英国に上場するアイルランドの製薬大手シャイアーは4日、米バイオ医薬品のバクスアルタに310億ドル(約3兆8600億円)相当の敵対的買収案を提示した。これを受け、同日のロンドン市場でシャイアーの株は大幅に下落した。
市場反応の一因は、シャイアーの株価が昨年10月から50%上昇したことと関係があるかもしれない。当時、同業の米アッヴィはシャイアー買収を断念した。
バクスアルタ買収のような大型取引を追求することで、シャイアーが再び買収ターゲットになる可能性は低下するかもしれない。さらに、アービトラージャー(サヤ取りを狙う投資家)がシャイアー株を売り、バクスアルタ株の買いを仕掛けていることも考えられる。これは株式交換方式の買収につきものの典型的な裁定取引だ。
一方、大型でリスクの高い買収を求めるシャイアーの態度を見ると、単に投資家の許容度を試しているとの印象もぬぐえない。
今回の提案をめぐる状況は特にこうした印象を醸し出す。バクスアルタの知名度は低く、実際にバクスター・インターナショナルからスピンオフ(独立・分離)し、独立企業として株式取引が開始されてからわずか5週間しかたっていない。シャイアーは株式交換方式を活用せざるを得ないが、これはスピンオフに伴う税務上の恩恵を失うのを回避するためだ。
また、バクスアルタが希少疾病用の医薬品に注力することはシャイアーのフレミング・オルスコフ最高経営責任者(CEO)の戦略にかなうものだが、そこには懸念もある。バクスアルタの売上高の約半分を血友病の治療薬が占めているが、この分野では競争激化につながり得る新薬候補が台頭している。
シャイアーが詳しい戦略について多くを語らないことも助けになっていない。同社は統合後の合算した売上高を2020年までに200億ドルに増やすと約束したが、これは年間売上高への相乗効果が13億〜15億ドルに上ることを示唆している。
しかし、こうした予測不能な利点を評価しなくても期待できる効果はある。シャイアーは、統合企業の税率を17年までに16〜17%に引き下げる見通しを示している。現在のバクスアルタの税率は25%前後だ。
公平に見ると、積極的なコスト削減目標の設定は交渉を開始する手段として異例だ。しかし、シャイアーはその意向を公にするまでに適正な評価手続き(デューデリジェンス)の機会を得たわけではない。
バクスアルタとの買収交渉は16年の予想株価EBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)倍率で16倍の水準から開始された。こうしたアプローチは単に不安を増幅させるだけだ。駆け引きが進展するにつれ、こうした不安が高まる公算は大きい。より大型で積極的な買収を追求する上で、シャイアーにはまだ「撤退」という肝要な能力を示す必要がある。