羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

アルスラーン戦記 1

2015-05-13 20:36:48 | 日記
「エクバターナの奴隷の数は貴族や神官より多い、不味いな」隠れ家の洞穴でダリューンは呟いた。「奴隷達が一斉に反旗を翻せば、堅牢なエクバターナと言えども長くは持ちません」「ならば、早くエクバターナに行かねば!」ナルサスの言葉に立ち上がるアルスラーン。「抑えて下さい殿下、我々4人だけではエクバターナを救う力にはなりません。このようなことになる前に父王陛下は奴隷を解放すべきだったのです」やや飛躍するナルサスだったが、素直なアルスラーンは思案し、強く拳を握った。
「立ち上がれ奴隷達!」前回からやや時が戻り暴動前、ルシタニア兵はエクバターナの城壁の外から城内の奴隷に延々と呼び掛けた。万騎長サームとガルシャースフは渋面でそれを見ていた。また、ルシタニア軍は城壁の前にパルス軍の将達の首を晒していた。万騎長(マルズバーン)マヌーチュルク、ハイル、そしてヴァフリーズの首。「おのれ、ルシタニアめッ!」ガルシャースフは憎悪を募らせた!
「まさか、陛下も?」サームとガルシャースフは王宮のタハミーネに報せに参じた。「いえ、陛下の御首は晒されておりません」「ああ」タハミーネは顔を抑えて座に腰を落とした。侍女達が気遣う。「報告、御苦労でした。下がってよいです」サームとガルシャースフは礼をして、王妃の間を退出したがサームは腑に落ちなかった。「王妃様はアルスラーン殿下のことは御聞きにならんのだな」「それだけ、気が動転しておられるのだろう」ガルシャースフはそこまで引っ掛からなかったようだ。「サーム! やはり城門を開いて撃って出るべきだ。何の為の騎兵だ」武人のガルシャースフは王宮回り云々より本能的な『勝機』について言い出した。「焦るな。ペシャワール(キシュワードのいる東方の国境にある要塞)からの援軍を待って挟み撃ちにすれば、損害も少なく、勝負は着く」
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アルスラーン戦記 2

2015-05-13 20:36:41 | 日記
もう『損害』に配慮する段階は過ぎているが、サームは戦略上のセオリーに従い、ガルシャースフを諌めた。「しかし」ガルシャースフは反論しようとしたが、城外からのルシタニア兵達の『説得』が再び始まり、議論は中断された。手近な奴隷達が聞き入るような素振りを見せている。「ええい! 散れッ!! 敵の妄言を聞くな!!」苛立ったガルシャースフは奴隷達に迫り、駱駝の首も落とせそうな鉈のような剣を抜いて追い散らした。
「ガルシャースフ! 止めろ! 力ずくで抑え付けてはいかん」「ふぅぬぅッ!」収まり着かないガルシャースフ。剣は納めつつ、「やはり即戦即決だ。サーム! 奴隷どもめッ。いつ何をやらかすか、わかったものではない」「慌てるな。今は援軍を待て」「援軍等、いつ来る?! アトロパトテネの敗報から兵を整え、遠路昼夜駆け付けたとして、何日掛かる?!」ガルシャースフに反論する言葉に詰まるサーム。そこへ馬に乗った兵が報せに来た! 奴隷達が神殿に火を放った!! 更に西の城門を開けようとしている!
神殿が炎上する中、奴隷達は西の城門に迫っていた!!「自由だ、自由を手に入れるんだ!!」奴隷達は棒切れ等を手に殺到していた。パルス兵達は対応に苦戦していた。「どけぇ! 貴様等ぁッ!!」兵を従え、騎乗のガルシャースフが剣を手に突貫してきた!「うわぁッ!」「がぁッ!」文字通り蹴散らされ斬り捨てられる奴隷達!「卑しい奴等めッ! 門に近付く者は首を叩き落とすぞ!」ガルシャースフを睨む奴隷達。サームも遅れてきた。「ガルシャースフ、奴隷を殺して自慢になるのか?」「奴等は奴隷ではない! 謀反人だ!!」「棒切れしか持たぬ者がか?」「心に剣を持っておったわ!」サームとガルシャースフは互いに視線をぶつけた。「見ろ、ガルシャースフ。お主は10人の謀反人を殺したが、
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アルスラーン戦記 3

