男は車の中でたばこに火をつけた。
ワイルドセブンに命がともる。
「メラ!」と言って、男はたばこを一息吸った。
ワイルドセブンの先端が赤く燃える。
男は煙を吐き出す。
「メラゾーマ!」と言って、今度はたばこを大きく吸った。
ワイルドセブンの先端が勢いよく燃える。
男は勢いよく煙を吐き出して笑った。
助手席には100万円の束が5つあった。
男が先ほど銀行から強盗してきた金だ。
札束を見ながら男は考えた。
この金で何を買おうか。
うまい飯でも食おうか、どこか旅行にでも行こうか、新しい車を買おうか、、
待てよ、銀行の金ってのは通し番号がついてて、使ったらバレちまうんじゃないか、、
男はそう思って、札束を窓の外に投げてしまった。
高速道路を走る高速の車から投げられた500万円は高速で飛んでいった。
ふぅ~~~、、
たばこの最後の一息を吐いて、男は思った。
くそ、もったいないことしたな。せっかく盗んだんだから、たばこの一箱でも買っておくんだった。
さっき吸い終えたのはワイルドセブンの最後の一本だった。
男の車は急にUターンして、高速道路を逆走しはじめた。
男の頭は再び銀行に向かっていた。
中年の銀行員は思った。
銀行強盗に大金を渡したというのに、なんで誰も気づかないんだ。
いや、みんな気づいているのに、気づいていないふりをしているだけなんじゃないか
銀行強盗なんてものに関わりたくないだけなんじゃないか。
その中年銀行員のもとに、白衣を着て分厚い眼鏡をかけた老人がやってきた。
「わしもお金ほしいな~。いやね、みてたんですよ。さっきの強盗。警察に通報しちゃおうかな~。」
このじいさん、さっきからジロジロこっちを見ていたが、やっぱりそういうつもりだったのか。
「いくら欲しいんです?」
「400万円くらいほしいな~」
「じゃあ200万円ですね」
「なんでじゃ、ケチくさい」
「いいんですよ、欲しくないならゼロです。」
「わかったよ、今回は200万ということで、、」
「ずっと200万ですよ」
「はいはいそうかいそうかい、、」
そう言って、老人は帰っていった。
もう二度とこの銀行に来ることはないだろう。
監視カメラを気にしていた様子だったから。
監視カメラに映ったら身元が完全に知られてしまうとでも思っているのだろうか。
監視カメラでわかることなんて、せいぜい性別と体格くらいなものだ。
全国に同じ性別似たような体格の人間がどれだけいるというのか。
服装で犯人が特定できることもあまりない。
銀行強盗なんてみんな似たような服装をしてくるものだ。
一度、"勝負服"で強盗しに来た男がいて、監視カメラの映像を見て、知り合いの勝負服だという通報で捕まった犯人がいたが、馬鹿な男だ。
しかし、みんなと同じ格好に嫌悪感を抱き、自分が思うままの格好で犯行に及ぶその態度には好感をもった。
なんでそういう"いいやつ"が損する社会なのだろうか。
嫌な社会だ。
中年銀行員がそんなことを考えていると、さっき500万円を奪っていった銀行強盗の男が入ってきた。
全身黒づくめの、典型的な格好。
今度は若い銀行員のもとへ歩いていった。
「金を出せ」とでも言っているのだろう、しかし若い銀行員は動じない様子。
正義感に満ち満ちているという感じだ。
ブーン、ブーン、ブーン、、
中年銀行員の不安は当たった。
警報が鳴り出した。
若い銀行員がスイッチを押したのだ。
金なんて渡してしまえばいいのに、中年銀行員は思った。
銀行に大金を預けている連中はたいてい金を使い切る前に死んでしまうんだ。
だから銀行には余るほどに金があるんだ。
その一方で、金がなくて困っている人々もいる。
そういう人々はときに銀行強盗などという危ない橋を渡る。
そうまでしないといけないほど金に困っているのだ。
金が余っているのだから、渡せばいいじゃないか。
金を渡したところで、誰も困りはしないのだから。
なのに、若い銀行員はヘタな正義感のために警報を鳴らしてしまった。
しかしこれは銀行強盗の男のミスでもある。
銀行強盗に入ったら、若い銀行員ではなくベテランの銀行員と交渉しなければならないのだ。
バーン!
強烈な爆発音とともに、若い銀行員の頭が吹っ飛んだ。
強盗の男はグレネードランチャーをもっていた。
中年の銀行員は、長いこと銀行員をやってきたが、グレネードランチャーを見るのは初めてだった。
これはしょうがない。
人を殺してしまったのだから、死刑モノだ。
中年の銀行員はスイッチを押した。
すると、銀行のあらゆるところからライフル銃が出てきて強盗の男を四方八方から撃った。
パンパンパンパンパン、、、、、、、、、、
男は文字通り"蜂の巣"になった。
真っ赤なハチミツが流れた。
男はヘビースモーカーだったのだろう。
男の肺からはたばこの煙が出てきた。
ハチミツとフレーバー。
そんな漫画があったような気がする。
ヘビースモーカーの中年男性に恋してしまう女子中学生の話。
ブーンブーンブーン、、
警報はまだ鳴り続けている。。
「ハチミツとクローバー」読んだことありません。。