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臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

「脳死」は人の死ではありません。「脳死」からの臓器摘出に反対します。臓器移植以外の医療の研究・確立を求めます。

「いのちの教育セミナー」において正しい説明・情報提供を求める申し入れ

2021-01-16 08:23:14 | 声明・要望・質問・申し入れ

2021年1月15日

日本臓器移植ネットワーク 理事長  門田守人殿
日本教育新聞社 社長 小林幹長殿

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

 

「いのちの教育セミナー」において正しい説明・情報提供を求める申し入れ

 

 私たちは、脳死判定基準を満たしたら人の死とすること、および「脳死」からの臓器摘出に反対し、臓器移植以外の医療の研究・確立を求めて活動している団体です。
 2020年度の「いのちの教育セミナー」が来る2021年1月23日にオンライン開催されることを日本臓器移植ネットワークのホームページで知りました。
 今回のセミナーの「開催のご案内」によると“臓器移植を題材とした「いのちの教育」の実践授業の講演などを通じて、子どもたちが生きる上で多様な価値観を育み、自己の生き方を深めていく教育のあり方について提案し、共に考えを深めるセミナー”とのこと、しかも一般も参加できるセミナーとのことで、正確な情報を提供していただくよう、とりわけ以下の3項目は特に留意して取り入れて下さいますよう申し入れます。


1, 法律は“「脳死」=人の死”と規定していないこと
 
「臓器の移植に関する法律」は、第六条1項に“ 医師は、次の各号のいずれかに該当する場合には、移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができる”とありますが、これは「死体」として扱うというだけで、脳死が人の死であるとの規定ではありません。加えて第六条2項で、“「脳死した者の身体」とは、脳幹を含む全能の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定された者の身体をいう”と規定していますが、それが人の死であるとの規定はどこにもありません。
 また、厚生労働省は、2010年1月14日付通知(健発0114第1号平成22年1月14日)「臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律及び臓器の移植に関する法律施行規則の一部を改正する省令の施行について」を各都道府県知事、指定都市市長、中核市市長宛に出していますが、その「第1―3,改正法の解釈上の留意点」で、「脳死が人の死であるのは、改正後も改正前と同様、臓器移植に関する場面だけであり、一般の医療現場で一律に脳死を人の死とするものではない」としています。
 「臓器移植法」は、「一般の医療現場で一律に脳死を人の死とするものではない」こと、臓器提供を承諾した場合だけ「死体」と扱われることを周知して下さい。

 

2,「移植用臓器を1個でも多く確保したい・斡旋したい」との偏った価値観を排し正確な知識を持つために、特に以下の2項目について正しい情報を提供することを求めます。

a,「脳死」または「脳死とされうる状態」と診断されても、臓器を提供せずに積極的治療を希望すれば長期間生存できる患者もいること。
b,脳死臓器摘出手術の開始前には臓器提供者が動かないように筋弛緩剤が投与され、臓器摘出手術が開始されると臓器提供者の血圧が急上昇して麻酔が投与されることもあること。

 

3,脳死または心停止後の臓器提供の紹介、あるいは臓器提供意思表示の推奨が、自殺を誘引しないように配慮すること。

 

 

 


以下は根拠となる情報の概要です。

1について 関係法令・通知 |厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/zouki_ishoku/hourei.html

 