2015-05-13 20:36:31 | 日記
替わりに1000人の謀反人を生むことになるぞ」同じ場から遅れて来て、対案も無く武官のガルシャースフに説教する同じ『武官』のサーム! 奴隷達は一旦は去って行ったが謀反は収まらず、城内のあちこちで乱は起きた! 平民達の奴隷達への不信が募った。「何考えてやがるんだ?」「牢屋にブチ込んじまえばいいんだ!」「それでは仕事が回らん」「奴等は危険だ」そんな平民の多くを、奴隷達は殺戮した!! 罪を犯した奴隷の数は多過ぎ、大半は処刑もされず牢へ押し込められ、奴隷はそこで更に反意を強めていった!
「もはや、奴隷達を力で押さえ付けることは不可能です」サームは単独でタハミーネに謁見していた。「なぜです? 奴隷はまともに武器を持たぬのに」遠過ぎて計りかねるタハミーネ。「反乱を起こす者の数が余りにも多過ぎるのです」サームは現状打開の為、奴隷の待遇改善をすることを王妃が布告することを提案した。まだ奴隷を懐柔できると思っているサーム。「そんなことをすればパルスの社会制度が揺らぎます」「敵はその社会制度そのモノを利用してきているのです!」声を荒げるサーム。「考えておきましょう」一旦対話に乗ったタハミーネだったが、引いてしまった。「恐れ入ります」サームはそれ以上交渉できなかった。
ギーヴは宮殿の窓辺で林檎片手に反乱の黒煙があちこちで上がるエクバターナの城下を眺めていた。「そろそろ、御暇した方が良さそうだな」そんなギーヴに宰相のフスラブから声が掛かった。冷々とした顔で林檎をかじるギーヴ。「そなた、弓だけでなく才知も優れていると見たが、どうかな?」宮殿の外れの楼閣でギーヴはフスラブと対面していた。フスラブは痩せた、小柄な、目のギョロついた老人だった。「子供の頃から散々そう言われておりました。宰相閣下」平然と答えるギーヴ。「では、その才知を
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アルスラーン戦記 4

2015-05-13 20:36:21 | 日記
見込んでのことじゃが、一つ頼まれてくれんか?」フスラブはむしろにこやかに頼んできた。ギーヴはフスラブの後ろに不自然に掛かった幕に目をやった。(幕の後ろに剣と甲冑の気配、面倒だな)「正当な理由と報酬、それと成功の可能性が有ればお引き受けします」こちらもにこやかに、ギーヴは答えた。「理由はパルス王国の存続、ひとえにその為じゃ。報酬は存分につかわそう、お主には秘密の通路を通り、王妃様を城外の安全な場所へお連れしてもらいたいのだ」フスラブとギーヴは作り笑いは止めていた。
夜、ルシタニア軍が城壁に無数の火矢を撃ち込む等する中、ギーヴは顔を隠した王妃らしき者を王宮の地下水路から逃そうとしていた。「足元が滑ります、お気をつけ下さい」王妃らしき者は答えない。ギーヴはランプを手に進んだ。(王も居らぬ、王妃も居らぬで、何が王都だ。しかもエクバターナ百万の民を捨て置くとは、やれやれ、どこぞにまともな王は居らぬのか)ギーヴは胸中で皮肉に呟いた。
アルスラーンは件の洞穴で剣を抜き、刀身に自分の顔を映していた。ダリューンもうんざりし始めていた。「いつまでここに留まっているつもりだ?」「お前にも戦術の講義が必要か?」ナルサスはいなした。「いかにお前が優れた兵でも、単騎でルシタニア軍に勝つこと等できぬ」「エクバターナの兵と合流できれば」「無理だな」ナルサスは盤上遊戯の駒を触り出した。「敵は奴隷とルシタニア軍、合わせて数十万人。城内に残った兵だけでは数が少な過ぎる。みすみす殿下を危険に晒すつもりか? しかし、軍に勝つことはできずとも、将を討つことはできる」駒の中から一つ摘まんで見せるナルサス。「今、我々が相手取るべきはカーラーンだ。今のところ奴はエクバターナの攻城に掛かり切りだ。だがその後は、必ず殿下を狙って動く。それも比較的少数で」「なぜわかる?」
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アルスラーン戦記 5

2015-05-13 20:36:10 | 日記
「奴は元々パルスの将だ。信頼を得ているとは思えん。我々の勝負時は、カーラーンが突出して動いた時だ」ナルサスは先程摘まんだ駒に色違いの駒を当てた。「奴を捕らえれば戦力を削れる上に、裏の事情を知ることができる」「カーラーンが来るまで待っていろと言うのか?」「大局の為に感情を抑えることが重要だ」場合によって国を捨てていたナルサスとダリューンでは、その感情が違っていた。
「疲れたでしょう」ギーヴは水路で、手を引いていた王妃らしき者を振り返った。「無理しない方がいい」黙っていた王妃らしき者は驚いて顔を上げた。「王妃様の振る舞いをするだけでも大変なのだから」その者はギーヴの手を振りほどいた。「なぜわかったのです?」「匂いで、アンタと王妃様では肌の匂いが違う。同じ香水を使っても。アンタが身代わりになって、その間に嘘つきの王妃様を逃がす。そういう段取りだろ? 身分の高い人とはそういう者だ。他人は自分の為に奉仕し、犠牲になるのは当然と思っている。いい気なもんさ」
「王妃様を誹謗するのは許しませんぞ!」身代わりの女は怒った。「王妃様や宰相様の御考えがどうであろうと、私は自分の役目を果たすだけのこと!」「そういうのを、奴隷根性って言うのさ」「ならば、これ以上、私を連れては行けぬと?」「俺が引き受けたのは王妃の護衛だ。王妃に化けた官女の護衛じゃあ」と言い終わらぬ内に、官女は短剣を抜き、ギーヴに切り掛かってきた!「おっとぉ、まあ待て」半笑いで対応するギーヴ。「それでもお主はぁ、そこそこの美人だから、送り届けてやらんでも」官女は減らず口のギーヴに金的蹴りを放った!「おふぅッ」体勢を崩すギーヴ。官女は水路の先へ一人で駆けて行ってしまった。
一人で駆けた官女は狭い水路を抜け、大きな水路へ出た。「はぁ、はぁ」呼吸を整える官女だったが、
     6へ続く