検証・電力システムに関する改革方針

「自然エネルギーですべての電力をまかなう町」の第2部です。

オーストリア・ギュッシングへ  連載小説156

2012年11月17日 | 第2部-小説
  オーストリア・ギュッシングへいくことになった。メンバーは将太と公平の他、占部林業の貝田と「町おこしたい」のメンバー竹下だった。
 成田航空からオーストリア・ウインまで約12時間、ロシアのシベア大陸をとおっていく。初冬のシベリア大陸はどんな景観なのか。初めて飛ぶ、シベリア大陸に将太は興味しんしんだった。時差の関係で飛行中、空は明るい。機内のモニターが飛行機が飛んでいる位置を表示していた。日本海を横切り、モンゴル上空をかすめ、シベリア大陸の上空を飛ぶ。快晴の天気だったので下界がよくみえる。

 今、シベリア大陸は地球温暖化の影響で永久凍土が溶け、ツンドラ地帯に湖沼が大量にできている。はたして眼下に豹の斑点のように無数に白く光る光景が現れた。白く光るのは水面が凍結して氷を張り、その上に雪が積もっているのだと思う。これが永久凍土が溶けて出来た湖沼なのか。地球温暖化の影響はすさまじい勢いで地球の様子を変化させているのを実感した。

その時、くねくねと大きく蛇行する大河が目に飛び込んできた。飛行高度からみて蛇行するその川は利根川の比ではない大きさだと思う。白く輝いて浮かびあがっていた。おそらく凍結しているのだ。ここで放射冷却が積み重なって寒気が成長し、やがて日本に押し寄せると日本は冬型の西高東低の気圧配置になり、真冬の到来だ。その頃、眼下の景色は白一色になっているのだろうと想像した。

公平の退職 連載小説155

2012年11月16日 | 第2部-小説
 手打ち式があった1週間前、公平は会社に退職届を出していた。会社はベトナム移転に先立って、早期退職を全社員に呼びかけていたので会社の方はその呼びかけに応じての退職と受けて、淡々と処理した。自分の退職が事務的に処理されるのを見て、公平は自分のこれまでの人生は何だったのか。会社にかけてきた情熱がシャボン玉がはじけたように消えるセンチメンタルな感情に襲われた。
 会社というのはなんと残酷なことをするのか。やはり日本という国はおかしくなっている。どこでおかしくなったのか。そんなことはこれまで考えたことがなかった。

 だがよくよく考えると政治に無関心できた自分にも責任があるように思う。その自分が占部町の町長選に出ようとしている。なんとも摩訶不思議な進展に公平は苦笑した。
 ただこの先はこれまでのようなことでは済まないだろう。とにかく勉強する。かたっぱしから勉強するなかで一つの方向が見えてくるだろう。そう思うと会社の思い出はたちまちに消えていった。
 そして、この街の風景とも縁がなくなるのだと思った。

事態急変、対立候補が立候補断念 連載小説154

2012年11月15日 | 第2部-小説
 公平からギッシング町行きの連絡が入ったその日の夜、再び公平から電話が入った。
「肥田さんが立候補を断念されました」
「本当ですか」
「本当です」
「明日、手打ちをすることになりました。

 その日、占部町一番の仕出し屋に、町の有志が集まった。昨日までの敵対関係はウソのようにだれもが和気藹々に言葉を交わし、世間話に花を咲かせていた。
JAや商工会、森林組合の代表者にまじって町の有力者が一堂に会していた。と、町長といっしょに1人の男が現れた。宴会場に「オッ」とどよめきが起こった。男は県のドンといわれている本郷金吾だった。本郷ほどの人物が占部町のちっぽけな町に現れるのは国政選挙でもなかった。
 町長と本郷金吾はどういう関係なのか。みんなの関心はそこに集まったようだ。

