臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

「脳死」は人の死ではありません。「脳死」からの臓器摘出に反対します。臓器移植以外の医療の研究・確立を求めます。

改定臓器移植法に関する申し入れ

2009-12-23 18:32:52 | 声明・要望・質問・申し入れ

2009年12月22日

 厚生労働大臣                    長妻昭殿
 厚生労働省健康局 局長            上田博三殿
 厚生労働省健康局臓器移植対策室 室長 峯村芳樹殿

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク
事務局長 川見公子

改定臓器移植法に関する申し入れ

 

 わたしたち《臓器移植法を問い直す市民ネットワーク》は、第171国会で成立した改定臓器移植法を問い直すために結成した市民団体です。「脳死」と診断された子どもと生活する家族、人工呼吸器をつけた子の親の会、全国交通事故遺族の会、宗教法人、医療従事者、障害者団体、患者団体、学生、主婦などの個人・団体で構成しています。
 わたしたちは「脳死」を人の死とすることに反対します。人の死としてはならない多くの事実が存在します。にもかかわらず第171国会では、こうした事実がほとんど検討されることなく法改定が行われてしまいました。
 現在、厚労省は小児脳死判定基準作成のための研究班や作業班を立ち上げ、来年7月17日の改定臓器移植法の施行に向けて作業を進めています。しかしその前に、脳死で長期に生存する事例や「小児の脳死判定」方法の問題点など、まず事実を確認するべきであると思います。
つきましては以下の項目について要望と質問を申し入れますので、回答いただけますようお願いいたします。

【項目】
[要望]Ⅰ 長期脳死生存例の実態調査と報告について
Ⅱ 83例の脳死・臓器移植に関する検証結果の公表について

[質問]

Ⅲ 改定法で「脳死は人の死」としたことについて
Ⅳ 脳死判定に係る事項に関して
(1)脳死判定後の長期間生存例について
(2)脳死判定の不確実性について
(3)その他、判定基準を否定する例について
(4)無呼吸テストについて
(5)中枢神経抑制剤の影響下にある患者の脳死判定について
Ⅴ 臓器移植以外の場面で「脳死=人の死」ではないことの担保について
Ⅵ 被虐待児の見極めについて
Ⅶ 脳死を経由した心停止後の臓器提供について


[要望]
Ⅰ 長期脳死生存例の実態調査とその報告について

 1999年に旧厚生省が小児の長期脳死例をまとめた報告書を出し、それ以降も日本小児科学会倫理委員会の調査報告や医学論文が出されています。これらを含めこれまでの長期脳死生存例を調査し、厚労省研究班としての報告書をまとめてください。


Ⅱ 83例の脳死・臓器移植に関する検証結果の公表について

 これまで脳死からの臓器移植が83例行われていますが、本年6月の時点で検証結果が公表された事例は34例に過ぎません。「ドナーの遺族の承諾が得られない」との理由で多くが非公開となっています。個人情報に係る点を伏せての公表は可能と考えます。原因疾患も含めて公表してください。


[質問]
Ⅲ 「脳死は人の死」としたことについて

 改定臓器移植法では法の枠内に限り「脳死は人の死」と規定されました。これまでは「全脳が不可逆的機能停止に至ると、身体の有機的統合性が失われ、数日以内に心停止する」、したがって「脳死=人の死」であるとされてきました。しかし、移植大国アメリカでさえこの論理は破綻したといわれています(『死の判定に関する論議-大統領生命倫理審議会白書』2008年12月)。体温を保ち、脈を打ち、第二次性徴を迎え成長し続ける長期脳死者の存在は、この有機的統合性を核とする科学的根拠の破綻を示しています。この点について、国会では十分な議論が行われず「脳死=人の死」とされました。これについて、厚労省はどのように考えますか?見解を示してください。


Ⅳ 脳死判定に係る事項に関する質問
(1)脳死判定後の長期間生存例について

  厚生省の『小児における脳死判定基準に関する研究報告書』(2000年:小児における脳死判定基準に関する研究班 主任研究者 竹内一夫 杏林大学名誉教授)では、無呼吸テストと神経学的検査各2回以上を実施した20例において、7日以上生存が14人(70%)、30日以上生存が7人(35%)、報告されています。
①「脳死判定」後にこの20例にどのような治療が行われたのか、詳細な記録を明らかにしてください。
②この20例について、身体の有機的統合性が失われていると考えますか?お答えください。

