竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
初めてのお人でも、それなりのお人でも、楽しめると思います。

万葉集 集歌876から集歌879まで

2020年08月27日 | 新訓 万葉集
書殿餞酒日和謌 四首
標訓 書殿(ふみとの)にして、餞酒(うまのはなむけ)せし日の和(こた)へたる謌 四首
集歌八七六 
原文 阿麻等夫夜 等利尓母賀母夜 美夜故摩提 意久利摩遠志弖 等比可弊流母能
訓読 天飛ぶや鳥にもがもや京(みやこ)まで送り申(まを)して飛び帰るもの
私訳 天空を飛び翔ける鳥になりたいものです。貴方を奈良の京まで送り申し上げて、飛び帰って来ましょうものを。

集歌八七七 
原文 比等母祢能 宇良夫禮遠留尓 多都多夜麻 美麻知可豆加婆 和周良志奈牟迦
訓読 人もねのうらぶれ居(を)るに龍田山御馬(みま)近づかば忘らしなむか
私訳 人が皆、淋しく思っていますのに、貴方は奈良の京への峠である龍田山に貴方の御馬が近付くと我々を忘れるでしょか。

集歌八七八 
原文 伊比都々母 能知許曽斯良米 等乃斯久母 佐夫志計米夜母 吉美伊麻佐受斯弖
訓読 云(い)ひつつも後(のち)こそ知らめとのしくも寂(さぶ)しけめやも君坐(いま)さずして
私訳 このように云っていますが、後になってこそ、しみじみと寂しさを感じるのでしょう。本当に寂しく感じるのでしょう。貴方がいらっしゃらないと。

集歌八七九 
原文 余呂豆余尓 伊麻志多麻比提 阿米能志多 麻乎志多麻波祢 美加佐良受弖
訓読 万世に坐(いま)し給ひて天の下奏(まう)し給はね朝廷(みかど)去(さ)らずて
私訳 末永くこの世にあって天下の政治を執って下さい。朝廷から引退することなく。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

万葉集 集歌871から集歌875まで

2020年08月26日 | 新訓 万葉集
(前置漢文 序)
前置 大伴佐提比古郎子 特被朝命奉使藩國 艤棹言歸 稍赴蒼波 妾也松浦(佐用嬪面) 嗟此別易 歎彼會難 即登高山之嶺 遥望離去之船 悵然断肝黯然銷魂 遂脱領巾麾之 傍者莫不流涕 因号此山曰領巾麾之嶺也 乃作謌曰
序訓 大伴佐提比古の郎子(いらつこ)、特に朝命を被(こほむ)り、使を藩國に奉る。艤棹して言に歸き、 稍蒼波に赴く。妾(つま)松浦(佐用嬪面(さよひめ))、此の別るる易(やす)きを嗟(なげ)き、彼の會ふの難(かた)きを歎(なげ)く。即ち高山の嶺に登りて、遥かに離れ去く船を望み、悵然みて肝を断ち、黯然みて魂を銷す。遂に領巾(ひれ)を脱ぎて麾(ふ)る。傍(かたはら)の者涕を流さずといふこと莫(な)し。これに因りて、この山を号けて領巾(ひれ)麾(ふる)の嶺(をか)と曰ふ。乃ち、謌を作りて曰はく
序訳 大伴佐提比古の郎子は特別に朝命を頂いて、藩國への使いを務めた。船団を整えてここを出発し、次第に青海原に遠ざかっていった。妻の松浦(名前をサヨヒメ)は、この別れがたちまちであることを嘆き、その再開するのが難しいのを嘆いた。そこで高き山の嶺に登って、遥かに離れ去く船を望み、失望のあまりに断腸の思いがし、目の前が暗くなり魂を失くすほどであった。最後には、肩に掛けた領巾を脱ぎて振った。傍に立つ者で涙を流さない者はいなかった。これにちなんで、この山を名付けて領巾振るの嶺と云う。そこで、謌を作って云うには、
集歌八七一 
原文 得保都必等 麻通良佐用比米 都麻胡非尓 比例布利之用利 於返流夜麻能奈
訓読 遠人(とほつひと)松浦(まつら)佐用姫(さよひめ)夫恋(つまこひ)に領巾(ひれ)振りしより負(お)へる山の名
私訳 遠くはなれた人を待つ、その松浦の佐用姫は恋人恋しさに領巾を振ったことから、その名にちなんだ山の名よ

後人追和
標訓 後(のち)の人の追ひて和(こた)へたる
集歌八七二 
原文 夜麻能奈等 伊賓都夏等可母 佐用比賣何 許能野麻能閇仁 必例遠布利家無
訓読 山の名と言ひ継げとかも佐用姫(さよひめ)がこの山の上(へ)に領巾(ひれ)を振りけむ
私訳 山の名前と云い継げと、佐用姫がこの山の頂で領巾を振ったのだろうか

最後人追和
標訓 最後(いとのち)の人の追ひて和へたる
集歌八七三 
原文 余呂豆余尓 可多利都夏等之 許能多氣仁 比例布利家良之 麻通羅佐用嬪面
訓読 万世(よろづよ)に語り継げとしこの岳(おか)に領巾(ひれ)振りけらし松浦(まつら)佐用姫(さよひめ)
私訳 万年の後の世まで語り継げと、この丘で領巾を振ったらしい松浦の佐用姫よ

最々後人追和二首
標訓 最最後(いといちのち)の人の追ひて和へたる二首
集歌八七四 
原文 宇奈波良能 意吉由久布祢遠 可弊礼等加 比礼布良斯家武 麻都良佐欲比賣
訓読 海原(うなはら)の沖行く船を還(かへ)れとか領巾(ひれ)振らしけむ松浦(まつら)佐用姫(さよひめ)
私訳 海原の沖を行く船にこちらに還れとして領巾を振られたのだろうか、松浦の佐用姫よ

