臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

「脳死」は人の死ではありません。「脳死」からの臓器摘出に反対します。臓器移植以外の医療の研究・確立を求めます。

死後の臓器提供の現実について市民に正確な情報提供を行うとともに、「脳死が疑われる患者数を医療機関から報告させる新制度」の撤回を!

2023-06-30 13:41:30 | 声明・要望・質問・申し入れ

2023年6月29日

     厚生労働大臣 加藤勝信様

 

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

 

死後の臓器提供の現実について市民に正確な情報提供を行うとともに、「脳死が疑われる患者数を医療機関から報告させる新制度」の撤回を!

 

 報道によると、厚生労働省は7月から、脳死が強く疑われる患者の毎月の人数を医療機関から日本臓器移植ネットワークに報告する新制度の試験運用を始めるとのことです。

 わたしたちは、この報道に接し、強い危機感を覚えています。この制度は、「脳死状態」と疑われる人を、これまで以上に臓器提供源として、取り扱っていく方向を進め、重症脳不全患者の救命をおろそかにする状況を作り出していくのではないかと危惧するからです。

 臓器移植法は、「脳死」が「人の死」であるのは臓器提供・移植にかかわる場面だけに限定しています。にもかかわらず、まだ「脳死判定」もされていない「脳死が強く疑われる患者」を臓器提供源としてとらえる新制度について、私たちは「人の死」の基準を拡大するものであり、いのちの切り捨てを推し進めることになる、と考えます。

 他人の臓器を医療資源とする特殊な医療である臓器移植は、臓器提供者の任意性や医療の透明性が強く求められます。患者(意識不明患者の場合は患者家族)への十分な情報提供、その理解と承諾を得ることは医療倫理の基本です。しかし、現実には、家族への説明が正確でなかったり、臓器提供における現実、例えば法的脳死判定の前から臓器提供に向けた処置が行われる【1】、臓器摘出時に麻酔をかけることもあるなどが隠されている実態【2】があります。
 私たちは、「脳死判定」を「人の死」の基準にすることはできない、と考えます。脳死臓器提供を拒否して月単位、年単位で長期生存している人がいるからです。また、脳死が疑われる重症患者の中には命をとりとめた事例や、臓器が摘出される手術台上で脳死ではないことが発覚した事例、さらに社会復帰して結婚し子をなした事例があるなども周知の事実【2】となっています。このように「脳死判定」を「人の死」の基準にすることが不適切であり、しかも脳死疑い・判定の誤りが莫大にあることを知りながら、人々は今後も死後の臓器提供を支持しつづけるのでしょうか?

 こうした現状を受けとめ、改善することもなく、ひたすら臓器提供を拡大せんとする為の新制度は、直ちに中止すべきです。わたしたちは、厚生労働省に対して、今回の新制度を撤回することを求めます。臓器提供に関する正確な情報提供を行い、臓器移植に頼らない医療の研究・開発を推進することを求めます。

 

 

〈今回の抗議要請書の補足事項〉

 

◆日本骨髄バンクが数万例に1例のドナーが死亡する危険性を事前に告知しているが、日本臓器移植ネットワークは数十例に1例の脳死疑いの誤り、臓器摘出時の麻酔投与も隠蔽している。

〇日本赤十字社は「献血の同意説明書」のPDFファイルを同社サイト内で公開しており、献血に伴う副作用等について頻繁に発生する「気分不良、吐き気、めまい、失神などが0.7%(約1/140人)」を、さらに、滅多に発生しない「失神に伴う転倒が0.008%(1/12,500人)」も書いている。

〇日本骨髄バンクは“ドナーのためのハンドブック”のPDFファイルを同バンクサイト内で公開し、骨髄採取、麻酔に伴う合併症と重大事故を記載している。死亡例について国内骨髄バンクでは2万5千例以上の採取で死亡事故はないが、海外の骨髄採取で5例、日本国内では骨髄バンクを介さない採取で1例、計6例の死亡例があることを知らせている。

 一方で

✖日本臓器移植ネットワークは臓器提供候補患者の家族に提示する文書「ご家族の皆様にご確認いただきたいこと(以下「ご確認いただきたいこと」)」を、同ネットワークサイト内で公開していない。2022年9月発行の「臓器移植におけるドナーコーディネーション学入門(へるす出版)」に掲載された「ご確認いただきたいこと」でも、心臓死の予測を誤る確率や脳死判定を誤る確率を示していない。臓器を摘出する際に、提供者の身体に麻酔をかける場合もあることなども書かれていない。