(2)脳死判定の不確実性について
 次の3つのケースに関して、以下の質問にお答えください。
*広島大学:3ヵ月男児は、脳死判定の3日後に脳血流、6日後に聴性脳幹反応が再開した。脳死判定後22日間生存(『日本救急医学会雑誌』8巻6号P.231~236、1997年)。
*大阪大学:3ヵ月女児は、脳死判定から40日後に自発呼吸が出現した。脳死判定後69日間生存(『日本救急医学会雑誌』2巻4号P.744~745、1991年。Pediatrics vol.96,no.3 P.518~520、1995年)。
*兵庫医科大学:11ヵ月男児は第15病日に無呼吸テスト実施。抗利尿ホルモンを中止したが心停止せず身長が8センチ伸びた。脳死判定後312日間生存(『日本救急医学会雑誌』11巻7号P.338~344、2000年)。
①上記3例について、「脳死判定」以前および以後の詳細な治療経過について明らかにしてください。
②上記3例は、厚労省の「脳死判定基準」を否定するものであると考えますが、見解を示してください。

(3)その他の、判定基準を否定する例について
 以下の5例は、いずれも厚労省の判定基準を否定する実例であると考えられます。見解を示してください。
*公立高畠病院:11歳男児は1993年11月に厚生省脳死判定基準を満たしたと考えられた後に、1994年3月以降に脳波、聴性脳幹反応、自発呼吸あり(『日本小児科学会雑誌』99巻9号p.1672~p.1680、1995年)。
*大阪府立病院:5歳11ヵ月男児は無呼吸テスト実施、厚生省基準を満たした後5日後まで視床下部ホルモン分泌を確認、17日後にCTで脳血流が確認された(『日本救急医学会雑誌』4巻p.655、1993年)。
*大阪労災病院:虐待で頭部打撲の3歳女児は、脳死判定から18日目に脳波・聴性脳幹誘発電位で反応がみられた。脳死判定後30日間生存後に治療は中止され死亡(『大阪小児科学会誌』25巻2号P.8、2008年)。
* 岐阜県総合医療センター:心肺停止にて出生の女児は、小児脳死判定基準を満たした。CT、MRIにより大脳の不可逆的変性が示唆される一方で、生後1年での内分泌学的検査は正常であった。体重・身長が増加した(『日本周産期・新生児医学会雑誌』43巻2号P.463、2007年)。
*奈良県立奈良病院:重症新生児仮死の女児は、小児脳死判定基準(暫定基準案)に基づき脳死判定した。脳死判定後13日後に脳波と痛み刺激に反応した、17日後に脳幹部血流再開、脳死判定後43日間生存(『日本新生児学会雑誌』35巻2号P.290、1999年。 『脳死・脳蘇生研究会誌』12巻p49~p50、1999年)。

(4)無呼吸テストについて
 厚労省基準は、動脈血に溶け込んでいる炭酸ガスの圧力(動脈血二酸化炭素分圧)が60mmHg以上になっても自発呼吸をしなければ無呼吸テストを終了してよいとしていますが、この閾値とされた60mmHgを越えてから呼吸をした下記の患者の報告について伺います。
①以下の事例が示すことは、無呼吸テストでは、自発的な呼吸運動の有無を確認することはできないと思いますが、厚労省の見解を示してください。
【事例】
*1~2:日本大学付属病院では2例、64.7mmHgと72.2mmHgで自発呼吸をした(『脳蘇生治療と脳死判定の再検討』、p.97、2001年)。
*3:帝京大学医学部附属市原病院では、59歳女性が66.4mmHgで自発呼吸をした(『日本救急医学会関東地方会雑誌』8巻2号p.524~525、1987年)。
*4:京都大学付属病院では、86mmHgで自発呼吸をした(『麻酔』37巻10号臨増S66、1988年)。
*5:米国ワシントンDCのChildren's National Medical Centerでは、3歳男児が91mmHgで自発呼吸をした。同日2回目の無呼吸テストでは71mmHgで呼吸をし、その後数日間は人工呼吸の設定を超えて規則的な自発呼吸を始めた。現在、患児は気管切開と胃ろう造設がなされ慢性病棟で介護されている(Critical care medicine vol.26,no.11 p.1917-p.1919、1998年)。
*6:日本医科大学付属病院では、肺胞内二酸化炭素分圧が100mmHgを超えてから自発呼吸をした(人工呼吸器装着時の連続測定で肺胞内二酸化炭素分圧の最高値は、動脈血二酸化炭素分圧よりも1~5mmHg低いとされる。(『救急医学』12巻9号S484、1988年)。
*7:米国ニュージャージー州のCooper Hospitalでは、3歳女児が1回吸気を呈した。その時の動脈血二酸化炭素分圧は112mmHgだった(Journal of child neurology vol.10 no.3 p.245-p.246、1995年)。
*8:公立昭和病院では、呼吸刺激薬ドキサプラムを併用した無呼吸テストで動脈血二酸化炭素分圧119.6mmHgで呼吸をした(『脳死・脳蘇生研究会誌』10巻p.64-p.66、1997年)。
 特に米国ワシントンのChildren's National Medical Centerで、3歳男児が無呼吸テストにともなって自発呼吸を開始し、その後数日間は規則的な自発呼吸を行ったことは、無呼吸テストの限界を明確に示していると思われます。