2のa 「臓器を提供せずに積極的治療を希望すれば長期間生存できる患者もいること」について
 「脳死は人の死」とする見解で根拠となっていたのは「脳死と判定されたら数日以内に必ず心停止に至る」という、おおむね1970年代頃までの傾向でした。しかし、現代の脳不全患者の実態はそのようなものではありません。
・東京都臓器移植コーディネーターの櫻井悦夫によると、2017年3月までの約22年間に東京都内からの情報で家族への説明にいたったのは341例あり、このうち96例は臓器提供の承諾を得らなかった。家族への説明開始後にコーディネーションを中止した96例のうち、5例は植物状態に移行したため。さらに245例の家族が提供を承諾したうち44例が提供に至らなかった。うち1例は植物状態に移行したためでした。櫻井はp10で「コーディネーターに臓器提供についての家族対応の要請が入るということは,その方は近い将来に『亡くなる』と言う診断がされていることを意味している」と記載しています[注1]。近い将来に『亡くなる』と言う診断が間違っていた患者が計6例あったことは確実です。
・北海道大学病院先進急性期医療センターでは、2010年以降の7年間で139名が脳死と診断されたが、32名は家族が積極的な加療を希望し状態安定後に転院となった。12名の患者で脳死下の臓器提供が実施された。[注2]
・豊橋市民病院では、14歳男児が入院16日目に法に規定する脳死判定を行ったならば脳死とされうる状態と判断された。ご家族に脳死下臓器提供のオプション提示を行った。児の「臓器提供は無理だ」という過去の発言から法的脳死判定、臓器提供は希望されなかった。現在、5ヵ月を経過し状態はおおむね安定。ご家族の希望に従い在宅医療に向け準備中である。[注3]
・順天堂大学医学部付属浦安病院こども救急センターでは、9歳男児に第15病日に脳死とされうる状態と判断。家族へのオプション提示も含め説明した後、臓器提供の希望はなく、第16病日に気管切開術を施行。第24病日に救命センターを退出、一般病棟での管理を経て、第140病日に療養型病院へ転院した。[注4]
・兵庫県立尼崎総合医療センターでは、法的脳死判定マニュアルに則って「脳死とされうる状態」を診断し、該当症例には「神経機能の回復の望みはなくかつ生命予後も厳しい」ことを説明したうえで臓器提供のオプション提示を行っている。これまでの小児4例全員において臓器提供の申し出はなく、医学管理の継続を希望されたため、在宅移行を目指した管理を行い、すべての症例が在宅もしくは施設において長期(8ヵ月~3年9ヵ月)生存している。[注5]


[注1] 櫻井悦夫:臓器移植コーディネーター 22年の経験から、Organ Biology、25(1)、7-25、2018
https://www.jstage.jst.go.jp/article/organbio/25/1/25_7/_pdf/-char/ja
[注2] 早川峰司:臓器移植法20年を考える 医療施設からの臓器提供の推進 脳死患者の選択肢、移植、52(総会臨時)、255、2017
[注3] 橋本千代子:「脳死とされうる状態」と判断した症例の経験、日本小児科学会雑誌、117(1)、168、2013
[注4] 石原唯史:小児重症多発外傷における心肺停止蘇生後からのtrauma managementの考察、日本小児救急医学会雑誌、18(1)、67-70、2019
[注5] 菅 健敬:脳死とされうる状態と判断されてから長期生存している低酸素性虚血性脳症の小児4症例、日本救急医学会雑誌、31(9)、397-403、2020
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/jja2.12477


2のb「脳死臓器摘出手術の開始前には臓器提供者が動かないように筋弛緩剤が投与され、臓器摘出手術が開始されると臓器提供者の血圧が急上昇して麻酔が投与されることもあること」について
2018年の9月頃まで、日本臓器移植ネットワークのホームページから「臓器提供についてご家族の皆様方に ご確認いただきたいこと」という説明文書(http://www.jotnw.or.jp/studying/pdf/setsumei.pdf)をダウンロードできましたが、現在はダウンロード不可能になっています(ダウンロード可能な時もファイル名をHP上に表示しておらず、サイト内を検索して探すしかない状態だった)。非公開扱いされる前に、当方で保存した説明文書には、臓器摘出時に麻酔をかける可能性については記載していません。
 厚労省や日本医師会は、「診療情報の提供に関する指針」を公表しており、「医療従事者は、原則として、診療中の患者に対して、次に掲げる事項等について丁寧に説明しなければならない」とし、このなかに「処方する薬剤について、薬剤名、服用方法、効能及び特に注意を要する副作用」「手術や侵襲的な検査を行う場合には、その概要、危険性、実施しない場合の危険性及び合併症の有無」他を例示しています。
 医療は患者、家族への丁寧、正確な説明が前提であるにもかかわらず、日本臓器移植ネットワークは逆に「実態を知られると臓器提供が激減するから」との利己的な動機で広報活動を継続しているのは問題です。

 