 実際には

✖東京都内で2017年までの約22年間に、臓器移植コーディネーターが424例のドナー情報を受けて、患者家族341例に脳死後および心停止後の臓器提供について説明したが、このうち5例が植物状態に移行し臓器提供の承諾を得られず、さらに家族が臓器提供を承諾した後に1例が植物状態に移行したため臓器提供に至らなかった。【3】
 累計では6例に誤りがあり、これは70.7人に1人(424/6)の死亡予測を誤ったことになる。

✖韓国では2012年から2016年までに潜在的脳死ドナーは8120例あったが、潜在的脳死ドナー段階では1232例が脳死ではなかった。家族から脳死臓器提供の承諾を得た段階では2718例のうち33例が脳死ではなかった。2400例が臓器摘出に至ったが1例が脳死ではなかった。【4】
 累計で1267例に誤りがあり、これは6.4人に1人(8120/1267)の脳死疑いを誤ったことになる。

(注:これらの誤りは、単純な誤りではありません。脳死疑いに基づいて法的脳死判定を行う前から、臓器提供を目的とした処置を行ったことによって意図的に造られた脳死患者・意識障害患者がおり、その分は脳死と判定された症例数が膨らんでいること。一方で臓器摘出を完了した以降も脳死判定の誤りが発覚していない患者が除外されていることによる、脳死疑いを誤った症例数の過小評価も考慮しなければなりません。)

 

出典資料

【1】法的脳死判定以前から臓器提供目的で患者を管理したことを、臓器提供施設の医師が自ら報告した文献は法的脳死7例目(田中秀治:脳死の病態とドナー管理の実際、ICUとCCU、25(3)、155―160、2001)、法的脳死779例目が(横沢友樹:脳死下臓器提供におけるドナー管理の経験、岩手県立病院医学会雑誌、62(1)、11-15、2022)、このほか複数ある。

【2】同封の冊子“「脳死」って人の死 「臓器移植推進」って大丈夫”、またはブログhttps://blog.goo.ne.jp/abdnet/e/e0270e7acd27ed637468f883f0785d93 

【3】櫻井悦夫:臓器移植コーディネーター 22年の経験から、Organ Biology、25(1)、7-25、2018 https://www.jstage.jst.go.jp/article/organbio/25/1/25_7/_pdf/-char/ja

【4】Kim Mi-im:Causes of Failure during the Management Process from Identification of Brain-Dead Potential Organ Donors to Actual Donation in Korea: a 5-Year Data Analysis (2012-2016),Journal of Korean Medical Science,33(50),e326,2018 https://doi.org/10.3346/jkms.2018.33.e326


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「臓器提供を見据えた患者評価・管理と術中管理のためのマニュアル」の 撤回を求めます

2023-06-09 23:38:10 | 声明・要望・質問・申し入れ

2022年6月29日

日本救急医学会 代表理事 坂本哲也様
日本集中治療医学会 理事長 西田 修様
日本麻酔科学会 理事長 山蔭道明様
日本移植学会 理事長 江川裕人様
日本組織移植学会 理事長 木下 茂様
日本脳神経外科学会 理事長 宮本 享様
日本臓器移植ネットワーク 理事長 門田守人様

 

臓器移植法を問い直す市民ネットワーク

 

「臓器提供を見据えた患者評価・管理と術中管理のためのマニュアル」の撤回を求めます

 

 貴学会そして日本臓器移植ネットワークは、このほど「臓器提供を見据えた患者評価・管理と術中管理のためのマニュアル(以下では同マニュアルと記す)」を作成されました。同マニュアルは、「第1章 臓器提供を見据えた患者管理と評価」の本文冒頭p8「臓器提供の可能性がある脳死患者管理」「患者に救命・脳機能の回復のための懸命な治療が行われたにもかかわらず、結果として脳死に至る場合がある。治療チームが“救命は不可能”と考え、家族が臓器提供を希望する場合、患者本人と家族の意思を生かすため救命治療から臓器保護目的の患者管理へと移行する場合がある。しかし、患者家族が治療の結果を受け入れ終末期の方針を決定するには時間を要することが多い。患者家族の支援を行いつつ方針決定の時間を作ることも必要となる。臓器提供の方針が明確となったら、多くの臓器が提供できる様に、少しでも良い状態で移植患者につなげる様に患者管理を行う」として、臓器提供目的での各種薬剤の投与、各種検査や処置を推奨しています。

 

 