②そもそも無呼吸テストは、患者にダメージを与える可能性があり、まして血中二酸化炭素濃度を今以上に上げれば、そのダメージはいっそう強いものになります。このような検査はやめるべきだと考えますが、厚労省の見解を示してください。

(5)中枢神経抑制剤の影響下にある患者の法的脳死判定について
 脳死判定の対象外とすべき中枢神経抑制剤の影響下にある患者に脳死判定が行われています。脳血流がある時に、高濃度の薬物が脳の中に溜まり、その後脳血流が低下したら,その薬物はずっと脳の中に残存し続けている現象によって、血液中の薬物濃度と,脳組織内の薬物濃度が同じではない=乖離する現象が報告されています(高知医科大学 守屋文夫「脳死者における血液および脳内の薬物濃度の乖離」〈『日本医事新報』4042巻 2000年〉他)。
検証作業ではこの現象を考慮せず、中枢神経抑制剤を投与した患者への脳死判定を正当としています。以下の事例はこれまでに行われた82例の法的脳死判定の中で検証会議報告書または医学文献で中枢神経抑制剤の使用が報告されているものです。これらは脳死判定の対象外としなくて良いのか、厚労省の見解を示してください。
 [事例]
1例目(高知赤十字病院) 2例目(慶応大学病院) 3例目(古川市立病院)
10例(市立函館病院)   11例目(昭和大学横浜市北部病院救急センター)
31例目(神戸市立中央市民病院) 33例目(聖隷三方原病院)
34例目(横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター)
43例目(帝京大学医学部附属病院) 
47例目(帝京大学医学部付属市原病院-現在は帝京大学ちば総合医療センターに改称)

 

Ⅴ 臓器移植以外の場面で「脳死=人の死」ではないことの担保について
(1)国会審議の中で提案者は「臓器移植以外の場面における脳死判定によって、当然に脳死が人の死として取り扱われることになりません」(2009年6月5日衆議院厚生労働委員会 冨岡勉議員)と答弁しています。これは制度的にはどのように担保されるのか、具体的施策を示してください。
(2)第45回日本移植学会総会(2009年9月16日~18日開催)では、参加した医師たちに、「今回の臓器移植法では、脳死=死は臓器移植の現場で適用されるものであるが、皆さまにおかれましては、おしなべて『脳死=死』ということでお願いしたい」(島崎修次 日本救急医療財団 理事長)と脳死が一律に人の死であることを医療現場で積極的に適用するよう、呼びかけられています。この発言は国会審議を反故にするものです。このように、改定法施行前から、なし崩し的な暴走が始まっています。厚労省は日本移植学会に対して勧告すべきと考えますが、如何ですか。

Ⅵ 被虐待児の見極めについて
(1)改定臓器移植法(検討)で「虐待を受けて死亡した児童から臓器が提供されることがないよう、適切に対応し、必要な措置を加える」(附則第三項関係)ことになっています。しかし以下に示すように、アメリカでは多くの被虐待児がドナーとされています。そのような事態にならないよう被虐待児をどのようにして見極めるのか、方策を示してください。
アメリカのデータでは、小児のドナーの多くが「児童虐待」によるものです。2008年には、1歳未満でドナーとなったのは114人、うち「死の状況」の「児童虐待(child abuse)」が46人で、1歳未満ドナーの40%を占めています。また、1歳から5歳ではドナーとなったのは221人で、そのうち「児童虐待」が62人、28%を占めています(OPTN: Organ Procurement and Transplantation Networkのサイトより)。

