臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

「脳死」は人の死ではありません。「脳死」からの臓器摘出に反対します。臓器移植以外の医療の研究・確立を求めます。

心臓移植開始から50年-切り捨てられるいのちの側から問い直す(臓器移植法を問い直す市民ネットワーク声明)

2017-12-03 03:02:21 | 声明・要望・質問・申し入れ

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク声明            

2017123


心臓移植開始から50年-切り捨てられるいのちの側から問い直す



 1967年12月3日、南アフリカで世界初の心臓移植が行われました。世界初の心臓移植は、各国における心臓移植の開始、翌1968年8月のハーバード大学脳死判定基準、和田心臓移植と続き、大きな社会問題になりました。それから半世紀を超える時期に際し、私たち臓器移植法を問い直す市民ネットワークは、改めて「人命・人権の尊重」そして「臓器移植以外の治療法の開発・普及」を求め、以下の見解を公表します。

★「脳死」は臓器移植のために作られた死の概念
 臓器摘出は、どんな状態なら認められるのか?それを提起したのが、1968年8月の「不可逆昏睡の定義―脳死の定義を検討するためのハーバード大学医学部特別委員会報告」でした。この報告には、臓器移植の正当化を求めて「不可逆的昏睡を新しい死の基準にする」こと、意識のない重篤な患者の医療を終わらせるためにこれを提案したことが記されました。これを受けて各国でも、「脳死」という人類史にはこれまでなかった新しい「死の判定基準」が作られていきました。
 それまで、人類は早すぎる埋葬などを経験しつつ、心停止などの3徴候を死の基準とし、なおかつ、24時間状態が継続することで死を確認してきました。しかし、心臓死では臓器移植の成功が期待しがたいことから、「脳死概念」が作られたのです。

★「脳死概念」への批判
 1990年代末には、アメリカのアラン・シューモンが、「脳死」と診断された子どもたちが長期に生存した実例を調査し、「脳死」が人の死でないことを立証しました。2007年にはアメリカで、「脳死」と判定され臓器摘出が予定されていたザック・ダンラップさんが、意識を回復し高次脳機能障害を残すものの社会復帰し、その後結婚して子供を持った事実が報道されました。他にも「脳死」と判定されながら、命を取り留め、意識を回復したいくつもの事例があります。にもかかわらず、「脳死概念」の法的な見直しは行われていません。
 また「脳死」者からの臓器摘出では、麻酔と筋弛緩剤が使われてきた歴史があります。臓器移植法改定論議の過程で「麻酔を使用するのは生きているからだ」との反対意見が出されました。移植医はそれを封じ込めるために、臓器摘出術での麻酔の使用を中止し、現在は筋弛緩剤のみが投与されています。筋弛緩剤が使われれば動けないことに変わりなく、もし「脳死」患者が痛みを感じていたなら生体解剖の苦しみを与えることになります。

★拡大される臓器摘出対象
 臓器移植が普及し始めると、従来は臓器移植が考慮されていなかった患者にも臓器移植の選択肢が提示されるなどにより臓器移植待機患者は増え続け、臓器不足の状態は解消することはありません。しかし、この待機患者を理由に、臓器の摘出対象を合法的非合法的に追い求める歴史を人類は経験してきました。「無脳症」とされる子どもからの臓器摘出も行われました。フィリピンやインドのように、生体腎の売買が半ば公然と行われている地域もあります。そして、臓器摘出目的の誘拐の話さえ聞こえてきます。
 近年、欧米では、心停止直後の身体からの臓器摘出が増加してきました。生命維持装置を打ち切り臓器保存のための灌流液を注入した上で行われるもので、最短では心停止後75秒で心臓の摘出手術が開始された例さえあります。脳幹反射が残っている「脳死判定」を満たさない症例に対して行われるとも言われ、いわば消極的安楽死者からの摘出とも言えます。灌流液の中には、血液凝固を防ぐヘパリンなどの薬剤も入っており、脳出血の臓器提供者は、灌流液が命を縮める=心停止をもたらす結果になる可能性さえあります。

★ドナーの人権は守られているか
 臓器が摘出されるドナーの身体は死体なのでしょうか?
 「脳死」患者の体はあたたかく、汗をかき、涙を流し、排便をし、成長します。長期生存例や出産例、脳機能を回復した事例も報告されています。臓器摘出でメスを使うと、血圧は急上昇します。脳死判定基準を満たしても人の死ではありません。
 また、心停止直後も「死体」とは言えません。心臓が再び自然に拍動したり、人工心肺を付けて1週間後に救命された症例もあります。つまり移植可能な臓器を獲得できる時間内での「死の宣告」は困難を極めます。臓器提供が前提になると、死の宣告前から様々な移植用臓器獲得のための「操作」が行われ、それが臓器提供を求められた患者の命を奪うことにもなるのです。

★臓器移植に頼らない医療の研究開発を、そして救命救急医療の確立を
 過去50年間に様々な内科的・外科的治療法が開発され、それが臓器移植を検討する重症患者の発生を予防し、重症化しても移植に頼らない治療の選択肢を増やしてきました。近年では、植込み型補助人工心臓の普及が、心臓移植を行うことなく生活できる選択肢に進展してきました。このように他人の死を前提としない医療をこそ、推し進めるべきです。そして突然襲う事故や病気で「脳死」状態に陥らないように、ドクターヘリや小児救急医療の拡充を含む救急医療体制を確立するべきです。

★最後に
 生命維持に不可欠な臓器を摘出して行われる臓器移植は、誰かの死を期待せざるを得ない「医療」です。そこでは、切り捨てられるいのちと救われるいのちの選別という発想も起こります。
 2017年9月29日に発表された日本学術会議の「我が国における臓器移植の体制整備と再生医療の推進」という「提言」は、移植用臓器の獲得を目指して上述の心停止移植の導入などを求めています。臓器移植法についても、反対意思を表明していない全ての患者から臓器を摘出できる方式への改悪案を提示しました。そして「脳死は死である」と児童生徒に教えるとしています。脳死判定後の長期生存や回復事例など様々な事実や議論には目をつむり、「脳死は人の死」と信じ込ませろ、ということなのでしょうか。私たちは、このような主張に対しては、今後とも明確な批判を続けます。

 私たちは“いのち”に優劣をつけず、どんな“いのち”も大切に守られることを願い、この半世紀を問い直し、人命と人権を尊重する社会を求めて、努力を重ねていきます。


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