臓器摘出の麻酔を知らされずに、臓器提供後に後悔するようになった遺族
 臓器摘出時に麻酔がかけられる場合があることについて、認識が無かったために臓器提供を後悔している遺族の語りを【注6】から引用する。
「脳死っていうのは、生きているけれど生身でしょう?だから手術の時は脳死でも動くんですって。動くから麻酔を打つっていうんですよ。そういうことを考えると、そのときは知らなかったんですけども、いまでは脳死からの提供はかわいそうだと思えますね。手術の時に動くから麻酔を打つといわれたら、生きてるんじゃないかと思いますよね。それで後になってなんとむごいことをしてしまったんだろうと思いました。かわいそうなことをしたなぁ、むごいことをしたなぁと思いました。でも正直いって、何がなんだかわからなかったんですと。もうその時は忙しくて。」
 上記の遺族の後悔にみるとおり、臓器摘出時に麻酔をかける場合があるという情報は、臓器提供を承諾するか否かの判断において、極めて重要な情報である。臓器斡旋業者そして移植医にとっては、「詳しく説明すると臓器提供者が激減するだろう」という恐れを持つとしても、臓器提供候補者の家族に対して誠実に説明して承諾を得るために説明する義務があると思われる。

【注6】山崎吾郎:「臓器移植の人類学(世界思想社)」、87-88、2015


国会で移植医が麻酔投与を否定、実際は継続の意味
 2008年6月3日、衆議院厚生労働委員会臓器移植法改正法案審査小委員会において、福嶌教偉参考人(大阪大学医学部教授・当時)は以下を発言した。
 「痛みをとめるようなお薬、いわゆる鎮静剤に当たるもの、あるいは鎮痛剤に当たるもの、こういったものを使わなくても摘出はできます。ですから、麻酔剤によってそういったものが変わるようであれば(引用者注:臓器摘出時の筋肉の動きや血圧の変動等が麻酔剤によって変わること)、それは脳死ではないと私は考えております」
 「実際に五十例ほどの提供の現場に私は携わって、最初のときには、麻酔科の先生が脳死の方のそういう循環管理ということをされたことがありませんので、吸入麻酔薬を使われた症例がございましたが、これは誤解を招くということで、現在では一切使っておりません。使わなくても、それによる特別な血圧の変動であるとか痛みを思わせるような所見というのはございません」。

 福嶌参考人は上記のとおり2008年6月3日に「(臓器摘出時に麻酔剤は)現在では一切使っておりません」と言ってしまったが、約3週間前の2008年5月14日に法的脳死判定71例目の臓器提供者からの臓器摘出時に「麻酔維持は、純酸素とレミフェンタニル0.2μ/㎏/minの持続静注投与で行なった」と記載されている。【注7】
 これ以降も83例目ではレミファンタニルの投与【注8】、132例目では摘出手術の麻酔の記載がある【注9】。424例目と見込まれる症例【注10】では「全身麻酔下に胸骨中ほどから下腹部まで正中切開で開腹し,肝臓の肉眼的所見は問題ないと判断した」と、いずれも脳死臓器提供者に麻酔をかけたことを明記している。
 一方で麻酔はかけずに筋弛緩剤だけ投与して臓器摘出を完遂したという報告も106例目?【注11】、207例目【注12】、327例目【注13】からなされている。

 臓器提供施設マニュアル(平成22年度)は「原則として、吸入麻酔薬、麻薬は使用しない」とした。国会内で脳死ドナーへの麻酔を否定し、さらにマニュアルでも麻酔を禁止したにもかかわらず、実際の臓器摘出場面では麻酔をかける臓器摘出と麻酔をかけない臓器摘出が混在しているのは何故か?その理由は、筋弛緩剤の投与だけでは足りずに、鎮静剤・鎮痛剤を投与しなければ臓器摘出を完遂できない事態が手術室で発生しているということだろう。脳死判定基準を満たし法的に脳死とされた患者の状態は、実際は様々な重症度の患者がいるということだ。福嶌参考人の表現を使うと「それは脳死ではない」患者が含まれていることになる。


【注7】神戸義人:獨協医科大学での初めての脳死からの臓器摘出術の麻酔経験、Dokkyo Journal of Medical Sciences、35(3)、191-195、2008
https://dmu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=735&item_no=1&page_id=28&block_id=52
【注8】小嶋大樹:脳死ドナーからの多臓器摘出手術の麻酔経験、日本臨床麻酔学会誌、30(6)、S237、2010
【注9】小山茂美:脳死下臓器提供の全身管理の一例、麻酔と蘇生、47(3)、2011
【注10】梅邑晃:マージナルドナーからの脳死肝グラフトを用いて救命した 肝細胞がん合併非代償性肝硬変の 1 例、移植、52(4-5)、397-403、2017
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jst/52/4-5/52_397/_pdf/-char/ja
【注11】田辺美幸:非侵襲的全ヘモグロビン濃度測定が有効であった脳死下臓器提供の1症例、麻酔、62(6)、699-701、2013
【注12】西嶋茂樹:脳死下臓器摘出術の管理経験、日赤医学、65(1)、182、2013
https://redcross.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=4752&item_no=1&page_id=13&block_id=17
【注13】山本祐子:脳死からの臓器摘出術における呼吸循環管理、Dokkyo Journal of Medical Sciences、44(1)、99-103、2017
https://dmu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=1483&item_no=1&page_id=28&block_id=52