(2)小児を臓器提供者とした「心停止後」と称する臓器摘出がドナー数の推計で約200例行われてきましたが、被虐待児対策はどのように行われてきたのか明らかにしてください(心停止後と称する小児からのヤミ脳死臓器摘出についてはhttp://www6.plala.or.jp/brainx/pediatric_harvest.htmに資料をまとめてあります)。

Ⅶ 脳死を経由した心停止後の臓器提供について
(1)心臓が停止した直後の臓器提供のなかで、脳死を経由しながら法的脳死判定が行われないケースが多数あります。このようなケースについても臓器提供に係る検証作業の対象とすべきと考えます。厚労省の見解を示してください。
(2)臓器提供者への生前のカテーテル挿入や臓器摘出目的の投薬(ヘパリン等)は違法性が阻却されない生前処置でかつ患者の人権に対しての侵襲性が高いことは、関西医科大学事件判決(大阪地裁 1998年6月判決確定)でも言及されていることです。したがって、第二回法的脳死判定が終了して脳死が確定した後でなければ行えない処置です。ところが厚労省は、「心停止後」と称する臓器提供において、臓器提供者への生前のカテーテル挿入や臓器摘出目的の投薬(ヘパリン等)を、一般的脳死判定の後に行うことを許容しています。これらの違法性が阻却されない生前処置が、なぜ法的脳死判定手続きを不要(=臓器提供者への死亡宣告を不要)としているのか見解を示してください。
(3)1960年代後半以降、現在まで行われてきた上記のような「心停止後」と称するヤミ脳死臓器摘出の実態を明らかにしてください。

以上

 

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク
連絡先住所:〒169-0051 新宿区西早稲田1-9-19‐207 日本消費者連盟気付
電話:03(5155)4765   携帯:080(6532)0916

〈賛同団体〉(あいうえお順、11月18日時点)
医療被害・薬害をなくすための厚生省交渉団
医療労働運動研究会
医療を考える会
関東「障害者」解放委員会
関西「障害者」解放委員会
現代医療を考える会
宗教法人・大本
人工呼吸器をつけた子の親の会(バクバクの会)
全国肝臓病患者連合会
全国交通事故遺族の会
全国「精神病」者集団
全国遷延性意識障害者・家族の会
東京女子医大被害者連絡会
日本消費者連盟 
日本の医療の流れを変える会
「脳死」・臓器移植に反対する関西市民の会
脳死・臓器移植に反対する市民会議
反優生思想の会
保安処分に反対する有志連絡会


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臓器移植を検証する第三者機関存廃に関する緊急申し入れ

2009-12-23 18:19:39 | 声明・要望・質問・申し入れ

2009年12月22日

 厚生労働大臣                   長妻 昭殿
 厚生労働省健康局 局長            上田博三殿
 厚生労働省健康局臓器移植対策室 室長 峯村芳樹殿

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク
事務局長 川見公子

臓器移植を検証する第三者機関存廃に関する緊急申し入れ

 

 去る12月13日、NHKニュースは、「日本移植学会など33の団体は脳死の判定が適正に行われたかどうかを検証する国の第三者機関について、歴史的な使命を終えたとして廃止を求める提言をまとめた」と報じました。
 来年7月17日には、改定臓器移植法が施行され、専門家内でも意見が分かれている小児脳死判定基準による脳死判定が行われ、0歳からの臓器摘出が行われることが予想されます。
 しかし現在、小児脳死判定基準も虐待を見極めるシステムもまだ何も明らかにされていません。小児救命救急センターの整備拡充が提案されながら、それについての計画も示されていません。
 新たな事態が予想されるこの段階で、第三者機関を廃止することは法的脳死判定手続きおよび臓器移植に対する国民の信頼醸成に反するのではないでしょうか?先の国会審議の中では第三者機関を設置する法律案も提案され、課題として積み残されています。審議経過を踏まえるなら、むしろ新たな形での第三者機関の設置が必要と考えます。
 つきましては以下のように要望いたします。

 

要望

一、 臓器移植を検証する第三者機関を存続されるよう強く要望します。
一、 継続される第三者機関には小児の脳死判定にかかわる医師や小児虐待問題にかかる専門家、弁護士、生命倫理の研究者などの専門家を加えること、移植患者団体のみでなく、ドナー側や移植に慎重な患者市民団体も加えた公正な人選を要望します。
一、 脳死判定と臓器提供を行った病院の医師は、その事例の検証を行う会議には出席せず、ほかのメンバーによる客観的な検証が保証される体制にするよう要望します。


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12月22日、厚生労働省に申し入れ(二件)

