臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

「脳死」は人の死ではありません。「脳死」からの臓器摘出に反対します。臓器移植以外の医療の研究・確立を求めます。

「いのちの教育セミナー2021」において正しい説明・情報提供を求める申し入れ

2022-01-15 14:33:41 | 声明・要望・質問・申し入れ

2022年1月12日

 


日本臓器移植ネットワーク 理事長  門田守人殿
日本教育新聞社 社長 小林幹長殿

 

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

 

 

「いのちの教育セミナー」において正しい説明・情報提供を求める申し入れ

 

 

 私たちは、脳死判定基準を満たしたら人の死とすること、および「脳死」からの臓器摘出に反対し、臓器移植以外の医療の研究・確立を求めて活動している団体です。
「いのちの教育セミナー2021」が2022年1月29日に開催されます。同セミナーの「開催のご案内」によると“臓器移植を題材とした「いのちの教育」の実践などを通して、子どもたちが生きる上での多様な価値観を育み、自己の生き方を深めていく教育の在り方について提案し、考えを深めていただきます”とのこと、しかも一般も参加できるセミナーとのことで、正確な情報を提供していただくよう、とりわけ以下の3項目は特に留意して取り入れて下さいますよう申し入れます。

 


1,「移植用臓器を1個でも多く確保したい・斡旋したい」との偏った価値観を排し、人々が正確な知識を持つために正しい情報を提供することを求めます。

2,「脳死」または「脳死とされうる状態」と診断されても、臓器を提供せずに積極的治療を希望すれば長期間生存できる患者もいることについて周知願います。

 これまで「脳死は人の死」とする見解で根拠となっていたことは、「脳死と判定されたら数日以内に必ず心停止に至る」という、おおむね1970年代頃までの傾向でした。しかし、現代の脳不全患者の実態はそのようなものではありません。脳死と診断されても月単位、年単位で生存する症例が多数報告されています。教育の場において、時代遅れの間違った情報で教育を行うのは厳に禁止すべきことです。間違った情報で教育すると子供たち、その親からの信頼を無くすだけでなく、救命医療を早期に断念させることによって救えたかもしれない子供の命を失わせる恐れを高めます。人々の現実を認識する能力を高めるのではなく、「重症に陥ったら死ぬしかない。臓器を提供して死んだ方に意味がある」という価値観に誘導するのであれば、いのちを軽々しく扱う誤った洗脳教育です。


3,脳死臓器摘出手術の開始前には臓器提供者が動かないように筋弛緩剤が投与され、臓器摘出手術が開始されると臓器提供者の血圧が急上昇して麻酔が投与されることもある、という現実を周知願います。

 臓器摘出時に麻酔がかけられる場合があることについて、認識が無かったために臓器提供を後悔している遺族の語りを【注1】から引用する。
「脳死っていうのは、生きているけれど生身でしょう?だから手術の時は脳死でも動くんですって。動くから麻酔を打つっていうんですよ。そういうことを考えると、そのときは知らなかったんですけども、いまでは脳死からの提供はかわいそうだと思えますね。手術の時に動くから麻酔を打つといわれたら、生きてるんじゃないかと思いますよね。それで後になってなんとむごいことをしてしまったんだろうと思いました。かわいそうなことをしたなぁ、むごいことをしたなぁと思いました。でも正直いって、何がなんだかわからなかったんです。もうその時は忙しくて。」
【注1】山崎吾郎:「臓器移植の人類学(世界思想社)」、87-88、2015
 上記の遺族の後悔にみるとおり、臓器摘出時に麻酔をかける場合があるという情報は、臓器提供を承諾するか否かの判断において、極めて重要な情報である。臓器斡旋業者そして移植医としては「詳しく説明すると臓器提供者が激減するだろう」という恐れを持つとしても、臓器提供候補者の家族に対して誠実に説明して承諾を得るために説明する義務があると考えます。

 

 