 

3,「臓器提供の紹介、あるいは臓器提供意思表示の推奨が、自殺を誘引しないように配慮すること」について

 我が国で1999年2月から2011年1月にかけて行われた脳死肝移植100例のうち、13例の臓器提供者は自殺だった。【注14】
 ところが近年の自殺者割合は17%に増加している。2020年7月発行の「INTENSIVIST(インテンシヴィスト)」2020年3号誌上では、過去5年間での脳死に至った起因別分類で「内因性 脳血管障害、心血管障害など 58%」「外因性 頭部外傷、溺死等 24%」「自死・自殺 17%」「その他 1%」とし、日本臓器移植ネットワーク事業推進本部の林本部長は、外因性と自死・自殺を合わせると41%になることから、家族は突然の経験・混乱のなかで臓器提供の決断をすることになることから「支援が重要になる」と記載している。【注15】

 米国Organ Procurement and Transplantation Networkのデータによると、死体臓器提供者の死因のうち自殺者の比率は、2006年の6.8%を底に9~10%が多い。最近5年間(2015年~2019年)では死体臓器提供者累計51927のうち自殺が5130、9.88%である。
 もともと日本の死体臓器提供者における自殺者の比率は高く、近年はさらに増加傾向と見込まれる。青少年の死因に占める自殺は上位にあることから、死後の臓器提供を紹介したり意思表示を推奨することが自殺者の増加につながることを懸念しなければならない。臓器摘出時の麻酔など実態を知らさないで臓器提供の承諾を得るなど、日本臓器移植ネットワークの行為も加わり、患者家族に終生におよぶ後悔、苦悩を背負わせる恐れが高いと指摘しておく。


【注14】古川博之:脳死下・心停止下における肝臓提供に関する研究、脳死並びに心停止ドナーにおけるマージナルドナーの有効利用に関する研究 (厚生労働科学研究費補助金 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)、37-39、2011
【注15】林 昇甫:我が国における臓器移植の現状:JOTの使命と役割、INTENSIVIST、459-468、2020

 

 


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生殖補助医療法案への緊急要請書

2020-11-30 11:07:50 | 声明・要望・質問・申し入れ

2020年11月30日


衆議院法務委員会
 委員長    義家弘介様 
 与党筆頭理事 稲田朋美様
 野党筆頭理事 階 猛 様

 

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク     
バクバクの会~人工呼吸器とともに生きる~

 

緊急要請書
『生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律案』は、いのちの選別を進めかねない内容であり、拙速な採決は行わないでください。

 私たちは、「脳死」を人の死とすることや「尊厳死・安楽死」など、いのちを切り捨てていく動きに反対してきました。また、こうしたいのちの切り捨ては、出生をめぐっても行われてきたことから、出生前診断や着床前診断などにも、強い危機感をもってきました。

 こうした観点からこの法案を読むと、以下に述べる重大な問題があると考えます。私たちの懸念を払拭するような議論を行っていただくとともに、今国会での拙速な採決を行わないでください。

 

 

(1)法案の基本理念の中に、優生思想を反映した条文があること

 この法案の基本理念を、第三条で規定していますが、その4項には次の規定が置かれています。
「生殖補助医療により生まれる子については、心身ともに健やかに生まれ、かつ、育つことができるよう必要な配慮がなされるものとする。」
 この規定にある「心身ともに健やかに生まれ」とは、しょうがいをもって生まれる子供の生存を否定しかねない内容であり、旧優生保護法の目的である「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」と同じ意味とも解することができます。
 そのため、第4条に規定する国の施策は、優生政策を進める施策になりかねず、第六条の知識の普及も優生思想の普及になりかねません。
 「生命倫理」への配慮という記述もありますが、その内容は規定されておらず、優生政策につながる第三条4項の規定をカバーするものにはなりえません。国会は、『旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律』を採決した時に、優生思想、優生政策がどれだけ危険なものであるかを心に刻んで採決されたのではなかったのでしょうか。