集歌八七五 
原文 由久布祢遠 布利等騰尾加祢 伊加婆加利 故保斯苦阿利家武 麻都良佐欲比賣
訓読 行く船を振り留(とど)みかね如何(いか)ばかり恋しくありけむ松浦(まつら)佐用姫(さよひめ)
私訳 行く船を領巾を振って引き留めることが出来なくて、どれほどに恋人が恋しいだろうか、松浦の佐用姫よ
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

万葉集 集歌864から集歌870まで

2020年08月25日 | 新訓 万葉集
(前置漢文 序)
前置 宜啓 伏奉四月六日賜書 跪開封函 拜讀芳藻 心神開朗 以懐泰初之月 鄙懐除私 若披樂廣之天 至若羈旅邊城 懐古舊而傷志 年矢不停 平生而落涙 但達人安排 君子無悶 伏冀 朝宜懐翼之化 暮存放龜之術 架張趙於百代 追松喬於千齡耳 兼奉垂示 梅花芳席 群英璃藻 松浦玉潭 仙媛贈答 類杏壇各言之作 疑衡皐税駕之篇 耽讀吟諷 戚謝歡怡 宜戀主之誠 誠逾犬馬仰徳之心 心同葵霍 而碧海分地 白雲隔天 徒積傾延 何慰勞緒 孟秋膺節 伏願萬祐日新 今因相撲部領使 謹付片紙 宜謹啓 不次
序訓 宜(よろし)、啓(もう)す。伏して四月六日の賜書(ししょ)を奉(うけたまは)る。跪(ひざまづ)きて封函(ふうかん)を開き、拜(おが)みて芳藻(ほうさう)を讀む。心神(こころ)は開朗にして、以ちて泰初が月を懐(むだ)き、鄙懐(ひくわい)除私(じょし)して、樂廣が天を披(ひら)きしが若し。「邊城に羈旅し、古舊(こきゅう)を懐(おも)ひて志を傷ましめ、年矢(ねんし)停らず。平生を憶(おも)ひて涙を落すが若きに至る」は、ただ達人の排(はい)に安(やす)みし、君子の悶(うれへ)無きのみ。 伏して冀(ねが)はくは、朝には翼を懐(なづ)けし化(け)を宜べ、暮には龜を放ちし術(すべ)を存し、張趙を百代に架し、松喬を千齡に追はむを。兼ねて垂示(すいじ)を奉(うけたてま)るは、梅苑の芳席に、群英の藻(さう)を璃(の)べ、松浦の玉潭(ぎょくたん)に、仙媛(やまひめ)の贈答せる杏壇(きゃうだん)各言の作に類ひ、衡皐(かうかう)税駕(ぜいが)の篇に疑ふ。耽讀(たんどく)吟諷(ぎんふう)し、戚謝(せきしゃ)歡怡(かんい)す。宜の主(ぬし)を戀ふ誠は、誠、犬馬に逾(こ)へ、徳を仰ぐ心は、心葵霍(きくわく)に同じ。而も碧海は地を分ち、白雲は天を隔て、徒らに傾延を積む。何(いか)に勞緒(ろうちょ)を慰めむ。孟秋、節に膺(あた)れり。伏して願はくは萬祐(まんゆう)の日に新たならむを、今相撲(すまいの)部領使(ことりつかひ)に因りて、謹みて片紙(へんし)を付く。宜(よろし)、謹みて啓(もう)す。 不次(ふし)
序訳 宜が申し上げます。謹んで四月六日のお手紙を頂戴いたしました。恭しく、封函を開き、一礼をしてお便りを読みました。気分は明朗になり、ちょうど、泰初が月を懐くようで、心の鬱積を晴らし、樂廣に逢って晴天を見るかのようです。貴方が辺城たる大宰府に旅立たれて、松浦川にいっては旧日を回想して心を悲しませたり、歳月流れ去って若き日々を考えると思わず落涙に到ったりする」と云われるのは、ただ達人の境地で生死を推移にゆだね、君子として心を労することなく過ごすしかありません。どうか、常に、あの雉さえもなつかせたという魯恭のような徳性をお布きになり、孔愉が亀を逃がしてやったような仁術を施され、張敞や趙広漢のようにな令名を百年の後までも伝えられ、赤松子、王子喬の如き千歳の寿を保つようになさってください。あわせて、お示しくださったように、梅花の宴に多くのすぐれた人々が立派な歌を作り、松浦川の淵に仙女と歌を贈答なさったのは、あたかも孔子の講壇で人々が意見を述べた如くですし、あの「神女の賦」で作者が車駕を香草の沢にしてたのと似ております。繰り返し読み返しては歌を吟じ、親しくお気持ちを感謝して楽しんでいます。貴方への恋慕の気持ちは犬馬が主を乞う思いを越えるものがあり、徳を仰ぐ気持ちは、ひまわりの太陽に向くかの様です。しかも、彼我の間は青海が大地を分かち、白雲は天を隔て、空しく恋慕し首をうなだれるばかりです。どのように心の嘆きを慰めましょうか。季節は七月、折しも節に当たります。なにとぞ、日々御加護がありますように、今、相撲の部領使いの縁に、謹んで一片の手紙を託します。宜、謹んで申し上げます。不次。
奉和諸人梅花謌一首
標訓 諸人の梅花の謌に和へ奉れる一首
集歌八六四 
原文 於久礼為天 那我古飛世殊波 弥曽能不乃 于梅能波奈尓母 奈良麻之母能乎
訓読 後れ居(い)て長恋せずは御園生(みそのふ)の梅の花にもならましものを
私訳 後に残され居ていつまでもお慕いしていないで、御庭の梅の花にもなりたいものです。

