羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

アルスラーン戦記 1

2015-05-20 21:11:42 | 日記
死屍累々のエクバターナの城内。「おい、貴様! タハミーネはどこにおる?」役人の口の中に剣を差し込み恫喝するルシタニア兵がいた。「んん? ああッ? 何言ってるかわからんなぁッ!」ルシタニア兵はそのまま剣で口を刺し貫いた。「通路の死体を片付けろ!!」将兵らしいルシタニア兵が号令した。「ルシタニア国王、イノケンティス7世陛下の御入城であるぞォッ!!」兵は即座に死体を片し、血塗れの通路に槍を携え整列した。そこへ輿に担がれ、ルシタニアの旗を持った兵を従えた、肉塊のように肥え太った男が現れた。「ふぁわあぁ」欠伸をする肉塊。輿が血臭漂う通路を進むと、肉塊は手巾を鼻に当てた。「臭い」顔をしかめる肉塊、イノケンティス7世であった。
生き残りへの粛清と、王妃の捜索が続く城内を銀仮面は歩いていた。「ここまでは、予定通り」豪奢な飾り壺の影に現れた銀仮面とはまた違った面を付けた異様な男が語り掛けた。「ああ、餌を与えられた豚はよく踊るものだな。今の勝利を傲るがよいッ」銀仮面が壺の前を過ぎると異様な男は消えていた。「ルシタニアの蛮人供がッ!」銀仮面は吐き捨て、死体の転がる城内を進んで行ったが、床の血溜まりに足を止めた。銀仮面は何かに感付いた様子だった。
経緯は不明だが、王妃タハミーネは銀仮面に捕らえられた。「やはりあの男、心から我がルシタニアに尽くしているのだろうか?」仮の? 玉座の間でルシタニアの将軍ボードワンは同じく将軍、モンフェラードに呟いた。「どうかな? どうにも、あの仮面の下の目が不気味でな。俺は好かんよ」モンフェラードは眉をひそめた。タハミーネが玉座の間へ連れられてきた。「あれがタハミーネか」美貌に驚くボードワン。事情通のモンフェラードによるとタハミーネは最初はバダフシャーン国宰相の婚約者だった。だが、公王カユーマルスに奪われ、
     2に続く

アルスラーン戦記 2

2015-05-20 21:11:34 | 日記
宰相は自殺。カユーマルスも存命だったパルスの王オスロエスの進行に恐れ、自殺。後、オスロエスとその弟アンドラゴラスはタハミーネをめぐり反目し、オスロエスは不可解に『病死』し、アンドラゴラスは王位とタハミーネを手に入れていた。「関わった男をことごとく不幸にする女、不気味なあやかしか」面白がる風なボードワン。「だが、その妖力も今日までだ」軽口に乗るモンフェラード。「陛下が異教徒に手心を加えることは無い。あの女、どのような死を与えられるのか」笑みを浮かべるモンフェラード。敵国の王族には容赦しないようだ。「んん?」居眠りしていたようなイノケンティスは槍の柄で顔を上げられたタハミーネの顔を見た。目を見開くイノケンティス!「ん~、ポッ!」弛んだ両頬に手を当てときめくイノケンティス!! 玉座の間の家臣達は唖然とした!
「ギスカール様ぁッ!!! いずこにおわしますか?!」ルシタニアの将兵がギスカールの元へ駆けてきた。「騒々しい。何事だ?」ギスカールは中庭で、集められた宝物の検分をしていた。「陛下が、無理難題を仰って! 皆、困っています」「兄者が? またかぁ。どうせロクでもないことであろう」検分作業の手を止めないギスカール。「ギスカール様から頂けませぬか?」「やらねばならぬことで一杯なんだ。各隊! 武器装備の確認をしておけ、いつパルスの残党供が来るかわからんぞ! で、なんだ?」「陛下が、タハミーネを妃にすると言って聞かないのです!」ギスカールは書き物をしていた羽筆を手折った。「ああッ?」憤怒の顔でギスカールは振り返った。
輿に担がれたまま、イノケンティスはパルスの宝物庫を見物していた。「へぇ、これは見事だぁ」無邪気なイノケンティス。「兄者ぁッ!!」ギスカールが駆けて来た。「なんじゃ? ギスカール」「パルスの、王妃をめとりたいとか?」
     3に続く