 


(2)生殖細胞の売買などに道を開く危険性

 この法案では、生殖補助医療について、何等の規制も規定していないので、生殖細胞の売買に道を開きかねません。もし、こうした売買を容認するとすれば、「優秀な人」の生殖細胞が高値で売買されるような優生社会を作りかねません。
 附則の第三条によれば、「おおむね二年を目途として」、衆参「両議院の常任委員会の合同審査会」などの議論を行った上で、「生殖補助医療及びその提供に関する規制の在り方」などを検討して法制上の措置などを行う、としています。そうであるならば、法案の本則の部分も、この検討を踏まえた上で採決する必要があるはずです。そうでなければ、この検討の間に既成事実が作られてしまうのではないでしょうか。

 この付則第三条の1項2号では、「生殖補助医療に用いられる精子、卵子又は胚の提供(医療機関による供給を含む。)・・・」などという記述もあります。これは、医療機関以外からの供給も予定しているということであり、営利を目的とした生殖細胞バンクの解禁さえも念頭にあるのではないか、と危惧されます。

 さらに、附則第三条3項においては、「第三章の規定の特例」も検討されるようです。本則第三章は、体外受精と人工授精を行った場合の親子関係についての規定ですが、このほかの特例を作るということは、何を検討しようとしているのでしょうか。代理母の解禁などを行おうとしているのではないか、と懸念されます。
 外国の事例から、代理母となった人たちの健康が損なわれたり、しょうがい児が生まれた場合に、その子の受け取りを拒否する人たちが現れてしまうことが知られています。いまだ国会では代理母の是非の問題は十分に議論されていないと思われます。これは代理母の健康被害やしょうがいをもって生まれた児への人権侵害にも波及しかねないことから、綿密な議論が必要です。波及していく事柄が多いと考えられるにもかかわらず、そのことへの認識も示さないまま「第三章の規定の特例」の検討規定まで置こうとすることは、この法案提案者が拙速な議論しか予定していないものと懸念せざるを得ません。

 

●結論として
 
私たちは、「生殖補助医療」が優生思想・優生政策を強めかねない内容をもっているがゆえに、重大な関心を払ってきました。にも拘わらず、国会がきちんとした検討を行わず、明らかに優生政策につながる規定も含めた法案を採決しようとしていることについて、強い危機感を覚えます。
 きちんとした検討と議論を経ずに、このような法案を拙速に採決するのは止めてください。


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京都ALS患者嘱託殺人事件報道に接しての声明

2020-09-29 21:52:55 | 声明・要望・質問・申し入れ

【京都 ALS 患者嘱託殺人事件報道に接しての声明】

 

私たちは、医療者による「死なせる」行為は容認できません!
「生きるため」の支援を求めます

 公立福生病院事件を考える連絡会・事務局

 

 私たちは、2018年8月に、公立福生病院で起きた透析中止の末に患者が亡くなった事件を検証し、被害女性の遺族の訴えによる裁判を支援している団体です。この事件は、医師が透析中止の選択肢を示し、いったん患者が透析離脱を選択すると、容態悪化した患者や家族の透析再開の要望を受け入れず、大量の鎮静剤投与を行い、死に至らせたというものです。
 7月23日に、ALSの女性を薬物投与で殺害した二人の医師が逮捕されたとの報道を知り、またこのような医療者が患者を死なせるという事件が起こったのか、と強い危機感を持ちました。さらなるいのちの切り捨てを許さない立場から、以下の声明を発表します。

 