和松浦仙媛謌一首
標訓 松浦の仙媛の謌に和(こた)へたる一首
集歌八六五 
原文 伎弥乎麻都 々々良乃于良能 越等賣良波 等己与能久尓能 阿麻越等賣可忘
訓読 君を待つ松浦(まつら)の浦の娘子(をとめ)らは常世(とこよ)の国の天(あま)乙女(をとめ)かも
私訳 貴方を待つと云う松浦の浦の少女たちは、神が住む常世の国の天女なのでしょう。

思君未盡重題二首
標訓 君を思ふこと未だ盡(つ)きずして、重(かさ)ねて題(しる)せる二首
集歌八六六 
原文 波漏々々尓 於忘方由流可母 志良久毛能 智弊仁邊多天留 都久紫能君仁波
訓読 遥遥(はろはろ)に思ほゆるかも白雲の千重(ちへ)に隔(へだ)てる筑紫の国は
私訳 遥か彼方と思われます。白雲が千重に奈良の京との間を隔てる筑紫の国は。

集歌八六七 
原文 枳美可由伎 氣那家久奈理奴 奈良遅那留 志満乃己太知母 可牟佐飛仁家理
訓読 君が行き日(け)長くなりぬ奈良(なら)道(ぢ)なる山斎(しま)の木立(こたち)も神さびにけり
私訳 貴方が筑紫に出かけて行かれて日々が長くなりました。奈良の京への路に面した庭の木立も古色蒼然となりました。
左注 天平二年七月十日

(前置漢文 序)
憶良誠惶頓首謹啓
前置 憶良聞 方岳諸侯 都督刺使 並依典法 巡行部下 察其風俗 意内多端口外難出 謹以三首之鄙謌 欲寫五蔵之欝結 其謌曰
序訓 憶良誠惶頓首謹啓(この文は慣用句のため訓じません)
憶良聞かく「方岳の諸侯と都督刺使とは、並に典法に依りて、部下を巡行して、其の風俗を察る」と。意は内に多端に、口は外に出し難し。謹みて三首の鄙しき謌を以ちて、五蔵の欝結を寫かむと欲ふ。其の謌に曰はく、
序訳 憶良が承知していることには「中国の諸国の諸侯や都督刺使は、共に典法の定めに従って部下をその支配地に巡行させて、その世情を視察させる」と。私が思うことは胸中に多くありますが、それを口から発して言葉として表すことは難しいことです。そこで、謹んで三首の賤しき歌をもって、心に思うその鬱積を表に出そうと希望します。その歌に云うには、
集歌八六八 
原文 麻都良我多 佐欲比賣能故何 比列布利斯 夜麻能名乃美夜 伎々都々遠良武
訓読 松浦(まつら)県(がた)佐用姫(さよひめ)の故か領巾(ひれ)振りし山の名のみや聞きつつ居(を)らむ
私訳 松浦県の佐用姫の伝説でしょうか領巾を振ったと云う山の名前だけを聞いて過ごしています。

集歌八六九 
原文 多良志比賣 可尾能美許等能 奈都良須等 美多々志世利斯 伊志遠多礼美吉 (一云 阿由都流等)
訓読 帶日売(たらしひめ)神の命(みこと)の魚(な)釣(つ)らすと御(み)立(た)たしせりし石(いし)を誰れ見き(一云(あるひはいは)く、 鮎釣ると)
私訳 帯日売神の命が魚をお釣りになると、お出ましになられたゆかりの石を誰が見るのでしょうか。 (一は云はく、鮎を釣ると)

集歌八七〇 
原文 毛々可斯母 由加奴麻都良遅 家布由伎弖 阿須波吉奈武遠 奈尓可佐夜礼留
訓読 百日(ももか)しも行かぬ松浦(まつら)道(ぢ)今日(けふ)行きて明日(あす)は来(こ)なむを何か障(さや)れる
私訳 百日もの長い日々をかけて行かない松浦への道。今日行って明日は帰って来ることのできるのに、何が支障になるでしょうか。
左注 天平二年七月十一日 筑前國司山上憶良謹上
注訓 天平二年七月十一日に、 筑前國司の山上憶良の謹(つつし)みて上(たてまつ)る
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

万葉集 集歌860から集歌863まで

2020年08月24日 | 新訓 万葉集
集歌八六〇 
原文 麻都良我波 奈々勢能與騰波 与等武等毛 和礼波与騰麻受 吉美遠志麻多武
訓読 松浦川(まつらかは)七瀬の淀は淀むとも吾(わ)れは淀(よど)まず君をし待たむ
私訳 松浦川の多くの瀬の淀の、その水が淀むとしても、私は心を淀ます(=逡巡する)ことなく貴方の訪れだけ(=貴方に抱かれること)を待っています。

後人追和之謌三首  帥老
標訓 後の人の追ひて和(こた)へたる謌三首  帥(そち)の老(をひ)
集歌八六一 
原文 麻都良河波 河波能世波夜美 久礼奈為能 母能須蘇奴例弖 阿由可都流良哉
訓読 松浦川(まつらかは)川の瀬早み紅(くれなゐ)の裳の裾濡れて鮎か釣るらむや
私訳 松浦川の川の瀬の流れが早く、その瀬に立つ乙女の紅の裳の裾は、あの時と同じように濡れて鮎を釣るのでしょうか。