2009-12-23 17:58:30 | 集会・学習会の報告

厚生労働省に「改定臓器移植に関する申し入れ」「第三者機関存廃に関する緊急申し入れ」

 

 12月22日午前10時30分~12時15分、厚生労働省第5共用会議室において、「改定臓器移植に関する申し入れ」「第三者機関存廃に関する緊急申し入れ」の二つの申し入れを行いました。
 「改定臓器移植穂に関する申し入れ」は、11月19日に開催した「第1回脳死臓器移植について考える市民と議員の勉強会」において提案し、確認されたものです。
 臓器移植法を問い直す市民ネットワークに属する4団体の代表を含む6名が、厚生労働省健康局疾病対策課臓器移植対策室の峯村芳樹室長に申し入れ書を手渡しました。長妻昭厚労大臣、上田健康局長に宛てた申し入れ書も同時に渡しました。

 申し入れに対応したのは、峯村芳樹室長、長岡紘史室長補佐、竹内正広室長補佐、井原正裕主査(写真の右側が厚労省側)。
 日本移植学会が臓器移植を検証する第三者機関を廃止し検証は医学会で行うとしたことについて、厚労省としては今の時点で第三者機関の廃止はないと、回答しました。また島崎修次日本救急医療財団理事長の「おしなべて『脳死=死』で」という発言は良くない、厚労省の法解釈は「『脳死=人の死』は臓器移植の現場で適用されるもの」で、今後の普及啓発にそのことを盛り込むとの回答でした。
 脳死判定に関する事例に関しては「今後勉強する」とのことだったので、データに基づいた方策と研究班としての長期脳死の事例の報告書をまとめることを強く要請しました。虐待を見極めるシステムやチェックリストについては現在研究班で検討中で、慎重に行っていること。心停止後の臓器摘出については、以前に国会で同様の質問主意書が出され回答されているので、それを送付すると、厚労省側が回答しました。

 今回の申し入れは阿部知子衆議院議員(社民党)の仲介で行いました。「申し入れ」の場には川田龍平参議院議員(みんなの党)が同席してくれました。川田議員は「長期脳死の実態調査と報告書作成は、日本で初めて行えるデータ集積の報告になると考えられるのでぜひ行ってほしい」「慎重に議論されなければならないことがなし崩しにされていくことを懸念している」と要請されました。

 申し入れ後、厚労記者会の会見室で記者会見を行いました。インターネット配信のキャリアブレインニュースの12月22日版に掲載されています。(報告:川見公子)


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“脳死”臓器移植について考える市民と議員の勉強会(2009年11月19日)の報告

2009-12-13 19:39:39 | 集会・学習会の報告

2009年11月19日 “脳死”臓器移植について考える市民と議員の勉強会開催

 

場所:衆議院第一議員会館第3会議室

 臓器移植法が改定されてから、初めての院内勉強会が開催されました。「臓器移植法を問い直す市民ネットワーク」としての活動の再出発として、気分も新たに臨みましたところ、会議室に入りきれないほどの出席者で、うれしい悲鳴となりました。
 改定案の審議段階では、“脳死”と臓器移植に関する誤った情報の流布や、不十分な審議のままに採択されてしまった経緯がありました。本勉強会は、多くの議員の方々と“脳死”と臓器移植の問題点をともに勉強していくこと目的としており、そのような市民ネットワークの声かけに対して、多くの議員にご参加いただきました。
 勉強会の呼びかけ人となってくださった議員と参加議員名を以下に掲載いたします。

*呼びかけ議員(あいうえお順・敬称略)
衆議院議員:阿部知子(社民)石井啓一(公明)枝野幸男(民主)北神圭朗(民主)郡和子(民主・)田中康夫(日本新党〉笠浩史(民主)
参議院議員:大島九州男(民主)川田龍平(みんなの党)小池晃(共産)近藤正道(社民)円より子(民主)

*当日ご挨拶いただいた議員
阿部俊子(衆・自民)阿部知子(衆・社民)川口浩(衆・民主)川田龍平(参・みんなの党)白眞勲(参・民主)初鹿明博(衆・民主)藤谷光信(参・民主)円より子(参・民主〉

*その他ご参加いただいた議員
石毛えいこ〈衆・民主〉枝野幸男(衆・民主〉大島九州男(参・民主・)辻恵(衆・民主)