 2019年11月30日、ALS(筋萎縮性側索硬化症)にかかっていた林優里さんが殺害され、本年7月23 日、大久保愉一医師と山本直樹医師が嘱託殺人罪の容疑で京都府警に逮捕され、8月13 日に起訴されました。報道によれば、事件の概要は以下です。
――昨年11月30日午後5時半ごろ、この二人の医師が林さんの自宅マンションを訪れ、林さんの胃ろうから大量のバルビツール酸系睡眠薬を投与して殺害した。林さんとこの二人の医師はこの日が初対面で、それ以前に、林さんから山本医師の口座に130万円が送金されていた。――
 お金を受け取りビジネスとして人を殺害することは到底許されない犯罪行為ですが、この二人の医師の行為は、高齢者や重度の「障害者」や難病者のいのちを、「価値なきいのち」として切り捨てる思想に基づいたものと考えられます。7月24日付の東京新聞は、大久保容疑者は「高齢者を『枯らす』技術」と題するブログや電子書籍を発表し、山本容疑者との共著で発表された電子書籍の「内容紹介欄」には、「『今すぐ死んでほしい』といわれる老人を、大掛かりな設備もなしに消せる方法がある」「違和感のない病死を演出できれば警察の出る幕はない。荼毘(だび)に付されれば完全犯罪だ」と記し、ブログには、こうした価値観とともに、死なせるための薬物の話、そして、「日本でもできる『安楽死』『尊厳死』について、医者として質問に答えます。」というメールフォームまで作っていました。
 医師法の第一条には、「医師は、医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。」とあります。
 医者の仕事は、人の生死を左右する薬剤、技術を使用する仕事です。人の生命や生活を支えるためにだけ、その仕事は認められるのです。いのちを選別・抹殺することは、絶対に許されません。 
 しかし現実には、「脳死判定」、臓器移植、出生前診断など、いのちを選別する仕事が医者の仕事に入り込んできています。その意味では、社会の責任そのものが問われるのです。


●大久保医師の発想を生んだ背景に厚労省の医療政策、がある
  「大久保容疑者は03年に弘前大医学部(青森県弘前市)を卒業し、医師免許を取得した。厚生労働省老健局で 7 年半勤めた後、呼吸器内科の医師として東北地方を中心に複数の医療機関に在籍」(京都新聞)と報じられています。彼が厚労省に就職したころは、政府が「尊厳死・安楽死」推進に動き出したころです。04年は、「尊厳死・安楽死」を推し進める世界の団体が構成する「死の権利協会世界連合」の大会が東京で行われ、厚生労働大臣がメッセージを寄せ、同省の医政局長が基調講演の一つを行いました。07年には、厚労省の「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」が発表され、09年には、臓器移植法が改悪され15歳未満の子供からも臓器摘出が可能になりました。
 こうした時期を厚労省で過ごした大久保は、自身のブログにおいて、「安楽死」を容認し推進する自身の考えを展開した文脈の中で、次のように書いています。
「老人が大量に増えていて、いちいち刑事訴追していたらキリがないこともあってか、最近は老衰などでは、合法的に治療行為を絞って死にいたるプロセスが定められています。国がおすすめしているのは、本人や家族が『人生会議』を開いて延命処置を行うかどうかなどを決めておき、必要なときにはそのように対応するというものです。」

 医療現場に出た彼は、高齢者医療の現実の中で、「入院の必要がないのに自宅に引き取らない家族を『年金目当て』と批判。病院を『うば捨て山』と表現した。」(朝日新聞)とブログに記述していたそうです。現実の改善に向かうのではなく、いのちを切り捨てる方向に向かってしまったのです。妻の証言によれば、彼自身が自殺願望を持ち、自殺未遂経験もあるとのことです。自らの生をも肯定できなかったのでしょうか。(毎日新聞デジタル版7月25日、京都新聞7月25日より)


●林 優里さんについて
 林さんは、2011年にALSとの診断を受けました。生前は、重度訪問介護などの介助を24時間受けて、一人で暮らしていました。林さんのブログには、生死を見つめる思いが語られています。亡くなる前年には、必要な介助を確保するために17の事業所からヘルパー派遣を受けて、同性の介助者が足りず、異性介助も受けざるを得なかったと、京都新聞が報じています。大変な気苦労をされたことと想像します。
 他方で、林さんは、「彼女は少しでも長く良い状態で生きたいと、最後まで治療法の情報を集め」、「生きるために色んな努力をしていた」こと、「錦織圭のファンで、ウィンブルドンを夜中に見て。洋服も好きで、きれいなパジャマを着ていたし。笑顔がすごくチャーミングで、ヘルパーさんたちも癒やされました」といった日常生活も報じられています(京都新聞)。
 林さんは、2018年12月頃から、ツイッターで大久保医師とコミュニケーションをとるようになり、主治医によれば、「スイスでの安楽死をテーマにした2019年6月放送のNHKスペシャル『彼女は安楽死を選んだ』を見て、死の選択への思いを強めていった。」(京都新聞)そうです。このNHKの報道については、京都の「日本自立生活センター」などの「障害者」団体からの批判が行われてきましたが、今回の事件の引き金の一つを引いてしまったことが明らかになりました。