集歌八六二 
原文 比等未奈能 美良武麻都良能 多麻志末乎 美受弖夜和礼波 故飛都々遠良武
訓読 人(ひと)皆(みな)の見らむ松浦(まつら)の玉島(たましま)を見ずてや吾(わ)れは恋ひつつ居(を)らむ
私訳 人が皆眺めているはずの、その松浦にある玉島を眺めることなく、私は大宰府でただ、貴女を思い焦がれています。

集歌八六三 
原文 麻都良河波 多麻斯麻能有良尓 和可由都流 伊毛良遠美良牟 比等能等母斯佐
訓読 松浦川(まつらかは)玉島(たましま)の浦に若鮎(わかゆ)釣る妹らを見らむ人の羨(とも)しさ
私訳 松浦川の玉島の浦で、今も若鮎を釣る愛しい貴女を見つめている(=抱いている)でしょう、その人がうらやましい。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)巻十一(その二)

2020年08月23日 | 後撰和歌集 原文推定
後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)
巻十一(その二)

歌番号七五五
世宇曽己徒可者之个留於无奈乃万多己止飛止尓布美
徒可者寸止幾々天以末者於毛比多衣祢止以比遠久
利天者部利个留可部之己止尓
世宇曽己徒可者之个留女乃又己止人尓布美
徒可者寸止幾々天以末者思多衣祢止以比遠久
利天侍个留返事尓
消息つかはしける女の、又異人に文
つかはすと聞きて、今は思ひ絶えねと言ひ送
りて侍りける返事に

於久留於保萬豆利古止乃於保萬豆岐美
贈太政大臣
贈太政大臣

原文 万川也末尓徒良幾奈可良毛奈美己左武己止者佐寸可尓加奈志幾毛乃遠
定家 松山尓徒良幾奈可良毛浪己左武事者佐寸可尓悲幾物遠
和歌 まつやまに つらきなからも なみこさむ ことはさすかに かなしきものを
解釈 松山につらきながらも浪越さむ事はさすがに悲しき物を

歌番号七五六
美也徒可部之者部利个留於无奈本止飛左之久安利天毛乃
以者武止以飛者部利个留尓遠曽久満可利个礼八
宮徒可部之侍个留女本止飛左之久安利天毛乃
以者武止以飛侍个留尓遠曽久満可利个礼八
宮仕へし侍りける女、ほど久しくありて、物
言はむと言ひ侍りけるに、遅くまかりければ

美者乃飛堂利乃於保伊萬宇智岐美
批杷左大臣
枇杷左大臣

原文 与為乃満尓者也奈久左女与以曽乃加美布利尓之止己毛宇知者良不部久
定家 夜為乃満尓者也奈久左女与以曽乃神布利尓之止己毛宇知者良不部久
和歌 よひのまに はやなくさめよ いそのかみ ふりにしとこも うちはらふへく
解釈 宵の間にはや慰めよ石上の神ふりにし床もうち払ふべく

歌番号七五七
可部之 
返之 
返し

以世 
伊勢 
伊勢

原文 和多川美止安礼尓之止己遠以末左良尓者良八々曽天也安者止宇幾奈无
定家 和多川美止安礼尓之止己遠今更尓者良八々袖也安者止宇幾奈无
和歌 わたつみと あれにしとこを いまさらに はらははそてや あわとうきなむ
解釈 わたつみとあ荒れにし床を今更に払はば袖や泡と浮きなん

歌番号七五八
己々呂左之安利天以飛加者之遣留於无奈乃毛止与利
飛止加寸奈良奴也宇尓以比天者部利个礼者
心左之安利天以飛加者之遣留女乃毛止与利
人加寸奈良奴也宇尓以比天侍个礼者
心ざしありて言ひ交しける女のもとより、
人かずならぬやうに言ひて侍りければ

者世於乃安曾无
者世於乃朝臣
はせをの朝臣(紀長谷雄)

原文 志保乃満尓安佐利寸留安万毛遠乃可世々加比安利止己曽於毛不部良奈礼
定家 志保乃満尓安佐利寸留安万毛遠乃可世々加比有止己曽思部良奈礼
和歌 しほのまに あさりするあまも おのかよよ かひありとこそ おもふへらなれ
解釈 潮の間に漁りする海人も己が世々かひ有りとこそ思ふべらなれ

歌番号七五九
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

於久留於保萬豆利古止乃於保萬豆岐美
贈太政大臣
贈太政大臣

原文 安知幾奈久奈止可万川也末奈美己左武己止遠者佐良尓於毛比者奈留々
定家 安知幾奈久奈止可松山浪己左武事遠者佐良尓思者奈留々
和歌 あちきなく なとかまつやま なみこさむ ことをはさらに おもひはなるる
解釈 あぢきなくなどか松山浪越さむ事をばさらに思ひ離るる

歌番号七六〇
可部之 
返之 
返し

以世 
伊勢 
伊勢

原文 幾志毛奈久志本之三知奈者万川也末遠志多尓天奈美者己左武止曽於毛布
定家 岸毛奈久志本之美奈者松山遠志多尓天浪者己左武止曽思
和歌 きしもなく しほしみちなは まつやまを したにてなみは こさむとそおもふ
解釈 岸もなく潮し満ちなば松山を下にて浪は越さむとぞ思ふ

歌番号七六一
満毛利遠幾天者部利个留於止己乃己々呂加者利尓个礼者
曽乃満毛利遠可部之也留止天
満毛利遠幾天侍个留於止己乃心加者利尓个礼者
曽乃満毛利遠返之也留止天
守り置きて侍りける男の心変りにければ、
その守りを返しやるとて