◆臓器提供を見据えた処置は、脳保護とは真逆の「臓器移植法」に反する傷害行為

 これは「臓器の移植に関する法律(以下では臓器移植法と記す)」に反することをマニュアル化したことになります。患者家族が終末期の方針を決定する前は、当然に法的脳死判定の実施を承諾していません。臓器移植法は「移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死した者の身体を含む)から摘出することができる」としていますが、脳死した者となるのは法的脳死判定が確定した時です。法的脳死が確定する以前は、医療者は患者の救命・脳機能の回復につながる治療を尽くすことが求められます。法的脳死の確定前に、移植術に使用される臓器を数的に多く、あるいは良い状態で得るための処置をすることは、救命・脳機能の回復のための治療がなされるべき患者に許される行為ではありません。同マニュアルの作成に関与した医師【注1】も「脳保護のための治療では、浸透圧利尿薬を用いて血管内容量を下げ、できるかぎり頭蓋内圧を下げるべく管理する。しかし、臓器保護のためには十分に補液し臓器血流を維持するという、補液の観点からすると真逆の管理を行うことになる」と書いており、臓器提供を見据えた患者管理が、脳機能の回復に反する管理であることは明確です。

 同マニュアルは、治療チームが“救命は不可能”と考えた時点、法的脳死判定の実施について承諾を得ていない時点を「既に結果として脳死に至っている。これ以降は臓器移植を待つ患者のための処置をしてよい」としていることになり、それは法的脳死判定手続きを形骸化・空洞化させます。救命・脳機能の回復のための治療を行うべき患者に、真逆の管理を行うことは患者に対する傷害であり、真逆の管理で法的脳死と判定される状態に至らしめるならば傷害致死罪に問われるべき行為と考えます。

 

 

◆患者家族の承諾なしに行われる臓器移植のための舞台裏

 2004年に神戸大学医学部附属病院の鶴田副院長・看護部長は次のように書いています。

 「筆者は以前勤めていた大学病院で20年前も死亡後の死体臓器移植(主に腎臓移植)にかかわっていました(集中治療室、手術室において)。もちろん“脳死による臓器移植”法のできるずっと前のことです。この時、ドナー側の治療に当たる救急医や脳外科医とレシピエント側の移植医の考え方の違いや移植の進め方に倫理的な問題を感じていました。今は現場の細かなことに直接関与はしていませんが、伝わってくる臨床現場の話のなかで“根本的に今も変わっていないなあ”と思うことがあります。(中略)脳死移植医療においては、例外はあっても、移植医にとっては実績を積んでいくことは重要であるし、一方で脳死判定を受けるドナー側は納得のいく尊厳死のプロセスをとりたいと考えます。移植医にとっては移植できる可能性があれば、脳死判定前からその準備(循環動態のコントロール等)をしていくのは常識であり、そうしなければ成功しません。数日前から情報は飛び交います。しかし表向きはプロトコールにそった移植の流れで進められます。ドナーやレシピエントの家族は、当然このような舞台裏は知る由もありません」【注2】

この指摘は、今回のマニュアルの内容が以前から行われていたことを示しています。

 

 

◆医師の見通しに間違いはないのか

 死後に臓器提供の可能性がある(ポテンシャルドナー)と見込まれながら、医師の見通しとは違って、遷延性意識障害となった症例や回復した事例もあります。

 

◎1977年2月より1978年1月まで国立佐倉療養所に報告されたポテンシャルドナーは15名、このうち35歳男性は治癒し、34歳男性は植物人間となり4ヵ月後に死亡、2歳女児は植物人間となった【注3】。

◎東京都内で2017年までの約22年間に臓器移植コーディネーターが患者家族341例に脳死後および心停止後の臓器提供について説明したが、このうち5例が植物状態に移行し臓器提供の承諾を得られず、さらに家族が臓器提供を承諾した後に1例が植物状態に移行したため臓器提供に至らなかった【注4】。

◎関西医科大学総合医療センターは2021年に「脳死ドナー管理経験と蘇生医療の進歩の中でカテコールアミン・抗利尿ホルモン使用により小児・若年者の脳不全長期生存例を経験した」と報告した【注5】。

 

 

◆医療費・介護費の不正請求や過大請求も起きる

 臓器提供目的で管理する場合は、その費用は臓器移植を受ける患者が負担すべきです。しかし、死亡宣告前から臓器提供を見据えた管理を行う場合、未だ死亡宣告もされていないため、医療費は臓器提供候補者側に請求すると見込まれます。

 また、患者・家族が臓器提供にいたらず医原性意識障害を発症させられたのなら、患者家族に医療費の負担や莫大な介護費用を不当に負わせることにもなります。

 

 

