羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

アルスラーン戦記 1

2015-05-06 21:01:20 | 日記
「ありがとうナルサス! そうと決まれば早々に出立しよう。一刻も早く王都に、エクバターナに戻らねば!」「ええ、馬と荷の用意を致しましょう」ナルサスに促されるまでもなくエラムは支度を始めようとしたが、ナルサスはエラムを呼び止めた。「お前はギランの港町に住む知人に預かってもらうことにする」いざとなれば国外へ逃げろと言うナルサス。「嫌でございます!」恩が有り、一生仕えると食い下がるエラム。「お前はまだ子供だ」「ナルサス様より大人です。一人では何もできないではありませんか!」家事から画材の仕入れまで全てエラム任せだったナルサス。絵描き? だが、画材仕入れの愉しみは知らないらしいナルサス。「エラムが正しいなぁ」エラム同行を支持するダリューン、王子以外に関しては実務重視らしい。「ナルサス、私からも頼む」挙手してまで発言するアルスラーン。「エラムを置いていったとして、我らの中でこんなに美味な食事を作れる者が他にいるか?」ナルサスとダリューンはいつの間にか空になっていた朝食の皿を見詰めた。「決まりだな」「エラム、これからも供を頼む」「ありがとうございます」一行に従者兼料理人が加わった!!
王子達が出立してからしばらくしてカーラーンの配下達が落とし穴から脱出し、山荘から出てきた。水浸しだ。「俺達の馬がいないぞ!」「おのれ~、逃げられると思うなよ!」一しきり悪態をつき、配下達はくしゃみ等しつつ徒歩で山を降り始めた。その様子を山の高所から弓矢を身に付けたエラムが見ていた。エラムは身軽に山中を駆け、思いの外すぐ近くの洞穴に入っていった。火を灯し、馬を繋ぐ広さも十分に有る洞穴の中に王子達は居た。ナルサスは王子と何か盤上遊技の類を差していた。「徒歩で降りて行きました」「御苦労なことだ。今日中に麓まで着けんだろう」駒を差すナルサス。
     2に続く

アルスラーン戦記 2

2015-05-06 21:01:12 | 日記
「熊や狼に出会わなければよいがなぁ」ダリューンも続けた。上手く連中がカーラーン陣営に戻ってくれないと何か都合が悪いらしい。「殿下、何を御考えで?」棋盤を前に沈んだ顔の王子にナルサスは問うた。「王都はまだ無事だろうか?」すぐ向かうつもりだったアルスラーン。「抑えて下さい。今すぐ山を降りれば、カーラーンとの戦いは避けられません。洞窟に隠り、やり過ごします。その間に敵の包囲網を逆用する道を考えましょう」「どのように?」「自分達の望む場所に敵の兵力を集中させる」棋盤で王子の駒を取るナルサス。
「それがまず戦法というものの第一歩です」頷くアルスラーン。「武勇があろうとも、それを使い切る前に勝利を収めることが戦法の価値です」「ダリューンは私の為に大軍の中を突破してくれたが」「あれは個人の勇です。ダリューンの様な勇者は千人に一人」千人どころじゃないダリューンは自分の話題になり寄ってきた。指揮者は最弱の兵を基準として勝たなくてならないと説くナルサス。「ましてや一国の王ともなれば最も無能な指揮者でも敵軍に負けぬよう方策を巡らすべきなのです」すぐ側にダリューン(現役軍人)は腰を下ろした。「なんだ?」軽く威嚇するナルサス(現役画家)。「いいや、続けてくれ」ダリューンはいなした。
「兵の強さに溺れて戦法を軽んじた時、一度事態が狂えばどうなるか? 殿下御自身がアトロパテネで御経験なさったことでしょう」 凄惨な記憶が甦る王子。「アンドラゴラス王は敗北を知らぬ御方でした。その自負が、政治に無関心な王を産み出してしまったのです。あなたがそのような意味において、御父上の後継者足らんと思われるのであれば私はいつでも宮廷画家の地位を捨てますぞ? アルスラーン殿下」「肝に銘じておく」満足げに王子を見詰め、ナルサスはダリューンに向き直った。
     3に続く

アルスラーン戦記 3

2015-05-06 21:01:03 | 日記
「ダリューン。カーラーンに出会しても殺すなよ」殺せること前提のナルサス。「奴は何やら途方もないことを知っているに違いない」「わかっている」「途方もないこと?」「ただそれが何事であるか、今のところまるで見当もつきません」ナルサスはややはぐらかした。「故有ってのことです」アルスラーンはカーラーンの言葉を思い出した。
アズライールは空を舞い、辺境のペシャワール城塞に着いた。兵の訓練を見ていたキシュワードはアズライールの鳴き声に顔を上げた。アズライールはキシュワードの左腕に舞い降り、そのまま爪の足でガシガシと左肩によじ登った。「お主、アルスラーン殿下の御供に行っていたはずでは?」当の王子にはキシュワードのところに行けと言われたアズライール。ここで「キシュワード!」早馬の報せを聞いた万騎長バフマンからアトロパテネの変事と王の失踪、王都にルシタニア軍が進軍していることがキシュワードに伝えられた!!
ルシタニア軍は途中の街や村を襲い虐殺を繰り返し、王都エクバターナの城壁前にまで迫っていた!! パルス軍は多重の城門の隔壁を次々と下ろした! 城内の人々は状況がよくわかっていない様子だった。サームとガルシャースフの両万騎長は険しい表情で事態に対応した。城壁からパルス軍が相手の出方を見ていると、馬に引かせた奇妙な台座が一台先頭に出てきた。台座には柱が有り、柱には血塗れで半裸の屈強な男が厳重に縛り付けられていた。柱の側には異様な風貌の武装した老人が立っていた。
縛り付けられた男は万騎長シャプールだった! 動揺するパルス兵達。「聞けぇッ! 城中の神を恐れぬ異教徒供よ!!」異様な風貌の老人は吠えた!「ワシは唯一絶対の神、イアルダボートに御仕えする聖職者、大司祭にして異端審問官!! ボダンであるッ!!!」
     4に続く