己礼比良乃安曾无乃武寸女以万幾
己礼比良乃朝臣乃武寸女以万幾
これひらの朝臣のむすめいまき(藤原伊衡朝臣女以万幾)

原文 与止々毛尓奈計幾己利川武三尓之安礼者奈曽也万毛利乃安留可比毛奈幾
定家 世止々毛尓奈計幾己利川武身尓之安礼者奈曽也万毛利乃安留可日毛奈幾
和歌 よとともに なけきこりつむ みにしあれは なそやまもりの あるかひもなき
解釈 世とともに嘆きこりつむ身にしあればなぞや守りのあるかひもなき

歌番号七六二
飛止乃己々呂徒良久奈利尓个礼者曽天止以不飛止遠川可日尓天
人乃心徒良久奈利尓个礼者袖止以不人遠川可日尓天
人の心つらくなりにければ、袖といふ人を使ひにて

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 飛止之礼奴和可毛乃於毛日乃奈美多遠者曽天尓川个天曽三寸部可利个留
定家 飛止之礼奴和可物思日乃涙遠者袖尓川个天曽見寸部可利个留
和歌 ひとしれぬ わかものおもひの なみたをは そてにつけてそ みすへかりける
解釈 人知れぬ我が物思ひの涙をば袖につけてぞ見すべかりける

歌番号七六三
布美奈止遠己寸留於止己保可左万尓奈利奴部之止幾々天
布美奈止遠己寸留於止己保可左万尓奈利奴部之止幾々天
文などおこする男ほかざまになりぬべしと聞きて

藤原真忠可以毛宇止
藤原真忠可以毛宇止
藤原真忠かいもうと(藤原真忠妹)

原文 也満乃者尓加々留於毛比乃堂衣左良八久毛為奈可良毛安者礼止於毛者无
定家 山乃葉尓加々留思比乃堂衣左良八雲井奈可良毛安者礼止於毛者无
和歌 やまのはに かかるおもひの たえさらは くもゐなからも あはれとおもはむ
解釈 山の端にかかる思ひの絶えざらば雲井ながらもあはれと思はん

歌番号七六四
満知之里乃幾美尓布美川可者之多利个留可部利己止尓
美徒止乃美安利个礼者徒可者之个留
満知之里乃君尓布美川可者之多利个留返事尓
美徒止乃美安利个礼者徒可者之个留
町尻の君に文つかはしたりける返事に、
見つとのみありければ、つかはしける

毛呂宇知乃朝臣
毛呂宇知乃朝臣
もろうちの朝臣(師氏朝臣)

原文 奈幾奈可寸奈美多乃以止々曽比奴礼者波可奈幾美川毛曽天奴良之个利
定家 奈幾奈可寸涙乃以止々曽比奴礼者波可奈幾美川毛袖奴良之个利
和歌 なきなかす なみたのいとと そひぬれは はかなきみつも そてぬらしけり
解釈 泣き流す涙のいとど添ひぬればはかなき水も袖濡らしけり

歌番号七六五
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

美奈毛堂乃堂乃武
源堂乃武
源たのむ(源頼)

原文 由女乃己止者可那幾毛乃者奈可利个利奈尓止天飛止尓安不止美川良无
定家 夢乃己止者可那幾物者奈可利个利奈尓止天人尓安不止美川良无
和歌 ゆめのこと はかなきものは なかりけり なにとてひとに あふとみつらむ
解釈 夢のごとはかなき物はなかりけり何とて人に逢ふと見つらん

歌番号七六六
己々呂左之者部利个留於无奈乃川礼奈幾尓
心左之侍个留女乃川礼奈幾尓
心ざし侍りける女のつれなきに

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 於毛日祢乃与奈/\由女尓安布己止遠堂々加多止幾乃宇川々止毛可奈
定家 思日祢乃与奈/\夢尓逢事遠堂々加多時乃宇川々止毛哉
和歌 おもひねの よなよなゆめに あふことを たたかたときの うつつともかな
解釈 思ひ寝の夜な夜な夢に逢ふ事をただ片時のうつつともがな

歌番号七六七
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 止幾乃万乃宇川々遠志乃不己々呂己曽者可奈幾由女尓万佐良左利个礼
定家 時乃万乃宇川々遠志乃不心己曽者可奈幾夢尓万佐良左利个礼
和歌 ときのまの うつつをしのふ こころこそ はかなきゆめに まさらさりけれ
解釈 時の間のうつつをしのぶ心こそはかなき夢にまさらざりけれ

歌番号七六八
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

久呂奴之
久呂奴之
くろぬし(大友黒主)

原文 堂満川志満布可幾以利衣遠己久不祢乃宇幾多留己日毛和礼者寸留可奈
定家 玉津嶋布可幾入江遠己久舟乃宇幾多留己日毛我者寸留哉
和歌 たまつしま ふかきいりえを こくふねの うきたるこひも われはするかな
解釈 玉津嶋深き入江を漕ぐ舟の浮きたる恋も我はするかな

歌番号七六九
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

幾乃比女美己
紀内親王
紀内親王

原文 徒乃久尓乃奈尓者堂々満久於之美己曽春久毛多久比乃志多尓己可留礼
定家 徒乃久尓乃奈尓者堂々満久於之美己曽春久毛多久火乃志多尓己可留礼
和歌 つのくにの なにはたたまく をしみこそ すくもたくひの したにこかるれ
解釈 津の国の名には立たまく惜しみこそすくも焚く火の下に焦るれ