 2人が正面の席に座ると、商工会会長がすくっと立ち上がって司会を務め、本郷が紹介されてあいさつにたった。
「今日は、この占部町の発展のため、町の有力な方々が一堂に会したことに心からお祝いをさせてもらいます。町の発展はなんといつても絆であります。志を1つにして邁進すれば大変、きびしい環境ではありますが乗り越え、突破できる。わたしたちの先祖は不撓不屈の精神で乗り越えてきた。幸いこの町に新しい世代の方が町を思い、決意をされた。その決意に敬意を表し、一致団結してあたればたいがいの問題は解決できるでしょ」

 と本郷は、町長選挙で激突が予想された大滝町長と肥田議長の顔を見やりながらいった。大滝町長はうなずき、肥田議長は大きな体を小さくして頭を下げた。占部町では傲慢ともいえる振る舞いをしてきた男とは別人だった。
 どうしてこうも態度を変えることができるのか。だがいったい何があったのか。


エネルギー自給率100%の町・ギュッシング  連載小説153

2012年11月14日 | 第2部-小説
  自宅に戻ると待ちかねたように将太の携帯がなった。公平からだった。
「来月、初旬から10日間、時間とれますか」
 公平は用件をいわずいきなり将太の都合をきいた。
「予定はないですが、何か急用でも・・・・」
「オーストリア、ドイツの件です」
「視察の件、まとまりましたか?」
「ええ、友人から連絡があり、来月、大丈夫だそうです」
「そうか、それは良かった。じゃすぐ飛行機の手配をしなくちゃ」
「それは私の方でまとめて手配します。じゃ、すすめますから」

 公平は用件を確認すると電話を切った。忙しいようだ。
 将太は公平と占部林業の貝田に森林・林業に着目して地域暖房やバイオガス化で発電と合成燃料を作り出して地域の熱と電気の需要を100%達成しているというオーストリア・ギュッシング町に視察に行こうと提案していた。
 公平の友人がオーストリア・ウインにいることがわかり、手配を頼むことになった。
その返事が届いたのだ。

 将太はこれまでに国内の再生可能エネルギーの先進的な取り組みを調べ、これはと思うところには現地を訪問して見てきた。素晴らしい取り組みはあったが町・村全体として電気・熱を自給自足しているところはなかった。
 ところがオーストリア・ギュッシング町は正真正銘、100%を達成しているという。それも10年以上も前に達成していたのだ。

安心・安全なエネルギー供給に貢献  連載小説152

2012年11月13日 | 第2部-小説
 福島第一原発が水素爆発した時の対応を振り返って見ると国民・住民軽視が際立ったと思う。
原発の20キロ圏内からの避難について「政府の指示通りに避難したのに、結局、放射線濃度が高い場所に行き着いた」
 その指示が間違ったものであることは、政府機関のいろいろな人間が認識していた。その一番は文部科学省が運用しているSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)だ。また国交省関係では気象庁は風向など大気の変化を気象衛星などの測定器を24時間運用してリアルタイムで掌握している。

 さらに内閣府・内閣衛星情報センターが運用する情報収集衛星も打ち上げて地上の情報を詳細に把握している。これらの機関が福島原発事故と避難にまったく機能しなかったのは信じられないことだ。

 結局、国機関の関心は国民の安心・安全の確保にあるのでなく、指示・命令の関係だけで動いているだけだということになる。そしてその後は自己弁護に終始し、当時の対応の不手際・不備にだれ一人責任を取っていない。あれだけの災害、人災といわれる災害を起こしてだれ一人責任を取らない国のありようを見せられると、この先、とても安心できないではないか。

  原子力発電の安全神話はウソだったことがわかった。だから将太は、町おこしプランでは安心・安全なエネルギー供給に貢献するとした。日本は世界で有数の自然豊かな国だ。この自然資源を生かしたエネルギーづくりは地域を活性化することにつながっている。この考えをひとりでも多くの人と共有できるようにする。そのテンポをもっと引き上げる必要がある。どうするか。将太は車を運転しながらずっと考えた。

