54のパラレルワールド

Photon's parallel world~光子の世界はパラレルだ。

半魚人の夢

2008年11月06日 | クリエイティブな思考への挑戦
私は幼な心に、半魚人をつくりたかっただけなんだ、、、

中学生の私は、ふとした好奇心から、サケの卵に自分の精子をかけた。
こうしたら半魚人ができるんじゃないか。もしかしたら美しい人魚になるんじゃないか。
ドキドキしながら、私はその「受精卵」をシャーレに入れて、机の中にしまっておいた。

しかし、少年の好奇心は持続しない。
私はすぐに受精卵のことなんか忘れてしまった。

しばらく経ったある日の夜。私はガタガタという音に起こされた。
音は机から聞こえていた。引き出しがガタガタと揺れている。
何事かと思い引き出しを開けてみると、シャーレの上で手のひらサイズの半魚人が暴れていた。
私はその一瞬で、しばらく前の出来事を思い出した。まさか本当に!
私は小さな半魚人を手のひらに乗せ、間近でじっくり見た。これは大発見だ!
名前はハンギョ!

そこには私に少し似た顔があり、エラのようなものがあり、、、魚のような体がくっついていて、、
手ヒレが人間の手のひらのようになっていて、、尾ヒレも両足首がくっついたようになっている、、、
そんなハンギョは手ひらと足ひらをバタバタと動かし、私と少し似たその顔は苦しそうにもがいている。
その様子はまるで、手足をロープでぐるぐる巻きにされた人質のようだった。

息ができないらしい。肺呼吸ではないようだ。
私は洗面所に走り、バケツに水をいれ、そこにハンギョを入れた。
これで生き返るだろう、と思ったが、水の中でハンギョは溺れてしまった。
手ひら足ひらをバタバタ動かして、くるくる回っている。顔を水面に上げようと必死でもがいているようだ。
えらがあり、肺があり、しかしどちらも機能しないのか。
いや、どちらも中途半端だから機能しないのか。

ハンギョはバケツの中でひたすら苦しんでいる。
しかし、私にどうすればよいというのだ?
私に似た顔が苦しみに満ちた表情で私を見る。
少年のささいな好奇心、ハンギョの半分は私のDNAで構成されている、私の子どもだ。
わが子が、生まれて来たはいいが、呼吸さえできずに苦しんでいる。
先の事も考えず、一瞬の好奇心でつくってしまった受精卵、孵ってしまってから慌てたのでは遅すぎる!こんなことになるなんて!
私はなんてことをしてしまったんだ!

私にはどうすることもできなかった。
ハンギョが苦しんでいる姿をもう見たくはなかった。
私は最期にハンギョを手のひらで抱きしめた。
生んでしまってごめんね、ごめんね、ごめんね、、
そしてそのまま、、、、、、、、、、、  、  、   、    。

私は目を覚ました。朝だった。
あわてて机の中のシャーレを見た。
白く濁った水の中にイクラがあるだけだった。
よかった、まだ孵っていない。
私は心の底から安堵した。あれは夢だった。私は半人殺しじゃない。

私はシャーレを持ってトイレに駆け込み、そっと卵を流した。
さよなら、ハンギョ、、、

、、、あれから10年経った。

だけど私は今になって思う。
もしかしたら、トイレに流した「受精卵」がどこかで孵ったりしていないだろうか。
そしていつの日か、私の顔した半魚人が私に会いに来るんじゃないか、、、と。