●私たちは「安楽死」推進、合法化を絶対に許しません
 石原慎太郎元東京都知事は7月27 日のツイートで、「裁判の折り私は是非とも医師たちの弁護人として法廷に立ちたい」と発言。翌28日には、日本維新の会代表の松井一郎大阪市長が「安楽死」の法制化を主張し、「(難病を)患っている人たちの思いに寄り添う形で法整備を行うべきだ」(産経新聞)と発言しています。
 私たちは、このような一部政治家の発言や「安楽死」法制化を進めようとする動きに大きな危機感を抱きます。「安楽死」の推進・合法化は、高齢者、難病者、「障害者」のいのちを「価値なきいのち」として、切り捨てる道です。断じて容認できません。


●私たちは「死ぬため」ではなく「生きるため」の医療行政を求めます。
 私たちは、この事件に怒りを感じるとともに、いのちの選別・切り捨てを進めるこの社会の在り方が、この事件を生み出したものであると考えます。政府の政策、社会の状況を、根本的にとらえ返さなければなりません。つらい現実があってもよりよく生きていこうとするいのちを支えるのが現場の医療や福祉であり、それを支えるのが厚生行政です。難病や重度の障害と共に生きる人たちが生きることの困難に直面したとき、どう向き合っていくのか、私たち自身にも問われていることを自覚しつつ、同時に、どんな状況下でも「生きるため」の生活を守る支援を充実させる医療福祉・厚生行政の実現を求めていきます。

2020年9月28日


【賛同団体】
 DNA 問題研究会/「脳死」・臓器移植に反対する関西市民の会/薬害・医療被害をなくすための厚労省交渉団/労働と生活を守る会(L&L)/林田医療裁判を考える会/臓器移植法を問い直す市民ネットワーク/兵庫精神障害者連絡会/平和憲法を守る荒川の会/やめて家族同意だけの「脳死」臓器摘出!市民の会/尊厳死法いらない連絡会/医療情報の公開・開示を求める市民の会/精神障害者権利主張センター・絆/バクバクの会~人工呼吸器とともに生きる~/NPO 法人茨城県精神障害地域ケアー研究会(茨精研 ICCAM)/「骨格提言」の完全実現を求める大フォーラム実行委員会/子供問題研究会/労働者住民医療機関連絡会議幹事会/特定非営利活動法人こらーるたいとう


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【声明】 新型ウイルス感染拡大で「命の選別・切り捨て」を行わないで!

2020-04-24 19:37:37 | 声明・要望・質問・申し入れ


(私たちは 2020 年 4 月 23 日に以下の声明を内閣総理大臣と厚生労働大臣宛に送付・要請しました。) 

 

 

【声明】 新型ウイルス感染拡大で「命の選別・切り捨て」を行わないで!

 

 3月30日、生命・医療倫理研究会の有志は「感染爆発時の人工呼吸器の配分プロセス」を提言しました(注1)。その要旨は「COVID-19の感染爆発が現実となった場合、医療資源が不足し、災害時医療におけるトリアージの概念が適用されうる事態が避けられない。一人ひとりの患者に最善をつくす医療から、できるだけ多くの生命を助ける医療への転換が迫られ、経験したことのない大きな規模で、厳しい倫理判断を求められる」というものです。
 4月1日、「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」は「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」を発表(注2)、「Ⅳ-3(3)医療崩壊に備えた市民との認識共有」で、「諸外国の厳しい事態を踏まえ、人工呼吸器など限られた医療資源の活用について、市民にも認識の共有を求めることが必要」(要旨)と記述しました。これは、事前の意思表示で人工呼吸器をつけない選択を市民に呼び掛ける、というものです。ネット上には「集中治療を譲る意思カード」への署名呼びかけまで登場しています(注3)。

 私たちは、厚労省が推進してきた「脳死」を「人の死」としていのちを切り捨てること、「尊厳死・安楽死」を推進すること、あるいは出生前診断を推進することに反対してきました。新型コロナウイルス感染症と世界の人々が闘う中で、「事前の意思表示で人工呼吸器をつけない選択を市民に呼び掛ける」という施策や「年齢や持病、障害の有無で医療の線引きを行う」ことは断じて容認できません。こうした判断基準が独り歩きして「価値なきいのちは切り捨てる」という風潮が広がることを危惧するからです。なにより、「一人ひとりの患者に最善をつくす医療」を継続できない可能性が生じている原因は、政府が「経済性、効率性」を優先して救急医療・集中医療の病床数や公衆衛生の拠点である保健所を極端に削減するなどの医療行政を行ってきた故といわざるを得ません。