敷地に山積みされた樹皮  連載小説151

2012年11月12日 | 第2部-小説
  将太には気になることがあった。山の木はどうなっているのか。航空機モニタリングでは一帯は放射能汚染されている。当然、山の樹木も汚染されている。林業はどうなっているのか。車を走らせていると木材加工場のそばを通った。原木の丸太が積まれ、その隣にスレート葺きの加工場があった。占部林業の貝田の加工場より大きいと思った。

  そして車が敷地を抜けようとした時、敷地の奥に、屋根の高さほど積みあげた樹皮が目に入った。樹皮は堆肥やペレットなどに利用するので加工場でこれほど積み上げることはない。その光景を写真に撮ると事務所をたずねた。

 ドアを開けると女性職員が1人いた。
「ごめんください。少しおたずねします」
「はい、なんでしょ」
 女性は席に座ったまま、にこやかに応対した。
「工場にバークが積まれていますがあれはどうしてですか」
 単刀直入な将太の質問に女性職員は表情を変え「どちら様でしょうか」と質問した。
「ドライブにきた通りがかりの者ですがふと目に止まったものですから」
「それでどのような目的ですか」
「目的といわれると、何かあってではなく、バークが積み上げられているのは珍しいので・・・」
「いま、所長がいません。午後には戻ると思いますのでもう一度、お越しいただけますか」

  将太はドライブの途中だからもう一度、戻ることはないのでというと木材工場を後にした。女性職員は自分の質問に警戒し、防衛本能で追い返したようだと思った。
自宅に帰ってから占部林業の貝田に電話した。貝田は「あそこは放射能の除染地域になっているからバークは移動禁止になっているようです」とあっさり説明した。

 やはりそうだったのか。あの女性職員は放射能汚染でピリピリしていたのだ。おそらく売上にも影響しているに違いない。移動禁止がいつまで続くのか。どこで処分するのか。放射能の除染問題、汚染物質の処分方法と最終処分地はいまだに決まっていない。被害は福島だけでない。250キロメートル離れた場所でも発生し、いつ終息するのか分からないのは関係者にとって大変なことだと思う。

遊具が高濃度汚染されていた  連載小説150

2012年11月10日 | 第2部-小説
   文部科学省の航空機モニタリングによる線量調査で福島原発から250キロメートル以上離れた関東も放射能汚染されていることが明らかになった。将太はその汚染の実態を知りたいと思った。そう思ったのは汚染は均一でなくふぞろい、マチマチであり、場所により数値が違うからだ。それは降雨を見ると理解できる。雨は面的に一様に降るのではない。雲により、強く降るところと晴れているところがある。放射能汚染はその影響を受ける。汚染実態、特徴を知るには測定するのが早い。

 将太が測定した場所は群馬県。文部科学省のモニタリングでは汚染数値は低い場所だった。市街地を測定した。数値はおおむね0.1マイクロシーベルトだった。思ったより低いと思った。次に山に向かった。そこはキャンプ場にもなつている。測定を場所を変えて実施した。0.2マイクロシーベルトになった。市街地よりも高い。さらに場所を変え、遊具の手すりに測定器を置いてスイッチを入れた。ピ、ピ、ピと音が鳴り響いた。警戒音だ。数値は0.3マイクロシーベルトを示していた。

 文部科学省の数値を超える汚染だった。自分が住む場所、生活する場所がどうなっているのか実測して正確に知る。行政は知らせることが必要だ。将太が測定した場所の自治体は数値が高い場所の除染をしていた。表土を剝ぎ、地中を掘り下げて汚染度を埋めてきれいにする。保育所や学校の給食食材はすべて検査して「不検出」を確認している。この取り組みが延々とつづく。それが放射能汚染の恐ろしさだった。

原発事故は終息していない 連載小説149

2012年11月09日 | 第2部-小説
  福島第一原発の原子炉が次々と水素爆発してすでに1年半が過ぎている。しかし事故は終わっていない。今、放射能を大気に放出し続けているし、冷却水が消えている。それは地中に漏れているからだ。そして内部の様子はいまだに分からない。
 この先、どうなるのかだれも分からない。そして重要なことは住み慣れた我が家に帰れない人が沢山いること。家や土地が汚染されて仕事ができない人がいる。