*秘書が参加された議員
阿部知子(衆・社民)大山昌宏(衆・民主)岡本充功(衆・民主)郡和子(衆・民主)竹田光明(衆・民主)長尾敬(衆民主)橋本清仁(衆・民主)本多平直(衆・民主)山崎誠(衆・民主)岡崎トミ子(参・民主)白眞勲(参・民主)鈴木陽悦(参・民主)福島瑞穂(参・社民)



<議員のご挨拶より>
初鹿明博(衆・民主):臓器移植法改正の議論に加われなかったことは残念でなりません。大きな関心を持っておりましたので、こういう会があると聞き、参加いたしました。皆さんと同じ気持ちで活動させていただきたいと思っております。

白眞勲(参・民主):法律はこの前の国会で成立しましたが、まだまだ勉強していかなくてはならないと思っています。脳死・臓器移植とは人間の尊厳にかかわる問題ですので、これからも皆さんと一緒に勉強させていただきたいと思います。

阿部知子(衆・社民):榊原先生とはかつて東大の小児科で一緒に仕事をした関係でもあります。また日本の子どもの人工呼吸器治療のさきがけの医師でもあり、今日は脳死は人の死ではないという事でお話ししていただけると楽しみにしております。

阿部俊子(衆・自民):看護師をしておりました。臓器移植法に関しても一生懸命やらせていただきましたが、法律で認めてしまうことには問題を感じておりますが、A案が通ってしまった中で、今後どうしていくか課題であると思っております。

川口浩(衆・民主):歯科医師、介護支援専門医として、人の死とは隣りあわせで15年過ごしておりました。いろいろな考え方があるので、一概にはいえることではありませんが、誰にとっても納得のできる幸せな最後というのが究極の目標ではないかと思っておりますので、勉強させていただきたいと思います。

円より子(参・民主): 97年の参議院での再修正、猪熊案を猪熊先生と一緒に作った人間でございます。A案が出てきた時に、このままのA案では難しいのではないか、脳死臨調も作らずにやってしまうことは問題があるし、脳死といわれて生きている子供のご家族にとっては死とは認められないでしょうし、衆議院ではA案の中身も知らないまま採決された状況がありまして、そこで、参議院ではE案を作り、E案の賛成討論を本会議場でさせていただきましたが、参議院でもA案が可決してしまいました。
 足立政務官に小児脳死臨調を作るよう話しておりますが、なかなか進展しない状況です。けれども、皆様方の要望書も大臣に届くよう働きかけようと思っております。

川田龍平(参・みんなの党):自分は議員になる前からこの問題には関心を持っていまして、厚生労働委員会でも委員外委員として質問し、E案の趣旨説明もしました。十分な審議をせずに急いで通してしまったのは事実であり、残念です。しかしこれで良しとするのでなく、見直しの期間もあるし、運用の面もあるし、立法府の立場で行政の監視をしていきたいと思います。また、現場の声を生かしていかなければならないとも考えています。今回の改定案採択では、間違った情報で作られた世論があり、衆議院議長の勇退など、いろんな絡みがあって通ったところもありますが、小児脳死判定、虐待の問題、親族優先の問題など、審議不十分だった部分は、できるだけ早くに議員の間でも勉強する会を作りたいと思います。




 今回は、小児神経科医の榊原洋一氏の講演と、“長期脳死”の娘さんと生きた年月をつづった本を出版された中村暁美氏のお話を伺い、質疑応答の時間をもうけました。

 

榊原洋一氏(小児神経科医・お茶の水女子大学人間開発教育センター教授)
「“脳死は死”で良いのか!小児脳死判定基準作成の問題点」

 

<概要>
 榊原氏は、「脳死とは医学的にどうか」「制度、法律ができたけれど現場にいる医者の視点から見てどうか」の2つのポイントに的を絞り、“脳死”と医療現場の見えざる問題点をわかりやすく語っていただきました。

“脳死”とは?
 他の臓器の移植と違い、心臓移植は心停止後では行うことができません。“脳死”とは何か?ということに関する考え方は、この心臓移植を推進するために、造られました。“脳死”状態になると、遠からず亡くなると言われてきたことに対して榊原氏は、「人工呼吸器で命を永らえることができるようになり、長期の昏睡状態が顕在化し脳死という概念が出てきました。現在、脳死の医学的定義は国際的にコンセンサスが得られていると考えますが、脳死の診断方法やその考えが正しいわけではありません」と述べ、生命倫理の多元性(生命とその有り様などに対する多様な考え方)や、死に対する考え方のその人に応じた違いに触れて、「簡単にはいえないと思う」と話しました。