 今なすべきことは、人工呼吸器を含む医療資源を、必要な人々に届けるための体制整備に全力を挙げることです。すでに装着している人工呼吸器が不具合を起こした際には取り換えられる台数に加えて新型コロナウイルス感染症の重症化率(専門家会議は14%と記述)に見合った人工呼吸器の必要台数を当面の目標として生産を急いでください。そして、厚労省のピーク時予測データに基づいた医療機器や装具の不足数と充足数を随時公表し、人々の努力の可視化をはかってください。 

 不幸にして「一人ひとりの患者に最善をつくす医療から、できるだけ多くの生命を助ける医療への転換が迫られる」事態に至ったとしても、高齢である、持病がある、心身に障害があるといったことをいのちの線引きの基準にしないでください。医療者にいのちの選別を強いる事態を起こさないためにも、政府が必要な医療機器や医療用防護具を整備することを、強く要請いたします。

2020年4月23日

                
臓器移植法を問い直す市民ネットワーク
DNA問題研究会
日本消費者連盟
バクバクの会~人工呼吸器とともに生きる~
市民バイオテクノロジー情報室
現代医療を考える会
グループ生殖医療と差別
尊厳死いらない連絡会
やめて!!家族同意だけの「脳死」臓器摘出!市民の会
薬害・医療被害をなくすための厚労省交渉実行委員会
ゲノム問題検討会議
京都ダウン症児を育てる親の会

 

(注1)~(注3)
(注1)「COVID-19の感染爆発時における人工呼吸器の配分を判断するプロセスについての提言」
http://square.umin.ac.jp/biomedicalethics/activities/ventilator_allocation.html
(注2)厚労省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf
(注3)集中治療を譲る意志カード
https://eco-powerplant.com/files/YuzuruCard.pdf


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正会員限定の学会緊急企画開催についての公開質問状

2019-06-30 07:03:11 | 声明・要望・質問・申し入れ
正会員限定の学会緊急企画開催についての公開質問状

2019年6月20日

一般社団法人日本透析医学会
      理事長 中元秀友殿

                 
                        東京都新宿区西早稲田1‐9‐19‐207
                            日本消費者連盟気付
                   臓器移植法を問い直す市民ネットワーク
                           


 貴学会は、6月28日~30日に開催される<第64回日本透析医学会学術集会・総会>において、学会緊急企画「3月7日新聞報道に対する日本透析医学会の見解と対応」をプログラムしている旨、ホームページで公開しています。
 この緊急企画は、「日本透析医学会の会員の皆さんにこれまでの経過を報告するために企画したもの」で、参加は「本学会の正会員限定」とし、かつ「混乱を避けるため、会場での質疑応答はありません」としています。
 発表される「福生病院に関する報道の経緯と日本透析医学会の対応」「調査委員会報告」「透析中断・非導入報道に関する日本透析医学会倫理委員会の見解と対応」「“人生の最終段階における維持透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについてのガイドライン(案)委員会”による提言改訂の方向性」等については、公立福生病院事件が社会問題になっている折から、患者・家族はもとより、医療福祉に携わる職員など、多くの関係者、市民が大きな関心を寄せています。透析患者の中には、「医療費がかかるから」「家族や社会に迷惑をかけるから」と治療中止の選択を迫られるのではないかと動揺する患者もいます。この問題に対する「学会ステートメント」を公表した貴学会は、それに対する説明責任があると思います。 
 しかも、この「緊急企画」は正会員限定、マスコミを排除して取材にも応じない閉鎖性や、参加会員の質問も受け付けない等、学術団体の取るべき姿勢とは思えません。開かれた学術団体として、社会的にも問題になっている事柄について、このやり方は余りに非民主的であり、“黙って学会理事会に従え”と言わんばかりの暴挙と言っても過言ではないでしょう。ことは生命にかかわる問題です。学術団体として、疑問や質問に答え、取材にも応じる開かれた企画として行って頂きたいと思います。
 以上から、以下の3点について回答頂けるよう質問いたします。
1、従来から貴学会はこのような制限をされてきたのでしょうか。
2、正会員以外のすべての人(患者やマスコミ)を排除する理由をお答えください。
3、会員の質疑応答を受け付けない理由をお答えください。
 回答を、当ネットワークe-mailアドレスまでお返事を頂けますようお願いいたします。                                 

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