瀬崎祐の本棚

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アンソロジー「岡山県詩集2021」 岡山県詩人協会・編 (2021/07)

2021-08-06 22:51:12 | 詩集
隔年で発行されているアンソロジー。今回は77人が作品を寄せている。巻末には岡山県内の「同人誌・個人誌の動き」、「県詩人協会の動き」が載っている。

「羽風」壷阪輝代
タイトルの「はかぜ」というのは、鳥や虫が羽を動かすときに起きる風のこと。だから、自然の大気の流れによる風ではなく、生きるものの営みから産まれる風ということができる。作品では、作者の近くに見えない誰かが尋ねてきて、その方が去っていく気配が羽風として感じられている。長い年月のお付き合いのあった方もいつかは去っていくわけだが、その喪失感を羽風として捉えている。風には形がなく、ただその気配だけを感じさせるというイメージを上手く取り入れている。最終連は、

   かたちあるものは消えていく
   どんなに固く握りしめていても けれど
   思い出は
   わたしの日々を彩っていく
   あらたな出発を促しながら

ただその人を失った悲しみだけではなく、この作品を書くことによって作者は「あらたな出発」に辿り着けたのだ。

「風の形・水の形」中尾一郎
冒頭、「風は形を残さないで/吹きすぎていき/水もまた形を変えながら/流れ去る」と、両者の象徴的な去って行き方を巧みに捉えている。しかし話者は形を残しながら歩くしかないのである。そして天道虫は「背中に星を乗せて」飛んでいき、蝸牛は「森の雨を背負って/ゆっくりと歩いている」。そんな生き物たちは脱皮して何処かへ去っていき、その抜け殻を風と水が土に戻していく。

   猫はひげを震わせて
   風や水の声を聴いている

   私も猫がするように
   眼を閉じて
   見えないものの声を聴く
   形をなくして在るものの言葉を

瀬崎は「ふくろだ」を載せている。
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