日本の“脳死”臓器移植は遅れている?
 「脳死の発生率は全死亡者の0.4%、年に4000人前後と推計されます。脳死でかつドナーカードを持っている人は年間推計400人。そのうち脳死しかドナーになれないのは心臓だけです」。日本は移植の後進国という報道がされていますが、それは脳死下の心臓移植だけで、「他の臓器移植は多く行われており、特に生体肝臓移植の件数は世界でもトップクラス」という指摘をしました。つまり、日本は決して後進国とではないのです。

慢性的脳死
 以前は脳死になると2~3日で心臓死に至るとされており、アメリカでは不毛の生命というそうです。榊原氏は、「しかし脳死診断はポイント・オブ・リターンでしょうか?シューモン博士の報告もあり、子どもは特に長生きすることがわかってきました。35歳以下では数ヶ月生きることもあります。長期脳死の子供が、触ると手を動かしたり、表情が出る、シューモン博士は体それ自身の中に生命があるというところに立ち返っています」と話しました。

虐待が原因による子どもの“脳死”の実態 は?
 榊原氏は、「子どもの特異性-意思表明が難しい点、脳の可塑性が高い点、この二つの問題を考えなければなりません」と述べました。「脳死は、子供の場合、頭の怪我、交通事故、窒息だが、その中で虐待が交通事故や窒息を上回ります。デンバーの小児病院で3歳以下の子どもの頭部外傷(5年間分)を調べたら、原因のトップは虐待で75%を占めました」。つまり、 頭部外傷が原因で“脳死”とされた子どものうち、3分の2は虐待がその原因だったのです。日本ではこのような調査が行われていないので、その実態はまだ闇の中です。家族に子どもの脳死からの臓器提供を確認するときには、この虐待についても医師が調べなければならないのです。「どうやって虐待がわかるのか厚労省の結論を聞きたいものだ」と氏は述べます。

現場の医師は困惑!
 改定論議がされているとき、どの案を支持するかに関する表明を、小児科学会は保留とし、小児神経科学会は意見がまとまらず出さなかったとのことです。それには多くの問題がともなうからです。
大人はドナーカードがキーだったが、子供の場合はどうなるのか?   
法律が決まったけれど、本当にできるの?
本人の意思表示をどうするのか?
小児のドナーカードの有効性はどう考えるのか?
虐待をどうするのか?
家族は、子供が亡くなった大変なときに、臓器を差し出すだろうか?
 現場の医師は、十分な議論のないままこのような問題にさらされて、「いったいどうしたらいいのか?」と、困惑の声が寄せられているそうです。
 また、改正法には、親族への優先権がうたわれていますが、氏は、このシステムに関し、「温かい気持ちのように見えるが、公平性が壊れるし、重い決断をするとき、保護者の間で意見が分かれたときなどどうするのか」と疑問を投げかけ、「今回のような法律が現場を考えずに議員だけで決められ、前に押し出したことにあきれている」と述べました。

 以上が、大変簡単ですが、講演の概要です。榊原氏が講演時に使用されたパワーポイント・スライドもご参照ください。(スライドはPDFファイルにしてあります。550キロバイト、ここをクリックすると別ページで開きます)

<質疑応答>

質問:
1、移植をしたレシピエントの予後について
2、小児神経科学会で意思表示はしないのか?
3、(医療現場の)混乱に対する準備はなされているか?
回答
1、延命効果に関しては理論的に証明することが大変難しいのです。その理由として「臓器移植をしなかった場合」との比較をすることができないということがあります。
2、小児神経学会の議論はしていますが、なかなかまとまらないのが現状です。改訂があったので、出すべきとは思っています。
3、脳死になったお子さんに対して、人工呼吸器は止めずに、心停止までがんばるだろうと考えています。結果として、現場の混乱は起きないだろうと思います。混乱するのはマスコミではないでしょうか。

質問:子供の脳死判定がされたときも、長期に生存するのはなぜか

回答:心臓死は心臓が止まることで死と確認できますが、脳には何千億という細胞があって、たとえ法的脳死判定をしてもどこかの神経細胞は生きている可能性があります。脳の血流が少なくなっても完全に止まってはいない可能性はあるのは同じで、脳全部を見ているわけではないのです。




中村暁美「長期脳死 娘、有里と生きた1年9カ月」

 