歌番号七七〇
飛止乃毛止尓満可利天以礼左利个礼者寸乃己尓
布之安可之天加部留止天以日以礼者部利个留
人乃毛止尓満可利天以礼左利个礼者寸乃己尓
布之安可之天加部留止天以日以礼侍个留
人のもとにまかりて入れざりければ、簀子に
臥し明かして帰るとて言ひ入れ侍りける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 由女知尓毛也止可寸飛止乃安良万世者祢左女尓川由者々良波左良末之
定家 夢地尓毛也止可寸人乃安良万世者祢左女尓川由者々良波左良末之
和歌 ゆめちにも やとかすひとの あらませは ねさめにつゆは はらはさらまし
解釈 夢路にも宿貸す人のあらませば寝覚めに露は払はざらまし

歌番号七七一
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 奈美太可者奈可寸祢左女毛安留毛乃遠波良不者可利乃徒由也奈尓奈利
定家 涙河奈可寸祢左女毛安留物遠波良不許乃徒由也奈尓奈利
和歌 なみたかは なかすねさめも あるものを はらふはかりの つゆやなになり
解釈 涙河流す寝覚めもある物を払ふばかりの露や何なり

歌番号七七二
己々呂左之者安利奈可良衣安者左利个留飛止尓川可八之个留
心左之者安利奈可良衣安者左利个留人尓川可八之个留
心ざしはありながら、え逢はざりける人につかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 三累女可留可多曽安不美尓奈之止幾久太末毛遠佐部也安万八可川加奴
定家 見累女可留方曽安不美尓奈之止幾久玉毛遠佐部也安万八可川加奴
和歌 みるめかる かたそあふみに なしときく たまもをさへや あまはかつかぬ
解釈 みるめ刈る方ぞ近江になしと聞く玉藻をさへや海人はかづかぬ

歌番号七七三
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 那乃美之天安不己止奈美乃志个幾万尓以川可太万毛遠安万者可川可武
定家 名乃美之天逢事浪乃志个幾万尓以川可太万毛遠安万者可川可武
和歌 なのみして あふことなみの しけきまに いつかたまもを あまはかつかむ
解釈 名のみして逢ふ事浪のしげき間にいつか玉藻を海人はかづかむ

歌番号七七四
己々呂左之安利天飛止尓以比加者之者部利遣留遠川礼奈可利
遣礼者以比和川良日天也美尓个留遠於毛比以天々以比遠久利
个留可部之己止尓己々呂奈良奴左万也止以部利个礼者
心左之安利天人尓以比加者之侍遣留遠川礼奈可利
遣礼者以比和川良日天也美尓个留遠思以天々以比遠久利
个留返己止尓心奈良奴左万也止以部利个礼者
心ざしありて人に言ひ交し侍りけるを、つれなかり
ければ言ひわづらひてやみにけるを、思ひ出でて言ひ送り
ける返事に、心ならぬさまなりと言へりければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 可川良幾也具女地乃者之尓安良波己曽於毛不己々呂遠奈可曽良尓世女
定家 葛木也具女地乃者之尓安良波己曽思不心遠奈可曽良尓世女
和歌 かつらきや くめちのはしに あらはこそ おもふこころを なかそらにせめ
解釈 葛木や久米路の橋にあらばこそ思ふ心を中空にせめ

歌番号七七五
飛止乃毛止尓徒可者之个留
人乃毛止尓徒可者之个留
人のもとにつかはしける

美幾乃於保伊萬宇智岐美
右大臣
右大臣

原文 加久礼奴尓春武遠之止利乃己恵多衣寸奈久止加比奈幾毛乃尓曽安利个留
定家 加久礼奴尓春武遠之止利乃己恵多衣寸奈久止加比奈幾物尓曽有个留
和歌 かくれぬに すむをしとりの こゑたえす なけとかひなき ものにそありける
解釈 隠沼に住む鴛鴦の声絶えず鳴けどかひなき物にぞ有りける

歌番号七七六
徒利止乃々美己尓徒可者之个留
徒利止乃々美己尓徒可者之个留
釣殿内親王につかはしける

与宇世宇為无乃於保美宇多
陽成院御製
陽成院御製

原文 徒久者祢乃美祢与利於川留美奈乃可者己飛曽川毛利天布知止奈利个留
定家 徒久者祢乃峯与利於川留美奈乃河恋曽川毛利天淵止奈利个留
和歌 つくはねの みねよりおつる みなのかは こひそつもりて ふちとなりける
解釈 筑波嶺の峯より落つるみなの河恋ぞ積もりて淵となりける

歌番号七七七
安比志利天者部利个留飛止乃末宇天己寸奈利天乃知
己々呂尓毛阿良寸己衛遠乃美幾久許尓天万多遠止毛世寸者部利个礼八
徒可者之个留
安比志利天侍个留人乃末宇天己寸奈利天乃知
心尓毛阿良寸己衛遠乃美幾久許尓天又遠止毛世寸侍个礼八
徒可者之个留
あひ知りて侍りける人のまうで来ずなりてのち、
心にもあらず声をのみ聞くばかりにて、又音もせず侍りければ
つかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 加利可祢乃久毛為者留可尓幾己衣之八以末者可幾利乃己恵尓曽阿利个留
定家 加利可祢乃久毛為者留可尓幾己衣之八今者限乃己恵尓曽阿利个留
和歌 かりかねの くもゐはるかに きこえしは いまはかきりの こゑにそありける
解釈 雁が音の雲居はるかに聞こえしは今は限りの声にぞありける

歌番号七七八
可部之 
返之 
返し

加祢美乃於保幾美
加祢美乃王
かねみの王(兼覧王)

原文 以末者止天由幾加部利奴留己恵奈良八於日可世尓天毛幾己衣万之也八
定家 今者止天行加部利奴留己恵奈良八於日風尓天毛幾己衣万之也八
和歌 いまはとて ゆきかへりぬる こゑならは おひかせにても きこえましやは
解釈 今はとて行き帰りぬる声ならば追ひ風にても聞こえましやは