アルスラーン戦記 3

2015-05-20 21:11:27 | 日記
「んん、皆が反対するのじゃあ。お主、 説得してくれぇ」ため息をつくギスカール。「兄者、あの女に関わった男供の無惨な末路を御知りですか? 余りに不吉ですぞ」「その男供は全て異教徒ではないかぁ。あるいは、神が、彼女に試練を授けたもうたのかもしれぬ」唖然とするギスカール。「敬虔なるイアルダボート教徒の妻になることこそ、彼女の運命かも知れぬ」「兄者」続ける言葉も無いギスカール。「その方等」宝物に魅入られたルシタニア兵達に声を掛け出すイノケンティス。「此度の勝利は神の御力によるものじゃ。全て神に捧げるゆえ、決して手を付けてはならない。この宝物庫の管理は全てボダン大司祭に任せる」「なんですと?!」「神への信仰こそが、我等信徒の勤めよ。あ~あ、疲れた。ではな」イノケンティスは輿を出させた。「兄者!」「砂糖水が飲みたい」イノケンティスは行ってしまった。「ボダンに全てだと?!」ルシタニア兵達は忌々しげな態度を隠さなかった。ギスカールは歯を食い縛っていた。
「兄者にあの女の子等できたらと考えるだけで、胃が捻切れるわッ!」自室に戻り、で机を叩くギスカール。「そのようにはなりません」銀仮面が部屋の暗がりから現れた。「お主か」「今日まで兵を率い、ルシタニアを勝利に導いた者は誰か? 真に王の器足る者が誰か? それは、臣下の誰もが知るところ。だが、物事には機というものがございます。今は耐えられよ、王弟陛下」「そうだな。そう言えばアトロパテネの開戦の折りは、お主の策に助けられた」「恐れ入ります」椅子へ座るギスカール。「しかしあの霧、魔導師の技によるものだと噂する者もいるが?」「イアルダボート神の御加護にございますよ」銀仮面は退出して行った。ギスカールは鋭い顔でそれを見送っていた。
エクバターナ城下では、ある程度以前の活気を
     4に続く

アルスラーン戦記 4

2015-05-20 21:11:19 | 日記
取り戻したようではあったが、乱暴狼藉を働くルシタニア兵も少なくなかった。「ルシタニア兵めッ、調子に乗りやがって」キリンの見世物小屋の黒人達はうんざりしていた。「少しでも奴等の機嫌を損ねたら殺されるぞ?」「フンッ、商売にならねぇ!」その近くをパルス兵の隊が通り掛かった。「ん? パルス兵だ、どうして?」「あれは裏切り者のカーラーン隊だろう。アトロパテネで敵に寝返った卑怯者だ」カーラーンは隊を率いていた。隊のすぐ側で「ありがとう」何か聞いて回る若いルシタニア兵がいた。「あれは」若い兵は、見世物小屋のキリンを見付けた。「おい!」小屋の黒人に話し掛ける若いルシタニア兵。「はい、なんでしょう? うちは見世物小屋なので差し上げる物は何も」「そうではない。お主等、昔からここにおる者だな。ルシタニア人の奴隷を知らないか?」「はあ?」「3年前、ここに連れられてこられて奴隷にされたルシタニア兵を探している」かつて、アルスラーンを人質に取ってエクバターナを駆け回り、逃げ出すことに成功したルシタニアの少年?兵だった。
「あれ程、心して当たれと言ったではないか! 役立たず供めがッ!」「申し訳ありません!」自室で、おめおめ戻ってきた、ナルサスの館に向かったが撃退された家臣に怒りをぶつけるカーラーン。「下がれ!」カーラーンは家臣を退出させた。「ナルサスとやらに手玉に取られたようだな」銀仮面が現れた。城内を徘徊しているらしい。「手緩いのではないか?」「まことに不甲斐ないことで」頭を下げるカーラーン。「お主のことだ、手抜かりのあろうはずがない引き続き期待しているぞ、エーラーン(大将軍)カーラーン」「ハッ、ギスカール公爵に兵を動かす許可を頂いて参ります」カーラーンは畏まった。
宮中の廊下でルシタニアの将数名と擦れ違うカーラーン。「裏切り者がデカい面をしおって」
     5に続く

アルスラーン戦記 5

2015-05-20 21:11:10 | 日記
「改宗も済ませぬ被征服民が、いつの間に我が軍に参画するようになったのやら」「命懸けで戦うより、味方を売った方が出世への近道らしい」固い表情で歩み去るカーラーンを、ルシタニアの将達は嘲笑した。
若いルシタニア兵は既に殺されているルシタニア奴隷達を知らずに探し回っていた。当然誰も知らず、噴水の縁に腰掛け、若いルシタニア兵は途方に暮れていた。「すまぬ、必ず助けに戻ると言っておきながら」アルスラーンを思い出す若いルシタニア兵。(あの世間知らずの小僧、いいとこの坊っちゃんのようだったな。奴隷をたくさん使っているのだろうか? あやつに聞けば何か! いや、あんな間抜けはとっくに我が軍に殺されているか)ふと見ると、再びカーラーン隊が行軍している今度は場外へ向かっている。
その隊をまじまじと見詰める頭巾を被った娘がいた。街の人々は噂した、「あれ、カーラーン様じゃないか?」「もう、様じゃないよ」見詰める娘に好色そうなルシタニア兵が声を掛けた。「そこの娘、そんなに兵士が珍しいか?」「いえ、この隊列は何事かと思いまして」「逃げた王子を捕まえに行くんだ」「王子がどこにいるか、わかったのですか?」「さあな。ただ、奴等も必死なのさ。裏切って我等についたんだ。王子が生き残ってちゃ不味いだろ?」「噂ではアンドラゴラス王も行方不明なのですね?」「ああ、そのようだ。そうだな!」娘の肩に手を置く好色そうなルシタニア兵!
「細かいことはこちらで話そうではないか」連れて行こうとする好色そうなルシタニア兵!「なんですか、止めて下さい! お許し下さい、私はイアルダボート教に改宗しました!」それに居合わせた件の若いルシタニア兵が気付いた。「そうか、ではなおのこと、奥で仲良くしよう」路地の奥へ娘を連れてゆく好色そうなルシタニア兵!「おい、貴様!」
     6に続く