私がクレジット会社で働いていたころ、勤務先の婦人服コーナーに
服飾専門学校を出たばかりの彼女が配属されてきた。
彼女はナチュラルで淡々としていて、
大きく感情を出すようなタイプではないけれど、
自分の意見はしっかり伝えて、譲らないところは譲らない人。
休憩が彼女と一緒になるのは楽しかった。
彼女のほかにも、サブカルチャーの話とかたくさんして、
合コンや彼氏の話や噂話や悪口ばかりを言わない少数派な人々と、
よく一緒に休憩をとって楽しかったことはいい思い出だ。
そんなふうに、結構仲良くしていたにも関わらず、
売り場以外でのつきあいはまったくといっていいほど無く。
住んでいるところも近かったはずだけど、お互いの家に遊びに行くようなこともなく。
私が当時住んでいた、河原に面したアパートの下を彼女が散歩していて、
部屋にいた私と目が合って、上と下で話したりはしても、
「じゃあ、またね」 で、終わり。(笑
私が会社を辞めたり、売り場が無くなったり、
バラバラになってしまうとその後は音信不通になる。
なにしろ、彼女は携帯電話を持たない主義だし。
それでもどういうわけか、ある日思いがけない場所でばったり遭遇するのだ。
今度もそういう再会だった。
地下食品街の鮮魚コーナーで(普段そこへは行かないのにどういうわけだか)
通路を塞ぐ外国人の年配女性。
横をギリギリのところで通ると背後に聞き覚えのある声が。
その外国人女性と電子辞書でコミュニケーションしていたのは、“彼女”だった。
「河原を散歩してて、あのお部屋が空になってたからもういないんだな~って思ってたんです」
「うん。引っ越したの。でも近くに引越したからあまり変わってないの」
「そうだったんだ。私、今(仕事)なにもしてなくて、妹の彼氏とそのお母さんが
ボストンから来ていてお世話してるんですよ(笑」
「ガイドしてるんだ!」
「そう。英語も話せないのに。料理も苦手なのに、お母さんをウチに泊めてるんで
毎日食事作るの大変なんです(苦笑」
先月、彼女のお母様の1周忌が終わったそうだ。
「ようやくひと段落ついたんです。…ご両親は健在?」
「父は5年前に」
「お母様は?」
「まあ、元気。」
「そう。じゃあ、いいですね。」
彼女と私はまた分かれた。やっぱり連絡先を知らないまま。
「あいかわらず携帯持ってないのね。連絡先も交換しないのよね。でも、
また会えるんだものね」
「はい。(貴方とは) そういうの無くていいんだダイジョウブなんだと思うの。
それじゃあ、妹の彼氏とお母さんが向こうで待ってるんで」
「うん。またね」
彼女はアパートを変えていないようだったから、前よりもっと近くに住んでいる2人なはずだ。
こんな関係はふつう、ともだち とは言わないんだろう。
だけどなぜだか、強い確信があるのだ。
必ずまた 会う という。
次は家の電話番号くらい交換するのかもしれないし、しないのかもしれない。
どっちでもいい。
そうして10数年間、つきあっている。
*