判定がいい加減だからと言って、日本の一般の脳死判定の粗雑さ=「心停止後の臓器提供」と称する法的脳死判定手続きのスキップ・臓器移植法のザル法化=を検討の対象外としてはならない。

 

 2007年11月のザック・ダンラップさんは、受傷から36時間後の脳死宣告が誤っていた。一過性のショックで数十時間にわたり脳死判定基準を満たしうる状態になった後に回復する患者がいるため、多くの国で脳死判定を開始するまで待つ期間を設定しているが24~48時間など短い。日本の脳死判定基準にその規定がない。
 しかし大阪大学医学部附属病院では、3ヵ月女児が脳死徴候をすべて満たした後に第5病日の無呼吸テストで自発呼吸なしとされたが、第43病日に自発呼吸が発現した(注5)。受傷・発症から数十日間、救命医療を継続した後にしか脳死判定ができなくなるならば、また長期間生命を維持することが可能ならば「脳死は人の死か否か」という論議は不必要になる。

 

 2009年のコリーン・バーンズさんは薬物の過剰摂取に加えて、治療中に鎮静剤が投与されていた。意識不明で人工呼吸器を装着された患者は麻酔、鎮痛剤、鎮静剤など脳の機能を低下させて脳死と似た状態をもたらす薬物(中枢神経抑制剤)を投与されていることが多い。薬物は時間が経過しないと代謝・排泄がなされないため影響が続く。
 2011年エモリー大学病院において臓器を摘出する手術台上で脳死ではないことが発覚した55歳男性の場合は、低体温療法後に復温してからの観察時間が短かった可能性を当該施設が指摘している。低体温でも薬物は代謝・排泄が時間がかかる。
 しかし法的脳死判定マニュアルは「通常の投与、一般的な投与量であれば24時間以上を経過したものであれば問題はない」とおざなりな規定をしている。
 24時間以上、脳組織内に薬物が残留していることがある。「臨床的脳死状態で塩酸エフェドリンを投与された患者が約72時間後に心停止した。解剖して各組織における薬物濃度を測定したところ、心臓血における濃度よりも53倍(3.35μg)の塩酸エフェドリンが大脳(後頭葉)に検出された」(注6) 。
 腕などから採取した血液の薬物濃度と脳組織内の薬物濃度は異なる。生きている患者から脳組織を採取することは許容されないため、正しい薬物濃度の測定は不可能であるし、測定できても薬物濃度による影響は個体差が大きく「薬物の影響なし」との判断は難しい。従って脳死判定に影響し得る薬物を投与された患者の大部分は、脳死判定の対象から除外するしかなくなる。そうであるのに、敢えて脳死判定を行うならば、判定を誤ることは不可避になる。

 

 脳血流が無いとされながら、実際には脳が機能していた症例もある。ヒトの脳組織の壊死する血流量が不明であること(壊死する血流量として引用されている数値はサルの脳の壊死実験で得た数値)、脳血流量を数値化するのではなく画像で低血流量とする曖昧な判断、低血流時は脳の機能も停止する、薬物も代謝されない、など脳血流検査にも技術的限界がある。

 

 ザック・ダンラップさんは、ナイフの背で足の裏面を引っかかれ、爪の下に他人の爪を押し込まれて脳死ではないことが発覚した。しかし、医療で患者を過剰に傷つける検査は許容されないから行えない。脳死判定は、患者の昏睡状態を確認するために疼痛刺激を加える。患者の顔面を滅菌した針か虫ピンで突き、眉毛付近は指で圧迫して反応の有無を診る。このような疼痛刺激では弱すぎ、ナイフで患者の身体を切ったら反応があるかもしれない。臓器摘出時に皮膚切開が始まると血圧が急上昇する。脳死判定を許容している脳外科医、移植医らは、これを脊髄反射・脊椎自動反射としか説明しないが、実際にはメスで体を切り開かれる激烈な痛みで苦しみ、生きたまま解剖される恐怖・絶望を感じつつ、不本意な死を強要された患者がいるのではないか。

 

 マーガレット・ロックが面接した医師によると、1970年代に30秒間の無呼吸テストで自発呼吸はみられなかった患者が、手術室で人工呼吸を外したら呼吸を始めた。1988年報告のマクマスター大学病院例は無呼吸テストの強度を上げたら自発呼吸が確認された。
 現代の無呼吸テストは人工呼吸を停止し、動脈血内の二酸化炭素分圧が60mmHgを超えるまでに自発呼吸をしなければ無呼吸と診断する。しかし、この規定値を超える66.4mmHg(注7) 、72.2mmHg (注8)、86mmHg(注9) 、91mmHg(注10) 、112mmHg(注11) などでの自発呼吸例が報告されている。無呼吸テストを現状より長時間行うと、自発呼吸能力のある脳死ではない患者を発見できる事は明らかだ。
 しかし、無呼吸テストが長時間行われると、心停止直前で自発呼吸をする患者がいる一方で、心臓死に至る患者も多発する。移植用臓器の鮮度・活力を維持するためにも、不整脈や心停止の危険のある長時間の無呼吸テストは忌避される。

 患者を過度に傷つける検査は行えないため、患者が本当に深昏睡で絶対に回復することはないのか、自発呼吸能力が完全に廃絶しているのかは知りえない。低刺激検査に留めるしかないことから、脳死判定を誤る可能性が無くならない(このほか低感度検査の限界=頭皮の上に置いた電極で脳波が測定できなくとも、頭蓋骨の内部に電極を置くと脳波を測定できることがある。無呼吸テストで患者の胸の動きを目視で観察して呼吸をしていないように見えても、センサーや筋電図で測定すれば呼吸運動が確認できることがある他=も指摘されてきた)。

 

 医療機関側の都合で重症患者への医療を打ち切りたい場合には、患者の生存能力、脳機能が明らかになっては、患者家族を納得させる説明が困難となり医療の打ち切りが難しくなる。移植用臓器も獲得できなくなる。このように患者本人のための医療ではなく、他の人の利益のために医療が行われる所で脳死判定または終末期診断が行われることにより、その当然の結果として脳死判定・死亡予測・死亡宣告は誤る。こうした誤診の一部分が発覚しているのであろう。

 

文献

(注4)荒木 尚:救急・集中治療において臓器提供を前提としない脳死判定と患者対応の現況について、脳死・脳蘇生、30(1)、33、2017
(注5)Ken Okamoto:Return of spontaneous respiration in an infant who fulfilled current criteria to determine brain death,Pediatrics,96(3),518-520,1995
https://pediatrics.aappublications.org/content/96/3/518(抄録)
(注6) 守屋文夫(高知医科大学法医学):脳死者における血液および脳内の薬物濃度の乖離、日本医事新報、4042、37-42、2001
(注7) 河野昌史:呼吸停止と深昏睡をきたしながら脳死を否定された1例、日本救急医学会関東地方会雑誌、8(2)、524―525、1987
(注8) 林成之:脳死診断の現場と無呼吸テスト、脳蘇生治療と脳死判定の再検討(近代出版)、97、2001
(注9) 榎泰二朗:無呼吸テストの信頼性について、麻酔、37(10S)、S66、1988
(注10) Ralph Vardis:Increased apnea threshold in a pediatric patient with suspected brain death、Critical care medicine,26(11),1917-1919,1998
https://journals.lww.com/ccmjournal/Abstract/1998/11000/Increased_apnea_threshold_in_a_pediatric_patient.40.aspx(抄録)
(注11) Richard J.Brilli:Altered apnea threshold in a child with suspected brain death、Journal of child neurology,10(3),245-246,1995
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/088307389501000320(プレビュー)

 

 

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