寺さんの【伝えたい話・残したい話】

新聞記事、出来事などから伝えたい話、残したい話を綴っていきます。
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(第3452話) 新年の願い

2023年02月12日 | 人生

 “家内が介護施設でお世話になって四年になる。高齢で体力の衰退もあり、回復は難しい。要介護5だが、ヘルパーさんたちが実によく世話をしてくれてありかたい。だが、コロナ感染の警戒中で部屋には入れない。面会は月に一回、ガラス越しにできる。昨年の暮れには他県に住んでいる息子と一緒に面会した。家内は車椅子に乗せられてガラス戸の前に来ると、嬉しさで涙ぐんだ。不自由な手を上げようとして、ヘルパーさんに支えられ手を振ってくれた。何も手助けができず見ているだけでは歯がゆい。家内の体調では、いつ容体が急変するかもしれない。緊急の電話が入ってからでは遅い。それを思うと遣り切れない。
 私は会社員として高度経済成長期に家庭を顧みずに働いたが、勝手気ままだった。家内は、それでもよく支えてくれ苦労をかけた。いずれ別れの時がくるが、その前に感謝の言葉を伝えたい。コロナ感染はまだ治まらないが、小康状態になったら、入室して手足をさすり、抱きしめて感謝の気持ちを伝えたい。
 神々しい初日の出を見て、手を合わせて祈願したのである。真心を込めてハグをして感謝したい。それが新年の願いである。”(1月25日付け中日新聞)

 愛知県小牧市の三和さん(男・86)の投稿文です。会社人間であった86歳の新年の願いである。「入室して手足をさすり、抱きしめて感謝の気持ちを伝えたい」、これを誰が読むかも知れない投稿文に書く。今までできなかった人が、ここまで素直になれる。本心からの願いであろう。その原因は何だろう。それは「いずれ別れの時がくる」これを実感されたからではなかろうか。分かれることが来るのは誰もが分かっていることであるが、元気なとき、目の前に死が現実に見えないときに、実感することは難しい。
 これは今のボクの夫婦にも当てはまる。妻は昨年から濾胞性リンパ腫の抗がん剤の治療が始まった。今も続いている。そして完治はないと言われた。完治しないと言うことは死が目の前にチラついたと言うことである。生活も少し違ってきたが、それより気持ちの持ち方が大きく変わったと思う。妻は定めと受け入れていると言うが、どうも態度を見ていると違ってきている。以前から会話の多い夫婦とは思っていたが、マスマス饒舌になった気がする。そして、ボクへの注意が多くなった。自分が亡くなった後のことを考えて、というのは思いすぎかも知れないが、そんな気もしてくる。そして毎朝のハグが復活した。


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