歌番号七七九
於止己乃个之幾遠也宇/\徒良計尓三衣个礼者
於止己乃个之幾遠也宇/\徒良計尓見衣个礼者
男のけしきやうやうつらげに見えければ

己末知
小町
小町

原文 己々呂可良宇幾多留不祢尓乃利曽女天比止比毛浪尓奴礼奴比曽奈幾
定家 心可良宇幾多留舟尓乃利曽女天比止日毛浪尓奴礼奴日曽奈幾
和歌 こころから うきたるふねに のりそめて ひとひもなみに ぬれぬひそなき
解釈 心から浮きたる舟に乗りそめて一日も浪に濡れぬ日ぞなき

歌番号七八〇
於止己乃己々呂徒良久於毛比加礼尓个留遠於无奈奈遠左利尓
奈止可遠止毛世奴止以比川可者之多利个礼者
於止己乃心徒良久思加礼尓个留遠女奈遠左利尓
奈止可遠止毛世奴止以比川可者之多利个礼者
男の心つらく思ひかれにけるを、女、なほざりに
などか音もせぬと言ひつかはしたりければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 和寸礼奈无止於毛不己々呂乃也寸可良者川礼奈幾比止遠宇良美万之也八
定家 忘奈无止思心乃也寸可良者川礼奈幾比止遠宇良美万之也八
和歌 わすれなむと おもふこころの やすからは つれなきひとを うらみましやは
解釈 忘れなんと思ふ心のやすからばつれなき人を恨みましやは

歌番号七八一
与為尓於无奈尓安比天加奈良寸乃知尓安者无止
知可己止遠多天左世天安之多尓川可者之个留
夜為尓女尓安比天加奈良寸乃知尓安者无止
知可己止遠多天左世天安之多尓川可者之个留
宵に女に逢ひて、かならず後に逢はんと
誓言を立てさせて朝につかはしける

布知八良乃之計毛止
藤原滋幹
藤原滋幹

原文 知者也布留加美比幾加个天知可比天之己止毛由々之久安良可不奈由女
定家 知者也布留神比幾加个天知可比天之己止毛由々之久安良可不奈由女
和歌 ちはやふる かみひきかけて ちかひてし こともゆゆしく あらかふなゆめ
解釈 ちはやぶる神ひきかけて誓ひてし言もゆゆしくあらがふなゆめ

歌番号七八二
為无乃也万止尓安不幾徒可者寸止天
院乃也万止尓安不幾徒可者寸止天
院の大和に扇つかはすとて

美幾乃於保伊萬宇智岐美
右大臣
右大臣

原文 於毛比尓者和礼己曽以利天万止者留礼安也奈久幾美也須々之可留部幾
定家 於毛比尓者我己曽以利天万止者留礼安也奈久君也涼可留部幾
和歌 おもひには われこそいりて まとはるれ あやなくきみや すすしかるへき
解釈 思ひには我こそ入りてまどはるれあやなく君や涼しかるべき

歌番号七八三
加祢美知乃安曾无加礼可多尓奈利天止之己衣天
止不良日天者部利个礼者
加祢美知乃朝臣加礼可多尓奈利天止之己衣天
止不良日天侍个礼者
兼通朝臣かれがたになりて、年越えて
訪らひて侍りければ

毛止比良乃美己乃武寸女
元平乃美己乃武寸女
元平のみこのむすめ(元平親王女)

原文 安良多万乃止之毛己衣奴留万川也末乃奈美乃己々呂者以可々奈留良无
定家 安良多万乃年毛己衣奴留松山乃浪乃心者以可々奈留良无
和歌 あらたまの としもこえぬる まつやまの なみのこころは いかかなるらむ
解釈 あらたまの年も越えぬる松山の浪の心はいかがなるらむ

歌番号七八四
毛止乃女尓加部利寸武止幾々天於止己乃毛止尓川可八之个留
毛止乃女尓加部利寸武止幾々天於止己乃毛止尓川可八之个留
元の妻に帰り住むと聞きて男のもとにつかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 和可多女者以止々安左久也奈利奴良无乃奈加乃志三川布可左万左礼者
定家 和可多女者以止々安左久也奈利奴良无野中乃志水布可左万左礼者
和歌 わかためは いととあさくや なりぬらむ のなかのしみつ ふかさまされは
解釈 我がためはいとど浅くやなりぬらん野中の清水深さまされば

歌番号七八五
於无奈乃毛止尓徒可者志遣流
女乃毛止尓徒可者志遣流
女のもとにつかはしける

美奈毛堂乃奈可多々
源中正
源中正

原文 安不美知遠志留部奈久天毛三天之可奈世幾乃己奈多者和比之加利个利
定家 安不美知遠志留部奈久天毛見天之哉関乃己奈多者和比之加利个利
和歌 あふみちを しるへなくても みてしかな せきのこなたは わひしかりけり
解釈 近江路をしるべなくても見てしがな関のこなたはわびしかりけり

歌番号七八六
可部之 
返之 
返し

志毛川遣
志毛川遣
しもつけ(下野)

原文 三知志良天也美也者之奈奴安不左可乃世幾乃安奈多者宇美止以不奈利
定家 道志良天也美也者之奈奴相坂乃関乃安奈多者海止以不奈利
和歌 みちしらて やみやはしなぬ あふさかの せきのあなたは うみといふなり
解釈 道知らでや止やはしなぬ相坂の関のあなたは海といふなり