◆死亡宣告前に臓器提供を目的とする処置を行うことによる、その他の不利益

 患者家族は「臓器提供目的の患者管理」が既に行われていることは知らされていないため、患者が重篤な意識障害に陥った原因が早期の治療断念・臓器提供目的の管理だったことに気付かない。治療チームは、どの処置が患者の状態(脳死判定基準を満たす/満たさない)を左右したのかも分からなくなり、医療者の責任も曖昧になって脳蘇生医学の発展は止まるでしょう。救命・脳機能の回復のための治療を継続すべき時に、第三者(臓器移植を待機している患者)を利するための処置を行うと、このような極めて重大な結果をもたらします。脳機能を回復させる治療を尽くすべき時に、死亡宣告前に臓器提供を目的とする行為は厳禁すべきです。

 

 

◆臓器摘出時の麻酔禁止マニュアルは実態と乖離、臓器提供を減らさないための情報隠蔽

 2008年6月3日、衆議院厚生労働委員会臓器移植法改正法案審査小委員会で福嶌教偉参考人(大阪大学医学部教授・当時)は、臓器摘出時に麻酔をかけることについて次のように述べました。「実際に五十例ほどの提供の現場に私は携わって、最初のときには、麻酔科の先生が脳死の方のそういう循環管理ということをされたことがありませんので、吸入麻酔薬を使われた症例がございましたが、これは誤解を招くということで、現在では一切使っておりません」

 ところが、この発言の約3週間前に行われた法的脳死71例目では、臓器摘出時に「麻酔維持は、純酸素とレミフェンタニル0.2μ/㎏/minの持続静注投与で行なった」のです。83例目でも「(麻酔)導人はベクロニウム0.2㎎/㎏、維持はベクロニウム0.1㎎/㎏、レミフェンタニル0.05~0.3γで行った」、132例目でも「麻酔科として大きく関わったのは①HCU入室時よりの全身管理、②無呼吸テスト、③臓器摘出術の麻酔であった」と学会で発表されました。424例目と見込まれる文献は、「全身麻酔下に胸骨中ほどから下腹部まで正中切開で開腹し,肝臓の肉眼的所見は問題ないと判断した」と記載しています。「現在では一切使っておりません」というものの、実際には臓器提供者に麻酔をかけたのです。脳死ならば効かないはずのアトロピン(副交感神経遮断薬)が投与され、脳死ドナーの徐脈が治った30例目、582例目もありました【注6】。

 今回のマニュアルは第3章 臓器摘出手術中の呼吸循環管理において麻酔薬は投与しない(吸入麻酔薬も静脈麻酔薬も)」としています。「脳死ドナーから臓器を摘出する際に麻酔がかけられる場合がある、マニュアル上は禁止しているから、もしも臓器摘出時に痛がっても麻酔なしでメスを使われる可能性もある。脳死だから効かないはずの薬に実際には反応している」という現実を知ったら、ほとんどの市民は臓器提供をしなくなる、患者家族も承諾しないでしょう。このような実態を患者家族に、市民に説明しないで済むように、麻酔薬は投与しないと書いたとしか思えません。

 

 

◆市民の理解、患者家族の承諾を得られない医療は存在してはならない

 そもそも死後(脳死および心臓死後)の臓器提供を許容する法律は、市民に正しい情報を示して成立したのでしょうか。臓器摘出時に麻酔をかける、脳死なら効かないはずの薬が効いている、脳死とされても長期間生存する患者が増えてきた、臓器を摘出する手術台上で脳死ではないことが発覚した、心停止ドナーとして管理されていた患者の心臓が復活して歩いて退院した、などの実態【注6】を知られれば臓器提供を許容する法律は成立しなかったでしょう。

 臓器移植には、昔から実態を知らせない・知らせると提供者がいなくなる、という現実があります。患者の権利擁護、患者・患者家族の承諾を得ることは医療倫理の基本ですが、それが行えないならば存在させてはなりません。私たちは、今回のマニュアル撤回だけでなく、死亡宣告を前提とする臓器提供の廃止が必要と考えています。

以上

 

 

出典資料

  • 渥美生弘:臓器提供に関する地域連携、救急医学、45(10)、1270-1275、2021
  • 鶴田早苗:高度先進医療と看護、綜合看護、39(4)、47-50、2004
  • 柏原英彦:死体腎移植希望者の登録現況、日本医事新報、2835、43-45、1983
  • 櫻井悦夫:臓器移植コーディネーター 22年の経験から、Organ Biology、25(1)、7-25、2018
  • 岩瀬正顕:当施設での脳死下臓器移植への取り組み、脳死・脳蘇生、34(1)、43、2021
  • 臓器摘出時の麻酔管理例、脳死判定後の長期生存例、脳死ドナー候補者・心停止ドナー候補者への誤診例など、同封した当ネットワーク発行の冊子“「脳死」って人の死 「臓器移植推進」って大丈夫”、またはブログ
    https://blog.goo.ne.jp/abdnet/e/e0270e7acd27ed637468f883f0785d93 をお読みください。

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