  それは警戒区域だけではない。放射能汚染は福島だけでなく、宮城、岩手のほか、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川に及んでいる。将太が住む埼玉で最近、鹿肉がセシウムに高濃度汚染されていることが分かり、販売禁止になった。鹿肉料理で生計を立てている人がいる。鹿肉が売れないとなると猟師は鹿を仕留めないだろう。売れない鹿を撃っては弾代がもったいない。その結果、鹿は繁殖して山は荒れるに違いない。畑の作物も食い荒らされ、農業が成り立たなくなるだろう。台風は通過すれば収まる。

  しかし放射能汚染が数十年単位で続く。福島第一原発事故の被害は今どうなっているのだろう。将太は放射線測定器をもって福島から200キロメートル離れた関東の山間地に向かった。

半径で線引きは非科学的 連載小説148

2012年11月08日 | 第2部-小説
  図は145回でも使った文部科学省が公表した福島第一原発周辺の放射線量の積算線量、水素爆発から2012年1月まで航空機モニタリングによる放射線量です。再度の使用で申し訳ありませんがこの飛散はしっかり理解することが大切。

 風と地形の影響を受けた放射能は福島第一原発から北西方向に流れ、高濃度汚染は30キロメートルを超えています。この測定で分かる通り、汚染は円形に均等に及ぶのではない。これは気象を少し知っていれば常識的な知識だ。にもかかわらず政府は半径20kmから30kmという具合に機械的に避難指示を出し、立ち入り制限をしている。これも住民生活を大きく侵害しているといえます。

 やはり実測をして守るべき人はしっかり守り、避難するほどでないのであればしっかり根拠を説明して生活を守るようにしなければいけないです。半径で被害を線引きするのは非科学的であり、風向と地形によって汚染範囲は変化するということ。

 しかも冬は西風が吹くが低気圧と前線がある場合、風向は違います。気象状況によって被害地域はまったく違う。そう考えると原発は始末に負えない代物だということが簡単に理解できます。

 2012年夏、電力は関西を除いてすべての原発が停止した中で需要をまかなった。原発は再稼動させなくても大丈夫を証明した。その実績に立てば原発は廃炉にしても困ることはありません。

国の原発事故対応が見せたもの 連載小説147

2012年11月07日 | 第2部-小説
   図は文部科学省が管理・運用としているSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)がとらえた福島第一原発の水素爆発による放射能の拡散情報だ。放射能は図の通りに拡散した。ところがこの情報はまつたく生かされず政府は福島第一原発から半径20kmを避難区域に指定。住民は指示にしたがって避難した。ところが避難したところは高濃度汚染地域だった。

 2012年10月16日、国際赤十字(本部ジュネーブ)は「世界災害報告書2012」を公表。この中で東京電力の福島第一原発の事故を、「科学技術の事故によって(住民が)移住させられた、人道危機だ」と位置づけた。だが日本政府と関係者にこのような真摯な反省の言葉は聞こえてこない。
 また気象庁も放射能拡散の情報を持っていた。だがこの拡散情報を住民避難に役立てる意識はゼロだった。さらに国は情報収集衛星も保有しているがこの衛星の情報が対策に生かされた報道はいっさいない。情報衛星は導入以来8200億円が投入されてきた。情報収集衛星は「大規模災害対応」をも目的にして開発・運用しているがその映像が東北大震災、福島第一原発事故対策に生かされた形跡がないのは許されないことだと思う。

 いま振り返ってみると国は住民・国民を守るために必死になったとは到底思えないと将太は思う。そしてこの体質は今後、改まるとも到底思えない。この国は国民の命を軽くみている。それは会社に天下ってきた経済産業省の元官僚・野本ともダブるのだった。社員と協力会社を簡単に整理・解雇してベトナムに移転する。すべては会社のためというが会社はだれのためにあるのか。社員と家族を幸せにして共に生きる。その考えを喪失して海外移転に走る会社と原発再稼動を主張する声は人間を軽んじていると将太は思う。