2023年9月29日
臓器移植法を問い直す市民ネットワーク
脳死臓器提供に伴う、重症患者の救命打ち切りに反対します
私たちは、「『脳死』は人の死ではない。『脳死』からの臓器摘出に反対。臓器移植以外の医療の研究・確立を求める。」という理念のもとで運動を行ってきました。「脳死」という概念は、移植用臓器の獲得のために人間の死の基準を前倒しすることで生み出されました。現在、法的脳死判定以前に患者を臓器摘出対象とみなし、救命医療の早期打ち切りを招く動きが進行しています。私たちは、人間の死の前倒しをさらに進めようとするこれらの動きに対して、強い危機感を表明します。
- 「脳死」と判定されたら人の死とする根拠は失われています。
現在、「脳死状態では、人工呼吸器をつけていても数日以内に心停止に到る」とされています。しかし、「脳死状態」とされた患者の実態は多様であり、数か月や年単位で生存しつづける「脳死」者もいます。「脳死」と判定されて臓器を摘出されそうになった患者が回復し社会復帰した例もあります。こうした報告例から、「脳死」と判定された人を死者とすることに反対します。
- 移植用「脳死」者を増やすための方策に反対します。
厚生労働省は、臓器移植件数を増やすため、重症患者を臓器提供の経験豊富な施設に効率的に搬送する制度を整えようとしています。また、10分間あるいは20分間という長時間の心停止後の蘇生・社会復帰例が報告されているにも関わらず、心停止後5分という短時間で移植のための臓器管理に移行して摘出してしまうことが、検討されています。さらには、救命すべき重症患者に対して、脳機能の維持回復とは真逆の臓器保存術を行うことが公然と推し進められています。
- 臓器移植に頼らない医療の開発と普及を求めます。
腎臓移植を希望している慢性腎不全患者は、透析療法を受けています。透析療法で20年以上生存している患者は慢性透析患者約35万人のうち8.6%に達し、最長透析歴は52年8カ月です(2021年末)。透析時間の延長や透析の回数を増やせば生存期間の延長やQOLの向上につながり、夜間透析、在宅透析を普及させれば患者の生活上の負担を減らせるでしょう。
心臓移植待機患者の1~2割は、内科的外科的治療で移植が不要になっています。補助循環装置の台数増加、植込型補助人工心臓の普及や合併症の減少を目指す研究開発で、生存期間延長やQOL向上が望めます。
肝臓についても同様で、様々な薬物療法により肝臓移植の適応患者が減少しています。急性肝不全でも1割以上が肝補助療法などの治療で回復しています。
日常生活の改善により各種の病気を予防し、全般的な医療の発展で発症しても重症化する患者を減らし、重症化しても内科的外科的治療法で対処することを続ければ、臓器移植が必要とされる患者は減らせるでしょう。移植に頼らない医療の研究開発・推進こそが、他人の臓器を必要としない、真の医療の発展につながるものと考えます。
私たちは、根本的な危険性を孕む脳死臓器移植を、医療として推進することに対して強く抗議し、脳不全患者を含む全ての重症患者の尊厳を守り、いのちを大切にする医療を求めます。