木陰で

2021-02-07 02:51:46 | 
  木陰で         


町工場の工作機械の唸り音
潤滑油の焼ける匂い
螺旋状に立ち上がる切子
防護眼鏡を着けた長身の男

男から送られた機関紙「二流文学」を手に
瞼の裏の駒を送る
わたしたちのガリ刷りの同人誌「走る馬」
蝋の原紙を彫った鉄筆の感触
ジョークで眠気を払った深夜の作業
京都の鰻の寝床といわれる男の住まいで
天井の小さな明り取り窓を見つめ
「クロイツェルソナタ」は金ちゃんのお気に入り
「エグモント序曲」はゲタやん
「レオノーレ序曲第三番」はぼく(高さん)のおすすめ
ベートーベンで疲れをほぐした

わたしたちの出会いから五十年の歳月を
問い返してみる
これで良かったのかと
男が送ってきた「二流文学」から
その答えが返っている

年に一度だけ京都駅近くの居酒屋で酌み交わす酒
己の言葉に酔い 翻弄され
この馬鹿さ加減は五十年前と変わらない
わたしたちは立派なロマンの残党だ

古都で聴覚の不自由な妻と暮らす男
彼はまだ燃えているか
わたしは今燃えているか
これで良かったと 確かめる
ムクノキの木陰で
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