 

アルスラーン戦記 4

2015-05-06 21:00:42 | 日記
「今、この異教徒の肉体を持って貴様等に神の御意志を伝えよう!!」既に血塗れのシャプールを見やるボダン。「まず、こ奴の左足の小指を切り落とぉすッ! 次いで薬指、中指、左足が終わったら次は右足! さらに次は手だぁ! ゲエヘッヘッヘッ」ボダンは考えただけで悦び、舌舐めずりした。「神に逆らう者の末路、城内の異教徒供に思い知らせてやろうぞ!!」高笑いするボダン! ルシタニア兵達も沸いた!!
「この外道がッ!」「蛮族め!!」「シャプール様を汚すなッ!!」パルス兵達は罵倒した! ボダンは笑顔で錫を振りかぶり、シャプールの胸を打ち据えた!「ぶぁッ!」血を吐くシャプール。「この男は我らが神を崇めぬ悪魔の使徒! 呪われし獣だぁッ!!」ルシタニア兵を煽るボダン!「異教徒に慈悲を与えるなどぉ」「貴様などに」「おぉ?」シャプールはボダンの演説を遮った。「俺の信仰を云々されるいわれは無い! さっさと殺せ。貴様の神に救われるくらいなら俺は地獄ヘでもどこへでも行ってやる! そしてそこから貴様等の神と国とか己れ等自信の残忍さに喰い殺されるのを! 見届けてやる」ボダンを睨みつけるシャプール。
激昂し、歯をガリガリと噛み締めるボダン!「このォッ!」錫でシャプールの顔面を何度も殴り飛ばすボダン!!「このバチ当たりめッ! 異教徒めッ! ケダモノめッ! 神の敵めッ!」殴り過ぎて錫が折れてしまった。「ハァハァ、思い知ったか?!」
しかしシャプールは、顔を上げた!!「エクバターナの人々よッ!! 俺を矢で射殺してくれぇ!! どうせ俺は助からぬ! 蛮人になぶり殺されるより、味方の矢で死にたいィッ!!!」シャプールは叫んだ!「黙れ、この距離で矢等届くか!」控えていたルシタニア兵はシャプールを殴った。「シャプール様!」「シャプール様を助けろ!」パルス兵達は城壁から次々と
     5に続く

アルスラーン戦記 5

2015-05-06 21:00:34 | 日記
矢を射掛けが、矢は全て台座車まで届かない!「馬鹿めッ、この距離で届くか」吐き捨てるボダン。「ほれほれ、もっと射てこい」挑発するボダン。後ろではルシタニア兵二人が代わる代わるにシャプールを殴り続けた。その時、城壁の楼閣の上にフードを被った一人の弓の弾き手が現れた! シャプールは最後に叫んだ。「ウオォォッ!!」楼閣の弾き手は狙いすまし、矢を、放った!!「イヤッハッハッハッ」爆笑するボダン! 高所の楼閣から放たれた矢は弧を描き、風を切り、届かぬはずの台座車へ飛ぶ! ボダンと、殴り続けるルシタニア兵を越え、その矢はシャプールの額に撃ち込まれた!!! 唖然とするボダン。シャプールはエクバターナの城壁を見ながら、一度息を吐き、目を閉じた。「大司祭様御下がり下さい!」ボダンは狼狽え、城壁を見上げた。楼閣の弾き手はフードの下で不敵な笑みを浮かべた。「あの者を連れて参れ」城から見ていたタハミーネ王妃は侍女に命じた。目がいいタハミーネ!
城壁の攻防が始まった! アトロパテネ戦と違いルシタニアはやみくもに突進し、堀に船を渡し、城壁に梯子を掛け、破城槌を撃ち、攻城塔で迫った。パルス軍は城壁から無数に矢を射掛け、投石器で攻城塔を崩した!
楼閣の弾き手はタハミーネと謁見した。「ギーヴと申します。旅の楽士でございます」顔を上げたギーヴに侍女の一人が動揺した。「ルードを弾きます。笛も歌も詩も舞も致します。ついでに申し上げておけば、弓も剣も槍もそこらの兵よりも上手く使います」「弓の腕は見せてもらいました。忠実なシャプールを苦しみから救ってくれた礼を言います」「では殺人の罪は問わぬと仰せで?」とここで先程の侍女が割って入ってきた。「恐れながら申し上げます! 王妃様! その者はとんでもない詐欺師です!!」どうも侍女は自分は王子だと言うギーヴに騙されたらしい。
     6に続く