 私の娘は、2歳8ヶ月のとき、原因不明の痙攣重責(けいれんじゅうせき:けいれん発作が30分以上続いて回復しない状態)で脳死状態になりました。
 娘は、1年9ヶ月温かい体を持続し、がんばって生きてくれました。娘の体を介護している間、一度も死んでいるとは思ったことはなく、脳死と宣告されたとき、死亡宣告ではなく重い病気の宣告と受け止めました。この子の心臓がどれだけ動き続けるかはわからないが、娘の存在から生きる勇気をもらっていました。
 1年9ヶ月の時間と生活がなかったら、今のように笑って生活するということはなかっただろうと思います。「何でこうなってしまったんだろう」という母親の自分を責め後悔してばかりだった日々を、娘との生活が、目の前でがんばっている子どもを受け入れ、前向きに生きる時間へと変えてくれたのです。
 亡くなる前の急変したとき、心臓マッサージをしている医師に、永遠のお別れがきてしまうことが怖くて、「もう結構です」となかなか云えなかった。その時、私には娘が笑っているように見えたのです。ようやくそこで、「もういいです」といいました。そして段々からだが冷たくなっていきました。娘の冷たくなった体に触れ、死を受け入れることができました。脳死の状態と心臓が止まったあとの娘のことを知っている私だからこそ、脳死は人の死ではないということができます。
 有里のことを、たくさんの方々にお話させていただく中で、脳死についてまったく知らなかったという人が非常に多いということが分かりました。そして、「全然知らなかった。聞いてよかった!」と涙ながらに感想をおっしゃる方もいらっしゃいました。A案(現改定法)は成立したけれど、これからも話をしていきたいと思っています。
 今日は宝物を持ってきました。娘の髪の毛が伸びたときに10cmくらいばっさり切ってその髪の毛を集めて筆を作りました。これは娘が生きていた証です。


 中村さんご家族と有里ちゃんの過ごした時間は、かけがえのない濃密な時間でした。中村さんが有里ちゃんを授かり、そして愛とともに生きた姿は、2009年11月に出版された著書『長期脳死 娘、有里と生きた1年9カ月』(岩波書店)で、ごらんになれます。

 

以上(文責:天野)


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“脳死”は人の死ではありません!! リーフレット配布開始

2009-12-13 11:12:17 | パンフレット、リーフレットについて

“脳死”は人の死ではありません!! リーフレット配布開始

 

 臓器移植法を問い直す市民ネットワークで作成したリーフレット「“脳死”は人の死ではありません!!」がダウンロード可能になりました。

  


 

 この記事について、コメントおよび応答が5件ありました。以下に掲示します。なお、現在はコメントは受け付けていません。

 

Comments: (5)
2010.1.10 15:31:59 一般市民 : 日本でも脳死判定を聞いていた人がいますよ。その人は立派に働いてますが、実際に医師による脳死の言葉を聞いた数秒後に息を吹き返したと言ってました。
脳死が人の死ではないという言葉は受け入れられない人もいると思います。私は、脳死という事象そのものがなく単なる脳疾患と捉えています。

 

2010.1.13 20:56:25 abdnet :  一般市民さん、支障がなければ自分自身への脳死判定を聞いた方の情報を書いてください。コメント欄に書くことに支障があればメールでも結構です。

 

2010.1.14 22:07:28 一般市民 : 情報は書けません。
昨年の春にテレビで脳死の特番があったときに書かれたブログの記事ですが、親の同意があっても顔を映すのは可哀想だと。違う意識の所から当の本人が見てるとご自分の経験を書かれていました。
こんな方もいらっしゃることだけ知っておいて下れば…

 

2010.1.16 09:10:54 abdnet : いろんな場面で、意識不明とされていた時期に意識があったケース
http://www6.plala.or.jp/brainx/conscious.htmが報告されていますので、日本で脳死判定された方にも同様のケースがありうると想定すべきですね。
一般市民さん、そのブログを見たいのでURLを貼り付けてください。

 

 14:35:43 一般市民 : 前にも同様のことがありました。その時にブログをなんらかの方法で伝えたことがありますが、その人にとっては触れられたくなかったかもしれません。
しかし、脳死の判定を医者から宣告されても人工呼吸器にたよることなく、体に障害を抱えながらも生きている人がいることに驚きました。
ブログにはその人の悩みや辛いこととともに、詩も書かれていて感情表現が豊かだと思うと同時に壊れやすい部分もあると思います。
私のレスはこれで終わりにします。情報がなければ、またブログを読まなければ信じられないと思われるなら面倒ですが削除して下さい。


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