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以下は根拠となる情報の概要です。

2の「臓器を提供せずに積極的治療を希望すれば長期間生存できる患者もいること」について

 同封しております当ネットワーク発行の小冊子“「脳死」って本当に死んでるの?「臓器移植推進」って本当に大丈夫?”のp2に「成人の長期生存例・出産例」として以下の3例を掲載しています。
*ドイツのハインリッヒ・ハイネ大学病院で妊娠17週の29歳女性が脳死判定から5ヶ月後に帝王切開で出産し、その後、臓器を提供した 。
*ドイツのジュリウス・マクシミリアン大学病院で推定妊娠10週の28歳女性が脳死と判定され、推定妊娠34週で経腟分娩(自然分娩)し、翌日、臓器を提供 。
*熊本大学病院で妊娠22週の32歳女性を脳死と判定(正式な無呼吸テストは低酸素の懸念から行わなかった)、妊娠33週で経腟分娩(自然分娩)し、翌週に無呼吸テストで自発呼吸の無いことを確認した。8週間後に転院、約1年後に死亡。

 

 当ネットワーク発行の小冊子“「脳死」って本当に死んでるの?「臓器移植推進」って本当に大丈夫?”のp2~p3に「家族が臓器提供を断り、長期に生存する子どもたち」として以下の4施設7例の報告を掲載しています。
*兵庫県立尼崎総合医療センターでは脳死とされうる状態と判断された小児4例(1歳~8歳)が、2019年11月時点で3年9ヵ月、2年、1年5ヵ月、8ヵ月間生存 。
*順天堂大学医学部付属浦安病院では9歳男児が脳死とされうる状態となってから9日後に救命センターを退出、125日後に療養型病院へ転院した(2019年発表)。
*徳島赤十字病院では救急搬送された13歳女児が入院6日目に脳死とされうる状態となり、420日以上生存している(2014年発表) 。
*豊橋市民病院では14歳男児が入院16日目に脳死とされうる状態となり、5ヵ月を経過しおおむね安定し、在宅医療に向け準備中(2012年発表) 。

 

脳死判定の誤診例
 当ネットワーク発行の小冊子“「脳死」って本当に死んでるの?「臓器移植推進」って本当に大丈夫?”のp5~p6に「脳死臓器提供の手続きが進められていた中で、脳死ではないことが判った症例があります。報告された論文からその割合は1~5%と見込まれます」としてイラン、東京都、韓国、アメリカの文献を掲載しています。小冊子p8には「臓器摘出直前に脳死判定の誤りが発覚した症例」を掲載。また、小冊子発行後に以下の報告もありました。
*島田療育センターでは17カ月女児に臨床的脳死と診断し、第17病日に日本臓器移植ネットワークのコーディネーターが臓器提供について説明したが、家族は臓器提供を拒否した。発症から約5週間後に、脊髄反射だけでなく脳幹が関与する自発的な体動きが現れた。
出典:Kubota Masaya :Spontaneous movements after diagnosis of clinical brain death: a lesson from acute encephalopathy,脳と発達,53(Suppl),S207,2021

 


3の「脳死臓器摘出手術の開始前には臓器提供者が動かないように筋弛緩剤が投与され、臓器摘出手術が開始されると臓器提供者の血圧が急上昇して麻酔が投与されることもあること」について
 2018年の9月頃まで、日本臓器移植ネットワークのホームページから「臓器提供についてご家族の皆様方に ご確認いただきたいこと」という説明文書をダウンロードできましたが、現在はダウンロード不可能になっています(ダウンロード可能な時もファイル名をHP上に表示しておらず、サイト内を検索して探すしかない状態だった)。非公開扱いされる前に、当方で保存した説明文書には、臓器摘出時に麻酔をかける可能性については記載していません。
 厚労省や日本医師会は、「診療情報の提供に関する指針」を公表しており、「医療従事者は、原則として、診療中の患者に対して、次に掲げる事項等について丁寧に説明しなければならない」とし、このなかに「処方する薬剤について、薬剤名、服用方法、効能及び特に注意を要する副作用」「手術や侵襲的な検査を行う場合には、その概要、危険性、実施しない場合の危険性及び合併症の有無」他を例示しています。
 医療は患者、家族への丁寧、正確な説明が前提であるにもかかわらず、日本臓器移植ネットワークは逆に「実態を知られると臓器提供が激減するから」との利己的な動機で広報活動を継続しているのは重大な問題です。
 当ネットワーク発行の小冊子“「脳死」って本当に死んでるの?「臓器移植推進」って本当に大丈夫?”のp15~p16に「国会で移植医が麻酔投与を否定したが、実際には麻酔をかけていること」「脳死なら効果のないアトロピンが効いたこと」を掲載しています。

 

 

以上

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