歌番号七八七
於无奈乃毛止尓万可利多留尓者也加部利祢止乃美以日个礼八
女乃毛止尓万可利多留尓者也加部利祢止乃美以日个礼八
女のもとにまかりたるに、はや帰りねとのみ言ひければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 徒礼奈幾遠於毛日志乃不乃左祢可川良者天八久留遠毛以止不奈利个利
定家 徒礼奈幾遠思日志乃不乃左祢可川良者天八久留遠毛厭奈利个利
和歌 つれなきを おもひしのふの さねかつら はてはくるをも いとふなりけり
解釈 つれなきを思ひしのぶのさねかづら果ては来るをも厭ふなりけり

歌番号七八八
安徒与之乃美己乃以部尓也万止々以不飛止尓川可八之个留
安徒与之乃美己乃家尓也万止々以不人尓川可八之个留
敦慶親王の家に大和といふ人につかはしける

飛太利乃於保伊萬宇智岐美
左大臣
左大臣

原文 以末左良尓於毛比以天之止志乃不留遠己比之幾尓己曽和寸礼和比奴礼
定家 今更尓思以天之止志乃不留遠己比之幾尓己曽和寸礼和比奴礼
和歌 いまさらに おもひいてしと しのふるを こひしきにこそ わすれわひぬれ
解釈 今更に思ひ出でじとしのぶるを恋しきにこそ忘れわびぬれ

歌番号七八九
以飛加者之遣留於无奈乃以末者於毛比和寸礼祢止以比
者部利个礼者
以飛加者之遣留女乃以末者思和寸礼祢止以比
侍个礼者
言ひ交しける女の、今は思ひ忘れねと言ひ
侍りければ

者世於乃安曾无
者世於乃朝臣
はせをの朝臣(紀長谷雄)

原文 和可多女者三留加比毛奈之和寸礼具左和寸留者可利乃己比尓之安良祢八
定家 和可多女者見留加比毛奈之忘草和寸留許乃己比尓之安良祢八
和歌 わかためは みるかひもなし わすれくさ わするはかりの こひにしあらねは
解釈 我がためは見るかひもなし忘草忘るばかりの恋にしあらねば

歌番号七九〇
志乃比天加与比个留飛止尓
志乃比天加与比个留人尓
忍びて通ひける人に

布知八良乃安利与之
藤原安利与之
藤原ありよし(藤原有好)

原文 安比三天毛徒々武於毛日乃和比之幾者飛止万尓乃美曽祢者奈加礼个留
定家 安比見天毛徒々武思日乃和比之幾者人万尓乃美曽祢者奈加礼个留
和歌 あひみても つつむおもひの わひしきは ひとまにのみそ ねはなかれける
解釈 逢ひ見てもつつむ思ひのわびしきは人間にのみぞ音は泣かれける

歌番号七九一
毛乃以比者部利个留於止己以飛和川良日天以可々者世无
以奈止毛以比者奈知天与止以比者部利个礼者
物以比侍个留於止己以飛和川良日天以可々者世无
以奈止毛以比者奈知天与止以比侍个礼者
物言ひ侍りける男言ひわづらひて、いかがはせん、
否とも言ひ放ちてよと言ひ侍りければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 遠也末多乃奈者之呂三川者堂衣奴止毛己々呂乃以个乃以比者々奈多之
定家 遠山田乃奈者之呂水者堂衣奴止毛心乃池乃以比者々奈多之
和歌 をやまたの なはしろみつは たえぬとも こころのいけの いひははなたし
解釈 小山田の苗代水は絶えぬとも心の池のいひは放たじ

歌番号七九二
加多堂可部尓飛止乃以部尓飛止遠久之天万可利天
加部利天川可者之遣留
方堂可部尓人乃家尓人遠久之天万可利天
加部利天川可者之遣留
方違へに人の家に人を具してまかりて帰りてつかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 知与部武止知幾利遠幾天之比女万川乃祢左之曽女天之也止者和寸連之
定家 千世部武止契遠幾天之姫松乃祢左之曽女天之也止者和寸連之
和歌 ちよへむと ちきりおきてし ひめまつの ねさしそめてし やとはわすれし
解釈 千世経むと契り置きてし姫松の根ざしそめてし宿は忘れじ

歌番号七九三
毛乃以比个留於无奈乃世美乃加良遠川々美天川可者寸止天
物以比个留女乃世美乃加良遠川々美天川可者寸止天
物言ひける女の蝉の殻をつつみてつかはすとて

美奈毛堂乃之計美従乃安曾无
源重光朝臣
源重光朝臣

原文 己礼遠三与飛止毛春左女奴己比寸止天祢遠奈久武之乃奈礼留春可多遠
定家 己礼遠見与人毛春左女奴恋寸止天祢遠奈久武之乃奈礼留春可多遠
和歌 これをみよ ひともすさへぬ こひすとて ねをなくむしの なれるすかたを
解釈 これを見よ人もすさめぬ恋すとて音を鳴く虫のなれる姿を

歌番号七九四
飛止乃毛止与利加部利万天幾天川可者之个留
人乃毛止与利加部利万天幾天川可者之个留
人のもとより帰りまできてつかはしける

佐可乃宇部乃己礼乃利
坂上己礼乃利
坂上これのり(坂上是則)

原文 安比三天者奈久左武也止曽於毛比之尓奈己利之毛己曽己飛之可利个礼
定家 安比見天者奈久左武也止曽思之尓奈己利之毛己曽己飛之可利个礼
和歌 あひみては なくさむやとそ おもひしに なこりしもこそ こひしかりけれ
解釈 逢ひ見ては慰むやとぞ思ひしになごりしもこそ恋しかりけれ

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする