何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

売っての幸せが織りなす金銀

2016-04-26 20:44:33 | ニュース
「みをつくし料理帖シリーズ」高田郁氏に出会って以来、「銀二貫」 「あい 永遠に在り」など出版されるたびに読んでいて、気がつけば長い付き合いだが、ワンコとの別れで打ちひしがれている私を慰めてくれたのも「蓮花の契り 出世花」だった。(参照、「庭の草木の契り」

そんな高田氏の本だが買って読んだものは実は少ない。
書棚に入りきらぬ本が床に並べられている状態なので、よほどのことがない限り図書館や本仲間から借りて読むしかないのだが、高田氏の最新作「あきない世傳 金と銀」を自分で購入したくなったのは、本書が描く時代や世情が意外なほどに現代と似通っているからかもしれない。

本書には 『昔、元禄の頃には阿呆みたいに物が売れて、桁外れの豪商がぞろぞろ現れた、て聞いてる。けど享保になった途端「贅沢はあかん」いわれて~略~商いかて、さっぱりわやや』と嘆く場面があるが、この物語は物がさっぱり売れない享保期の話で、それはバブルのあと長い長い不況に悩まされる現在に通じるものがある。
また、本書の主人公・幸が9歳で女衆として奉公に出されるのは、学者である父と秀才の誉れ高い兄を相次いで亡くし困窮したからだが、不作と疫病で食い詰めた農家の子らが奉公先をもとめて浪速の街を右往左往するあたりは、「日本の子供の貧困率は先進国の中で最悪レベルにある」という現在を思せる。
更には、享保の時代は女子には読み書きすら不要と云われていたようだが、現代でも「女は子供を産む機械」と言う大臣や「女性に数学は不要」と言い放った知事もいるあたり、進歩のなさに呆れかえる。が、その享保の時代に、七夕の短冊に「知恵が欲しい」と書く7歳の少女幸が、知恵を生きる力にかえ道を切り拓いてゆく物語の幕開けは、現在の世情と相俟ってこれからの展開を大いに期待させるものである。  「洗濯ものの向こうに透けて見える偏見」

大いに気に入った物語なので印象的な言葉や場面も多く、それは又いずれ記したいが、今日耳にしたニュースの教訓として今是非とも記しておきたい言葉がある。

<25年前から規定無視=目標燃費、上方修正繰り返す―三菱自> 時事通信 4月26日(火)17時50分配信一部引用
三菱自動車は26日、燃費不正問題に関する社内調査の状況を国土交通省に報告し、公表した。国の規定と異なる方法で燃費試験データを収集するルール無視を、25年前の1991年から行っていたことを明らかにした。対象車種は「調査中」と説明したが、数十車種に上る可能性がある。
20日に不正を認めた軽自動車4車種については、燃費の最も良いタイプの開発目標燃費を、社長以下の役員が出席する会議で繰り返し上方修正していたことも明らかにした。
三菱自の説明によると、軽4車種では燃費試験データを道路運送車両法の規定と異なる方法で測定した上、意図的に有利な数値を抽出して国に提出していた。

昨年フォルクスワーゲンの問題が世界を揺るがした時、同様のケースはどこにでもあるのではないかと感じたが、まさか日本からでてくるとは思いたくなかった。企業の営業に関わることでもあるし、事実関係をすべて知っているわけでもないので、この件についてこれ以上書くつもりはないが、「あきない世傳 金と銀」には商いの裏表の面と、だからこそ肝に銘じねばならない心構えが記されている。

主人公・幸の父は私塾で教える学者だが元は侍の出で、商いを汚らわしいと考え、『商いとは、即ち詐(いつわり)なのだ』『商人などという輩と、決して深く関わってはならない』と子らにも戒めるが、この父に対して兄は『治世を語るうえでも、金銀を抜きには語れない時代が来る。またそうでなければ、この国は危うい』という理由から『商いを貶めて良いものではない』と云う。

二人の相反する教えを胸に、大阪は天満の呉服商「五鈴屋」に奉公にでた幸は、そこで大番頭の治兵衛から商いの心得を教えられる。
「商いとは詐」と評されることを知る治兵衛は「商売往来」(堀流水軒)が説く心得を幸の前で諳んじる。
『挨拶、應答、饗應、柔和たるべし。
 大いに高利を貪り、人の目を掠め、天の罪を蒙らば、重ねて問い来るひと稀なるべし。
 天道の働きを恐るる輩は、終に富貴、繁盛、子孫栄花の瑞相なり。倍々利潤、疑い無し。よって件の如し』
商いの何たるかを理解しつつある幸に、更に語る。
『「ただ金銀が町人の氏系図になるぞかし」て、井原西鶴いわはる人の言葉や。お公家さんやお武家さんと違て、私らに家柄も家計もおまへん。確かに金銀だけが氏系図になるんだすが、天から与えられた美しい色を欲得づくで汚さんよう、精進してこその商人出すなぁ』

治兵衛の心得が必要なのは、フォルクスワーゲンだけでも三菱自動車だけでもないはずだ。
妖怪金ゴンが跋扈する世の中なので、事の大小はともかく、商いに携わる誰もが心せねばならない戒めだと思っている。
「国民車から世界の環境車へ」

・・・・・本書の印象的な場面については、又つづく